デビッド・ブラナシの7" EP「Songs of Bamyili」から6曲収録しているアボリジナル音楽のコンピレーション。現在廃盤だが、少数を新品で入荷しました。
■このCDについて
■アボリジナルの音楽
■ディジュリドゥとは
■ライナーの翻訳と解説
■DAVID BLANASI ディスコグラフィー
■MORNINGTON ISLANDの録音を含む音源
現在廃盤になっているCDを新品で数枚のみ入荷!David Blanasiのディジュリドゥ・ソロを含むオーストラリの幅広い地域のアボリジナルの伝統音楽のコンピレーションです。
エアーズ・ロックをバックにディジュリドゥを演奏しているアボリジナルの男性というありえないコラージュ(エアーズ・ロック周辺のアボリジナルの人々は伝統的にディジュリドゥを演奏することがない)のこのCDのジャケットを見る限り、伝統的な演奏の現地録音が入っているとは思えないが、このCDはイギリスのARCがオーストラリアの古いレーベルLarrikinからリリースされていた(現在リリースの大半は廃盤のようだ)音源からコンパイルした、TIWIや中央砂漠地域、Mornington島、キンバリー地方、アーネム・ランドなどオーストラリアの様々な地域の現地録音が収録されている。恐らく廃盤になっているカセット『Music of My People』のCD化ではないかと思われるが不明です。
特にDavid Blanasiのディジュリドゥ・ソロ・メドレー1曲を含む6曲では、40代のブラナシによる壮絶なディジュリドゥの演奏を聞くことができる。この内5曲は廃盤のカセット/EP『SONGS
OF BAMYILI』から収録されており、このカセット/EPそのものが激烈にレアなため、この6曲が聞けるだけでも価値があります。またカセット/EPではソロをそれぞれ1曲換算されているため、9曲しか収録されていないカセットから実質7曲収録されている!
下記は16Pブックレットに掲載されている英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語で書かれた、「アボリジナルの音楽」、「ディジュリドゥ」についての文章の翻訳である。その内容は同じARCからリリースされている『AUTHENTIC
ABORIGINAL MUSIC- Music from the Wandjina People』(CD 1995 ARC)のライナーと同じである。
■このCDについて
このCDは、複数の部族と音楽形態を持つオーストラリアのアボリジナルの人々の音楽のコンピレーションで、Mornington島のLardilの人々の音楽も収録されています。Mornington島は、クイーンズランド州のCarpentaria湾の南東の角に位置するWellesley諸島の中で最大の島です。
その他の歌は、オーストラリアの熱帯雨林地域に住む人々に起源を持つ歌で、様々な異なる方言で歌われている。R.M.V. DixonとGrace Kochによって集められたそれらの歌は、Corroboree(カラバリー : アボリジナルの歌と踊りを意味する英語)で演奏される「Gama」、そして「Gaynil」スタイルで歌われる。その歌の内容では、動物や鳥の行動、あるいは白人の奇妙なしぐさなどの日常のトピックが扱われている。「Jangala」、「Burran」、そして「Gaynil」は、「ラブ・ソング」スタイルの歌だと言われており、愛、嫉妬、悲哀、あるいは復讐心などの個人的なメッセージがこめられている。
■アボリジナルの音楽
オーストラリア現地で唯一ユニークな音楽は、オーストラリアのアボリジナルの人々の伝統的な音楽である。彼等の音楽は、約150年もの間、完全に無視され、誤解されてきた。そしてその間に多くの伝統的な儀式が完全に消え去ってしまった。
オーストラリアのアボリジナルの音楽は、まず第一に声楽がある。そのメロディーはたいてい大きく高い声から、柔らかく伸ばした、もしくは繰返された低い声へと下がっていくシリーズで構成されている。それは次に最も高い、もしくは、より高めか中断された次につづく音程の降下へとエネルギッシュにはねあがる。手のこんだ、休み無い装飾がスラー(滑唱)と微細な音色のトリル(震え声)をともなった声の下降のさまざまな音程をぼやけさせている。ある地域ではポリフォニー(多声音楽)が見られる。
歌の多くは精霊によって伝えられてきたと信じられており、その言葉には神聖な言外の意味がこめられている。「頭で作られる」世俗的な歌と相反して、それらの歌は「夢の中で見い出される」。そのメロディーのリズムは、結び付いている歌の構造によって左右される。一つの言い回しのためだけに作られているさまざまなリズミックな節があるのだろう。「Corroboree Song」という言葉はキャンプの娯楽のために演奏されるアボリジナルの人々のダンス・ソングを意味する表面的な意味合いで使われている。
