Djaluとその息子Larrtjangaによる超絶イダキ・ソロ集第二弾。今回は歌のテーマ毎にトラック分けし、Djaluの妹Dhangalが歌の解説を英語で入れている濃厚な内容。詳細ページでその全訳を閲覧できます。
■ライナーの翻訳と解説
■Who are the Yol\u?
■What are Manikay?
■Djalu Gurruwiwi ディスコグラフィー
イダキ・マスターDjaluのイダキ教則シリーズの第2弾。問答無用に渋い!イダキ・ソロのトラックとタブラのリズムのようにイダキのリズムを口で歌ったマウス・サウンドのトラックが交互に収録されていて、前作を上回るわかりやすさ。そして一曲ずつをDjaluの妹ダンガルによる英語の解説を収録しています。息子のラリーとDjaluで半分づつ収録しており、オールドマン・スタイルのフラクタルでよりインプロ感の高いDjaluの演奏と、若く力強くコントロールされたスマートなラリーの演奏の両方を聞くことができる。
前回はDjaluが話している内容がGalpu'クランの言葉Dhanguで語られているため、理解不能だったのを今回はDjaluの妹ダンガルが、Djaluが話した事を全て英語に翻訳して収録しています。また、それぞれの曲を海や森などそれぞれの属するソング・サイクルにわけ、それぞれの曲の解説が入っているため包括的にGalpu'クランの曲を理解しやすくなっている。とりわけ、イダキとGalpu'クランの関係を語っているトラック2の「Yidaki Dhawu」の内容は興味深い。
また、ライナーの最後に掲載されているAaron Corn博士によるヨォルングとマニカイ(歌)についての詳しい論説の翻訳が掲載されています。非常に興味深い内容なので是非一読していただきたい。
以下の「 」でくくられた部分は、CDに収録されているDjaluとダンガルの会話で、その聞き取りとG畦pu'クラン特有の言葉の意味の解説をG畦pu'クランの言葉と文化に造詣の深いGuan Lim氏がEarth Tubeからの依頼を受けて英文化したのを和訳したものです。ここでこのレビュー作製にあたってダンガル本人に直接問い合わせてまでヨォルング語の解説してくださったGuan Lim氏に感謝の意を表したいと思います。
「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまるこのCDのレビュー部分は、全曲が譜面おこしされた上で楽曲、イダキの演奏技術、音の響きなどを中心に上記のDjaluと妹のダンガルの会話の翻訳からの推察がレビューされており、ヨォルングのイダキ奏者の観点では無く、ノン・アボリジナルの日本人の主観と想像で解説がされている事をご了承下さい。レビュー内に不適当な文章、間違いなどがございましたら御指摘いただけたら幸いです。
■ライナーの解説
PART I: YI{AKI PATTERNS FROM A SEA MANIKAY SERIES
1. INTRODUCTION to the Song Series|2. YI{AKI DHAWU(Didjeridu Story)
|3-10. MARRPA} (Flatback Turtle Story)|11-15.
MILIKA(Diamond Fish)|16-20. WAPURARR GAPU(Calm Water)
I 21-25. YINYDJAPANA(Dolphine)|26-30.
DJARRAK(Crested Tern)|31-33. WAPURARR GAPU(Calm Water)|34-42.
WU{UKU(Mangrove Driftwood)
PART II : YI{AKI PATTERNS FROM A FOREST MANIKAY SERIES
43-47. GヽRIMALA(A Sacred Waterhole)|48. YOTHU-YINDI
DH仝U(Story of Ma]tjaユ & G畦puユ Clans)|49. YI{AKI DH仝U(Didjeridu Story)|50-56.
GA~KARRI|U(Crow)|57-63. GU{URRKU(Brolga)|64-65.BULUNMIRRI(A
Sacred Rock)|67-75. MARURRUMBURR(Cat)|76-80.
