北東アーネム・ランドのYirrkalaとMilingimbiのヨォルングの人々のイダキ、埋葬の儀式や、女性や子供の歌などを収録。
■東アーネム・ランド北東地域ーYirrkalaとMillingimbi-の音楽概要
■ライナーの翻訳と解説
■北東アーネム・ランドの録音を含む音源
北東アーネム・ランドの埋葬の儀式や、死の知らせを聞いてむせび泣く女性の歌、底抜けに明るい子供の歌、若者のダンス・ソング「Djatpangarri(ジャッパンガリ)」など幅広い音楽が収集されており、これを通じてヨォルング文化の深遠に触れることができるナミダの名盤です。圧巻のディジュリドゥ・ソロも収録されています。LPで発売されたものの再発盤CDです。
アボリジナル音楽のカテゴリーは主に3種類に別れており、一つはカルト・ソング:儀式に属するもの、二つめはクラン・ソング:言語グループに属するもの、そして三つめは作った個人に属するものの3種類である。このアルバムではクランに属するカテゴリーの曲が収録されている。
このCDに収録されている地域は、Djaluやヨス・インディなど才能に溢れたミュージシャンを輩出している北東アーネム・ランドのYirrkalaとMilingimbiです。北東アーネム・ランドのヨォルングの演奏スタイルに興味がある人は必聴です。
下記は、ライナーに掲載されているAlice M. Moyle博士の著述による東アーネム・ランドの音楽についての音楽概要の翻訳です。このシリーズ全5作品に共通して書かれている文章の翻訳に関しては、vol. 1のページにその全翻訳が掲載されています。ここでは文章の繰返しになるため、割愛されています。
■東アーネム・ランド北東地域ーYirrkalaとMillingimbi-の音楽概要
音楽的分類の目的でみれば、「東アーネム・ランド」は沖合の島々も含めた北東地域、はるかRoper Riverまで南に沿岸に沿ってひろがる東地域、Carpentaria湾の北西のGroote Eylandt諸島の三つにわけられる。
このCDに収録されているフィールド・レコーディングは、東アーネム・ランドの北東地域Gove半島のYirrkalaとCrocodile島の対岸の北部沿岸地域にあるMillimgimbiにて録音された。Galiwin'ku(以前はElcho島と呼ばれていた)の人々と共にこの2つの地域にあるアボリジナル・コミュニティは、民族学の論文ではMurngin(WL Warner博士)、とWulamba(RM Berndt博士)と呼ばれてきたが、最近では現地の言葉でPeople(人々)を意味する「Yol\u(ヨォルング)」として知られるようになってきた。
ヨォルングの人々の芸能における才能は、すぐに広く知れ渡った。彼等の樹皮画は、現在国内外のギャラリーで見られるようになっている。1960年代初頭のRirratji\uクランの二人の著名なペインターによる歌が、ここではシンガーとしてこのシリーズのCDに収録されています。(Disc3と4)。
'60年代当時、アーネム・ランド内外のコミュニティから数多くの参加者が集まるトップ・エンド(ノーザン・テリトリー州北部)の年中行事「Darwin Eisteddfod」というフェスティバルでは、ヨォルングの子供達はシンガーとダンサーの両方の点で秀でていた。
その頃から様々な変化があり、ミッションと政府による居住地は、現在ではアボリジナル自身の手によって運営されるコミュニティ・センターとなり、多くのアボリジナルの人々は、多かれ少なかれそういった場所よりも、彼等の伝統的地域、もしくはホームランドにあるアウトステーション(アボリジナル居住区から遠く離れた辺境にアボリジナルの人々が集まって作っている集落、主にその部族もしくはクランにとって重要な土地ホームランドにあることが多いようだ)に永住するようになった。
1960年代に演奏され、録音された東アーネム・ランドの「クラン・ソング(同一の言語グループに属する歌)」(全て男性が歌っていた)の特徴は、下記の通りである。
- 大きく異なる2種類の音を活用したディジュリドゥの伴奏(高い、もしくは吹き込んだ音と基本音の隔りは、ほぼ10度あるが、ディジュリドゥの長さや形によって異なる)
- (例えば、西アーネム・ランドの歌と比較すれば)ボーカルの音程の幅が狭く、5〜6度の差を超えることはなく、おそらく6度以上になることは無いだろう。
- 歌詞には意味があり、訳す事が可能で、クランの持つ領域とその神話に関係している。
- 「Unaccompanied Vocal Termination(UVT)」、つまり伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること。ボーカルによるソング・アイテムの終了、もしくは伴奏楽器の演奏が止まった後に、ボーカルだけが残る。Disc3のTrack11とDisc4のTrack1は、この(4). の特徴の良い例である。
