オーストラリア全域の楽器の録音を集めたAlice M. Moyle録音。中でも多数収録してあるディジュリドゥ・ソロは圧巻。
■ライナー各曲の翻訳と解説
『Songs from the Northern Territory』シリーズで知られる民族学者Alice M. Moyle博士によって1963-68年に録音された、オーストラリアの様々な地域のアボリジナルの音源を幅広く集めたアルバムです。アーネム・ランド内外で使わる様々な楽器や、音楽スタイルの比較文化的価値の高い音源で、元々はLPレコードして発売されていたが、後にCD化された。
ディジュリドゥを含んだ録音は、Groote Eylandt(東アーネム・ランド)、Oenpelli(北西アーネム・ランド)、Borroloola(東アーネム・ランドの南部よりさらに南)、Delissavile(現Belyuen)、Derby/Wyndham/Kununura(西オーストラリア州/キンバリー地方)、Numbulwar(東アーネム・ランド)、Yirrkala(北東アーネム・ランド)と広範囲に渡った濃い内容で、このような幅広い地域の音源を集めたアルバムは他には無い。
Alice M. Moyle博士によるとディジュリドゥの演奏スタイルは、A-TYPEとB-TYPEの2種類にわかれており、A-TYPEは西アーネム・ランドにみられ、ドローンのみ。B-TYPEは東アーネム・ランドにみられ、トゥーツ(ホーン・サウンド)を使うBタイプに対して、Aタイプはドローン(持続低音)のみの演奏という差でディジュリドゥのタイプを分類している。つまり、西と東という分類わけによる録音編集になっているが、実際はもっと細かい地域差、そして演奏者の年齢と個性によって演奏スタイルは細分化されると考えられる。しかし、おおまかに分けるとこの2つと言うのもうなずけるだろう。
ディジュリドゥ・ソロを多数録音しており、吹き口と反対のサウンドの出口の音とプレーヤーの鼻のあたりの音を別々に収録していたりと、積極的に演奏スタイルの差異を明確にしようするアプローチを感じさせる。
ライナーの曲の割りと実際のトラック割りが違ったり、1トラックに異なる地域のディジュリドゥの演奏が5種類入っていたりと多少わかりにくい構成になっているが、儀式用の神聖な曲が入っていたり、太鼓や巨大クラップステック、種の房の楽器や、魔術と関連のある「Djabi」スティックなど特定地域のアボリジナルの人々が特定の儀式にのみ使用する珍しい楽器の演奏や、現在ではもう聞かれなくなった竹笛の演奏も収録している。
ディジュリドゥは13曲収録しており、いずれも地域差を比較しやすいようになっていてわかりやすい。珍しい東アーネム・ランドの南下にあるBorroloolaのディジュリドゥ・ソロ、WANGGAスタイルのディンゴのディジュリドゥ・ソロや、NumbulwarのMagunとMungayanaという不世出のすばらしいディジュリドゥの名手のソロなど興味深い内容になっている。特に東アーネム・ランドの録音が充実しています。
ブックレットは17P(英語)の濃厚な内容で、下記には、そのライナーの翻訳と一部歌の歌詞が掲載されています。また、ディジュリドゥが収録されているトラック13〜15のみ、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、ディジュリドゥのサウンドを中心に、音の響きからくる聴感上の主観的な感想と各曲に特徴的な音楽的構造や楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はAlice M. Moyle博士が書かれたライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナー各曲の翻訳と解説
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1.Boomerang clapsticks|2.Voice, boomerang clapsticks|3.Voices, boomerang clapsticks|4.Voices, boomerang clapsticks|5.Voices, boomerang clapsticks I 6.Voices, boomerang clapsticks|7.Voice, boomerang clapsticks|8.Voice, boomerang clapsticks|9.Voice, boomerang clapsticks|10.Voices, rasp|11.Seed Rattles, skin drum|12.Voices, seed rattles, skin drum, stick-against-hollow log|13.Didjeridu|14(abc).Voice, paired sticks, didjeridu|14(d).Voice, stick-on-board, didjeridu|14(e).Voice, paired sticks, stick-on-ground, didjeridu|15(a & c). Voice, paired sticks, didjeridu|15(b & d). Didjeridu|16.Voices, paired sticks, hand-against-lap|17.Bamboo whistle, interview|18.Voices, paired sticks(large)