すべての地域において、歌は非音楽的な出来事に影響を及ぼす力強い行為であると考えられている。歌を歌う事によってその演唱者達は、太古の昔に神聖なる祖先の神々によって大地の中に残された超自然的なパワーを引き出す事ができるのだと信じているという証拠が多くのアボリジナルのグループに見られる。その歌の全ての技術的特徴が正しく、同時に存在することのみによって、演唱者達はこのパワーを利用できるようになる。そのパワーが良い事か邪悪な事に使われるのかわからないので、これらの力強い歌の教授に関しては厳しい管理が続けられている。独占的なシステムはそれらを理解している最も年寄りで、最も賢明な人々の手にゆだねられている。
歌やダンスを習い、伝える方法は、その歌やダンスのカテゴリー、もしくはタイプにかなり左右される。キャンプで定期的にオープンに演奏される「Corroboree(アボリジナルの歌と踊りをさす英語)」は、遊びの中でまねる子供達によってあっさりと吸収され、子供達自身が似たようなやり方を作り出す。若者達は、イニシエーションの時期には、歌を習うという事に対してより真剣な態度で応じるように仕向けられ、年長の人々の指導のもとに隔離されカルト・ソング(儀礼の歌)を憶えはじめるのである。
30以上のさまざまな種類の楽器があり、それに使われる素材は、木、樹皮、竹、種のサヤ、そして魚か爬虫類の皮である。クラップスティックとして互いに叩きつける木片については特に、表面を滑らかにしたり、削ったりする以上の技術はあまり使われない。ディジュリドゥは現在も使われているオーストラリアのアボリジナルの楽器としては唯一の気鳴楽器である。基本的にリズム楽器は南オーストラリアでは全く見られない。
女性のダンスはある範囲に制限されている。いくつかの大きな祭儀の儀式では、いつも踊り場の同じ場所でというわけではなく、女性達は男達とともに踊りを披露する。参加者の長が男性であるいくつかのダンスでは、女性達は優雅に手足を揺らして、そのバックに静かにたたずむのである。
■ディジュリドゥとは
北オーストラリアのアボリジナルの人々が使う、別れたマウスピースはなく、2つの穴の一方を吹く、まっすぐの自然のトランペットである。その名前はおそらく ヨーロッパ人が新造した言葉であろう。ディジュリドゥの名前はさまざまな地域で40程のアボリジナルの名前が知られている。
ターマイト(白アリ)が喰って穴を開けたユーカリの枝で作られており、その枝の外側についている樹皮は剥がされ、その内側の壁は最後には削られて薄くなる。
マウスピースには、輪っかにしたビーズワックス(蜜鑞)かユーカリのゴムが、吹き口を狭くするためにつけられることがある。以前は、節を焼けた棒で焼き通した竹が使われていたが、1970年代には鉄やプラスチックのパイプが使われていた。
ディジュリドゥは、よくオーカー(顔料)や泥で、トーテム上のシンボルや樹皮画の技術を使ったデザインの装飾が施されるが、その外形を変化させるような事はされない。
演奏者に好まれる長さは地域によって1〜1.5mとそれぞれである。例外的に巨大な2.5mという長さのディジュリドゥが、「Y*******r」もしくは「J*******i」とよばれるレインボー・スネイク(虹へび)を表わすある儀式において演奏される。
ディジュリドゥは、歌と踊りの伴奏のためにクラップスティックとともに男性によって演奏され、主におおやけの(非守秘の)儀式、クラン・ソング、キャンプの娯楽、そして個人が所有する歌の伴奏に使われる。また子供の歌の伴奏に使われることもある。
早い時期から全ての子供がディジュリドゥを習うのだが、ほんの一握りのディジュリドゥの名手は高く認められ、尊敬される。正確ですばやい舌の動き、すばらしい呼吸のコントロール、マウスピースでの完全な唇の密封、そして優れた音楽的記憶というものにディジュリドゥの名手たる特質がみいだされる。
ディジュリドゥは幅広い表現能力があり、容赦なきパワーで演奏されることが多い、ゆったりとした印象的なムードから、陽気さや高揚感まで、その全てはシンガー、ダンサー、そして聴衆のような人々と話し合われている。
ディジュリドゥがいつどこからオーストラリアにもちこまれたかということに関する研究がそれを解き明かすにはいたっていない。他の文化との比較から、その豊かなコンビネーションとテクニックはオーストラリアのアボリジナル独特のものであるという事をほのめかしている。音楽的イマジネーションを使い、肉体的な技術を通して、彼等は粗野な道具にもかかわらず、高い質の名手的楽器を作って来たのである。
下記ではディジュリドゥが入っているトラックのみレビューが書かれています。その他のトラックは歌とクラップスティックやブーメランなどの伝統的なアボリジナル・ソングになっている。ライナーには、それぞれの曲についての解説は掲載されておらず、ここに紹介されている文章は、聴感上の感想と楽曲などについてディジュリドゥのサウンドを中心にしたレビューです。レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナーの翻訳
1. Dalubun(A Love Song) by David Blanasi|2. Brightly Shining
Star|3. Birth Songs-Mornington Island Dancers|4. Butterfly|5. The Dwarf|6.
