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TRIBAL MUSIC OF AUSTRALIA
TRIBAL MUSIC OF AUSTRALIA
NO 0D SF 4439
Artist/Collecter A.P. Elkin(Recorder)
Media Type LP/CD-R
Area 中央/北東/南アーネム・ランド
Recorded Year 1953年
Label Smithsonian Folkways Records
Total Time 32:41
Price 2,840 yen
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LPのみで発売されたものをオフィシャルCDーR化。多数のDjatpangarriなどの北東アーネム・ランドの歌とGUNBORG、WANGGAも収録してある名盤。音質は悪いが好内容。

■序論と解説 : A.P. Elkin
■ライナーの翻訳と解説

アボリジナル研究の権威、民族学者A.P. Elkinが53年に集めた現在手に入る音源の中では、最も古いアーネム・ランドの録音の一つです。アーネム・ランドを代表するディジュリドゥの伴奏をともなったダンス・ソングGUNBORG、WANGGA、BUNGGULの三つの音楽スタイル全てを収録しており、中でも北東ア−ネム・ランドのDjatpangarri(ジャッパンガリ:若者のファンソング、パブリック・ソング)を多数収録しており、オールド・スタイルのYidaki(イダキ:ディジュリドゥを意味するヨォルング語)のサウンドを堪能することができます。特に、トラック7に収録されている5曲のイダキ・ソロはすさまじい!!

音はレコードからのデジタル・コピーのためお世辞にも良いとは言え無いが、ジジジというレコードのノイズも気にならない程内容がすごい。北東アーネム・ランドのBUNGGUL、西アーネム・ランドのGUNBORG、ダーウィン周辺部のWANGGAなど多数ディジュリドゥの入ったトラックを収録しており、それぞれに詳しい解説がしてあります。イダキの基本的な曲構造を知るには最適の音源です。2曲の神聖な曲が収録されている(ディジュリドゥの伴奏はない)。

元来LPで販売された音源を、販売元のSmithsonian Folkways RecordsがオフィシャルCD-R化したものです。このCD-Rには当時のライナーノーツのコピーがついているが、ここで紹介されているジャケットは付属していない。プラスチック・ケースを定形の紙のハコに納めた状態での販売です。御注意下さい。

下記はライナーの翻訳です。ここでは初期のアボリジナル音楽の研究で著明なA. P. Elkin教授自身が書いた「序文」の翻訳が掲載されています。

■序論と解説 : A.P. Elkin
オーストラリアのノーザン・テリトリー州の北半島、つまりVictoria Riverの下流域とRoper Riverの北部は、アーネム・ランドという名で知られている。アーネム・ランドはDarwin-Katherineロードの東32kmあたりからはじまる地域とRoper Riverの北部に限られているが、その地域の慣習はずっと発展しつづけてきた。その道のある地域、そしてその地域と半島の西沿岸部の間の地域の大半に住むアボリジナルの部族は、その昔には中国人と、そして60年以上にわたって採掘などにたずさわるヨーロッパ人の開拓移民との接触を経てきた。彼等の生活様式はそれによってかき乱され、Port Keatsのような遮断された地域以外ではアボリジナルの人口は極端に減少した。その一方、Darwinから湾をはさんだDelissaville(現在のBelyuen)では、人口の回復の兆しがみられる。現在この西側地域に住むアボリジナルの人々の多くは、その収入をヨーロッパ人達からの雇用に依存しているが、南と西周辺を除いたDarwin-Katherineロードの東では、そうでもない。宗教伝導師達は彼等に定住生活をするように促したが、一般的に言えばその地域に住むアボリジナルは、狩猟採集と漁労に依存しながら古来の半放浪生活をしている。彼等は、その地域の言葉と自分達の領域をもった12、あるいはそれ以上の部族で構成されている。それぞれのグループは、家族とクラン(父方血縁グループ、あるいは 同一の言語グループ)の慣習に基づいて、特に大きな儀式や歌と踊りに参加するために頻繁に住む場所を変える。

その土壌は部分的に良好なだけだが、彼等は十分かつ確かな食糧を自分達の住むその土地から得ることができ、オーストラリアの乾燥した砂漠地帯のような生存競争はない。それにより膨大な時間を社会的、儀式的な事、そして芸術の発展にかたむけるけることができるのである。彼等の樹皮画と壁画は、はるか南へ達するまで標準的になってきた。儀式に用いる木彫と自然を模した造形物もまた習慣的に作られていた。彼等の神聖な神話は、長いソング・サイクルの中に保たれ、その歌詞は詩的な感覚と、比喩的表現に富んでいる。その踊り、特にバレーに似た踊りが、めざましく発展し、上記の中でもこの地域はその音楽においてその他の地域よりも優れている。それぞれの主なグループには、歌とそれにともなう踊りの所有者(伝承者、あるいは作曲者)であり、儀式のマスターである「ソングマン」がいる。誰もそのソングマンの許可なしに彼の歌を歌うことはできない。キャンプにソングマンがいるという事は、社会生活、喜び、そして伝統と英雄的歴史とより深く共にあるという事を意味するのである。