1. Boomerang clapsticks
(a). George Warrb(Bard), Lombadina, 1968
Georgeは19回単発でブーメラン・クラップスティックを叩いて、2回の伸ばしたトレモロを演奏しており、それが繰返されている。8回の単発の後に最後にトレモロが続き、最後には打ち寄せるように力強くたたいており、8ビートをほとんど越えている。
(b). George Warrb(Bard), Lombadina, 1968
Georgeは彼の友人のコメントと笑い声に妨げられることなく、早いビートが続く単発の演奏し、その後「分れた2倍のビート(3連の2拍目抜きのリズムのことをさしていると思われる)」を演奏している。この3連のビートの最初の拍は強調して演奏されている。エンディングを演奏するにあたって、長く伸ばしたトレモロ、もしくはガチャガチャというサウンドを演奏している。(この地域でトレモロ演奏は、「Djarralil」と呼ばれている。)
(c). Remi Balgalai(Djaberdjaber), Beagle Bay, 1968
ここでは、80才を超える老人がブーメラン・クラップスティックのトレモロを演奏しており、彼独自の発音で「Djarralil-la(トレモロ)」と叫んでいる。「Lrrgil(Corkwood : コルクの木)」で作られているLombandina地域のブーメラン・クラップスティックよりも、Remi氏の使用していた楽器は、より響きがあり、低い音で鳴っていた。
2. Voice, boomerang clapsticks
(a). Dinny Djabaldjari(Walbiri), Yuendumu, 1967
この屋外での録音では、また違った音質で聞こえる。Dinny Djabaldjariは、ブーメラン・クラップスティックを打ち鳴らすテクニックの名称を彼の言葉で説明しながら演奏している。最初の曲は、コツンという一回の音で終わる長いトレモロで、次に「Dimpil (dimpil) pinytja(分れた2倍のビート : 3連の2拍目抜き)」を2回演奏している。より静かで少しゆっくりとしたテンポの分れた2倍のビート(3連の2拍目抜き)は「Pingkangu」、遅いビートは「Pakani Ka」と呼ばれている。最後のすばらしいトレモロは「Pikirinyaika」である。
(b).Dinny Djabaldjari(Walbiri), Yuendumu, 1967
このトラックの2番目の部分では、「Warlukurlangu」と呼ばれる「Pulapa(オープン・ソングのダンス・シリーズ)」からの3曲が収録されている。全体を通じてブーメラン・クラップスティックは2倍のビート(8分)で伴奏されている。最初の曲では、それぞれの歌詞の繰返しに対して(4分換算で)6回の2倍のビートで演奏された一連の16音節になっている。2番目と3番目の曲は(4分換算で)7回の2倍のビートで演奏された一連の18音節になっている(歌われている音節のそれぞれのつながりと伴奏のビートの数は一貫した関係がある)。それぞれの一連の音節の長めの継続した歌で終わる区分において、一回のクラップスティックの拍は最初の短い音節にシンクロしている。3番目の曲は2回の「Pilirinjika(トレモロ)」で曲が終わり、その1回目のトレモロは、かなり伸ばして演奏されている。
3. Voices, boomerang clapsticks
この曲は「Nyindi Nyindi」と呼ばれるダンス・ソングのシリーズの一部で、ブーメラン・クラップスティックをたたいているリード・シンガーは、一人の女性である。西オーストラリア州のキンバリー地域では、男達と共に女性達が積極的に歌と踊りのオープンな演奏に参加する。この録音では、Lisaの他に二人のGaradjari語を話す女性と二人の男性が参加している。エンディングでは、ある女性が「一人の男性シンガーが正しい音程で歌っていなかった」と不平を漏らしていた。」
4.Voices, boomerang clapsticks
(a)Paddy Djaguwin, Jimmy James(Yawur), 1968
(b)Remi Balgalai(Djaberdjaber), Beagle Bay, 1968
このトラックには3曲収録されており3曲全てが、ダムピア・ランドのBroomeの北方地域で「Nurlu(Nolo)」と呼ばれる、ブーメラン・クラップスティックの伴奏をともなったオープンなダンス・ソングに属している。このトラックで歌を歌っている3人の男性は全て80才代で、ダムピア・ランド半島のそれぞれ120kmほど離れた場所にすんでいる。この歌はPaddy Djaguwinの「Mararr(土地)」に属する歌である。
この「Nurlu」ソング・シリーズのメロディーの音階は、1オクタープもしくはそれ以上の幅を持ち、2つの演奏でその違いがありこそすれ、それぞれ同じだと見分けが付く。クラップスティックを打つ全体的なスタイルもまた似通っており、分れた2倍のビート(ここでは3連の3拍目抜きになっている)、そして曲を終わらせる作用としても使われるトレモロ、もしくはガチャガチャと鳴らす音に変わって行く。