GALMAKPUY(The Same Sacred Waterhole)|81. WITITJ DH仝U(Python
Story)
PART III : YI{AKI PATTERNS FROM A WETLANDS MANIKAY SERIES
82. INTRODUCTION TO THE SONG SERIES|83-87. GURRUMA++JI(Magpie Goose)|88-92. WU|AN(Dog)|93-95. GU{URRKU(Blorga)
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
PART I: YI{AKI PATTERNS FROM A SEA MANIKAY SERIES
1.INTRODUCTION to the Song Series
2. YI{AKI DHAWU(Didjeridu Story)
「Dju\girrinyとW渓という場所の近くにあるMandharrという河口周辺の場所に人々が集まった。G畦pu'クランに属するGayku'という名前で知られるペーパーバークの木(紙のようにペラペラの薄い樹皮を何枚もまとったユーカリの木)のある場所の近くには、イダキ(ディジュリドゥ)の演奏のコンテストに参加するために様々なクランの人々が集まった。それぞれのクラン、特にDhuwa半族(半族と呼ばれる全てのアボリジナルをYirritjaとDhuwaの2つにわけるカテゴリー)のクランの人々がイダキを吹こうとしたが、何も起こらなかった。」
「Djaluの父親であるモニュが未来に何が起こるかというストーリーをDjaluに託したのだった。」
「他の全てのクランの人々がイダキを演奏しようとしたが、イダキから風が起こらなかったので、G畦pu'クランにイダキを吹くチャンスがやってきた。G畦pu'クランがイダキを手にし、演奏しはじめると、イダキから風が舞い起こり、崖という崖に響き、Goulburn島とCroker島に届くまでアーネム・ランドの至る所に響き渡った。」
「そのサウンドはBandakと呼ばれる二つの場所を響きながら打ち付けた。」
「そして、そのサウンドは戻って来て、B稽ba=とYirrwaraという場所で反響し、Gayku'でも、そしてはるかGumumukまで響き渡った。Dju\girrinyとつながっている場所は、GumumukとMawi(これはGoulburn 島とCrocker島)、そしてG畦pu'クランのホームランドである|aypinyaの三つである。その中でも「西風」についての歌を歌うのはG畦pu'クランとGoulburn 島とCrocker島の人々だけである。Crocker島には唯一神聖なイダキがあり、北東アーネム・ランドのイダキは、Crocker島にある本当のイダキのただの影であり、それは今だCrocker島にある。これがイダキのはじまりのストーリーだ。」
3-10. MARRPA} (Flatback Turtle Story)
「Marrpa]はその他多くの名前で知られるGreenback Turtle(緑色の甲羅をした亀)で、その内の一つはDhanitpumaという名前で、Greenback Turtleを指す言葉でありがながら、ある岩の名前でもある。その岩は実際はRirratji\uクランに属する。亀の甲羅は様々な方法で表現され、亀の甲羅を表わしている線は、亀の色同様、Walurrurr、Wi[i\al、そしてG継a]aなどの様々な名前がある。亀の甲羅は鮮やかだ。」
「亀は海深くに住んでいるため、浮かび上がってくるにつれて、その甲羅の色が見えてくる。だからその甲羅は硬い色であるMuruwirriになる。深い海から亀が上がってくるにつれて、海面も同様に上がってきて、波立つが、亀が水面に顔を出すと海面はすぐに穏やかになる。亀が息を吸い込むと、雲ができ、水平線の上にとどまる。その雲の名前はDjikurr、Wuyka[a,そしてYilirrkminyである。雲がとどまっている水平線の辺りでは海面は穏やかで、水平線は、はるか向こうに見える。海面の穏やかさという意味のDhamitjmitjは、岩であるDhambaliya、M系hala、そしてWayirriwayirri, Rarrakala、Wopurr、 ~iyamuna、Dja]amura Rokula Wurrumburmiを表わしている。Marrpa]のペインティングはDjaluに受け継がれ、現在彼がMarrpa]のペインティングを守り保持している。」
「これは緑の甲羅をした亀Marrpa]のたくさんある名前で、深い海の底から亀があがってきて、海面にその甲羅が現れた時、亀はその旅路を歩みはじめる。」
上記はDjaluとDhangalが話している内容を英訳したものだがライナーでは「Marrpa]」はFlatback TurtleでDjaluの妹ダンガルが話している言葉ではGreenback Turtleになっている。計3回ずつラリーがイダキ・ソングをまず歌い、Djaluがイダキを演奏している。Djaluは3曲演奏しているが、それぞれのトラックで「Ditu Doron Doron」という基本的な3連のリズムを少しずつ違う感じで演奏しており、Djalu自身のバリエーション豊かなインプロヴァイジング能力を発揮している。
