Alice M. Moyle博士によるキンバリー地方の録音で、様々な地域で幅広い音楽スタイルを収録している。トラック2にWANGGAを収録。
■1. 序 論
■2. 謝 辞
■3. 録音の注釈
■ライナーの翻訳と解説
■キンバリー地方の録音を含む音源
伝統的なディジュリドゥの演奏スタイルを学ぶ人達にとってバイブル的な5枚組CD『Songs
from the Northern Territory』(5CD 1961-64/1996 : AIATSIS)で知られる民族学者Alice M.
Moyle博士によって、西オーストラリア州北部の東西キンバリー地方にて'68年に録音された数少ないキンバリー地方(ディジュリドゥの演奏される最西端地域)のアルバム。LPで発売されたものの再発盤CDです。
この録音では主に65-80才の男性シンガー達が、複数の男女のシンガーを率いてクラップスティックや、ブーメラン・クラップスティック、髪をとくクシ、空き缶などの伴奏とともに歌っている曲を多数収録している。その音楽的スタイルは、西 / 中央砂漠の音楽スタイルの影響を強く感じさせる。
ィジュリドゥの伴奏が収録されているのは、トラック2のみで、Darwinの南西にあたる沿岸地域Port Keatsで習ったWANGGAを演奏している。ディジュリドゥを聞くという意味では、このアルバムはもの足りなく感じるが、砂漠という厳しい環境に生きるアボリジナルの人々と音楽の結びつきを強く感じさせる、時に宗教的で力強い歌、そして女性も積極的に歌や踊りに参加するというこの地域ならではの男女混声の歌声が聞かれるという点では、歴史的、音楽的価値の高い内容になっている。
下記はライナーの翻訳で、16Pブックレットに掲載されているAlice M. Moyle博士自身が書いた「序論」、「謝辞」、そして「録音の注釈」の翻訳を掲載しています。西オーストラリア州北部に位置するキンバリー地域のアボリジナルの人々の音楽的特徴、そしてディジュリドゥが演奏される地域の最西端であるこの地域についての情報が簡潔にまとめてあります。
■1. 序 論
『Songs from the Kimberleys』は、1968年に西オーストラリア州の北に位置する東西キンバリー地域でAlice Moyle博士によって録音されたアボリジナルの音楽からのセレクションである。この録音と、アーネム・ランドを含むノーザン・テリトリー州と、クイーンズランド州のCape Yorkにおけるその他の録音は、1959年から1969年の間に30箇所をこえる北の地域において行われた音楽調査の際に録音された。
オーストラリアのアボリジナルの音楽はまず第一に声楽で、キンバリー地域では一対のクラップスティック、一対のブーメラン・クラップスティック、ガチャガチャと鳴らすあるいは擦るスティック、もしくは一対のクラップスティックとディジュリドゥの伴奏をともなった歌、もしくは伴奏をともなわない歌からなる。ディジュリドゥ以外のこれらの楽器はシンガー達自身の手によって演奏される。そのような楽器はいつも手に入るとは限らず、クラップスティックの代わりに小さな空き缶、空洞になった木製の枝(ディジュリドゥ)の代わりにランドローバー車のテイル・シャフト、刻みを入れたスティックあるいはガチャガチャと鳴らす楽器の代わりにクシ(トラック4、14)が使われたりと様々な代用品が使われることがある。
このCDのリード・シンガーは男性で、彼等の多くは65〜80才の老齢だった。女性が男性とともに歌っているトラックもある(トラック5、7、8、9、11、13)。キンバリー地域のアボリジナルの女性は、演奏芸術の分野において非常に積極的である。どのような公的なCorroboree(カラバリー : アボリジナルによる歌や踊りの祭りをあらわす英語)においても、彼女達は男性の演者と協力しあって歌同様踊りにも参加する。
シンガー達に代表される言語グループには、Bard(Bardi)、Djaberdjaber、Garama、Garadjari、Miriwung、Nyigina、Nyulnyul、Ungarinyin、Wadjagin、Worora、Wuladjangari(Wuladja)、Wunambul、そしてYawurが含まれる。このCDに収録されている全ての演奏者達は、キンバリー地域外の場所に属する3つのグループ、ノーザン・テリトリー州北西沿岸部のPort Keatsにある地域に住むGarama、あるいはMurinbataの人々、Darwin近郊に住むWadjaginの人々、そしてBroomeの南のLa Gangeに住むGaradjariの人々以外は全てキンバリー地域にて録音された。その歌のレパートリーから、キンバリー地域の人々と、Port Keatsのアボリジナルの人々との接触がずっと維持されているという事がわかる。特に、KununurraとDerbyで演奏されるディジュリドゥの伴奏をともなった歌は、Port Keatsに住むその歌の所有者に捧げられている。