Remiの歌では、違う歌詞のセットが使われ、完全な一連の音節の部分の繰返しにより、比較的長い曲になっている。メロディのアウトラインは曲の冒頭付近の上がっていくインターバルを含んでおり、それが1オクタープ上まで伸ばされている。もしこのように自分の声を持ち上げなければ、下がっていく音階のカーブが彼自身が心地良く歌える声の範囲よりも低すぎる音程にまで辿り着くということをこの熟練の老シンガーは間違い無く気付いていた。
5.Voices, boomerang clapsticks
Jeff Mitjundurr and Roger Ganbukbuk(Wandarang), Roper River, 1963
この曲は東アーネム・ランドで「Mandiwa(Mandiwala、Manrndiella)」として知られる秘儀ではないソング・シリーズに属する「Yarangindjirri」で、割礼の儀式の一部として演奏される。その演奏は、女性と子供の面前で非公式に行われた。繰返して発せられる「u:wi u:wi」という掛け声とともに行われるブーメラン・クラップスティックの終結パターンは「Yarangindjirri」ソング・シリーズの顕著な特徴である。
6. Voices, boomerang clapsticks
Peter Djagamara and Teddy Djabangari(Walbiri), Yuendumu, 1967
この遊び歌は、9才か10才くらいの二人の少年によって演奏され、その伴奏には子供の小さい手で掴むには大きい、大人用のブーメラン・クラップスティックが使われていた。
Peterは小鳥について歌っている。
djugudjugu balu kana yunbani ngadjinlulu
a small species of bird (will)sing I
彼は繰返される11もしくは12の音節それぞれに対して大きな音で4回のブーメラン・クラップスティックで自分の歌の伴奏をしている。終結部分では、声と舌を震わせた音を加えながら、最後のトレモロを演奏している。
Teddyが壊れたブーメランについて歌っている。
gudja ngadjulu kapina yunbani gudjagu
right I will sing liki this
'old manbulu rilygibardini kali'
'old man broken in two boomerang
彼は他の子供に「yunbaga !(歌えよ!)」と催促されている。最後のガチャガチャという音が簡潔に試みられている部分でブーメラン・クラップスティックを打ついくつかの技術が演奏されており、最後には「Nyura !(間違ってない!)」と認められている。
7. Voice, boomerang clapsticks
Jerry Brown Wirramumu(Yanyula), Borroloola, 1966
ここでは、「Galwangara」ダンス・シリーズから2曲がその所有者によって歌われている。2曲とも、伴奏楽器の突然の停止がみられる。ダンス中には、伴奏楽器だけではなくダンスも「Bawadji(停止)」が行われ、伴奏が再び始るまでダンサー達は停止し、そして動かないで立っている。歌は停止しないで続けられていた。
8. Voice, boomerang clapsticks
Lindsay Roughsey(Lardil), Mornington Island, 1966
ここに収録されている「River Cod」と「Dingo」の2曲で使われているブーメラン・クラップスティックは、他の地域よりも聴感上軽く、より尖った角度をした、薄手の楽器だった。「Dingo(オーストラリアの野犬)」ソングでは、ダンサー達によって出される、ハァハァという息を切らす音が印象的である。
9. Voice, boomerang clapsticks
Paddy Yintuma(Wikupurr), Aurukun, 1966
この2曲のワラビー・ソングで聞かれる楽器は、武器にスティックを打ち付けるタイプのものである。シンガーはブーメラン・クラップスティックの代わりにブーメランをスティックで叩いて演奏している。「遅いテンポのワラビー・ソング」は、トロモロをまねた音と「Ititang(ゆっくりしたビート)」で構成されており、歌のそれぞれの部分は、パーカッションのみで曲が終わっている。「早いテンポのワラビー・ソング」のパーカッシヴなリズムは、それにふさわしく「At-a-mayan(早いテンポ)」で演奏され、歌のそれぞれの部分は、曲に合った音程で下がっていくヴォーカルで曲が終わっている。2回の単発のコンとたたく音が曲を終わらせる方法として演奏されている。このようなヴォーカルと楽器による曲の終結は、西Cape Yorkの一部でみられる儀式的歌唱で顕著である。
10. Voices, rasp
(a)Andy(Garadjari)
(b)Bronco(Garadjari), La Gange, 1968
「Windmill(風車)」と「Goodbye Mandabulu」ソングの2曲の「Djabi」ソング(踊りを伴わない)は、それぞれ、(a)Wallanee平原の風車、(b)東へ行くために仕事をやめる牧場の労働者、に関して歌われている。