この地域には歌と神聖な詠唱のパターンが無数にあり、その一部がこのレコードに収録されています。少なくとも、はるか西、北西、南、そして北東タイプの歌を一度にこのレコードの中から選んで聞くことができ、様々なタイプの神聖な詠唱(その内の一部は秘密になっている)が、はっきりとその中から見分けられる。

主な楽器は、ディジュリドゥ(中が空洞になった木、あるいは竹を止まることなく吹いて演奏される)と、ソングマンが使う一対のリズム・スティックである。南方起源のある歌では、このどちらの楽器も使われず、その代わりにシンガー達はしばしば、ユニゾンでブーメランをたたいたり、ガチャガチャと鳴らしたりする。実は、ブーメランは音楽に使うパーカッション楽器としてこの地域に入ってきたのだった。

北部と北東部では、ソングマンは一つの演奏にたった一人だが、もし2-3人のシンガーがいる時(現地の歌で私が聞いてきた大半はそうだった)には輪になり、フーガ形式(1つの主題が繰り返し使われる楽曲形式)で歌い、それによってハーモニーをつくり出している。このことは、その事例の参照部分で説明されています。

下記に紹介されている歌は、1949年と52年にワイヤー・レコーダーとテープ・レコーダーでフィールド録音された14時間に及ぶマテリアルから選び出され、1952年に録音されたものがマスター・ディスクに変換された。その大半は夜間に起こるにまかせて、野外で録音されました。

下記はA. P. Elkin教授が自ら書いたかなり詳しい各曲解説の翻訳です。それに加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、ディジュリドゥのサウンドを中心に、音の響きからくる聴感上の主観的な感想と各曲に特徴的な音楽的構造や楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はAlice M. Moyle博士が書かれたライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。

■ライナーの翻訳と解説
1. Djedbang-Ari(Yirrkalla District)2. Djedbang-Ari(Riredjing-O)3. Djedbang-Ari4. Wadamiri5. Wadamiri6. Maraian Chant7. Djidjeridu8. Gunborg Singing9. Cloud Chant10. Djerag11. Brinkin Wongga12. Djarada13. Nyindi-Yindi Corroboree14. Sacred Song
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。

1. Djedbang-Ari(Yirrkalla District)
現在では、Djatpangarriと表記される事が多い。3種類のジャッパンガリを収録。
ジャッパンガリは、北東アーネム・ランドのYirrkala周辺地域特有の歌と踊りの形式の一つで、たいてい曲中にブレイクがあり、これは「Stopping the Dance, halfway(途中で踊りをとめること)」と呼ばれている。ディジュリドゥと歌がはじめられると、ダンサー達は、ディジュリドゥ奏者とソングマンのいる反対側から踊り場へと進み出る。ダンサー達は優美に腕を動かしたり、ジグザグに動いたりしているが、リズムが変わり歌がとまり、ソングマンが「Ge: Ge: Ge:....」というような音を発しはじめると、再びソングマンが歌いはじめるまで、ダンサー達はステップをふむのをやめ、大地を踏み鳴らす。そしてダンサー達は前方に進んで、その踊り場の端の方にたどり着く。

この構造の重要な基礎となっているのは「海岸に打ち寄せる波」で、波が浜辺をかけ登りながら、止まるようでまた続くのと同じである。

ジャパンガリに使われるテーマのバラエティというのは、常に新たに見い出され続けており、中にはアボリジナルの社会に無かったものを取り上げてテーマにしているものもある。

1曲目は戦時中にソングマンが軍隊のキャンプで見たアニメがテーマになっており、アニメの映像は動き続けているが一時停止をしたら止まって、また動き出す。曲の中盤と最後で止まる事を注意付けするためにリズム・チェンジの合図が発せられる。