このCDに収録されている歌は、秘儀ではない公的なアボリジナルの音楽のいくつかのタイプの音楽である。その中でも「Rain-Making(雨乞い)」歌(トラック1)のようなアイテムは、少数の近隣のグループだけしか知らない。その他は広く知られるもので、何百kmも離れた場所でも同様の歌を聞くことがある(トラック6、7)。
「Rain-Making」ソングは、豊穣と雨の祖先の精霊「Wandjina」と関係している。赤と黄色のオーカー(顔料)、白粘土、そして黒い炭で、口の無い、大きな姿で描かれるこの精霊の描写は、キンバリーの北西地域のロック・ペインティングに見られる。その絵画の力を保存するために、その「Wandjina」の絵画はそれぞれの画家が彼の母の母の土地の「絵画」の修復に参加して、時々修正される。最後に、これらの歌のそれぞれで、半口語の「Gadja(祖母)」という言葉が、画家と領域の間にあるこの「Kinship Link(親類関係のつながり)」を強調している。
そのことを思い出させるものは、「Nurlu」、「Balgan」、「Gadraynya」と呼ばれるダンス・ソングと、「Lildjin」、「Dyabi」と呼ばれる非ダンス・ソングに分けられていると思われる。ブーメラン・クラップスティックの伴奏をともなったカラバリー、あるいはダンス・ソングは、Nyulnyulの人々に「Nurlu」と呼ばれ、Bardの人々は「Elma」と呼び、Wunambul、Worora、そしてUngarinyinの人々は「Djunba」と呼んでいる。ブーメラン・クラップスティックの伴奏をともなう非ダンス・ソングは、Nyulnyulの人々に「Lildjin」と呼ばれ、Bardの人々は「Ludin」と呼び、そしてWororaの人々は「Djordi」と呼んでいる。クラップスティックの伴奏をともなうダンス・ソングを、WunambulとUngarinyinの人々は「Balgan」、「Balganya」と呼び、Wororaの人々は「Djuanbanya」と呼ぶ。
ダンス・ソングは、精霊と交信して夢の中で「みつけられる」と言われている。「Lildjin」もしくは「Ludin」ソングは、精霊のものではなく、現世でつくられたもの(人の頭で創られた歌)で、「カウボーイ・ソング」のようなものだと言われている。
2つの交互に行われるセクションの繰返しによって起る「3部構成(aba)」が、ブーメラン・クラップスティックの伴奏をともなう「Lildjin」や「Gadraynya」ソングを含んだ、数多くのキンバリー地域の歌の特徴である。他方では、「Nurlu」と「Balgan」ソングは、それぞれの歌の項目の連続を通じて、同じ歌詞の繰返しで構成されている。後者のこの「連続的構造」は、キンバリー地域のダンス・ソングだけでなく、中央 / 西砂漠地域のアボリジナルの歌の多くのタイプでの典型的な構造である。
キンバリー地域の歌の多くは、北西オーストラリアの初期の歴史的状況を反映しており、戦争体験(トラック9)、Broomeの真珠産業での出来事(トラック14の「貝をとるダイバー」)、そして「Gadraynya」ダンス・ソングの一つ(トラック12)では、ダンサー達は1912年にHedland港の先にハリケーンで沈んだ蒸気船「Koombana」のデッキの乗客の動きをまねている。
■2. 謝 辞
ここに紹介されている歌を提供していただいたアボリジナルのシンガー達と演奏者達に多大なる感謝の念を送ります。彼等の内の数人は現在亡くなっており、このCDを聞くリスナーはこのブックレットのジャケットの内側に掲載されている「注意事項」を注意深く読む事をおすすめします。
■3. 録音の注釈
次に続く記述では、シンガーの言語(歌っている言語は必要がないと考える)が彼等の名前の後の括弧内に書かれている。トラック5、7、8、11、13の歌では、踊りが踊られている。トラック3と10以外の全ての録音は、屋外で行われており、その場所はトラックのタイトルのすぐ下に書かれている。
下記はライナーに掲載されているかなり詳細に渡って解説されている各曲解説の翻訳です。ディジュリドゥの伴奏が収録されているトラック2のみに、ライナーの翻訳以外に「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまるレビューが追加されていますが、それ以外は翻訳のみが掲載されています。