11. Seed Rattles, skin drum
(a)Harry Barney
(b)Kenny Jimmy(Kokomindjen), Mitchell River, 1966
二人のKokomindjen(Yiryoront)語の男性が、種の入ったサヤを分け、ヒモで結んで房にしたものを手につるして演奏したトラック11(a)、スキン・ドラムの演奏をトラック11(b)にそれぞれ収録している。スキン・ドラムはCape Yorkでのみ演奏される。特有なこのドラムの皮はこの地域にゴアナ(大トカゲ)がいないため、タイヤのチューブのゴムで作られる。この両方の楽器は「Island way(Torres海峡の島々から伝わってきたクイーンズランド州北部の本土のアボリジナルの人々の歌) 」の歌と踊りの最中に、鳴らされている。
12. Voices, seed rattles, skin drum, stick-against-hollow log(tin substitute)
Dancing group, Weipa, 1966
冒頭では、ガチャガチャと鳴る種の入ったサヤの房を手に持ったシンガー達とドラマーが遠くから近付いて来るのが聞こえる。「Batavia Riverに浮かぶボート」について歌われているこの歌は、Cape Yorkの伝統的な歌唱とは完全に異なるスタイルである「Island way」で演奏されている。草のスカートを身に付け、踊り、歌う男達は、ガチャガチャと種の房を鳴らしている。ドラマーは近くにそば立ち、唯一座っているのは2本のスティックを手に持った人物で、彼の目の前には彼の楽器(この録音の場合は空き缶)が置いてある。彼は待ち、曲が進むにつれ、踊りの最後に向かって手にしたスティックで大きな音でリズム・パターンを叩いている。口笛を鳴らしているのは聴衆の若い女性達で、その大半が若い男性であるダンサー達にむけて、はやし立て、自分達の存在を知らせている。(注:実際にはトラック11にまとめて収録されている)
13. Didjeridu
(トラック割りに失敗していてライナーでは13曲目だが、実際は11曲目の4分過ぎから)各地域のディジュリドゥ・ソロを収録。各地域のスタイルの差を比較するのに最適なトラックで、東アーネム・ランドの南にあるBorroloolaでは、混在する二つのスタイルを収録、それに加えてGroote Eylandt、Darwin近郊のDelissaville、キンバリー地方のKununurraの録音と、合計5つのディジュリドゥ・ソロとマウス・サウンドが収録されており、総合的に広い地域のディジュリドゥ・スタイルを知ることができる。
(a).A-type accompaniment with mouth sounds
Dick(Majali), Borroloola, 1966
ここで聞かれるディジュリドゥは、175cmの長さでマウスピースは直径3.5cm、ボトムは直径7.5cmの楽器である。リズミックなドローン(持続低音)を演奏している間中、すばやく息を吸う音が聞かれる。その演奏は、「マウス・サウンド(ディジュリドゥを演奏する時に実際口の中で舌を動かしている状態を表わしている歌)」で終わっている。それは、シンガーと伴奏者の間で音楽的コミュニケーションの一つの形式として役立つ音節のパターン、リズムの実際の音である。ディジュリドゥ奏者は、最初にシンガーが歌う「マウス・サウンド」を聞いて、ある特定の伴奏スタイルを習うのかもしれない、もしくはあるダンス・ソング・シリーズにおいて「マウス・サウンド」を聞かされて、幾分かの変化を追いながら、違うスタイルへと指導されるのかもしれない。
上記はライナーの翻訳。長さ175cmの巨大なディジュリドゥによるディープでパワフルな演奏。北西アーネム・ランドのWANGGAや中央アーネムランドのGUNBORGのように「Lidomo Lidenmo-」といったリズムになっている。全く同じトラックを『Instrumental Music of Asia and the Pacific Series 2-2』(3 Cassettes with Booklet 1985 : ACCU)の4曲目にも収録されている。東アーネム・ランドの南であるBorroloolaでありながらGUNBORGやWANGGAの伴奏スタイルに非常に近い。ライナーで演奏者のDickがMajaliクランとされており、MajaliはRembarunga語の一部とされているため、おそらく中央アーネム・ランドの演奏スタイルだと推測される。またDavid Blanasiの言語もこのRembarunga語の内の一つとされている。この地域は東西アーネム・ランドの音楽スタイルが混ざりあった地域だと言われている。
(b).B-type with mouth sounds
Jemima Wimalu(Mara), Borroloola, 1966