    歌詞:Gome Gade Lima: Li:ma: Je Je Je
    英訳:Comic Run Pictures No Meaning

2曲目は小さな卵を産む小鳥の歌で、その鳥は「Tau Tau」という鳴き声をあげて飛んでいく。ディジュリドゥのリズムがシンコペーションしている点がすばらしく、「Tau Tau Tau」というソングマンの歌とディジュリドゥのブレイクを知らせるリズムがジャパンガリのパターンである「Half-way Stop (途中で止まる事)」を示唆している。後半ではダンサー達の「Si- Si-」という声を出したり、叫び声を出しているのを聞くことができる。

    歌詞:Tabo Tabo Naberi Wandinaia Jimunguni
    英訳:Bird Egg Small Small

3曲目では、ある蛇が水辺へと向かい、そこで小鳥をつかまえる。その後、ねぐらの穴に戻って眠るという歌である。二人がクラップ・スティックをたたき、何人かの若者が加わって歌っている。「Half-way Stop」のきっかけはいつも通りに発っせられないが、2ビートの長さによってそれを示唆している。

    歌詞:Nimaiang-gudi Nimaiang-gudi
       Nibulari Raidjing-ambo
       Wai Wai Bidi-bidi Gunja
       Lungana Lungana Lurijun-manda

上記はライナーの翻訳。非常にわかりやすい例としてこの3種類のジャパンガリを類型付けている。学術的な意味合いもさることながら、ディジュリドゥの50年代初頭の演奏を、ジャパンガリというパブリックなサンプルで聞けるという点がすばらしい。また解説を読むことでそれぞれの曲の構造となりたち、歌詞など総合的な理解へとつながるめずらしいサンプルの一つです。

1曲目はこの地域で広く聞かれる「Djatpangarri Comic」で、『SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 3』(CD 1962-3 : AIATSIS)のトラック12にもMilimgimbiで録音された同じ「Comic」をテーマにしたジャッパンガリが収録されているが、リズムやメロディーは全く異なっており、ここに収録されている曲の方がより独自性の強いリズムになっている。

2曲目もジャッパンガリだがタイトルは不明。ブレイクやエンディング、そしてメインのリズムを通じて全て6拍子で演奏されている。イダキの伴奏は、メイン部分ではトゥーツを多用したリズムを即興演奏し、ブレイクとエンディングでは、小鳥の声を模倣した「Tau Tau Tau-, Tau Tau Tau-」というソングマンの発する声にユニゾンさせて、コールを演奏しており、非常に特徴的な曲になっている。

3曲目もジャッパンガリでタイトルは不明だが、ライナーからはトラック2の小鳥の曲の続きのようだ。2曲目のジャッパンガリをよりスピーディーにしたようなトゥーツが連続的に使われており、そのスピードにイダキ奏者がついていけていないのがわかる。

2. Djedbang-Ari(Riredjing-o)
ジャパンガリの生まれた地域の出身であるRiredjing-oクラン(現在ではRirratjinguと表記されることが多い)のソングマンによる歌。「Half-way Stop」と、曲の終わり方はかなり明確に指し示されており、不意をつくようなソングマンの呼び声、もしくは叫び声が次に起こるこの歌と踊りのパターンへと導いている。

戦時中、Rirratjinguクランの男達は軍人達が訓練しているのを見、突然なコマンド(命令)で、軍人が行進し、止まって足踏みをし、そしてまた行進するのを聞いた。だからジャッパンガリでは踊り手達は踊り場へとどんどん進むが、コマンド(命令)を受けると立ち止まり、足踏みし、地面を踏み鳴らす。そしてソングマンの高い激したような声の第二のコマンド(命令)でまた前へと進みはじめる。歌詞は、ディジュリドゥの音の重要さと、力強さのために2曲目の「Dibang-mala」というあとに「Wol-e」と歌っている部分しかわからない。この2曲は長いソングサイクルの一部分で、それぞれの曲の後半部分まで、順に踊り場のへりにとどまっているダンサー達は「Bulain」、「Nagaritj」、などというグループ名で呼ばれ、とぎれないようにやってきて、他のダンサーに加わる。歌詞は亡くなった人に対する悲しみを表現しており、その死者をまねきいれるという内容である。

上記はライナーからの翻訳。このトラックは『World Library of Folk and Primitive Music Vol.5 Australia, New Guinea』(LP 年代不明 : Columbia)にも収録されており、イダキの音が大きめの音量で入っていて聞きやすい上、トゥーツ(ホーン・サウンド)が入らないゆったりとしたリズムの曲になっているため、初心者がこれをまねて練習するとよさそう。ソングマンの歌以外の所で曲の次の展開を促す掛け声のような部分が軽快でおもしろい。