■ライナーの翻訳と解説
1. Rainmaking Song|2. Djirri Djirri|3.
Waggin's Nurlu|4. Guluwada Songs|5. Balganya|6.
Balgan from Darby|7. Totem Dance|8. Djanba|9.
Lildjin Songs|10. Ludin and Elma Songs|11.
Song from Anna Plains|12. Gadraynya|13.
Butcher Joe's Nurlu|14. Dyabi Songs
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1. Rainmaking songs(7 items)
録音地 : Mowanjum(Derby)
シンガー : Bill Anda Nungulmarra(Wunambul語)
伴奏楽器 : クラップスティック
西キンバリー地域の「Rainmaking」ソングは、集合的に「Wandjina(Wondjuna)」として知られる祖先の精霊と関係している。アボリジナルの画家達は、十分な量の降雨、そして植物と動物が大地に再び満たされる事を願って、彼等の母の母の土地にあるその「Wandjina」の絵に筆を加える。このソング・シリーズの1-2節は沿岸と草原に雨が降っていること、3-4節は雨で岩の表面が薄れた鳥とディリーバッグ(採集したブッシュ・タッカーをいれるための手編の手さげ袋)と矢尻のペインティングについて、5-6節は二つの丘の間で雨が流れ、霧が煙りのように上がっている様について歌っている。最後の節では、「Wandjina」の姿の腕を、まず上腕から手、指の関節、そして爪を再び描くという事について歌われている。
この歌には1オクタープの幅がある。声が下がっていくモードは、ペンタトニック(五音音階 1オクターヴのなかに5つの音を含む音階)と表現されてもよいだろう。韻律的なパターンは、音節の数、それぞれの節を終える比較的長い連続した音で変化している。クラップスティックを打つ音は、この「Rainmaking」ソングでは支配的なパートである。
2. Djirri Djirri
2.
録音地 : Mowanjum(Derby)
シンガー : Arthur Toby Langgin(Wadjagin語)
伴奏楽器 : ディジュリドゥの演奏はNelson Barangga(Worora語) / クラップスティック
この歌の導入部分では、シンガーからディジュリドゥ奏者にリズミックな合図が与えられている。「didu-didu: didu-didu」という音節をはっきりと発音しているのが聞かれる。ディジュリドゥ奏者は、その曲を通して維持しながらすぐに要求されたリズムを演奏してそれに応えている。
Darwin付近のWadjaginグループ出身のそのシンガーは、この歌をPort Keatsで習った。「Djirri Djirri」ソングは、東キンバリーのWyndhamで、そして南アーネム・ランドのBamyili(Djawanj語とMajali語の男性が歌う)でも聞かれる。「WONGGA」という名で知られる地域的なダンス・ソングに似通っているが、この「Djirri Djirri」ソングは鳥、女性、その他何についてでも歌われるのだと説明したシンガーによると、この歌は「Garama」語の歌の一つとして分類されていた。
ボーカルのパートは5つのセクションに分けられており、「WONGGA」ソングでは楽器の伴奏がそれぞれのセクションの間にあるブレイクの最中も続けて演奏される。多くの「WONGGA」ソングの演奏において、クラップスティックは3拍子の最初の2拍をたたき、最後のセクションは「di」という音節の繰返しで構成されている。
上記はライナーの翻訳。ここで聞かれるディジュリドゥの伴奏は、即興的要素はかなり薄く、WANGGAスタイルの典型的な3/4拍子のクラップスティックのリズム「1
2 ・」(・は4分休符)にのって、「Lidomo Lidu-mo-ro」といったリズムをミニマルに伴奏に徹している。歌のメロディー、ディジュリドゥのサウンドともにPort
Keatsで習った歌というだけあって、Belyuenコミュニティーの偉大なるソングマンBobby Laneの歌にも近い(CD『Rak
Badjalarr』を参照)。
3. Waggin's Nurlu