11-15. MILIKA(Diamond Fish)
「エンジェル・フィッシュ(Milika)は岩間に安全な場所を見つけ、緑の甲羅をした亀(Marrpa])はその隠れ家になる。」
上記はダンガルの解説の翻訳。「Milka」もライナーではDiamond Fish、会話ではAngel Fishになっている。トラック4-10のMarrpa]の解説に出て来るが、Marrpa](緑の甲羅の亀)には数多くの名前があり、その内の一つがDhanitpumaという名前で、Greenback Turtleの甲羅を指す言葉でありがながら、ある岩の名前でもあるという事がこのMilikaという魚は岩間を好み、亀がその隠れ家になるという事と一致があり非常に興味深い。
計2回ずつラリーがイダキ・ソングを、Djaluがイダキを演奏。トラック12-13ではゆっくりした8拍周期の曲で1・2拍目のみにクラップスティックがはいり、トラック14-15ではゆっくりした7・8拍目のみにクラップスティックがはいる。
16-20. WAPURARR GAPU(Calm Water)
「亀が水面に上がった後には海面はおだやかになる。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計2回ずつラリーがイダキ・ソングを、Djaluがイダキを演奏。ミドルテンポで、最初からクラップスティックが入る所ではイダキにアクセントは無く、エンディングのトゥーツの所のみクラップスティックとイダキが同じ所にアクセントがはいるというリズムをキープするのが難しい曲。トラック19のラリーのイダキ・ソングは、イントロの入り方がかなり渋い。
21-25. YINYDJAPANA(Dolphine)
「グリーンバック・タートル(緑色の甲羅をした亀)が海面に上がった時、海面は穏やかで、イルカがやってきて、遊び回る。そして、どこに向かうかをきめる。Gupawupaへ、もしくはWu[upulaへと。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計2回ずつラリーがイダキ・ソングを、Djaluがイダキを演奏。曲の頭と最後に「Du-, Du-, Du-」と3回長いトゥーツを吹くのが印象的なイルカの曲。この長いトゥーツの音がきれいで太く、それでいて力強いのがまさにDjaluらしい。また「-DituDoro- Dherei-ro」と繰り返すメインの部分での「Ditu」という一番力強い音をためた感じで、アタックが長くなるように、ためて強く舌を前に差し出している点が特徴的。
26-30. DJARRAK(Crested Tern)
「カモメがさっと飛び下りて、イルカ同様にカメの背の上でついばみはじめる。」
上記はダンガルの解説の翻訳。Crested Ternはカモメに似たアジサシという鳥で、この曲は北東アーネム・ランドではよく演奏される曲で、他のCDでも多数録音されている。ここで収録されているDjaluの演奏の曲調と1stアルバムに収録されているラリー、Djalu二人によるDjarrakとはかなり感じが違う。テンポ自体がかなり遅く、コールよりもトゥーツが印象的に使われている。
ラリーが演奏している『Contemporary Master Series 3 : Djalu』(CD 2001 : YYF)のトラック30/31に収録されているリズミックなヴァリエーション、トラック33のかなり遅い速度での「Djarrak(アジサシ)」、と比較してみてもおもしろい。
31-33. WAPURARR GAPU(Calm Water)
「カモメがついばんだ後には、海面は凪いで穏やかになる。」
上記はダンガルの解説の翻訳。1stアルバムのトラック59、61にも収録されていて、ここでのDjaluの演奏よりも早いテンポなので、比較してもそのまま早くした感じでわかりやすい。クラップスティックがシンコペーションしているかのようにイダキのアクセントとは常に、はずれているが、最後のトゥーツだけ合うようになっている。トラック33のみ曲調が違うものになっており、クラップスティックも8拍周期の曲の最後の8拍目以外を全てたたくという、8拍目の間が渋い曲構成になっている。
34-42. WU{UKU(Mangrove Driftwood)
「樹木Wu[uku(流木)が倒れ、海にむけて川に運ばれる。潮の満ち引きが変わると、Dhambaliyaへと向かっていく。海へと流れ出ると、Rarrakalaに向かって潮の干満が変わる。そこで、また潮が変わり、M系halaという岩の所へと戻るかもしれない。ときには、珊瑚礁にひっかかり、次に運んでくれる潮を待ってそこに横たわる。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計4回ずつラリーがイダキ・ソングを、Djaluがイダキを演奏。トラック36は、残り3曲と曲調が異なり、1stアルバムのトラック35でラリーが演奏しているのに近く、イダキのアクセントとクラップスティックが意図的にずれている。残り3曲はクラップスティックが入る場所が潮の満ち引きに合わせているのかそれぞれ変わっていておもしろい。後半部分に見られるわかりやすいコールの部分は力強く、流木の流れるイメージを感じさせる。