3. Djedbang-Ari
このトラックには解説が無い。全体的に音量は小さいが、しっかりとイダキの音を聞くことができる。「Dupu Dhere Dhere」といったトゥーツが必ず入っている部分からコールが入ることで次の短いスロー・パートに入る事を示唆し、短いスロー・パートを終えるとすぐ最初の3連にクラップスティックが入るというのを2回繰り返している。同じ曲を2曲別テイクで収録してあるため、ヨォルングのイダキ奏者がどのように即興的にバリエーションを演奏しているのかをより深く知ることができる内容になっている。2曲目の方がよりシンプルな展開になっていてわかりやすい。

4. Wadamiri
北東アーネム・ランドのWadamiriもしくはWaramiriソング・サイクル。この曲は同じWadamiri(Waramiri)というクランの歌で、常に外国の物と風習に関係してきたクランの社会的な主題のものと、儀式的な主題のもの半々といったカテゴリーの歌である。飛行機、蒸気船、トランプ、煙草などについて歌われ、ここに収録されているWadamiriのトラックでは煙草について歌われている。煙草はヨーロッパ植民地時代以前にマカサンというインドネシアのスマトラ島の商人達によってマレー・パイプと共にもたらされた。4曲収録されているこのトラックでは、白人のかぐわしい煙草をせがみ、煙草をのせるために紙を切って火をつけ、煙草を吸い、けむりをはいて、枕の下で火を消して眠る人物について歌われている。

    歌詞:Bamandara: Ga: Djala Worali Wagu-gu Barupu
    英訳:Ceremony Ceremony Smoking Worring(for) Sweet Tabaco
    歌詞:Bun-a-miri Djalduruna Gumur Garamandu Ninana Wura-mala Nilinju Jaguru
    英訳:Cut the paper Blow smoke away Chest Tobacco-maker Sit White men We two Sleep

上記はライナーからの翻訳。Waramiriクランは、Arnhem Bay周辺地域に住むDjanguというヨォルング・マタ(ヨォルングとは北東アーネムランドで「人」を指す言葉でマタとは「舌」もしくは「言葉」という意味)を話す。1曲目は早いテンポの4/4拍子の曲で、クラップスティックが全ての4分に入り、イダキは3拍目の裏にトゥーツが入る基本リズムを繰り返している。ブレイク部分では、イダキのトゥーツが2分に入り続け、その裏拍にクラップが入るという非常にユニークな曲構成になっている。

残り3曲は、一様に1曲目よりもテンポ・ダウンして、2/4拍子をベースにした、展開にあまり変化のない短い曲になっている。リード・シンガーと同じ歌詞を追うように歌うサブ・シンガーがおり、その微妙なずれが不思議な曲調を生んでいる。

5. Wadamiri
ここに収録されている歌は、土着的なテーマ、Ground Wasp(地蜂)について歌われている。3曲収録されているこの曲は、どうやってこの昆虫が地面に穴を作り、眠るかを歌っており、神聖な儀式用の音楽として歌われる時は、ハチは穴から出てきて、走り、飛び去る。最初に発せられる歌詞「Woiju-woiju(ハチの名前)」は、はっきりと聞き取れる。

    歌詞:Morai Gama-lili Mindala(-lili) Lawerigu Gaimu-rura Woiju-woiju Ngolumba Dauduruna
    英訳:Wasp Makes hole Lies on pillow Secret Ceremony Wasp Ceremony Comes up
    歌詞:Darana Wandiri Djung-a Jageroror Gaija Gaija
    英訳:Stands Runs Dirt Lies down Flies Away

歌詞は、曲中でリズムや調子のためにしばしば変換されるため、聞き取ることが難しくなっている。これはとても力強い曲で、ディジュリドゥとクラップスティックが踊り手の「Si-, Si-」という声と足踏みの音と共に、すばらしいリズミックな動きともなったシーンを突き動かしている。2曲目の頭には叫び声が聞こえるが、これは小さな円陣を作っている踊り手が向き合い地面に向かって発していて、大地の精霊に対して叫んでいる。

上記はライナーの翻訳。3曲中、1曲目はより複雑なイダキの伴奏になっているが、2-3曲はよりパターン化したわかりやすい構造になっていてバリエーションもフラットな感じ。ブレイクではない所にポツンとクラップスティックが1回だけ入り続けるが、逆に入らない所が合図になってブレイクにはいるという一見わかりにくい構造だが、シンプルながらクールなクラップスティックのブレイクがすばらしい。これと同じクラップスティックのリズムがWhite Cockatooソングでも使われていた。トラック4よりもよりリズミックにダンサブルな展開になっている。