録音地 : Derby居住地
シンガー : Billy Ahchoo Umbali、Stambidji Kargi、Tommy Kargi(Bardi語)
伴奏楽器 : ブーメラン・クラップスティック
「Nurlu(Nolo、Nooloo)」は、西 / 北西キンバリー地域のアボリジナルの人々がおおやけの歌と踊りのために使う言葉で、二つのブーメランをたたく、あるいはガチャガチャと鳴らす伴奏をともなって演奏される。ダンピアー・ランドの北沿岸部の先にあるSunday島とLombadinaに住むBardi(Bard)の人々の間では、「Nurlu」の演奏は「Elma」と呼ばれている(トラック10の「真珠の貝殻」を参照)。
この地域では、比較的老齢のシンガー達が多くの「Nurlu」ソングの項目を憶えている。それらの歌のほとんどは、特有な領域、あるいは大地に関係している。Wagginの「Nurlu」ソングでは、Sunday島の「Maragindjunu」という名の丘について言及されている。このような「夢見た」、あるいは「見つけられた」歌は、通常その歌を見い出した人物の名前で同一視されている。この録音のためにこれらの曲を演奏した3人のシンガー達は、当時のWagginの「Nurlu」ソングの守護者である老人Rubiから許可を得た後に、演奏している。
「Nurlu」ソングの特徴は、止まることなく繰返される同じ音節である。歌の項目毎に明確なブレイクは全く無い(2節目の最後では、一人のシンガーが「続けて! このまま続けて!」というのが聞かれる)。それぞれの節は、約9度の幅を越えて音程を合せて下降していく声で構成されている。最後の節は短く省略されているようだ。
4. Guluwada songs
(i). Bullock (ii)Tea (iii)Transport to Derby
録音地 : Wyndham
シンガー : Robert Roberts Andjalmara(Wuladja語)
伴奏楽器 : クラップスティック(ここでは空き缶が代用されている)
「Guluwada」ソングは「ラブ・ソング」とも呼ばれている。この歌は踊りをともなわないで演奏され、全ての注意力は歌詞とその意味合いに注がれれる。北西アーネム・ランドのディジュリドゥの伴奏を伴ったゴシップ・ソングには、数人だけが知っている隠された「Guluwada」の意味が存在することがある。「Ilbindji」あるいは「恋の魔法」の歌と混同されない「Guluwada」ソングは男女両方に歌われることがあり、その歌は男性に「ひそかに申し訳なく思わせる」。
このような種類の歌は、Halls Creek、Fitzroy Crossing、そしてDerbyを含むキンバリー地域の多くの場所で聞くことができる。「Guluwada」ソングの中心となるシンガー達は、西キンバリー地域に住むUngarinyin言語グループに属する人々だと言われている。
このような種類の歌は、Halls Creek、Fitzroy Crossing、そしてDerbyを含むキンバリー地域の多くの場所で聞くことができる。「Guluwada」ソングの中心となるシンガー達は、西キンバリー地域に住むUngarinyin言語グループに属する人々だと言われている。
5. Balganya(Brolga-2 items)
録音地 : Mowanjum
シンガー : Sam Wulagudya(Worora語)
伴奏楽器 : クラップスティックと座った女性シンガー達が手のひらで膝をたたく音
踊りをともなったおおやけの演奏で、リード・シンガーに率いられた男性と女性の声が聞かれる。オーストラリアのツル、もしくは時々「土地の仲間」と呼ばれる鳥ブロルガの歌は、北オーストラリア中で様々なグループの男達によって歌われる。音楽スタイルは、その歌が属する地域によって異なる。Worora言語グループの「Red Paint」半族に属し、西キンバリー地域のWororaとWunambul言語グループのシンガー達に知られる「Balganya」ソングは、ブロルガの滑らかに滑降していく降下、ブロルガがとまる場所、そしてブロルガが食べる草について述べている。