ここで紹介されているBタイプのリズミックなパターンには、ドローンの約11度上の吹き込んだ音、もしくは高い方の音が含まれ、声を使った効果は吹いているドローンの音色に混ざり、低い音色を豊かにしている。Bタイプのその他の特徴的な印象は、スタッカート(断音奏法)で曲を始め、次に伸ばした音が続き、声を震わせた音、そして最後に高い音(トゥーツ)で曲が終わるという事である。曲のテンポはディジュリドゥをスティックでたたいて調整される。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥ奏者JemimaのクランMaraは、Roper Riverの沿岸部に住む。トラック13(a)と同じ地域と思えない程演奏スタイルが異なっている。マウス・サウンドからはGroote Eylandtの影響を感じさせるが、比較的ラフでトゥーツの音がダイナミックで多少空気がもれている音が聞かれる。マウス・サウンドでいう「G」という発音がリズムの中に入っているのが特徴的。この(a)と(b)が混在するという点が非常に興味深い。
(c)B-type with mouth sounds
Charlie Banaya(Enindilyaugwa), Groote Eylandt, 1964
このBタイプの例では、高い音(トゥーツ)はドローンの約10度上である。この曲は「プーという高い音」の出現とリズムの区分によって二つのパートに分けられている。この区分は通常歌の中での形式的なブレイクの時に起こり、伴奏楽器(スティックとディジュリドゥ)はブレイク、もしくは分断へと進む。それは効果的に「Warninddilyaugwa」ソングを中断している。この演奏では、ディジュリドゥの伴奏は「drrl drrla」というマウス・サウンドそれぞれに対して2回のスティックのビートで構成されている。このパターンにおける両方の要素が均一に存続している。
上記はライナーの翻訳。東アーネム・ランドのCarpentaria湾に浮かぶ島Groote Eylandtのクラン・ソングの典型的な伴奏スタイルの例である。ディジュリドゥの演奏は、「Degei- DegeiRa」といったマウス・サウンドの「Ra」の時に生まれる破裂的な倍音、マウス・サウンドの中に「G」の発音がある、そしてアタックの少ないドローンから滑らかに移行したトゥーツなど、他の地域にあまり見られない特徴だ。声をうすくいれているのも渋い。
(d)A-type with voiced overtone
Harry Ferguson(Wogadj-Manda), Delissaville, 1968
このWANGGA(ダンス・ソング)のAタイプの伴奏は、演奏者が声の和音を発することで加えられている長く伸ばした音という点で、一般的なAタイプの伴奏とは異なっている。この例では、「鼻音」が基本のドローンの音程から約10度上で歌われている。このように声を入れる事で、吹いているドローンの音と声が混ざり、独特の響きの音質を得ている。
上記はライナーの翻訳。低音のディジュリドゥのドローンに声をうまく倍音にからませたディープで長いサステインのかなりゆっくりなリズム。演奏者が丁寧にドローンに溶け込むように声を出しているのがわかる。WANGGAタイプのソロは非常に珍しく、『Aboriginal Music from Australia』(LP 1959-68 : Philips/UNESCO)のトラック6にも同じディジュリドゥ・プレーヤーの伴奏によるWANGGAソングが収録されている。
(e)A-type with mouth sounds
Major Raymond(Djamindjung), Kununurra, 1968
ここで演奏されているWANGGAの演奏は、長く伸ばす所は少なく、一つ前の例よりもリズミックである。声を入れた音は、あまり基本のドローンの音と混ざりあっていない。続いて収録されているマウス・サウンドでは、長く伸ばした母音が言葉の末尾に見られる。おそらく「di-da-ru」のような音節や、それに似た他の音節の響きが、「Didjeridu」という言葉のもとになったのだろう。
上記はライナーの翻訳。 Kununurra(西オーストラリア州キンバリー地方)での録音。リズミックなWANGGAスタイルのディジュリドゥ・ソロで、実際の伴奏でもここまでリズミックに演奏している曲はかなり少ないだろう。「LidaRo-」というようなマウス・サウンドになっていて、「Ro-」の後に急激に音量が下がる所から圧をしっかりかけているというよりも、息を吹き込んでいるような印象を受ける。トラック11(d)とは対照的に高いピッチのディジュリドゥでリズミックな演奏をしている。キンバリー周辺部のディジュリドゥソロの録音は珍しい。
14.(abc) Voice, paired sticks, didjeridu
このトラックの(abc)では最初にディジュリドゥのみでの演奏が聞かれ、そして通常の歌の伴奏の役割であるヴォーカルと一緒に演奏されている。
(a).Rimili with didjeridu player Mungayana
「Yirrkitj(ポッサム)」ソングのためのBタイプの伴奏で、以前の例(おそらくトラック13(c)の事と思われる)と少し類似点がある。ドローンの9度上のディジュリドゥの高い音(トゥーツ)は、二種類の声の高い方の音程にかなり近い。2番目の部分を通して、ディジュリドゥ奏者はヴォーカルのパートの上がり下がりを追っている。「年老いた人達」によって見い出されたこの歌の歌詞では、毛皮から飛び出しているポッサムの尻尾と、「Wurlbawuya」という果実を手に取って食べている様子を歌っている。ディジュリドゥのトゥーツの後に、ヴォーカルは伴奏なしで曲を終えている。このような「伴奏をともなわずにヴォーカルが曲を終える」という特徴は、古いNunggubuyu語のクラン・ソングに多くみられる。(注:トラック14(a)は実際はトラック12に収録されています。)