歌の反復部分は、一連の言葉とシラブル(音節)か、長く伸ばした一つのシラブル、もしくは鳥の鳴き声などのボーカル・サウンドのパターンの繰り返し、このいずれかで構成されているようだ。こうしたコール(掛け声/動物の鳴き声/叫び声などを指す)は、東アーネム・ランドで演奏される数多くの反復フレーズのような構造、もしくは特定の部分的構造の中に組み込まれている。
上述のアボリジナルの音楽調査の一部として東アーネム・ランドの北東地域を数回訪れ、男性、女性、子供の歌を相当幅広い範囲に渡って得ることができた。数多くの儀式的行事の録音を行い、そこからの抜粋がこのDisc1〜5に収録されています。
■ライナーの翻訳と解説
DISC 3 : ABORIGINAL MUSIC FROM YIRRKALA and MILINGIMBI
Yirrkala 1962 : 1-2. Mortuary ceremony for the
removal of the spirit of the deceased
Milingimbi 1963 : 3. Women's Songs (a). Wind(1-2)|(b).
Lullaby|(c) Dog|(d) Mokuy|(e)
Clouds
Yirrkala 1962 : 4. Childeren's Songs (a). Wind|(b).
Buffalo|(c). Pussy Cat|(d). Dog|(e).
'Thunder Man' and 'Sick Person'
Milingimbi 1962 : 5.(a) Children's songs : Two
Men(1-2)
Numbulwar 1963 : 5.(b) Children songs : Rabbit,
Fire, Debil, Piggy
Yirrkala 1962 : 6(a). East
Rain (b). East Wind|7. Didjeridu only played by Djalalingba|8.
Didjeridu only played by Mawalan|9(a). Spring Water (b). Red
Kangaroos|10. Ship
Milingimbi 1962 : 11(a). Flat Fish(1-2) (b). Flat
Fish(3) (c). Seagul(1-3)|12. Djatpangarri(Comic) (1-3)|13.
Song words for 6(a) and 9(a) spoken by Wandjuk Marika
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
下記は24Pというかなりのページ数のブックレットに解説されている各曲解説の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、ディジュリドゥのサウンドを中心に、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と各曲に特徴的な音楽的構造や楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はAlice M. Moyle博士が書かれたライナーとは全く関係がありません。レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
Yirrkala 1962
1. Mortuary ceremony for the removal of the spirit of the deceased. Voices, sticks and didjeridu(1-5)
2. Mortuary ceremony continued(6-10)
最初の2トラックは「Wan'djur」と呼ばれる埋葬の儀式からの抜粋で、連続した70曲以上の録音からの10曲がここで聞くことができる。
これはDjapuクランのDhuwa半属の儀式で、Yirrkalaの浜辺から少し離れた下方のキャンプで、明るい月明りの夜に執り行われた。小さなたき火の近くに30人以上の人々が地面に座り、ディジュリドゥ奏者と主だったシンガー達がその前に座っている。歌っている間のある時、若い少女達のグループが一列に並んで立ち上がり、音楽に合せて体をゆらし、手を小さく揺らす動きが見られた。