6. Maraian Chant
重要な儀式が昼の間に終わり、年老いたソングマンは「All Souls Festival」のようなMarianの精霊にひきよせられ、神聖な歌を歌いはじめ、全部で40人ほどの関係者達がソングマンの周りに座り、熱心に聞いている。この曲は、洪水で溢れかえった川が、あちらではゆったりと、そしてこちらでは急流となって、洪水で溢れた川の中にたたずむ巨大なペーパー・バーク(紙のようにペラペラとめくれる樹皮をもったユーカリの木)の森をぬけて、海へと流れ込む様子が歌われており、それは待ち望まれた雨季の到来を、雨を必要とする生命達へ知らせ、祝福する歌である。歌詞は神聖な曲なのでここで紹介するのは避けてあります。

7. Djidjeridu
ディジュリドゥはオーストラリア大陸の北西部からアーネム・ランド全域、そしてその少し南部を通じて広く演奏されている。120〜150cmの長さで、5〜10cmの直径で、内部が空洞になっている木か竹で作られる。吹き口部分は3.8〜5cmで、ボトム部分はしばしば広がっている。形状はまっすぐである必要はなく、少し曲がっていることが多く、特にボトム部分に向けて曲がっている事がある。マウスピースには植物性のゴムか、ビーズ・ワックス(蜜鑞)が使われる。サウンドはコルネットを吹く要領で作られ、止まる事はなく、たいてい一つの音しか出ないが、卓越した演奏者は4度高い音を出すことができ、リズムのバラエティはここに収録されている例を聞いてもわかるが、際立っている。

演奏者はたいてい地面にボトム部分をおいて座って演奏するが、立って演奏する場合は、アシスタントをする人がボトム部分を持って演奏される。練習をする時以外は、たいていクラップスティックを打つソングマンが演奏にともなう。ディジュリドゥのリズムもしくはソングマンの歌は、ソングマンのクラップスティックのリズムに常にシンクロしているというわけではない。それがシンコペーションや包括的なリズムの効果を産んでいる。

ここで収録されている5曲は、ディジュリドゥ・ソロで、1曲目はDjedbang-ariで「Half-way Stop」が明確である。2曲目は、長く細い足をもち、頭から地面までが120cmもある巨大なブルー・グレイな色をした鳥(おそらくブロルガ)の歌で、ディジュリドゥ奏者が出す音はその鳥の鳴き声を模倣している。3曲目は「Moi Kandi」と呼ばれる小さな鳥のダンス・ソングの伴奏用のリズムで、ディジュリドゥを演奏しながら同時にその鳥の鳴き声をまねた音を演奏者が出している。4ー5曲目は、カモメの曲である。

上記はライナーからの翻訳。ここで収録されているディジュリドゥ・ソロの演奏者の名前はあげられていないが、CD『AUSTRALIA Songs of the Aborigines』(CD 1963/2002 : Albatros & KIng)でイダキを演奏しているWiriyi に近いサウンドで、パワフルでありながら、様々な倍音が多重的に聞こえる演奏である。特にトゥーツとコールが全く使われない1曲目のイダキ・ソロでは、この演奏者の舌の動きをより明確にしることができる。この曲はトラック2のジャッパンガリと非常に近い。

2曲目についてはライナーでは、はっきりと曲名はあげられていないが、おそらくブロルガ(豪州ヅル)ではないかと思われる。1ー2曲は演奏者が薄く声を入れてドローンを吹いている事でより深いサウンドをリズムにあたえている。

もっとも特筆すべきは3曲目のソロで、この演奏スタイルが聞けるのは『THE LAND OF THE MORNING STAR -Songs from Arnhem Land』(LP 年代不明 : His Master's Voice)のトラック15のMurrkundi(Little Black Bird)のみ。現在では恐らくシークレットな演奏方法になっているとされる演奏がきける貴重な音源です。

4ー5曲は同一の曲が演奏されている。ライナーでは5曲目のソングマンのクラップスティックとのからみが絶妙とあるが、個人的には4曲目の方がよりコントロールされたタイトな演奏に思える。というのも前半部分ではがっちりとからんでいるが、後半では展開が不可思議にずれているからである。この5曲で3分ほどのディジュリドゥ・ソロは現在ではあまり聞かれないオールド・スタイルで、非常に貴重かつすばらしい内容になっている。