上記はライナーの翻訳。 Mungayanaのディジュリドゥ・ソロは舌をカール・バックさせる時の倍音が強調的で美しい。少し長めのトゥーツを2回繰り返すリズムがブレイクを指し示す合図になっているようだ。全体的にうっすらと入れた声が渋い。『Contemporary Master Series 5: NUNDHIRRIBALA』(CD 2001 : YYF)のソングマンMungayanaは60年代当初はディジュリドゥ奏者として活躍しており、多数の名録音を残している。『Songs from the Northern Territory 2』(CD 1962-63/1996 : AIATSIS)のトラック6、9、10でMungayanaの超絶ディジュリドゥ・ソロを含んだ60年代の音源を聞くことができる。
(b).Mungayana with didjeridu player Magun
ここでは高い方の声が全体を通してすばやく行われている。この演奏者Magunはかなりの専門的能力をもっている。この演奏の最後では、2種類の声を混ぜた音がはっきりと聞こえる。「Mailplane(郵便物を運ぶ飛行機)」ソングは、飛行機の離陸とその時のノイズについて歌われている。英語の「Goodbye」という言葉のNunggubuyu語修正された言葉が、歌詞の中で聞かれる。ここでも伴奏を伴わないヴォーカルで曲が終えられている。(注:トラック14(b)は実際はトラック13にディジュリドゥ・ソロ、トラック14の冒頭にソングマンとのセットでの演奏が収録されています)
上記はライナーの翻訳。トラック割りが著しくややこしくライナーとずれていてわかりにくい。CDのトラック13にこの「Mailplane」ソングのソロが収録されており、Magunのすさまじい舌の動きによるスピーディーな演奏はアーネム・ランド中でもここまで早い舌の動きを使った演奏はあまり聞かれないだろう。クラップスティックに対して16分で演奏されており、マウス・サウンドが収録されていないのが非常に残念だ。全体的に非常にバランスの良い倍音が聞かれる。ソングマンとのセットで演奏されているトラック14の冒頭の方がより渋い演奏をしており、はっきりと低い声を混ぜて強調している部分が絶妙。超絶ディジュリドゥ奏者Magunの感涙トラック!!
(c).Rankin Nyamulu with didjeridu player Magun
All Nunggubuyu language, Rose River, 1964
ここでのディジュリドゥの演奏は、次に続いて聞かれる歌の伴奏の単なるレプリカというよりも、むしろディジュリドゥの名手の演奏表現である。「Mailplane」ソングの伴奏と比べれば、高い声の音はより明確な強調を受けており、低い方の音で声を混ぜて豊かな音になった音色が聞かれる。ブロルガ・ソングのMagunの伴奏の開始部分では、曲の装飾音が特に目を見張る。相互関係にあるヴォーカルとディジュリドゥのパートのリズムの正確さ、そしてシンガーのやわらく声を震わせたブロルガの鳴き声とディジュリドゥのパターンの同調、それは彼等がよく練習された見事なミュージシャンであることを表わしている。NgalmangalmiクランのNyamuluは、Nunggubuyu語を話す傑出したブロルガ・シンガー達の内の一人である。別のCD『Songs from the Northern Territory 2』でも、このクラン出身の3人のシンガーが歌うブロルガ・ソングを聞くことができる。この特有な歌で使われている言葉の繰返しの文句は、たった一つの言葉「Ngirringabandirrinj」で、「彼女(ブロルガ)は夜明けまで一晩中踊っていた」と訳されている。また、歌詞の中で「Wugugandarrwala(Paperbark Tree : 紙のような樹皮を持つメラルカの一種の木)」の木立と、この大きな灰色の鳥ブロルガが集まる特別な場所についても述べられている。このような場所は、この地域の人々にとって特別な重要性を持っている。(注:トラック14(c)は実際はトラック14の2曲目からディジュリドゥ・ソロ、ソングマンとのセットの順に収録されています)
上記はライナーの翻訳。まずMagunによるブロルガ・ソングの伴奏用の短いソロが演奏され、次にシンガーとのセットで演奏されている。ライナーにもある通り、ドローンに声を混ぜることによってメロディックな低音部分を作っている。またトゥーツ周辺に強調的に声を入れているのも非常に印象的。全く同じトラックが『Instrumental Music of Asia and the Pacific Series 2-2』(3 Cassettes 1985 : ACCU)にも収録されている。
14.(d) Voice, stick-on-board, didjeridu
Larrangana with didjeridu player Magun(Nunggubuyu), Rose River, 1964