この儀式の焦点は、まず第一に害をもたらす死者の霊から生者を守るという意図でなされる「Fire-cleansing Rite(火で払い浄める儀式)」にある。この録音の時には、たき火の煙をくぐらせた葉のついている小枝が回され、親類一同をその枝で払い浄めるという事が前触れなく行われた。それは男達の「lok and gurtha(煙と炎 !)」という叫び声で、亡くなった女性の服の破片が焼かれている間の出来事だったと後になって教えられた。「精霊が亡くなった女性の子供達に害をもたらさないように」そのいたずらな精霊を追い払うために数人の男達が大きな儀式的な叫び声を上げていた。このような害をもたらす精霊は「Mokuy」と呼ばれ、やっかいで人に害をもたらすと考えられている。演奏されているソング・シリーズの主題は、South-west Wind(南西風)、Fire(トラック2)、Dove(鳩)、Thunder Man、Clouds(雲)、Rain、Feathered String(羽をおりこんだひも)、そしてMorning Star(明けの明星)である。
亡くなった人のクラン(言語グループ)にまつわる特別な場所の名前を詠唱するリード・シンガーGungata(1930年生まれ)の声をこの録音の中に聞くことができる。それぞれの場所の名前が呼び上げられる時、儀式に集まった人達からそれに応える形式的な叫び声がある。録音当時、小屋の近くで嘆き悲しむ女性の葬儀参列者の声が、ほぼこのソング・アイテム全体に渡って聞こえる。
これらの抜粋の中で、スティックを打つビートの変化が著しい。例えば、トラック1の3曲目では、8分(音符)で8回たたいたあとに4分(音符)で2回たたくという繰り返されるリズム・パターンがある。つづいてトラック2でもゴーンゴーンとなる深い音色の鐘のようなディジュリドゥの伴奏をバックに連続して8分(音符)できざむクラップスティックが演奏されている。(Disc1 Track 8とDisc4 Track5(3)に収録されている「Djambitj」ソングと比較してみて欲しい。)
トラック2ではソング・リーダーの歌う導入部分をある程度まで規範にした、もしくは模倣して後を追って歌っているようだ。この点において一般的な演奏スタイルの変化が明白である。同時に起こる儀式的な叫び声によって和音になった音程差が生まれている。長く響かせた声の音程はだいたいマイナー6thとマイナー7thはなれている。はっきりときこえないが、数秒の間の音程差も生じている。
上記はライナーの翻訳で、著者のMoyleが非常に長い解説をつけている事からも、ここで紹介されている「Wan'djur」と呼ばれる埋葬の儀式が非常に重要で意味深いものであることがわかる貴重な録音です。ディジュリドゥのピッチはDくらいのディープなサウンドで演奏者は不明。キャンプ・ファイヤーを囲んだ単なる歌と踊りの演奏ではなく、人の死を悼み、悲しみながらも、その「亡くなった人の霊が帰ってきて生者に害をおよぼさないようにする」という非常に意味深い内容のものがCD化されたことに感謝の念を感じます。
耳をこらせば、多数の人達の歌声、泣き声、叫び声が入り混じった緊迫した雰囲気の音源で、彼等の文化の深遠に触れることのできる内容である。ディジュリドゥの演奏は即興的要素の少ないシンプルなリズムで複雑な歌を伴奏している。隙間なく、絶え間なく打ならされるクラップスティックとシンプルなディジュリドゥの伴奏がこの儀式の形容しがたい重苦しい空気をかもし出している。また、トラック2の丁度まん中辺りで、ダンサーの叫び声が大きくなる山場では神聖な雰囲気を感じずにはいられない。
Milingimbi 1963
3. Women's Songs
(a). Wind(1-2)
1曲目は「Dirrmala(North Wind)」が涙を流して泣き、雲は雨でまっ黒になってとどまっているという歌。Bambayとしても知られる盲目の女性シンガーBundarrngu(1912年生まれ)の歌にはその一部として「間違えた」や「水をとってちょうだい」という二つのわきぜりふが含まれていて、こういった言葉の追加は、他の人々にとってはコミカルにうつっていた。Bambayは「North Wind」の歌と「Wuyuwuyu(もしくはGaymurramurra : 黄色の虫)」の歌の2曲をWangurri語を話す自分の夫から習った。
(b). 'Lullaby' by blind female singer Bundarrngu
Wuyuwuyuの歌詞(スズメバチのブンブンという音についての歌。Warramiriソングに似ている)には、英語のPillow(まくら)をしめすアボリジナルの言葉 「Belai」という言葉が含まれており、そのメイン・テーマは眠りである。この歌は時に子守歌として歌われる。
(c). Dogby Gubiyarrawuy
Gubiyarrawuy(1934年生まれ)がGuyamirrilili語という方言で、甲殻類とねずみを犬(Watu)が引っ掻いているようすを歌っている。歌が終わった後に、一言二言つけ加えられて終わっていて、そこで犬の名前を複数あげている。
(d) Mokuy by Bundarrngu
年長の女性Bambayは自分の祖母からMokuyソングを習った。このいたずらな、踊る者Mokuyがブッシュを通ってきた旅の途中で訪れた数々の場所について述べられている。