「Balgan(WunambulとUngarinyinの人々のクラップスティックの伴奏をともなうダンス・ソング)」の男性ダンサー達は、装飾をほどこした巨大な象徴物を運び、それはペイントされた重い板で、ダンサーの肩にかつがれる。彼等はゆったりと、そして堂々と踊り場の周りを動き、その動きは女性シンガー達が鳴らすパーカッシブな音のテンポに合っている。クラップスティックの打つ速度は、膝をたたく速度の2倍である。
「Balganya(Balgan)」ソングの特徴は、突然の停止、あるいはパーカッシブな伴奏の音の停止で、その時ダンサーも動きを止める。伴奏が再開すればすぐに、踊りも再び始る。この2節では、その停止が規則的に、声のメロディックな下降の同じ場所でおこなわれている。
6. Balgan from Derby
録音地 : Kununurra
シンガー : Wadi Boyoy(Wiriwung語)
伴奏楽器 : クラップスティック
この曲のクラップスティックの演奏は、トラック7のMowanjumでの演奏と同じようなパターンで、2番目と4番目の声の下降の際には2倍の速度で演奏され、1番目と3番目の声の下降の際にはクラップスティックは全く演奏されない。
シンガーは、歌とは別に歌詞を話しているバージョンの録音を頼まれた。この録音をのちにDerbyに住むその歌の所有者に聞かせた時、このMiriwung語のシンガーの歌唱は指示を得、歌詞の発音は高くほめられていた。
7. Totem Dance
録音地 : Mowanjum
シンガー : Wadi Ngyerdu(Worora語)
伴奏楽器 : クラップスティックと手のひらで膝をたたく音
男性と女性の声が、この歌の所有者であり語り手でもあるWadi Ngyerduとともに聞かれる踊りをともなった公開的な演奏である。
この歌は、Derbyからの曲「Balgan」(トラック6)として認識されるだろう。ここで見られる主な相違は、トラック6よりも約5度上という音程の違いと、女性の声と伴奏が加わっているという点である。女性の膝をたたく音(等倍)は、男性の演奏するスティックの音(2倍)と結びついている。3番目の声の降下の際には、パーカッシブな音の「停止」がみられる。
4番目の声の降下の最後に女性が歌に参加した後、男性のリーダーが女性だけでその曲を終わらせるように彼女達に呼び掛けている。男性シンガーが歌うのをやめた後の女性シンガーによる曲の終了は、「Bijowa(追跡)」として知られ、キンバリー地域で演奏される数多くのダンス・ソングにおいては慣習的である。
8. Djanba(3 items)
録音地 : Kununurra
シンガー : Dusty Alpha、Pannikin Manbi、Peter Gugadi(Garama語)
伴奏楽器 : クラップスティック、拍手、手のひらで膝をたたく音
全部で30項目からなる「Djanba」ソング・シリーズは新しい歌だと言われている。Port Keatsの一人のシンガーが「みつけ」、ディジュリドゥの伴奏をともなった北西キンバリー地域で人気のあるダンス・ソング「WONGGA」のような歌、あるいはロックン・ロールのような歌だとその特徴を述べられている。
その曲構造は、たいてい複雑である。ここに収録されている3曲とも全て、男性ボーカルだけの伴奏のないセクションで始められている。歌に加えて、ダンサー達の叫び声が聞こえる。2番目の曲では、トラック7同様、男性シンガーの後を女性シンガー達が「追っている」。
「正式なPort KeatsのDjanba」だと評されている3曲目の終結部分では、ボーカルと楽器のリズミカルな関係が比較的明確である。音の連続はシャープ4度のメジャー・スケールである。
9. Lidjin song
(i). Soldiers Marching (ii). Dogs Chasing Kangaroo (iii). Air Raid
録音地 : Beagle湾
シンガー : Remi Balgalai(Djaberdjaber語) / Susie Anadj(Nyulnyul語)
伴奏楽器 : ブーメラン・クラップスティック
「Lildjin」ソングは、西キンバリー地域のNyulnyul言語グループとDjaberdjaber言語グループに属する個人によって作曲され、所有されている。Bard言語グループの人々は、同じ種類の歌を「Ludin」と呼んでいる(トラック10)。「Lildjin(Ludin)」ソングは、主に話題の出来事について歌われ、しばしばその歌の聞き手にとっては娯楽的な意味を持つ。ここで紹介されている3曲の「Lildjin」ソングの所有者であるこのシンガーは、録音当時80才以上の高齢だった。彼は、歌詞を教えてくれる一人の若い女性(彼女の声ははっきりとして聞き取りやすい)を頼っていた。