PART II : YI{AKI PATTERNS FROM A FOREST MANIKAY SERIES
43-47. GヽRIMALA(A Sacred Waterhole)
「Yol\uがイダキのサウンドに従って内陸部を歩き、どのようにしてイダキの音が伝わったのか、そしてG罫rima`aと呼ばれる池に辿り着くのかが歌われている。イダキの音がG罫rima`aに着き、その人物は音を追って、池のほとりに辿り着き、水をすくって飲みほし、水をはらう。そのしぶきのほとばしりが、雲が雨になるように虹を作った。」
上記はダンガルの解説の翻訳。ここから入れ代わって、計2回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。クラップスティックの入り方が激渋な名曲。4分(音符)で入っていたクラップスティックがイダキのトゥーツを使った特定のリズムを合図にして16分(音符)になる。このCDの中でもユニークな構成になっている曲である。
48. YOTHU-YINDI DH仝U(Story of Ma]tjaユ & G畦puユ Clans)
「大地が一つになった話。 G畦pu'クランの大地MalawurrはMa]atjaクランの大地と同様に『母と子』として一緒になる。 Ma]atjaクランの人間が残りたった一人になってしまうのを知ると、M系dawuyはそのクランの孫を持つため、M系dawuyとGalarrwuy(Gumatjiクランのリーダー)はMa]atjaクランの土地を守る保護者になるだろう。」
49. YI{AKI DH仝U(Didjeridu Story)
50-56. GA~KARRI|U(Crow)
「カラスがどのようにしてYol\u(人)のスピリットになり、旅を続けているのかというストーリー。カラスがやってくると、再び人の形に戻り、人々に挨拶をする。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計3回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。様々な曲で使われる基本的な「Ditu Doron Doron」といった3連フレーズがメインになった15秒程度の短い曲で、非常にシンプルな構成とリズムなので、理解しやすい。
57-63. GU{URRKU(Brolga)
「Brolga(豪州鶴 : 灰色の鶴)のストーリー。BrolgaはGalmakという名の大へびと共に旅をする。Wititj(Olieve Python : G畦pu'クランにとって最も重要なトーテムの一つである大ヘビ)の住む場所から旅をはじめ、そこでBrolgaは大ヘビの背中をついばむ。Dhapinmara、Warranybaka、Maymay\uなどはWititjの重要な名前として知られている。」
上記はダンガルの解説の翻訳。ブロルガは、アーネム・ランドでは非常にポピュラーな題材で、一生をつがいで過ごす事から擬人的にとらえたストーリーなどもよくきかれる。『Songs from the Northern Territory 2』(CD 1962-63/1996 : AIATSIS)には東アーネム・ランドのブロルガを中心に多数の新旧のブロルガ・ソングが収録されている。
ここでは計2回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。いずれもスロー・テンポで、クラップスティックの入る所にはイダキのアタックが無く、最後のトゥーツだけが合うという構成になっている。1stアルバムのDjaluが演奏している54-55トラックはミドル・テンポで、ラリーが演奏している19、22、24トラックはファスト・テンポになっているので比較されたい。ここで収録されている2曲では、「Ditu」という一番アタックの強いサウンドをためて演奏してるために生まれるサウンドの重さが渋い。
64-65.BULUNMIRRI(A Sacred Rock)
「人々はBulunmirriという名前の岩をこえて聞こえてくる水の音を聞いている。(この岩については多くの名前がDjaluによって語られているが、ダンガルはあえてこの一つの名前だけをとりあげている)。」