(e) Clouds by Bundarrngu, Barralpiwuy, and Mitjamitjawuy
3人の女性シンガー達によれば、ここに収録されているのは雲の歌で、「Warrarra(Sunset : 日没)」の後の赤い燃えるような色について述べられている。また、この歌はカンガルーをヤリで射て、生で食べた祖先の神について歌われている。血が空いっぱいに流れ出た(ように赤い空)。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥやクラップスティックなどの伴奏の無い女性シンガーの独唱を5曲、合唱を1曲収録している。全ての曲がゆったりとしたテンポの歌で、曲のメロディや雰囲気は全て似通っている。
Yirrkala 1962
4. Childeren's Songs
(a). Wind by children
この歌は「Wata galkina(wind blows : 風が吹く)」という歌詞ではじまり、子供が作り上げた遊びの言葉や、意味のない言葉もその歌詞の中に含まれている。
(b). Buffalo by children
この歌はGatapanga(Buffalo)狩りの物語の詠唱、もしくは律動的表現であり、まず最初に足跡を追い、ヤリを投げ、最後に傷付いたバッファローが水の中に突進するというストーリーになっている。
(c). Pussy Cat by children
「Balawu」という言葉は、Milingimbiでは「Old People」と訳されるが、実際ここでは「Pussy Cat(Native Cat)」ソングだといわれている。
(d). Dog by Dhuwanydjika
4番目の歌のテーマは「Gepa」で、料理されたカメの卵を熱い間に食べたかった犬についての歌。途中で聞かれる「no-no-no」という音節は、Yirrkalaでは犬がクンクン鳴く音を表していると言われている。ディジュリドゥの音をまねたリズミックな歌声で曲が終わっている。
(e). 'Thunder Man' and 'Sick Person' by Dhuwanydjika and children
「Bokngu(Thunder Man)」は神話上の存在で、釣りに関係している。Milingimbiでは「Bokngu」という言葉は大群の魚を見つけた時に上げる叫び声として訳されている。
上記の歌の内いくつかは若い女性Djunwanydjika(1939年生まれ)が手伝って、子供達と共に歌っている。歌詞のいくつかの翻訳は異なっており、YirrkalaよりもMilingimbiでの方がよりその歌詞は理解されているようだった。これは、おそらくMilingimbiで作られた曲ではないかという事を暗示している。いくつかの曲の出所ははっきりしないが、明らかに西洋風な感じがする。
上記はライナーの翻訳。トラック4(a)の「Wata Galkina(風が吹く)」と繰り返されるこの曲は、『The
Land of the Morning Star』(LP 年代不明 : His Master's Voice)のトラック4にも収録されており、そのLPではバッファロー・ソングとされている。子供の集団で歌われていて、ニヤリとしてしまうくらいかわいらしい。また、トラック4(c)と(e)は同じメロディを使って別のテーマの歌が歌われている。
トラック4(d)では、女性シンガーによるディジュリドゥのサウンドを模倣した珍しい歌が一部歌われており、この地域の人々にとってどういう風にディジュリドゥのサウンドが響いているのか言葉でわかる。このトラックにはディジュリドゥは演奏されていない。
Milingimbi 1962
5.(a) Children's songs : Two Men(1-2) sung by Mitjamitjawuy
Yirritja半族のMitjamitjawuy(1934年生まれ)が、「Marrma' Yol\u(Two Men)」がボートをこいでいる様子をGapapuyngu語で歌っている。シンガーの妹(もしくは姉)が16才の時に作曲した歌だと言われている。この歌はWind、Pussy Catなどトラック4と5に収録されている曲に似ている。
上記はライナーの翻訳。女性一人によるゆったりとせつない響きの歌で、トラック4(a)と同じメロディで歌われている。
Numbulwar 1963
5.(b) Children songs : Rabbit and Fire, sung by girls: Debil and Piggy sung by Gurawul and Bandarang with Wuyal aged eleven years(didjeridu)