Magunは緊張せずに優雅に「Garrarda」ソングの伴奏を、シンガーにきっちりと従って演奏している。声を使ったディジュリドゥのサウンドを賢明に使って、比較的シンプルなBタイプのディジュリドゥの伴奏スタイルに色彩と個性を与えている。ディジュリドゥのパートでは、二つの3連が入ったフレーズが歌の4拍子に調和している。シンガーが打ち鳴らす大きな音は、大きく平らなスティックを床に寝かせて、それをスティックで叩いて鳴らされている。「Garrarda」ソングは、「太古のドリーミングの時代」にJirriraとWurruraと呼ばれているこちらの場所からあちらの場所へと踊ったある一人の男について歌われている。チドリは、その踊っている男を見た時に「birrg birrg」と歌った。(注:このトラックはトラック14の2:50辺りからディジュリドゥ・ソロなしで、ソングマンとのセットが1曲収録されています)
上記はライナーの翻訳。ソングマンの「Eh- Hi! Hi!」という声の部分がブレイクになっており、ディジュリドゥも高い声でのコールでそのブレイク部分をもりあげている。早いテンポの4/4としてとらえた場合、クラップスティックは3連の3拍目抜きのリズムを延々たたいており、ディジュリドゥは2拍3連をベースに演奏している事になるという非常におもしろい曲構成になっている。トラック14(c)に比べればシンプルな舌の動きの曲である。『Aboriginal Music from Australia』(LP 1959-68 : Philips/UNESCO)にも同様のブロルガ・ソングの伴奏が収録されている。
14.(e) Voice, paired sticks, stick-on-ground, didjeridu
Malgarri with didjeridu player Gula(Enindilyaugwa), Groote Eylandt, 1964
ここでは2本のディジュリドゥの音が聞かれる。演奏の最中、ディジュリドゥ奏者は突然演奏を止め、違う音程の別のディジュリドゥを拾い上げている。これは1本目のディジュリドゥの吹き口が演奏者の口にきっちりと合わなかったためだ。その音程の変化は問題にはならず、シンガーの声の音程に深刻に影響を及ぼす後半の伴奏でもほぼ一定の音程になっている。この「Marmariga(South East Wind : 南東の風)」ソングの音階は、かつてGroote Eylandtの北側に住んでいたあるアボリジナルの男性に捧げられている。歌詞は、南東の風と関連のあるクランの女性達について歌われている。「雲が風に逆らって彼等を覆っている」と訳されている歌詞の所で引き起こされるブレイクの時に、ディジュリドゥは演奏するリズムのパターンを変えている。
スティックを叩いているのは、ディジュリドゥ奏者の近くに座っている男とシンガーである。Groote Eylandtの歌唱では、通常ガチャガチャという音がなる様々なスティックがパーカッションとして使われる。手に持ったスティックで地面に置いた棒(普通、地面に寝かせたヤリ投げ器が使われる)を打つ場合、そしてディジュリドゥのボディにスティック打ち付ける場合などである。
上記はライナーの翻訳。アーネム・ランドで広く使われている「1+2+3+休」の4拍子のクラップスティックのリズムにトゥーツをリズミックに使用したシンコペーションを含んだディジュリドゥのリズムがのっている。非常にシンプルな構成で即興性も薄くゆっくりとしたテンポの曲。
15.(a & c).Voice, paired sticks, didjeridu
(a).Arthur Toby Langgin(Wadjagin) with didjeridu player Raymond(Worora), Derby, 1968
このWANGGAソングは、クラップスティックの音に合せたマウス・サウンドで始っている。シンガーは、若い伴奏者にマウス・サウンドを聞かせ、そしてディジュリドゥ奏者は継続的なAタイプの演奏パターンを吹いている。トラック13(d)のWANGGAのAタイプの伴奏とは違って、声をまぜた音や停止は聞かれない。Aタイプのディジュリドゥの伴奏を伴ったその他のソング・アイテムと同じように、全体を通して楽器の演奏が続けられている(この録音では、シンガーの打つ一対のスティック、傍観者の手拍子、そしてディジュリドゥである)。
上記はライナーの翻訳。ダーウィンよりも南西の沿岸部に位置する西オーストラリア州のDerbyのWANGGAソング。Raymondによるディジュリドゥの音は小さく聞き取りにくいのが残念だが、いかにもWANGGAらしい中高音の倍音がのびやかに美しく、叙情的な雰囲気を曲に与えている。メロディックでもの悲しい歌の旋律が秀逸な曲。
(c).Paddy Merrdjal and Neville Barandara(Gunwinggu) with Didjeridu player Edward Warrbuku Nabanardi(Gunwinggu), Oenpelli, 1963
ここに録音されている「Gurrwiluk(Curlew : ダイシャクシギ)」ソングのAタイプのディジュリドゥ伴奏には、ドローンの音程の上昇に一致した規則的なアクセントが認められる。前述のWANGGAソングと同様に、ヴォーカルのパートのとぎれ目は継続的なスティックを打つ音とディジュリドゥを吹く音で埋められている。