Yarra Yarra/Murangadji|7. Goondi Hill|8. Didgeridoo Solo by
David Blanasi|9. Dragonfly|10. Stop the Thunder|11. To Make Her Dream of Me|12.
Lumbuk(Top Knot Pigeon) by David Blanasi|13. Gunaramana(Mornington
Island)|14. Bilijilan|15. Moon|16. Mangrove |17. Burri Burri(Mornington
Island)|18. Into the Waves|19. Malalabanda(Mornington Island)|20.
Trip to the West|21. Grief for a Dead Child|22. Traditonal Song(Yuendumu Community)|23.
Buthamar(Mornington Island)|24. Yagimar Gana|25. Flying Fox|26. Sending my
body to the Graveyard|27. Yawiyar Mainalay|28. Gun-ngwaral(White
Cloud) by David Blanasi|29. Murder Song(Bathurst Island Community)|30.
Cassowary|31. Echidna Digging|32. Jangala Nyarambi|33. Djuarn
Baila(Mornington Island)|34. Birrinjil|35. Spirit Dancing|36. Ghosts Calling|37.
Camp Song(Kalumburu Community)|38. Raduldabuldar|39. Goondi-Hill|40. Bald-headed
Man|41. She Will Not Go with Me|42. Sugar Train|43. Introduction
: Bob Maza|44. Djaru(Farewell to Dead)
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1. Dalubun(A Love Song)
カセットのみでリリースされていた『Songs of Bamyili』(Cassette 1977 : Aboriginal Artists Agency)のトラック9に収録されている音源をこのコンピレーションに収録している。David Blanasiのディジュリドゥの伴奏に、Beswick当代一のソングマンDjoli Laiwangaによる歌という、もうCDで聞けるのはこのアルバムだけになっている名コンビの演奏です。
ブラナシの演奏しているディジュリドゥの音程は低目でディープなサウンドだが、低い音程の楽器にも関わらずリズミックに早いテンポで演奏しており、特に歌の入らない曲間での即興的演奏はブラナシならではの演奏センスだろう。曲全体は2/4拍子で演奏されており、クラップスティックは全ての4分をたたき、ディジュリドゥも4分で演奏している。シンガーは2/4拍子という事だけを守り、周期にとらわれずに自由に歌っているようだ。ブレスなしの一息でかなり長い歌を歌っている。
カセット『SONGS OF BAMYILI』は、既に廃盤のためこのCDでのみ聞くことができるトラックである。
6. Yarra Yarra/Murangadji
CD 『BUDAL LARDIL -Songs from the Mornington Island』(CD
1988/1993 : Larrikin)から抜粋されていると思われるMornington島の音源。もちろんディジュリドゥも収録されている。この地域ではシンガーは、ブーメラン・クラップスティック、あるいはクラップスティックをかきならしながら歌い、1〜2人のディジュリドゥ奏者がその伴奏をする。この地域独自の演奏スタイルでコンテンポラリーとトラディショナルのミックスのようなサウンドに聞こえるのが不思議である。
8. Didgeridoo Solo Gordo(Brolga)/Goro Goro(Kookaburra)/Djamu(Dingo) by David Blanasi
デビッド・ブラナシ作曲のディジュリドゥ・ソロの曲は全部で3曲存在するが、その全てがメドレーで収録されている。テープのみでリリースされていた『SONGS
OF BAMYILI』のそれぞれ順に、トラック6、2、7からの抜粋。最も力強くスピーディなソロの録音が立続けに3曲聞くことができる。
マイクの関係上か猛烈にフランジングしていてそれがさらにクールなドライヴ感を与えている。特にディンゴのトラックは激シブです!! 高い音程の楽器でのタイトでスピーディーなブラナシの最高のソロ!! 高い声でのコールと複雑に織り成す倍音がからみあい、転がり落ちるようなサウンドになっている。このトラックだけでもこのCDを聞く価値がある。