ここで収録されている歌を歌っている若いヨォルングのシンガー達は録音当時、東海岸のNumbulwarに住んでいて、北へ旅するグループとともにすぐにその地を去った。小さな「Balamumu(Caledon Bay付近に住む人々を指す言葉で、海の人という意味がある)」の少女達の歌うRabbit(ウサギ)、Wan'kurra(バンディクート : オーストラリアとニューギニアのみに住む35cm程のネズミのような見た目の雑食性の動物。カセット『Djambidj』の表ジャケットの写真を参照。)、Gurtha(ブッシュ・ファイヤー)の歌は、YirrkalaとMilingimbiのヨォルングの子供達によって歌われる何百もの歌に属する種類の歌の一つであり、この地域で学んだものだと思われる。この場で儀式のマスターの役割をしていたと思われるJimmy Dagdag(Disc 2のTrack 11と12を参照)が伴奏のスティックを演奏していた。
Debil(Devil)とPiggy(小ブタ)はNumbulwarにて、10〜12才の小さな男の子達によって歌われている。ディジュリドゥ奏者Wuyulは11才。これらの歌が身ぶり手ぶりで歌われる時、子供達はつかまえたり、身をかわしてよけたりするユーモア溢れる表現に没頭している。Piggy(小ブタ)ソングはディズニー・アニメに関する歌で、若い独身男性によって演奏される多くのファン・ソング(娯楽の歌)同様、第2次世界大戦中にアーネム・ランドの若いアボリジナルが空軍基地ではじめて映画を見た時に作られた。
上記はライナーの翻訳。Disc2のトラック11と12ではディジュリドゥ奏者として卓越した演奏を披露しているJimmy Dagdagのクラップスティックに子供の集団下校の帰り道のような明るく、牧歌的な歌です。その次には11才の少年によるディジュリドゥに少年二人の歌が収録されており、11才でここまで吹けるのか?!....とがっくりくるぐらいに大人顔まけにうまい。
Yirrkala 1962
6.(a) East Rain
(b) East Wind sung by Mawalan with Djalalingba(didjeridu)
Makassan(インドネシアのスラウェシ島からの漁民)スタイルのあごひげでよく知らている人物、Rirratji\uクランのMawalan(1908年生まれ)は、才能あるシンガー、ディジュリドゥ奏者、ダンサー、バーク・ペインター(樹皮画家)を輩出している一家の長である。彼自身が樹皮画家なので、南にあるいくつかの大きな主要都市へ彼の住むYirrkalaから頻繁に出かけている。Mawalanの歌とMathaman(Disc4 Track5参照。同じRirratji\uクランのシンガー)の歌は「Really Yirrkala Songs(真にYirrkalaの歌)」、もしくは「First Yirrkala Songs(Yirrkala最高の歌)」と言われていた。
ただ単に聞く事だけをができるリスナーにとって問題となる歌のテーマは、雨、風、カモメ、Morning Star(東の空に見える夜明けの金星 : 明けの明星)などである。これらの前述の歌は、Rirratji\uクランの年長者達にとって特別かつ、深い意味合いがあり、儀式で演奏される時にはスピリチュアル・パワーの手段、もしくはその源として使われる。「Bulwunu(East Rain)」ソング(トラック6a)は雨不足とつながりがあり、それゆえにこの特有な歌は(雨乞いの)祈祷でもある。
East Windは「Bulwunu」と呼ばれており、より演説調なスタイルで「Accompanied Recitative(伴奏を伴った叙唱)」と説明されるかもしれない。この2つの唄はシンガーの父方のある先祖の1人に捧げられている。
上記はライナーの翻訳。Yirrkalaにて'62年に録音。ディジュリドゥ奏者はYirritja半族のDjalalingba(当時26才)で、低い音程のディジュリドゥによるディープなサウンドで、同じシンプルなリズムを繰返しており、即興的要素は少なめになっている。Dhuwa半族のRirratji\uクランの長老Mawalan(当時54才)のはり上げるように歌わない、語るような歌は、ライナーによるとスピリチュアル・パワーの源として儀式で歌われる。乾季に吹く乾燥した風East
Wind(トラック6b)とEast Rain(トラック6a)の歌です。ディジュリドゥの演奏は全ての曲を通して、同じようなリズムだが、シンガーの歌では、East
Rainはゆったりとした曲調でメロディも単調なのに比べてEast Windはリズミックで感情的な雰囲気の曲調と対照的である。『AUSTRALIA
-Songs of Aborigines』(CD 1963 : Lyrichord / Albatros-King)のトラック23ではこのEast
WindのDjatpangarriのすさまじい演奏を聞くことができる。曲調や伴奏のリズムも異なっている。
7. Didjeridu only played by Djalalingba