1曲目と2曲目は第二次世界大戦の時の出来事について歌われている。「行進する兵士達」は、Broomeに住んでいるティモール島の人々に対してアボリジナルがつけた名前「Koepangers」である。ティモール島の男達はオーストラリアで従軍した。この歌は、ティモール島の男達が行進して過ぎて行く時に、彼等を見つめている道に側立っている少女達について歌われている。
2番目の歌は、犬に海の中まで追いかけられている一頭のカンガルーについての歌である。彼は自分の
臭跡がわからなくなり、自分が生き残れない事を知っている。彼が溺れ死ぬ時、彼は自分の土地(Bubela、Gudbelaーかわいそうなやつ、いいやつ)を思って泣いた。そしてゆくゆくは警察がその犬を撃つだろうという思いで我が心を慰めている。この歌の2番目のセクションでは、英語からの借入語「ライフル」が使われている。
「Air Raid(空襲)」ソングは、第二次世界大戦時のBroomeでの爆撃について歌っている。アボリジナルの人々の「Japanese」という言葉「Djaebuni」がこの歌の最初の一節で歌われている。
歌の継続時間は、「Nurlu」、もしくは「Balgan」ダンス・ソングよりも比較的長く、非ダンス・ソングである「Lildjin」は、通常3つのセクションに別れて歌われる。最初の2セクションは繰返され、最後にはまた最初のセクションにもどる(aabba)。しかしながら、ここに収録されている1曲目と3曲目では、シンガーは最後に「a」セクションに戻していない。Lombadina出身のあるシンガーは、この三つ折り構造を強調して歌っており、彼が「Ludin(Lildjin)」ソングのそれぞれのセクションを歌う時には、1本、2本、そして3本と指をたてていた。
これらの歌の音程の幅は広く、「行進する兵士達」ソングにおいては音程の幅は1オクターブ以上で、「空襲」ソングでは音程の高さが上がっている事が目立つ。ブーメラン・クラップスティックで演奏されるトレモロ効果は、いくつかのセクションの終結部分で聞かれる。
10. Ludin and Elma songs
(i). Ludin : Two Old Lizards (ii). Ludin : Tide at Pender Bay (iii). Elma : Pearl Shell
録音地 : Lombadina
シンガー : (i) & (ii)Geroge Warrb(Nyulnyul/Bard語) / (ii)Locky Binsai(Bard語)
伴奏楽器 : (i) & (ii)のみブーメラン・クラップスティック
「2匹の年寄りトカゲ」あるいは「散歩をしている年老いた人々」と呼ばれる最初の「Ludin」ソングは、老練なDjaberdaber語のシンガーRemi Balgalaiによって作曲され、彼の声はトラック9でも聞くことができる。この歌は、一匹の年寄りの雄トカゲについて歌われており、彼は柱のてっぺんから降りてくる雌トカゲを待っている。音程の幅は1オクターブを越え、そして音節のパターンの連続は、ソングマンBalgalaiが作曲した他の歌、特に「行進する兵士達」ソングと「空襲」ソング(トラック9)に似ている。ブーメラン・クラップスティックのトレモロ、あるいはガチャガチャという音は、二つの主要なセクションの繰返しの部分で目立つ。歌のメロディーにおける1オクターブの上昇は、目立った曲を終わらせる特徴である。オーストラリアのアボリジナルの歌では、使われている音程の中でも最も低い声で曲を終わるのがより一般的である。
「Pender湾の潮」ソングは、Rob Royという名でも知られるBard語の作曲者Mabalaへ捧げられている。彼の故地はダンピアー・ランドの北西沿岸にあるPender湾である。Beagle湾を訪ねた時に作曲されたこの歌の歌詞は、彼の土地における潮の動きについて言及している。
短いブーメラン・クラップスティックのトレモロは、一つ前の曲同様、「Lildjin(Ludin)」ソングの構造(aabba)の特徴に基づいた歌の終結部分で聞かれる。音程の幅は6度近くあり、下降するほぼメジャー3度、それに半音が続く、音程差のある進行が認められる。このような音の進行は、キンバリー地域でもノーザン・テリトリー州でも典型的な特徴ではない。
