ジャケット / タイトルともに違うが、A.P. Elkin教授による49年録音のレコード「Arnhem Land vol.2」の再発盤。
■オーストラリアのアボリジナル音楽(ライナー・ノーツの翻訳)
■ライナーの翻訳と解説
A.P. Elkinによって1949年に録音されたシリーズ『Arnehm Land
vol. 1、2、3』(LP 1949 :
His Master Voice)のvol.2のリシュー。再発盤だけに発売がオリジナル盤(50年代)より最近なため、盤質、ジャケットもきれいなものが残っていることが多いがレア。
'49年録音の貴重なレコード。南アーネム・ランドのDjarada(Love Chant:愛の歌)は異性に対して働きかける歌。B面の北東アーネムランドでの録音は内容の神聖さ、曲のすばらしさ、録音年代の古さから考えてもかなり貴重なものになっている。
下記には、バックジャケットの英文の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■オーストラリアのアボリジナル音楽(ライナー・ノーツの翻訳)
今まで、オーストラリアのアボリジナル音楽は、完全に無視されてきた。その一つの理由は地理的に近付きにくいという事があるかもしれない。実際、全ての大陸においてそこに住む全ての人々の音楽がレコードで発売されているのに、オーストラリアの先住民にはそのような機会がなかったというのは奇妙な事実である。
こに収録されているのは、オーストラリアのアボリジナルの人々についての世界的権威である民俗学者A.P. Elkin教授によってア−ネム・ランドで録音されたユニークな音源です。全てに渡って純粋なアボリジナルの音楽であり、以前はアボリジナルの人々に興味がある民俗学者の間でしか聞くことができなかった音源です。
アボリジナルの人々の住む自然のままの土地で歌い、踊った、オーストラリアのア−ネム・ランドのすばらしい音楽とリズムをお聞き下さい。
■ライナー各曲の翻訳と解説
SIDE A : 1. Warranggan|2. Men's Djarada|3. Women's Djarada|4. Mulara|5. Ngorungapa
SIDE B : 6. The Mulara of North-East Arnhem Land|7. Waramiri
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
SIDE A :
1. Warranggan Camp Ceremony
「Warranggan」は、Roper Riverの中上流(中央アーネム・ランド)の部族が執り行う神聖な儀式で、高度に秘儀とされている母神の儀礼、「Kunapipi」神話と関係している。「Warranggan」の儀式はRoper RiverやVictoria River周辺部で生まれ、アーネム・ランドのあちこちへと広まった。そのわけは、イニシエーションを通じて霊的に新しくなるという事と、儀礼を通過した者は生まれ変わるという二つの教義が人気をはくしたからだ。
「Warranggan」の儀式は、この母神が男女の一団をひきいて旅したその旅路を祝うものである。「Munga-Munga」と呼ばれる女性達は、しばしば婚姻のルールを破って男達を誘惑した。儀式ではその「Munga-Munga」を表している女性達は、大きな枝の影を通って踊り、そこでは鳥の羽毛を血でくっつけて身にまとった男達が歌の伴奏をしている。男達は、誘惑されて踊り場へとやってきて、優雅に、そして精力的に演じる。興奮するにつれて、音楽のテンポ、アクセント、そして熱気も上がっていく。男達が足踏みをすると、彼等の足首に結ばれた乾燥した葉っぱがサラサラと鳴る。数人いるシンガーは全て男性で、それぞれがブーメラン・クラップスティックを鳴らしている。次に続く2曲「Djarada」ソングとこの「Warranggan」ソングでは、ディジュリドゥもクラップスティックどちらも使われず、両曲ともそれぞれの曲中の歌詞は、2-3の単語のみで構成されており、その順番を変化させながら繰り返される。
上記はライナーの翻訳。こういった「ソング・ライン」(もしくは「ドリーミング・トラック」)と言われる祖先の旅路を歌う歌では、ディジュリドゥが使われる事は少ない。ここではブーメランと歌に踊りになっている。時に激しく、大地を踏み締めながら、ブーメランを打鳴らす。トレモロがかったブーメランの音がおもしろい。3曲収録。『Songs
from the Northern Territory 5』(CD 1962-63/1996 : AIATSIS)で見られるタイプの曲。
2. Men's Djarada / Love Chant
「Djarada」とは求愛の歌。その歌を聞けば、欲された異性は歌い手を好きになる。歌詞に使われる引喩は遠回しで、シンガーの声は聞こえても姿は見られない。「Djarada」というのは「Kunapipi」神話と前述の「Munga-Munga」に由来し、欲望という意味である。どんな種類の「Djarada」も立続けに歌われなかればいけない長い一連の歌で、この中の最初のあたりの曲から選出されたアイテムを使ったり、多くの繰り返しが使われる。地域によって異なったソング・サイクルが用いられ、この録音は南アーネム・ランド(場所の詳細は不明)のものである。