8. Didjeridu only played by Mawalan
Yirritja半族のDjalalingba(1936年生まれ)とトラック6のシンガーDhuwa半族のRirratjinguクランのMawalan(1908年生まれ)の二人による「Yidaki(ディジュリドゥ)」ソロの演奏。興奮した聴衆が絶え間無くペチャクチャと話しをしている間中、彼等の演奏はコンテストをしているかのように発展していった。
若いDjalalingbaの演奏では、一つ一つの高い音(トゥーツ)が卓越したドラム・ビートで際立っており、演奏者自身がディジュリドゥをタッピングする音が聞かれる。Mawalanはまるで若い相手に負けないように決心しているかのように、1分26秒という長い間演奏していた。最後の高い音(トゥーツ)がにぶいのはブレス(呼吸)不足が原因なのかもしれない。彼の演奏は聴衆の中の若い人達の歓喜を起こしていた。
上記はライナーの翻訳。Djalalingba(当時26才/Yirritja半族)とMawalan Marika(当時54才/Dhuwa半族)と年齢差28才で別の半族という二人による好対照なイダキ・ソロが収録されています。4分(音符)をベースに指でディジュリドゥの側面をタッピングしながら、トゥーツを多用したシンコペーションしたリズムを使って表裏を行ったり来たりする巧みな即興演奏をしているDjalalingbaに対し、Mawalanの演奏はよりソフトな唇で演奏していると思われ、8分(音符)のタッピングの上に倍音成分豊かなドローンをより即興要素の少ないタイトな演奏をしている。おそらく同じディジュリドゥを使った演奏で、演奏者が違うとここまで違うのかという演奏スタイルとサウンドの差がある。
9.(a) Spring Water
(b) Red Kangaroos sung by Mun-gurrawuy with paired sticks
Mun-gurrawuy(1907年生まれ)による歌は比較的高位にある歌で、スティックの伴奏のみで歌われる。Spring Water(湧水)とRed Kangaroos(アカカンガルー)の歌は、Lany'tjunとBanatjaの神話に関係していて、Yirritja半族のクランの年長者達のみが歌う事ができる。このような歌は、戦いの後に傷付いた人を癒すために歌われると言われている。ある物語によれば、明らかに人気のない神Bantjaは自分自身をヤリで指し、水の中に飛び込み、Lany'tjunへと身を変えた。
2番目のMun-gurrawuyの歌は、Lany'tjunもしくはBanatjaに狩られたアカカンガルーについての歌である。この二つのYirritja半族の歌は、長くのばした「ee」という声に続いて「girriri」という声で曲が終わる。これは東アーネム・ランドのこの種の歌の特徴でボーカルで歌が終わっている。
10. Ship sung by Rrikin, Djalalingba with Reiman(didjeridu)
ディジュリドゥの伴奏をともなった、二人のYirritja半族の男性による「Balawurr(ship)」の歌は、録音当時、アボリジナルの聴衆に強烈に受けていた。チーフ・シンガーのRrikin(1932年生まれ)は踊りと道化師として知られた人物で、頭を振り、そしてうなずくというゆっくりとしたコミカルなやり方でDjalalingba(1936年生まれ)と共に歌っている。
スピーチ・ソングのスタイルで歌をはじめ、船の到着を伝えている。それは初めて見た荷物をのせて東に向かう船だった。歌の後半部分では、船が曲がる時のノイズをまねた「bilpil bilpil」という言葉が聞かれる。
ポリフォニーが起こっている最後の部分では、「Miyaman(sing : 歌う)」と「Marayarryu(mast : 船の帆)」という言葉を含んだ歌詞が歌われている。ここではトラック6のDhuwa半族のシンガーMawalanがテンポを指揮するために一歩前に出ており、彼の手拍子がはっきりとこの録音中に聞くことができる。
上記はライナーの翻訳。'62年Yirrkalaでの録音。Reimanの演奏するイダキは低いピッチでかなりゆったりとしたリズムを繰返し、ブレイクとエンディングの部分だけにトゥーツが演奏されている。前半は32分(音符)でクラップが入り、後半はかなりスローテンポな4分(音符)で入るというすごい落差。スローテンポの時にもきっちりとリズムをキープしているイダキの伴奏がすばらしい。
Milingimbi 1962
11.(a) Flat Fish(1-2) sung by Buranday with Darringguwy(didjeridu)
(b) Flat Fish(3) sung by Buranday and Djatjamirrilil with Darringguwuy(didjeridu)
