西キンバリー地方WunambulクランのWANGGAソングを多数収録。中高音域の倍音がのびやかなWANGGAらしい演奏です。
■Wandjinaの人々の音楽
■アボリジナルの音楽
■ディジュリドゥとは?
■ライナーの翻訳と解説
■キンバリー地方の録音を含む音源
西キンバリー地方の最北部Kalumburuコミュニティにて、この地域一帯のランド・オーナーであるWunambulクランの録音です。伝統的にアボリジナルの人々がディジュリドゥの演奏を行うエリアの最西端に位置する西キンバリー地方の数少ない音源の内の一つ。
特徴としては、ダーウィン周辺やDaly River周辺地域の演奏方法に近いが、もっと唇がルーズになり、プレッシャーも低い感じでの演奏だと思われる。リズムもシンプルな曲が多く理解しやすい。ディープだが高音域よりも低音域に意識があるような素朴なサウンド。前半16曲は全てディジュリドゥが収録されており、後半20曲はディジュリドゥなしの歌が収録されている。
8Pジャケットにはドイツ語、英語、フランス語、スペイン語で書かれたライナーノーツがあり、下記に英語からの翻訳が紹介されています。
■Wandjinaの人々の音楽
このアルバムに収録されている音楽は、オーストラリア、北キンバリー地域の沿岸部付近のアボリジナルのコミュニティKalumburuにて録音された。収録されている音楽の全てのアーティストはWunambul族の人々で、Mitchell台地とKalumburu地域にある土地の伝統的所有者である。
このアルバムには西キンバリーからノーザン・テリトリー州まで広くひろまっているWANGGAの音楽が収録されている。ソングマン達は新しい曲をひろめ、古い伝統的な歌を存続させるために広範囲に渡って旅をする。ミュージシャン個人は自分自身のスタイルを音楽の中に反映させている。キンバリー地域で最も有名なソングマンの一人Lorrie Utemorrahaは、非常に目立った、独特なスタイルを持っている。ここに収録されているWANGGAソングは全て公共の場で聞くことができるイニシエーション(通過儀礼)・ソングである。
このアルバムの残り半分は「Bandrru」、「Balga」、「Moraburr」、そして「Djunba」の4つの独特なスタイルの歌を収録しています。
「Bandrru」は北キンバリー地域の沿岸のむこうにある様々な島々から霊感を得て作られた「島の音楽」である。Jeffrey Mangolamaraは自分の領域内の海について、たくさんのストーリーを知る人物である。Jeffreyは「Bandrru」ソングの柔らかく美しいハーモニーを通じて他のシンガー達を導いている。
「Balga」と「Djunba」ソングは男女の歌声が入り交じったハーモニーが特徴的で、常にクラップスティックのリズムにささえられている。全ての歌では語られるべきストーリーがあり、少し心のこもったもの、シリアスなもの、現代的な内容を含んだものなど、こういった歌は何世代にも渡って語り継がれて来た。
「Moraburr」ソングは特に海のストーリーを描いたシンプルなバラードである。
■アボリジナルの音楽
オーストラリア現地で唯一ユニークな音楽は、オーストラリアのアボリジナルの人々の伝統的な音楽である。彼等の音楽は、約150年もの間、完全に無視され、誤解されてきた。そしてその間に多くの伝統的な儀式が完全に消え去ってしまった。
オーストラリアのアボリジナルの音楽は、まず第一に声楽がある。そのメロディーはたいてい大きく高い声から、柔らかく伸ばした、もしくは繰返された低い声へと下がっていくシリーズで構成されている。それは次に最も高い、もしくは、より高めか中断された次につづく音程の降下へとエネルギッシュにはねあがる。手のこんだ、休み無い装飾がスラー(滑唱)と微細な音色のトリル(震え声)をともなった声の下降のさまざまな音程をぼやけさせている。ある地域ではポリフォニー(多声音楽)が見られる。
歌の多くは精霊によって伝えられてきたと信じられており、その言葉には神聖な言外の意味がこめられている。「頭で作られる」世俗的な歌と相反して、それらの歌は「夢の中で見い出される」。そのメロディーのリズムは、結び付いている歌の構造によって左右される。一つの言い回しのためだけに作られているさまざまなリズミックな節があるのだろう。「Corroboree Song」という言葉はキャンプの娯楽のために演奏されるアボリジナルの人々のダンス・ソングを意味する表面的な意味合いで使われている。