「真珠の貝殻」ソングは、シンガーの兄弟Bida Warmbalagに属する「Elma」ダンス・ソングで、北ダンピアー・ランドとSunday島に住むBard語を話す人々に認知されている歌である。ここでは、一連の同じ音節のメロディックな流れをあらわにするために、通常のブーメラン・クラップスティックの伴奏なしで演奏されている。シンガーは曲中で「今は歌い続けて ! 」と述べて、この特徴を強調している。
「Lidjin(Ludin)」ソングの歌い方とは対照的に、「真珠の貝殻」ソングはダンスをできるだけ長く続かせるために、たった2つの短い特徴的な「数行の歌詞」、あるいは「ひとまとまりの文章」で構成されており、それぞれのそのまとまりは、はっきりと2度歌われ(aabb)、そして完全な一連の音節が全体で繰返される(aabb、aabb、aabbなど)。この「Elma」ソングの一例は、「Nurlu」、「Djunba (Corroboree)」、「Balgan」、そして数多くの中央 / 西砂漠地域の歌と同じ歌唱のタイプに属している。
11. Song from Anna Plains(2 items)
録音地 : Broome
シンガー : Harry Pickett、Jimmy James(Yawur語)
伴奏楽器 : ブーメラン・クラップスティック
リード・シンガーのHarry PickettとJimmy Jamesに男女のシンガーが参加している。このトラックは4つの短いソング・シリーズから2曲を収録しており、それぞれの曲の歌詞は同一のものである。「Cobba-cobbas」(カラバリー : アボリジナルの歌と踊り)の夜に、踊りの伴奏のために演奏された。
「Anna平原の歌」はWindaと呼ばれる場所に属する歌で、Warrmala(砂漠の人々)からBroomeへともたらされた。この歌は「Nyindyi-nyindyi」もしくは「2番目、もしくは新しいGadraynya'」(トラック12を参照)として知られている。ここに収録されている2曲の「Melodic Contour(旋律輪郭 : 旋律を構成する音程変化のパターン)」は似通っている。その旋律輪郭は、似通った一連の音程を通じて5つ以上の急激な下降で構成されている。頻繁に繰返されるともに「音節連鎖」を形成する2つのまとまった歌詞は、ここではたった一つの音節(dray)だけ異なっている。最初の歌詞(gulardala)は、1回の声の下降の終結部分と次の下降の開始部分の間のブレイクで除外されている。
この曲に関連した踊りのテーマは、「Bush Warrmala(砂漠の部族の民)が、Nyindyi-nyindyi(きれいな木の彫刻の装飾をほどこした棒)でカンガルーの通った跡を追っている。」ということを表している。演奏がはじまると、女性のダンサー達は、輪の中にいる男達を率いて、ダンス・グループに跳ねて来た。皆が「Nyindyi-nyindyi」スティックを持ち、それを地面を指していた。
踊りの間中、Paddy Djaguwinという名の一人の男性ダンサーが喜劇的な振舞いをし、彼は他の人よりも明らかに短い棒を持っていた。それぞれの曲の最後にシンガー達が、ブーメラン・クラップスティックのトレモロの音を鳴らしている間、全てのダンサー達は立ち止まっていた。
この歌と踊りの曲は、5年やそこら前(1963年頃)にはじめてBroomeにやってきたと言われていた。そしてはるか北のMyroodah牧場へと伝えられた。それらの歌が形式上、別の場所へと伝えられれば、その後にはその歌を再び歌うことに制限はなくなるようだった。非儀ではないオープン・ソングと、必ずそれと同時というわけではないがその踊り、それらの意図的な伝達は、西オーストラリア州北部では慣習的な行為である。Broomeでは、その伝達方法はYawur語で「Djambar」と呼ばれている。歌の習い手は、だまって座っていなければならず、後になって彼等も参加する、あるいはその歌の伝達者達とともに歌う。
12. Gadraynya(3 items)
録音地 : Broome
シンガー : Pedro Urandi、Jimmy James、Jack Edgar、Paddy Djaguwin、Tommy Edgar、Butcher Joe Nangan(Yawur、Garadjari、Nyigina語)