12. Lumbuk(Top Knot Pigeon) by David
Blanasi
『BAMYILI CORROBOREE -Songs of Djoli Laiwanga』(LP 1976 : Grevillea)、『LES
ABORIGENES -Chantes & Danses de l'Australie du Nord』(CD 1979 : Arion)、『SONGS
OF BAMYILI』にも収録されている5拍子の名曲。このトラックはカセット『SONGS OF BAMYILI』のトラック3からの抜粋です。
ソングマンDjoli LaiwangaとDavid Blanasiの息がピッタリとあった、歌とディジュリドゥとのマッチング感が際立っているのは、ディジュリドゥがかなりタイトな演奏をしているからだろう。GUNBORGスタイルのドローンでここまで「キレ」を感じさせるディジュリドゥ奏者は中々いないだろう。
13. Gunaramana(Mornington Island)
CD 『BUDAL LARDIL』からの抜粋。GunaramanaはBrolga(豪州鶴:灰色かかったツル)の歌で、早朝に飛び回っている様子が歌われている。ツルの声を模倣した叫び声が終始歌われリズミックでおもしろい。北東アーネムランドのブロルガ・ソングと比べてみてもおもしろい。
17. Burri Burri(Mornington Island)
CD 『BUDAL LARDIL』からの抜粋。Burri Burriは南風の歌。冬の朝に時々、島の上空にやってくる雲Gadjbalと南風は深い関係にある。複数の男性ボーカルとクラップスティックにディジュリドゥ。ディジュリドゥの音は力強く、うねるようなサウンドです。ホーンをリズムの頭に多用したMornington島独特のスタイルで、北東アーネムランドのトゥーツとは少し違った演奏方法です。
19. Malalabanda(Mornington Island)
見えないスピリットの一つである池にすむ人魚の歌。複数の男性ボーカルとクラップスティックにディジュリドゥ。宗教的な詠唱のような複数の男性の歌声の中、きりさく用な叫び声が曲中に何度も入って、それがきっかけになって曲が展開しているようだ。ディジュリドゥの音はディープだがリズミックにきざんでいる。他の地域に見られないタイプの曲でおもしろい。
23. Buthamar(Mornington Island)
複数のディジュリドゥを同時に演奏している珍しい曲。最初の1分程はおそらく2本のディジュリドゥでの演奏のみで、途中から複数の男性ヴォーカルとクラップスティックが入って来る。録音の状況のためか、なにやらどっちがどっちをやっているのかよくわからないドローン部分が少しつらい。
28. Gun-ngwaral(White Cloud) by David
Blanasi
カセットのみでリリースされていた『SONGS OF BAMYILI』のトラック4から収録。説明不要な説得力のあるブラナシ絶頂期の演奏。この曲はLP『Bamyili
Coroboree』とカセット『SONGS OF BAMYILI』のみで聞くことができる。
3/4拍子の早いテンポの曲でディジュリドゥは2小節周期の決まったフレーズを基本に即興演奏をしている。ブレイクとエンディングでは、シンコペーションしたクラップスティックのリズムが特徴的である。
33. Djuarn Baila(Mornington Island)
イルカの曲。トラック10に似ているがディジュリドゥは2本で演奏されている。北東アーネム・ランドのスタイルに影響を受けたと思われるが独自の演奏がおもしろい。1本は、ホーンを頭に入れたリズムをくりかえしながら、曲中に長いホーンの音が入っている。2本目のプレーヤーはドローンでひたすらシンプルなリズムをきざんでいてコンテンポラリーな曲のような雰囲気さえ感じさせる。
43. Introduction : Bob Maza
デビッド・ブラナシの演奏をバックにボブ・マザのナレーション。
44. Djaru(Farewell to Dead)
Tjoli Laiwongkwa, Tom Yorkdjankiというクレジットになっている。もちろんこれはデビッド・ブラナシの盟友でありソングマンのDjoli
Laiwangaの事だが、もう一人のディジュリドゥを演奏しているTomは不明だが、Tom Kellyの事だと推測される。カセット 『SONGS
OF BAMYILI』のトラック5の「Waiyara / The Shadow」から抜粋されているが、タイトルは異なっている。またディジュリドゥの演奏もカセットではDavid
Blanasiになっている。
ソングマンの歌声は力強く張り上げるのではなく、8分くらいに抑えたやさしい声のトーンで歌われており、ディジュリドゥも低い音程のものが使われている。2/4拍子の曲で、特に、クラップスティックが入らない歌の部分では、歌の動きに合わせて、ダイナミックに演奏するリズムを変化させているのがよくわかる。ディジュリドゥ奏者の機智に富んだ演奏センスを多分に感じさせる。
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