8. Gunborg Singing
南西アーネム・ランドでの録音。GUNBORGタイプの歌は元来、OenpelliやGoulburn島などのAlligator River周辺地域の西アーネム・ランドで生まれたとされ、この録音のソングマンはAlligator River周辺地域の少し南の出身である。GUNBORGで歌われるテーマはゴシップで、ソングマンは過去に起こった情事などの社会的な出来事から歌詞を作るが、トラブルを避けるために直接的な言い回しはしない。加えて、その歌詞は単に無害で独特の意味合いがあるだけではなく、暗に含んだ意味合いを含んでおり、たいていそれは性的な意味合いである事が多い。

2曲収録されているこの録音では、ソングマンが彼の女性のいとこを探してキャンプから出かけ、火をたき、飯を食い、満たされる。そして頭上の空には雨雲がやってきているので、雨をよけるものをかぶって眠るという事が歌われている。

    歌詞:Ngalgurng Ngadjareni Ngarbebmi Ngawargmeng Nga-ngun Ngaworgmen
    英訳:Female cousin I wanted We came out I lit a fire I ate I am full
    歌詞:Manburba Jergeme Ganbargbu Mandjeng Bedming Mandjeng Ganbargbun
    英訳:Clothing Cover up On top Rain Comes up Rain On top

GUNBORGの音楽形式は、ディジュリドゥがはじまり、その後、踊り手達は踊り場のそばで「O:」と歌ったり、地面に向かって叫ぶ。そしてディジュリドゥは引き続き演奏し、ソングマンは歌いはじめる。GUNBORG形式には歌のテーマやメロディのバリエーションに関わらず一曲の中に4つのパートがあり、全ての歌い回しにおける全体的な特徴は低くなっていくスラーである。最初の3パートまででは、それぞれのパートに3回以上のスラーがあり、意味のある言い回しごと、原則として曲のはじめごと、そしてエンディングには必ず、前述のスラーよりもより低いスラーが行われる。踊り手達は呼び掛けや、叫び声を一節の間に発する。決まった手拍子と最後の足踏みが終わりを指し示しているように感じさせるために、3パート目の最後はまるでその曲が終わるかのように思われるが、一瞬止まった後に、最後の一回だけのスラーが行われる。これが4パート目である。

上記はライナーからの翻訳。上記のライナーからの詳しいGUNBORGスタイルで歌われる歌詞のテーマの内容と曲構成というのは、非常に貴重で、興味深い。北東アーネム・ランドのスタイルというのは他の地域で歌われる事が少ないが、アーネム・ランドの北西部、中央部、南部までこのGUNBORGスタイルの演奏というのは広がっているため、一体元々どこから発生したのかがわかりにくいが、Alligator River周辺がその出所だと言われるとうなずける部分も多いのではないだろうか?

この地域の録音というのは思ったより少なく、『SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 1』(CD from LP 1962-63/1996 : AIATSIS) に多数のOenpelliの録音、『ARNHEM LAND vol.1』(LP 1949/1957 : His Master's Voice)に数曲のOenpelliの録音、『ARNHEM LAND POPULAR CLASSICS』(CD-R from LP 1961-62 : Wattle Ethnic Series)と『THE LAND OF THE MORNING STAR』に数曲のOenpelliとGoulburn島の録音、『SONGS OF ABORIGINAL AUSTRALIA』(Cassette 1961-64/1988 : AIATSIS)に多数のGoulburn島の録音が収録されている。

ここで収録されている録音では、シンプルなディジュリドゥのリズムが反復され、そこにメロディ感溢れる歌が複数のソングマンによって歌われ、複数のダンサーの「Si-, Si-」という声や叫び声などが入っているわかりやすいGUNBORGの例である。きっちりと曲をフォローしているディジュリドゥもすばらしいが、よりGUNBORGの全体像が理解しやすい録音といえる。

9. Cloud Chant
北東アーネム・ランドのRiredjing-oクラン(現在ではRirratjinguと表記されることが多い)のCloud Chant(雲の歌)の一部分を収録。はるか東にある死者の島からやってくる雲について歌っている。風が吹き、雲を連れて来る、その雲は時には晴れの日のちぎれ雲であったり、また時には、草花のつぼみが開く時に見られる種のようであったり、時には海上に座っているかのよう。風はBremer島の両岸の周りに雲を吹き動かし、海面に風を打ちつけ波を立て、雲の場所からやってきたRirratjinguクランの元へとたどりつく。そして今、古代の部族の長の事を思い悲しみにふけっている。

ここで収録されているほとんどの曲がディジュリドゥやクラップスティックをともなわないみじかい語るような調子で歌のみが残って終わっている。これは、たいていその曲のキーワードを歌っており、アーネム・ランドに見られるいくつかのソング・タイプの一つである。歌っている途中では、クラップスティックとディジュリドゥの音に声がかき消されるのを避けるような努力はされていないことに気付くだろう。