上記はライナーの翻訳。デビッド・ブラナシの1stソロアルバム『Didjeridu Master』(CD 1998 : Big Ban)の頃のブラナシに少し近いサウンド。ドローンの音程を声を混ぜずに若干変化させていて、そのサウンドからは明らかに中央ア−ネム・ランドのGUNBORGスタイル的なものを感じさせる。
15(b & d) Didjeridu
(b)Wallay Ambalgari(Miriwung), Wyndham, 1968
ここではディジュリドゥはディンゴ(オーストラリアの野生の犬)の吠える声をまねるために使われており、その声はWANGGAのAタイプのディジュリドゥの音色の上に重ねられている。ディジュリドゥをスティックで打ちながら、鼻歌を歌うような、もしくは鼻音のような発声がはっきりと聞こえる。
上記はライナーの翻訳。高い声で行われているディンゴの強烈なコールが目立つディジュリドゥ・ソロ。デビッド・ブラナシとはまた違ったパワフルなコール。こういった力強いコールが入ったWANGGA系のディジュリドゥ・プレーヤーのソロというのは非常に珍しい。
(d)Garrmali(Gumatj), Sydney, 1963
「古典的なブロルガ」ソングと呼ばれているスタイルでのBタイプのディジュリドゥの演奏。北東アーネム・ランドのCaledon Bay付近の地域出身のDjapu言語グループの男性達が歌う時の、ブロルガ・ソングの典型的なディジュリドゥの伴奏である。実際は、古典的なブロルガの伴奏は、短い音と長い音の連続からなる。短い音は明確な声を使った音で、長い音は基本音、つまりドローンの音である。短い音の尺の長さは1拍であるのに対して、長い音の長さは3拍である。Djapuクランのブロルガ・ソングのディジュリドゥの伴奏には数え切れない程の異なったリズムがある。コンコンという音は、ディジュリドゥ奏者がディジュリドゥを指で弾いている音である。
上記はライナーの翻訳。Sydney。北東アーネム・ランドのGumatjiクラン(Yirritja半族)のディジュリドゥ奏者によるブロルガ・ソングの伴奏用ソロ。トラック14(c)に収録されている東アーネム・ランドのNumbulwarのNunggubuyu言語グループのMagunによるブロルガ・ソングのディジュリドゥ・ソロとは全く異なる、よりシンプルなリズム・パターンになっている。ブロルガの鳴き声を模倣していると思われる高い声を使ったコールが特徴的。
16. Voices, paired sticks, hand-against-lap
Lead singer Wadi Ngyerdu(Worora), Derby, 1968
ここで紹介されている「Balgan(Balganya)」ダンス・シリーズからの2曲に使われている伴奏楽器は、対になったスティックと膝をたたく音である。リード・シンガーと彼を補佐する男性達がクラップスティックを鳴らし、スティックを打つ男性シンガー達の声を追う、もしくはたどる(この行為は「Biyowa」と呼ばれる)女性シンガー達のグループが膝を叩いている。この組み合わさったパーカッシヴな伴奏の特徴は、トラック7の「Galwangara」ソングにみられるように「(伴奏の)停止」である。
17. Bamboo whistle, interview
Sam Kilndan(Linngiti), Weipa, 1966
このトラックの冒頭では「Ithati」という言葉が繰返し聞かれ、その「Ithati」というのは17cmの長さ、約1cmの直径の竹の笛のことである。この先端を吹く小さな笛によって作り出される音程は約840ヘルツである。この録音のために特別にSam Kilndanが作ったこの笛は、現在では使われることはない。Samは、この楽器の伝統的な使い方と男性の割礼の儀式「Wintjinam」の最中に吹かれる信号について話してくれた。儀式に望ましく無い人物の接近を儀式のリーダーに知らせる危険信号(女性もその対象に含まれる)として、そして割礼の前にした少年達の到着を知らせるために「Ithati」は吹かれる。
18. Voices, paired sticks(large)
Hindu and Rimili(Nunggubuyu), Groote Eylandt, 1964
ここで演奏されている伴奏楽器は、一対の大きなクラップスティックで、一方の長さは38cmでもう一方は44cmもある。このクラップスティックの演奏とリード・シンガーは、Nunggubuyu語を話す長老Hinduである。若いシンガーRimiliは輪唱のような模倣形式でHinduの歌を追っている。ゆったりとしたスティックの音は、すでに瞑想的な雰囲気になっている平穏を壊さないように歌が終わった後も続けられている。この曲は、Groote Eylandtからオーストラリア本土のRitharnguの大地へと、その儀式にまつわる知識を持たらした神話上の神の秘密の名前ではないものの一つ「Belawrr」に捧げられている。この歌の歌詞は、Nunggarrgaluクランのドリーミングである「Mana-ngatu」という果実について歌われている。このソング・シリーズはGroote Eylandtでは「Agudalya」と呼ばれている。
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