すべての地域において、歌は非音楽的な出来事に影響を及ぼす力強い行為であると考えられている。歌を歌う事によってその演唱者達は、太古の昔に神聖なる祖先の神々によって大地の中に残された超自然的なパワーを引き出す事ができるのだと信じているという証拠が多くのアボリジナルのグループに見られる。その歌の全ての技術的特徴が正しく、同時に存在することのみによって、演唱者達はこのパワーを利用できるようになる。そのパワーが良い事か邪悪な事に使われるのかわからないので、これらの力強い歌の教授に関しては厳しい管理が続けられている。独占的なシステムはそれらを理解している最も年寄りで、最も賢明な人々の手にゆだねられている。
歌やダンスを習い、伝える方法は、その歌やダンスのカテゴリー、もしくはタイプにかなり左右される。キャンプで定期的にオープンに演奏される「Corroboree(アボリジナルの歌と踊りをさす英語)」は、遊びの中でまねる子供達によってあっさりと吸収され、子供達自身が似たようなやり方を作り出す。若者達は、イニシエーションの時期には、歌を習うという事に対してより真剣な態度で応じるように仕向けられ、年長の人々の指導のもとに隔離されカルト・ソング(儀礼の歌)を憶えはじめるのである。
30以上のさまざまな種類の楽器があり、それに使われる素材は、木、樹皮、竹、種のサヤ、そして魚か爬虫類の皮である。クラップスティックとして互いに叩きつける木片については特に、表面を滑らかにしたり、削ったりする以上の技術はあまり使われない。ディジュリドゥは現在も使われているオーストラリアのアボリジナルの楽器としては唯一の気鳴楽器である。基本的にリズム楽器は南オーストラリアでは全く見られない。
女性のダンスはある範囲に制限されている。いくつかの大きな祭儀の儀式では、いつも踊り場の同じ場所でというわけではなく、女性達は男達とともに踊りを披露する。参加者の長が男性であるいくつかのダンスでは、女性達は優雅に手足を揺らして、そのバックに静かにたたずむのである。
■ディジュリドゥとは
北オーストラリアのアボリジナルの人々が使う、別れたマウスピースはなく、2つの穴の一方を吹く、まっすぐの自然のトランペットである。その名前はおそらく ヨーロッパ人が新造した言葉であろう。ディジュリドゥの名前はさまざまな地域で40程のアボリジナルの名前が知られている。
ターマイト(白アリ)が喰って穴を開けたユーカリの枝で作られており、その枝の外側についている樹皮は剥がされ、その内側の壁は最後には削られて薄くなる。
マウスピースには、輪っかにしたビーズワックス(蜜鑞)かユーカリのゴムが、吹き口を狭くするためにつけられることがある。以前は、節を焼けた棒で焼き通した竹が使われていたが、1970年代には鉄やプラスチックのパイプが使われていた。
ディジュリドゥは、よくオーカー(顔料)や泥で、トーテム上のシンボルや樹皮画の技術を使ったデザインの装飾が施されるが、その外形を変化させるような事はされない。
演奏者に好まれる長さは地域によって1〜1.5mとそれぞれである。例外的に巨大な2.5mという長さのディジュリドゥが、「Y*******r」もしくは「J*******i」とよばれるレインボー・スネイク(虹へび)を表わすある儀式において演奏される。
ディジュリドゥは、歌と踊りの伴奏のためにクラップスティックとともに男性によって演奏され、主におおやけの(非守秘の)儀式、クラン・ソング、キャンプの娯楽、そして個人が所有する歌の伴奏に使われる。また子供の歌の伴奏に使われることもある。
早い時期から全ての子供がディジュリドゥを習うのだが、ほんの一握りのディジュリドゥの名手は高く認められ、尊敬される。正確ですばやい舌の動き、すばらしい呼吸のコントロール、マウスピースでの完全な唇の密封、そして優れた音楽的記憶というものにディジュリドゥの名手たる特質がみいだされる。