    歌詞:Bulong-or Dauwndon Narong Dang-um Ngalin Bugu Wema-linggan
    英訳:Cloud (wind)Blowing Along That We Very Sorry here(stop)
    歌詞:Jurong-ain Mining-oin Djinagoi Ngali Jurong-o Djaruna Bailma
    英訳:We people Belonging (that)Country We People Song Song
    歌詞:Lainang-ani Burung-gali Wata Narung-an Ngaling-go Bulbulwa Morogan-ba Njinan Narong Ngoili Gapul
    英訳:Song Song Wind Comes up Own Five clouds Flower Set Along On Water

上記はライナーからの翻訳。全8曲収録されており、最初に5曲ゆったりとしたリズムで短い、「イントロ+メイン+エンディング」という構成で演奏され、残り3曲はかなりスピーディでリズミックに、「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」というスタンダードな構成で演奏されている。前半の5曲は少しずつイダキのリズムに変化をつけたり、曲の長さが違ったりしているが、後半はあまりにもスピーディなためか、同じリズムを変化をつけずに演奏している。

この高速の3曲は他の録音と比べても非常に早く、おそらく北東アーネム・ランドのスタイルでは最もスピーディな演奏の内の一つだろうと思われる。ライナーにも書いてあるが、ソングマンの歌い方が静かに語るような調子で歌われているため、より明確にディジュリドゥのサウンドを聞くことができるすばらしいトラックです。

10. Djerag
その土地のテーマと物体に対して伝統的に責務をになうコミュニティの半儀式的なDjerag(現在ではDjarrakとつづられる:カモメ)の歌。これは海のシリーズで鮫、海水魚と鳥達のようなテーマを含んでいる。ここで紹介されている録音では、鮫が飛び跳ね、岩の間を抜けて逃げる小魚を追いかけ、大きな魚達はほとんどかみつかれそうな所だったのを必死に逃げている。

    歌詞:Marauwa Tjaipila Waptuan Dorjuwan Bandang-a Lindjing-o Warogan Rerami
    英訳:Shark Jumps Cleaves Jumps Chasing fish into the rock Song Shark Teeth
    歌詞:Marauwa Rurdowan Wurubowan-Bowan-wan Wirwiriwan Dirijuwan
    英訳:Shark (small fish)Rush Away Big fish(chased by shark) Go round Jump and run

ディジュリドゥの"swing"(ゆれ)が特にすばらしい。1曲目では周囲の長老達に続いて登場した二人のソングマンによって歌われており、2曲目からはほぼユニゾンして歌っている。

上記はライナーからの翻訳。同じリズムパターンの曲を4曲を収録している。4曲全て、イントロ部分が違ったり、細かいリズムのパリエーションを演奏していて、Djarrakソングを理解するのに適している。「イントロ+メインパート+エンディング」のシンプルな構成だが、「1-2-3-4  1-2-3 1-2-3」というリズム割りの10拍子というあまり無いパターンなのが珍しい。またこの割りにクラップスティックが入っている場所は、下線の部分でこれが最初から最後まで続くが、イントロ部分でそこがはっきりわからないようにスタートしている所がにくい。

11. Brinkin Wongga
BrinkinクランのWONGGA(現在ではWANGGAとつづられる事が多い)ソングパターンで、正確には西アーネム・ランドのDaly River周辺内陸部の地域に属するソングパターンであるが、婚姻関係や交易を通じてWONGGAは南西アーネム・ランドまで広がっている。この録音はMaielliクランや、その周辺の岩場の多い地域のクランの人々によって歌われており、ディジュリドゥはそれよりもはるか北のGunwingguクランの男性によって演奏されている。

ソングマンもディジュリドゥ奏者もずっと立って演奏しているが、一人の少年がディジュリドゥのボトム部分を持っている。メロディはたいてい「Falsetto(裏声)」を使った高い声で始まり、だんだん低くなっていく。歌詞はなく、シラブル(音節)がそれにとってかわっている。それぞれの歌は死者の精霊や、鳥などのテーマや名前があるが、ここで収録されているのは火についての歌である。周囲の男性は手拍子や、コール(呼び声)やダンスで参加している。