(c) Seagul(1-3) sung by Buranday, and Djatjamirrilil with Darringguwuy(didjeridu)
このCDに収録されている残りのトラックはYirrkalaから約250km西にあるCrocodile諸島の一つMilingimbiにて録音された。
Burandayの歌は、家族のストレス、病気や死などの時に行われる儀式中に、他のクランの歌として歌われている。このトラックに収録されている6曲は、Djambarrpuynguという方言で歌われており、Dhuwa半族に関連のあるテーマ、もしくはクランの象徴などが表わされている。まず最初の曲は「Milika(Flat Fish : ヒラメなどの魚と思われるが、『Contemporary Master Series 6: DJALU 』ではエンジェル・フィッシュとなっている)」で、Milikaは東風の到来に喜び、愉快にジャンプして水の中と外を出たり入ったりしている。2番目の曲は「Djarrak(Seagull : カモメ)」で、一日の終わりに魚を捕まえにでかけ、魚を捕まえるために舞い降りて獲物に襲いかかる。トラック11(a)では、Burandayが最初の二つのMilikaの歌を1人で歌い、トラック11(b)の3番目のMilikaでは息子のDjatjamirrililが参加して歌っている。そしてトラック11(c)では二人で3曲のDjarrakを歌っている。
北東アーネム・ランド特有の特徴である「Unaccompanied Vocal Termination(UVT : 伴奏をともなわずにヴォーカルだけで曲を終えること)」がこの3曲では、はっきりと披露されている。最初は年長の父親が、そして父親と息子が同時にUVTを行っている。
上記はライナーの翻訳。Milingimbiにて'62年に録音。Dhuwa半族の曲「Milika(Flat Fish)」を3曲、「Djarrak(カモメ)」を3曲収録。イダキは、Dくらいのピッチのディープなサウンドながら、Darringguwyはタイトな舌使いでリズミックに演奏している。曲が終わるごとにそばで聞いている聴衆から「Manymak(Good)!」という一声がかけられる迫力のある演奏である。DjaluのCDにも同様のタイトルの曲が収録されているので比較してみてほしい。
12. Djatpangarri(Comic) (1-3) sung by Minydjun with Djigalulu(didjeridu)
この地域の特別な音楽的カテゴリーであるダンス・ソング「Djatpangarri(Djedbangari)」。一般的に若く、独身の男性シンガー達は、Djatpangarriを「Fun Song(娯楽の歌)」と表現しており、この歌の最中に突然起こる笑い声はダンサーの内の1人の物まねを見て起こっている。Minydjun(1944年生まれ)が歌うこのDjatpangarri「Comic」の生まれたきっかけは、ヨォルングの人々が第2次世界大戦中に空軍基地で見たディズニーのアニメ映画で、この歌の時に踊られるダンスのテーマはドナルド・ダックである。
Djatpangarriのダンス形式とその「ビッグ・パーティー・ソング」は、Yirritja半族のGumatjiクランの忘れずによく覚えられている人物Dambidjawaに捧げられている。YirrkalaではYirritjaとDhuwa両方の半族どちらも歌うことができると言われており、そのテーマはノン・トラディショナルな内容である。近年、Yirrkala出身のアボリジナル・ロック・グループによって作られたレコードにDjatpangarriが収録されて注目されている。
上記はライナーと欄外の注の翻訳。Milingimbiにて'62年に録音。ジャッパンガリはFun Songで若者が踊り歌うための曲である。またジャッパンガリには様々な種類があるが、ここでは一番有名なテーマ、コミックで、実際に「Comic,
Comic」と歌っている。ライナーにもあるが、同一の曲がロック・グループYothu Yindiの2ndアルバム『Traibal
Voices』(CD 1992 : Mushroom)にてトラック14にBeyarrmakという名前で収録されており、他には『Tribal
Music of Australia』(CD-R from LP 1949 : Folkways)にも多数のジャッパンガリが収録されている。ディジュリドゥはDjigaluluで舌のカール・バックのサウンドと「Dit」という一番アタックの強いサウンドが非常に特徴的である。3曲収録されており、最後の曲のブレイク部分では、周囲の聴衆に歓喜が沸き起こっている。
13. Song words for 6(a) and 9(a) spoken by Wandjuk Marika; for track 12 spoken by B軽a