ディジュリドゥは幅広い表現能力があり、容赦なきパワーで演奏されることが多い、ゆったりとした印象的なムードから、陽気さや高揚感まで、その全てはシンガー、ダンサー、そして聴衆のような人々と話し合われている。
ディジュリドゥがいつどこからオーストラリアにもちこまれたかということに関する研究がそれを解き明かすにはいたっていない。他の文化との比較から、その豊かなコンビネーションとテクニックはオーストラリアのアボリジナル独特のものであるという事をほのめかしている。音楽的イマジネーションを使い、肉体的な技術を通して、彼等は粗野な道具にもかかわらず、高い質の名手的楽器を作って来たのである。
下記は、各曲の解説です。オリジナルのライナーノーツには上記までの説明のみで、各曲解説は掲載されていないため、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造や、楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナーの翻訳と解説
1-16. WONGGA Initiation Songs|17-22. BANDRRU(Island Songs)|23-28. BALGA|29-34. MORABURR|35-36. DJUNBA
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1-16. WONGGA Initiation Songs
Songman : Lorrie Utemorrah
Didjeridoo : Louis Karadada
前半部分は、西キンバリー地方からノーザン・テリトリー州まで広く知られるWANGGAが収録されており、一般的に聞かれる通過儀礼の歌をキンバリー地域でもっとも有名なソングマンの1人であるLorri
Utemorrahが歌っている。全編とおしてディジュリドゥが演奏されている。特に1〜4トラックの歌のメロディとディジュリドゥの伴奏のリズムが『RAK
BADJALARR -Wangga Songs for North Peron Island by Bobby Lane』(CD 2000 : AIATSIS)に収録されているDarwinの近くBelyuenコミュニティの偉大なるソングマンBobby
LaneのWANGGAソングに非常に似通っている。
ここに収録されているディジュリドゥのサウンドは、録音のせいかWANGGAスタイル特有の伸びやかな倍音のサウンドをあまり聞くことができないが、WANGGA独特の伴奏的なリズムを演奏している。
トラック8-10では、きらめくホワイト・ノイズのようにサァーっと不特定の周期で押し寄せる虫の鳴き声が、なんとも不思議な録音になっている。
トラック11-16では室内での録音なのかリバーヴがかかったような音になり、ディジュリドゥの音量は大きめで低音が効いた音で収録されている。
17-22. BANDRRU(Island Songs)
この一連の曲は北キンバリーの沿岸部周辺の様々な島々のことを歌ったJeffrey Mangolamaraの歌。複数のシンガーにクラップスティック。ディジュリドゥの伴奏は無い。
23-28. BALGA
曲名は順にBush fig、Night Fishing、Spirit Man、Sea Storm、Dust Song、Out with the Tide。クラップスティックに男女の歌のハーモニーで歌われている。何世代も語り継がれて来た、日常の出来事について歌われている。ディジュリドゥなしのソング・パターン。
29-34. MORABURR
順にPuppy Dog、Wrong Road、Whale、Island Current、Flying Fox、Island in a Lineの6曲を収録。特に海に関する物語についてのバラード。シンプルなクラップスティックのリズムに手拍子と男性の独唱か2人での歌。ディジュリドゥはなし。
35-36. DJUNBA
August 1987とBilly Kingの2曲。トラック23-28 のBALGA同様、日常の出来事がテーマの曲。クラップスティックに複数の男女ボーカル。ディジュリドゥはなし。
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