上記はダンガルの解説の翻訳。Djaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを1回ずつ演奏。スロー・パート、ブレイク、ファスト・パート、エンディングという構成の典型的なパターン。イダキのリズムはスローとファストのパートで全く変化しないが、クラップスティックだけが、4分(音符)だったのが8分(音符)になる。コールの最後にシンコペーションしてトゥーツが入る所が渋い。力強く、早い演奏で、こういった演奏をするためにはなめらかな舌の動きが必要とされる。
67-75. Marurrumburr(Cat)
「Marurrumburr(オーストラリア原産の猫 : おそらくフクロネコ)はWititj(Olieve Python : 大ヘビ)の仲間のような存在で、Wititjが行く所にはどこへでも付いていく。Gu\alung'(Blue-tongue Lizard : 和名はアオジタトカゲ)もWititjの仲間で、Marurrumburr(フクロネコ)と似た存在だ。Marurrumburrには別の名前Ba[urruがある。(ここでDjaluは何かストーリーの詳細な内容についてふれようとしたが、その内容が非常に神聖なものなので途中で話すのをやめてしまう。)」
計3回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。イントロ、(メイン&ブレイク)x2、エンディングという構成で、全体を「DituDoronDoron」といった3連のリズムで構成されているが、その中での遊びの部分は幅広く、様々なバリエーションで演奏されている。またブレイクに向かう時に「DoronDoronDoron」といったシンプルなリズムをより多く使うことで次のリズムへ移る事を示唆している。ブレイク部分のクラップスティックの入り方が異常にかっこいい。シンプルだが、踊りだしたくなるポップなブレイクが秀逸な曲。
76-80. GALMAKPUY(The Same Sacred Waterhole)
「Galmak(Python:大蛇、トラック57-63参照) Bi`imbi`の場所にあるG罫rima`a(A Sacred Waterhole:神聖なる水場、トラック43-47参照)と呼ばれる場所で最初のソング・サイクルが終わる。人々の旅がこの休息の場所で終わるように、この場所はイダキの音が終わる場所である。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計2回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。トラック80はトラック78の半分の曲構成になっている。トラック78のブレイクからのスローな部分が渋く、それまでは8分(音符)で入っていたクラップスティックが4分(音符)になり、イダキのリズムはシンコペーションしている。トラック80はメインのリズムに遊びが少なく、半分の構成なので曲の展開を知るにはわかりやすい。全体的に力強いイメージの曲。
81. WITITJ DH仝U(Python Story)
「大蛇のWititjが自分の住処であるGarrima`a(神聖な水場、トラック43-47参照)に着い後に、大声で同族達に呼びかけた。(この同族達は皆Wititjで、Gumumuk, Yarrwi=yarrwi=, Guluma, Manharrawi`i, Djinydjikara, Mirarrmina, Gatata, Guruwana, Manybunhurru, Yapayapa, Burruwalという名前がDjaluによって読み上げられている。)Wititjが話している時に、Gulumaという場所からやってきたWititjとMirarrminaという場所のWititjが答えてやってきた。」
「Garrima`a(神聖な水場)の大蛇WititjはMirarrminaの大蛇に「何を食べたのか?」とたずねると、Mirarrminaの大蛇は二人の姉妹を飲み込んだと答えた。それを聞いたGarrima`aの大蛇は狼狽し、そのMirarrminaの大蛇に稲妻を打ち付け、稲妻は火花となり、その大蛇は死んでしまった。」
「Garrima`a、Guluma、そしてMirarrminaという3つの場所の人々の内、たとえ2つのGarrima`aとMirarrminaは淡水、残り一つのGulumaは海水の人々と別れていても、この3つの場所の人々は全て一つであり、それによって何も異なる事はない。」
PART III : YI{AKI PATTERNS FROM A WETLANDS MANIKAY SERIES
82. INTRODUCTION TO THE SONG SERIES
「G罫ul Garra=aと呼ばれる場所で2番目のソング・サイクルがはじまる。Gurruma=tji(Magpie Goose:和名はカササギガン。首と頭は黒、残りは白いという白黒まだら模様で、群れをなして湿地帯に生息する)の群れが集まっている。この場所でGu[urrku(Brolga:豪州ヅル)とMiyawu(Dog:犬)ソングはここではじまる。」
83-87. GURRUMA++JI(Magpie Goose)