伴奏楽器 : ブーメラン・クラップスティック
「Anna平原の歌」(トラック11)同様、「Gadraynya(DjilurやDjuluruという名でも知られている)」ソングは、トラベリング・ソングの一つで、西オーストラリア州の南から北へと移動してきた。この歌の起源の場所は、Ethel Creek(Yarrie牧場)である。Broomeのアボリジナルの人々は、この歌はNyangumardaの人々に属していると述べている。第一次世界大戦の頃の出来事を憶えている年長のYawur言語グループの男性Paddy Djaguwinは、この歌のタイトル「Gadraynya」という言葉を英語の「Cartridge(ピストルのカートリッジ)」と同一視していた。
「Gadraynya」ダンス・ソングは、たいてい「Nurlu」や「Balgan」ソングよりも長く続く。その歌は2つのまとまった歌詞それぞれの数回の繰返しで構成されている。構造的には、「Gadraynya」ソングは「Lildjin(Ludin)」ソングとある程度似通っている。しかしながら、Broomeのシンガー達が西砂漠地域の歌唱独特の息をはくスタイルを身に付けている事から、この歌がキンバリー地域起源ではない事があきらかである。
最初の2曲(同じ歌詞)ではBroomeの町並みについて述べられているということを説明するPaddy Djaguwinの声が聞かれる。2曲目の後に、「Gadraynya」ソングは、Broomeに4日間いたと続けてのべており、これは4日間という時間内で、このソング・シリーズが完全に習得されたのだという事を暗に意味している。
13. Butcher Joe's Nurlu : Ganany(5 items)
録音地 : Broome
シンガー : Butcher Joe Nangan(Nyigina語)
伴奏楽器 : ブーメラン・クラップスティックと膝を手でたたく音
オープンなダンスをともなったリード・シンガーButcher Joe Nanganに率いられた男女のシンガー達の演奏。Butcher Joe Nanganは、ここで紹介されている「Nurlu」ソング・シリーズの所有者であり、シンガーである。20曲以上からなる完全な「Ganany」ソング・シリーズでは、彼の母親の死の原因を明らかにした試みと彼の母親について歌われている。
「Lirrga」と呼ばれている最初の曲は、墓の近くの亡霊、あるいは精霊についての歌である。たいてい数回繰り替えされ、踊りが始る前に演奏される。クラップスティックとディジュリドゥの伴奏をともなって演奏される「Lirrga」ソングも、「WONGGA」ダンス・ソング・シリーズより前に演奏される事がある。
残りの曲はより軽い傾向の曲で、泥地の「Bindan平原」についてで述べられている。踊りの大半は、座って休憩するために乾いている場所を探し求めて歩き回っている一人の男について関係している。最後に、彼は立ち上がり、踊り場から出口をみつける。このトラックの終わりにむけて聞こえる笑い声は、今ダンサーのお尻についた泥の汚れをみて、喜んでいる聴衆が発している。
14. Dyabi songs
(i). Aeroplane (ii). Shell Divers
録音地 : Broome
シンガー : (i). Paddy Row Djaguwin(Garadjari語) (ii). Tommy Edgar(Garadjari語)
伴奏楽器 : ガチャガチャとした音(ここでは代用品としてクシが使われている)
Charlie Dyibalgara作曲の「Aeroplane(飛行機)」ソングは、Broomeの歴史の初期のエピソードについて歌われている。作曲者は、飛行している大きな飛行機のキャンバスを見つめている。「Shell Divers(貝をとる潜水夫)」ソングは、Garadjari言語グループの作曲者Sandy Wigaranguに捧げられており、「もし貝を採ってこなかったら、櫂でなぐらた裸のアボリジナルの潜水夫」についての古い「Dyabi」ソングの一つだとされている。この歌が録音された時には「Dyabi」スティックがなく、この種の歌の伴奏に独特なガチャガチャと鳴らす音のために髪をとくクシをこすって「Dyabi」スティックの代用として演奏している。
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