WONGGAではソングマンはクラップスティックをたたきながら歌わないが、歌を歌っていない時は周囲と同様手拍子をする。ダンサーの単調な長いコールはハーモニー効果を寄与しており、それはソングマンが高い声で歌いはじめた時に起こる。ソングマンが低い声までスラーさせていった後に、一旦とまり、クラップスティックをたたき、長く引き延ばされた「Ah!」という声を発する。最後に踊り手達が、それぞれのシーンや曲の後に終幕のコールと叫び声をあげる。踊り手達が巻き上げた砂ぼこりは、母なる大地への感謝を表わしており、大地から生まれる生命のシンボルである。

上記はライナーからの翻訳。かなり詳しいWANGGAの説明が非常に興味深い。特に、踊り手の動作の意味合いについての解説を読むと非常に彼等の踊りをより意味をもって見ることができる。約3分ほどの抜粋が録音されており、Gunwinggu語(Oenpelli周辺部のアボリジナルが話す言葉)を話すディジュリドゥ奏者が演奏しており、音は小さめで聞き取りにくいが、アタック感の強いパワフルな演奏をしていることがわかる。ソングマンの歌声は、つんざくように力強い。

曲のタイトルについている「Brinkin」は、Magatige語の別名でPort Keats周辺部のMoyle川の湿地帯に住む人々が話す言葉である。MaielliつまりRembarunga語を話すシンガーによって歌われている事から、歌われている歌は、Port Keats周辺に由来する歌で、シンガーは中央アーネム・ランド出身で、ディジュリドゥ奏者はOenpelliなど北西アーネム・ランド出身という全てがバラバラな組み合わせである事がわかる。

12. Djarada
DJARADAはラヴソングで、女性が川で水浴びをする時に叫んでいる様子が歌われている。ソングマンが低い声で歌っているのを若い少年が熱心にリードしている。

上記はライナーからの翻訳。北東アーネム・ランドか北部の中央アーネム・ランドよりか不明だが、トゥーツとコールを多用した明るい雰囲気がただよう曲。中でも「DupuDhere DupuDhere」といった短い周期で、クラップスティックとユニゾンするようにトゥーツが入ったフレーズが繰り返されている所がおもしろい。またサブ・シンガーである少年の歌声はほぼ女性の声に聞こえる。

『Arnhem Land』(CD 1949/1993 : Larrikin)のトラック8-9には、ディジュリドゥの伴奏の無い「Djarada」が収録されている。

13. Nyindi-Yindi Corroboree
DarwinからDaly River下流の沿岸部のWadjigin(Wogait)クランの人々のカラバリー。ここでの録音ではディジュリドゥは明らかに他の地域とは違っており、ソングマンの歌っている歌詞はききとりにくく、また意味のない歌詞だと思われる。実際、ほとんどの部分が、シラブル(音節)だけである。このカラバリーはきわめて社会的で、多くのユーモアと個人によるダンスの名手が際立っている。踊り手達はボディペインティングをしたあと、たき火の煙りの上をジャンプしてくぐり、ヤリを立てたまま持って、叫びながら踊り場へと近付いていく。このグループは北部で最もすぐれたダンスグループで、この録音では、シャープにシンクロした音楽をバックに、個人個人が残りのダンサー達の真ん中で、アクションの一つ一つにエネルギーを注ぎながら、交代で踊っており、地面を踏み付ける音とコールの声を聞けば、どれほどエネルギーをかけて踊っているかがよくわかるだろう。リーダーは約1年程前に亡くなったすぐれたダンサーでソングマンだったMosekを思い悲しみ、むせび鳴いている。

上記はライナーの翻訳。『ARNHEM LAND』(CD 1949/1993 : Larrikin)のトラック2にも同じ曲が収録されている。Wogaitクランは、Daly River河口のAnson湾周辺に住んでいる。地理的にも、サウンド的にもWANGGAスタイルのディジュリドゥの演奏スタイルである。べたつくような倍音が特徴的で、マウス・サウンドで言う「Li」の所で低音部分が押し出されている。

14. Sacred Song
中央アーネム・ランドのMarianクランによる一晩中歌われた歌の抜粋。「All Souls Festival」の一つ。英雄達の魂、もしくは亡霊、生きとし生けるものすべて、死者達、そして参加していない生きている人々が呼び集められ、幽霊の場所もしくは地球の内部から様々な種族が現れ、儀式が執り行われる。そのソング・サイクルは偉大なる英雄史や、神話の出来事を思い起こさせる。そうすることで自然界の生き物と場所が詳細に渡って描かれている。

この歌は2つのシリーズにわかれており、2つの儀式的な伴族にその責任があり、Yirritja半族から始まりDhuwa半族がひきつぐ。神聖な歌詞のため、掲載はひかえてあります。