「ここで紹介される曲ではMagpie Goose(カササギガン)が湿地帯で草をはみ、Brolga(豪州ヅル)が泥の平原で草を食べている様子がえがかれている。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計2回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。カササギガンの鳴き声を模倣しているのか、コールを多用した3連のリズムがメインのリズムになっている。Djaluと兄のアルフレッドのアルバム『WALUKA』にも2トラック収録されているが、トラック19の最後のあたりの感じが少し近い。
88-92. WU|AN(Dog)
「Gurruma=tji(Magpie Goose:カササギガン)が泥の沼地で草を食べている所に、Garra=aからMiyawuというWu\gan(Dog:犬)がやってきて、Gu[urrku(Brolga:豪州ヅル)の音を聞いている。」
上記はダンガルの解説の翻訳。計2回ずつDjaluがイダキ・ソングを、ラリーがイダキを演奏。クラップスティックの入る場所が非常に特徴的な曲で、クラップと同時にコールを入れたりするあたりも即興性があり、プレーヤーの個性が現れている。構成さえ理解すれば、簡単なようだが、コールの後にクラップが1発入った時点で曲のスタート箇所に入るようになっていて意外に難しい。また構成そのものがスタートしてからは固定されている点もおもしろい。
この曲ではコールが非常に重要な役割を果たしている、それゆえコール部分が印象的に聞こえる。犬の鳴き声を模しているのかもしれない。
93-95. GU{URRKU(Blorga)
「{urmuwi`i(Dog:犬)は Yarraymatjiという場所からやってきて、泥の沼地でBrolga(豪州ヅル)が歌い、踊るを聞いた。そしてその犬が近くにやって来た時、ツルが出す物音を聞き、犬が近付くのにツルが気付いた時、ツル達はみな飛び立ってしまう。」
前回同様、息子のラリーによる超絶ディジュリドゥ・ソロ2分40秒!通常1曲そのものは非常に短いのだが、これは彼の十八番なのか前回と同じく最後のトラックに収録されている。研ぎすまされたシャープでタイトな演奏はますます磨きがかかっており、こういったソロを演奏できるプレーヤーというのはアボリジナルの演奏者の中でも中々いないのではないだろうか。単にアボリジナルの民族音楽というカテゴリーを超えた、説得力のある、若さ溢れるすばらしいトラックです。
■Who are the Yol\u?
ヨォルング(人々を指す言葉)は代々、オーストラリアのノーザン・テリトリー州の北東の片隅に位置する北東アーネム・ランド地域の所有者である。北東ア−ネム・ランドには、Mili\imbi、Ramagi]i\、Galiwin'ku、Gapuwiyak、そしてGove半島にあるGunya\araとYirrkalaのような現代のヨォルングの町を含む、60以上のヨォルングのクラン(mala)の永久なるホームランド(w圭a\araka)がある。ヨォルングは、1906年にオーストラリア政府に禁止されるまで、オーストラリアより北から訪れるアジアの人々との経済的、文化的な関係を何世紀にも渡って享受してきた。1870年代以降、オーストラリア南部から、植民地的な聖職者による侵入という「崩壊の時代」と言ってもいい時期が訪れ、それによって(疫病などによる)大量死にいたったヨォルングのグループもあった。
メソジスト派のキリスト教のミッションが、1923年にMili\imbiに、1934年にYirrkalaに、1942年にGalinwin'kuに、1973年にRamagi]i\に設立された。Yirrkalaコミュニティの指導者達は、1963年にオーストラリア政府に対し、彼等のホームランド付近からボーキサイトを発掘するという計画を止めるように嘆願した。1970-72年の間この計画を止めさせるために、ノーザン・テリトリー最高裁判所にてさらなる活動が行われ、失敗に終わったが、北部土地会議が1973年につくられ、1976年にはオーストラリア初の先住民土地所有権の法律がつくられるという事を導くこととなった。それ以来、ヨォルングの指導者達は、オーストラリア政府と交渉してオーストラリア先住民の権利と、自分達への認識の必要性を主張することに尽力してきた。
ヨォルングは自分達の家系を、自分達のホームランドを形作った祖先の創始者達(wa\arr)までたどり、その創始者達の中に不滅の抽象的存在を見い出す。また創始者達は、自分達の子孫に正しい生活慣習のための法律(rom)を与えた。その法は、神聖な名前(y渓u)、神聖な歌(manikay)、神聖な踊り(bu\gul)、そして神聖な図案(miny'tji)に分類され、儀式的行為を通じてそれらの法が行使される。外国人との雇用関係、新しいメディアとテクノロジーへの適応、そしてオーストラリア政府からの法的認識を通じてもなお、このような先祖の知識の持続的核心はヨォルングにとって中心的重要性を持ち続けてきた。
■What are Manikay?