このトラックではWandjuk MarikaとB軽aの二人の男性の声が収録されており、彼等はこのような言語学的な仕事に精通している。トラック6(a)に収録されているMawalanのEast Rainソングの長い歌詞は、フィールド録音からゆっくりと時間をかけて書き出された。一方、トラック9(a)に収録されているMawalanと反対の半族YirritjaのシンガーMun-gurrawuyによるSpring Waterソングの書き出しは比較的容易で、Milingimbiの若い男性B軽aの仕事はより簡単であった。こういった正式のDjatpangarriの発音は北東アーネム・ランドではほとんど全ての若い男性シンガーに知られていた。
Song Words
1. トラック6(a)のEast Rainソングの歌詞がWandjuk Marika(Rirratjinguクラン)によって話されている。
yalarrpum yalarrpum yalarrpum gong wungang
rain on top of the water
waranggarr'miny waluka marriyun ngarru wa`uka
black rain clouds east rain move across will sky east rain
dhuwutthunna ngarru Burralkunguru
lift(go up) will from Burraluku
dhuwutthunna ngarru Burralkunguru
waranggarr'miny bulwunu dhundapum
black rain clouds east rain coming down heavily.
gongnha djalkthun gongnha djalthun yalarrpum
coming down everywhere rain
marriyunn(a) ngarru balyalnganguru(repeated) djukalala
move across sky will from across the sea far away
waranggarr'nga dhudapuy
black rain clouds rain coming down
waranggarr'miny dhudapuy
yalumul yalumul dhudapuy
black rain clouds
gong wilirrpum yalarrpum
finish rain
galkin dhawutthunna ngarru bulwunuya
nearly lift will east rain
bunggan nyiwulawa
smell of rain east rain
yalarrpum ngarru wa`uka
will east rain
2. Wanjukは「Lany'tjunとBanatjaについての歌。シンガーの名前はMun-gurrawuyです。」と話している。
gularri djalawarri(3 times)
water water
djaykurr w荊hurrwa djaykurr w荊hurrwa
gu`arri dha-mutmut
gu`arri barawara
current-round the headland noise of water
djaykurr w荊hurrwa djaykurr w荊hurrwa
gu`arri dha-mutmut
gu`arri barawara
current-round the headland noise of water
gu`arri ngurru-walmana
tide coming in
gu`arri djaykurr w荊hurrwa
gu`arri barawara
gu`arri dhawat=hurru
com out!
ngaraka nenymurrmurr
ground spring(water)
ggaraka `anbungala
spring
gu`arri djaykurrnga
djaykurr walmana
come out
girrirri-i-ga
word said to express happiness
'm 'm
B軽aの話すDjatpangarriの歌詞の大半は英訳されていない。「comic」という言葉は英語で歌われている。Disc 4のトラック6(b)と(c)を参照。
Djatpangarri
nima djatpangarri nimaya
comic comic comic niya
djatpangarri nima walang nimaya(sung as niya)
comic comic comic
nima djatpangarri niya
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