Manikay(以下、カタカナでマニカイと表示)とは、ヨォルングのオープンな(garma)儀式の行使の中心である神聖なソング・シリーズを指す言葉である。マニカイはヨォルングのグループが代々所有する最も重要な財産であり、それに関した踊りと図案と共に、それぞれのホームランドの環境を見つめてきた祖先の人々の記録なのである。マニカイの歌詞には、それぞれのヨォルングのグループが所有している神聖な名称が幅広く使用される。そしてマニカイは、ヨォルングの法(rom)と言語(matha)を教えられた円熟した指導者達(`iya\罫ra'mirr)の裁量によってのみ演奏されるのである。また、独特の声の音程や、歌の「頭([稽bu)」として知られているメロディーの輪郭を聞けば、そのマニカイがヨォルングの特定のグループの所有物だとすぐにわかるのである。
ヨォルング社会でリーダーシップを持つ人には、そのグループが代々受け継いできた名称、歌、踊り、そして図案の完全な知識と、儀式を執り行う示威的な能力がなければいけない。通常、Bi`ma(クラップスティック)を自ら持った男性シンガー達が、1人の男性Yi[aki(ディジュリドゥ)奏者を伴ってマニカイを歌い、儀式の際には男性、女性、そして子供達が踊るその歌のためのダンスをも指揮する。何よりも、マニカイはヨォルングと彼等のホームランドに祖先の創始者達(wa\arr)から与えられたその土地の美しさ(ma[ayin)をほめたたえ、マニカイを歌う事によって、そのグループの重要性と祖先から与えられたアイデンティティを確認するのである。
一般的にマニカイは、あるテーマとそのテーマの説明で構成されている短いソング・アイテムの長いシリーズを形成している。Marrpa](Flatback Turtle)やWu[uku(マングローブの流木)のようなテーマ一つ一つに対して、そのテーマの様々な性質を表現するために、歌の項目は「Bulnha(slow)」、「|arru\a(travelling)」、「Yindi(big)」、「W系a(arm)」の4つのリズム的な区分のバージョンで演奏される。ヨォルングの女性が歌う死者を追悼する(\荊i)歌は、それぞれのテーマの「Yindi(big)」バージョンから引き出される。ロックバンド「Yothu Yindi」の歌で重要な役割を果たす題材でもある。それぞれのテーマの「W系a(arm)」バージョンには、シンガーが新しいメロディー、リズム、テーマを控え目に組み込んだ新しい(yu=a)歌の項目が含まれる。新しい(yu=a)歌の項目は、何十年も人気を維持するかもしれないが、形式ばらない演奏の際にマニカイ・シリーズの中に組み込まれるだけである。
Aaron Corn博士
■Djalu Gurruwiwiディスコグラフィー
・『Contemporary Master Series 2: WALUKA Gurritjiri Gurruwiwi
featuring Djalu Gurruwiwi』(CD 2001 : YYF)
・『Contemporary Master Series 3: DJALU-Djalu Teaches and
Plays Yidaki-』(CD 2001 : YYF)
・『Contemporary Master Series 6: DJALU -Djalu Teaches and plays yidaki 2-』(CD 2003
: YYF)
・『DILTJIMURRU-Djalu Gurruwiwi-』(CD 2003 : ON-Records)
・『WANGGANY -Didjeridu Unites Us One』(CD 2005 : Dinkum
Music)
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