上記はライナーの翻訳。クラップスティックと複数の男性の歌。クラップスティックがキンキンとした金属的な音なのが印象的である。ディジュリドゥの伴奏は無い。5曲収録。『Tribal
Music of Australia』(CD-R from LP 1953 : Smithsonian Folkways)のトラック12には、ディジュリドゥの伴奏をともなった「Djarada」が収録されている。
3. Women's Djarada
下記は、歌われている歌詞です。
(1). e: warera e: warera langgana bandjana djalwera djalora
(2). e: dangia lai na:berende nabera lai
(3). wandjurgaba lindjurgaba madang gani
(4). e: walai walai berngeinj waibara daba
歌詞(1)で歌われているのは、「Munga-Munga(古代に母神Kunapipiと共に旅をした一人以上いたとされる女性の神)」の恋が成就し、望まれた男性は自分の女(おそらく妻?)の所に戻って来たいという気にさせるという内容になっている。
上記はライナーの翻訳。複数の女性による高い声での歌と鈍い音のスティック(不明)と缶らしい物を時折たたいている。30〜60秒程の短い曲を8曲収録しており、ディジュリドゥの伴奏は無い。
4. Mulara of Central Arnhem Land
北アーネム・ランドと中央アーネム・ランドの部族からもたらされた一連の歌。「Mulara」はディジュリドゥとクラップスティックの伴奏で歌われ、1曲づつが伴奏なしの叙唱と叫び声で終わる。この聖なる歌は亡くなった人の骨をログ・コフィンと呼ばれる大きな木をくり抜き、聖なるペインティングを施された棺桶に納められるまで続けられる。全ての人は先祖が旅して来たライン、もしくは道とつながりがあり、死後、亡くなった人のラインは聖なる歌によって人々の記憶に残る。歌われる内容は、そのライン上にある聖地、自然の中にある特徴、動物、鳥など。最初の3曲は「Barangali」という聖地にいるコウノトリ、最後の2曲は「Nyilba(Rock Wallaby)」とその盟友「Bunda」という鳥。「Mulara」はDhuwa半族の歌である。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥの演奏にトゥーツ(ホーン)の音が多様されているため、北部/東北部の中央アーネム・ランドと推測される。ドローン(持続低音)の感じは、聞き取りにくいため不明だが、ちょうど西アーネム・ランドの南地域のBeswick周辺と北東アーネム・ランドのヨォルングの演奏方法、両方のニュアンスを感じさせる部分があるように感じさせる。
5. Ngorungapa of Central Arnhem Land
これはMularaに似ているが、Yirritjaの歌で、曲のテーマは魚を気絶させるために使われる毒を含んだ皮をもつ木とすももである。
中央アーネム・ランドでの録音。ディジュリドゥの音が小さいため詳細は不明だが、トラック11と同様にトゥーツを連続して演奏する部分が印象的である。2曲収録。
SIDE B :
6. The Mulara of North-East Arnhem Land
北東アーネム・ランドのDhuwa半族のクランのための歌で、亡くなった人が行く神話上の島Burralku(ライナーではBuralkoとスペル違いになっている)について歌われている。偉大なる創造主Djang'kaw(ライナーではDjanggawulとスペル違い)が東の海にあると言われているこの神話上の島Burralkuを通って、北東アーネム・ランドの海岸へとやってきたその体験を詩的な言葉で表現した長篇の歌。
この録音では、Morning Star(夜明けに東の空に見える金星)、海、そしてノコギリエイについて歌われている。毎晩亡くなった人の霊がMorning StarをBurralku島から持ち上げ、背の高い木にぶら下げる。日の光が見えると、その星を離れた所にあるPandanusの木を通って踊るような仕草で運び、死者の島へと持ち帰ってしまう。これは、今まで録音されたアボリジナル音楽の中でも最もすばらしい録音だろう。3人のすばらしいソングマンが歌い、1人のディジュリドゥ奏者がその伴奏をしている。その歌声は、すばらしい「和声的で対位法的な演奏の極みのクライマックス」にまで達している。リード・ソングマンは、全ての曲のエンディングを「楽器の伴奏を伴わないレチタティーボ(オペラなどにみられる語るような歌い方)」で終えており、それぞれのソングマンが歌いはじめる順番を前もって計画的に決めていた。ディジュリドゥの汽笛のような高い音は、低いドローンの音の10度上になっている。
上記はライナーの翻訳。ドローンのリズムが独特で『Songs from the Northern
Territory vol.2』(CD 1962-63/1996 : AIATSIS)にも同じ曲が収録されている。ブレイク部分では長いトゥーツが連続して演奏されるのが特徴的である。全13曲収録中11曲目からボーカルのメロディを複数の男性で分けて歌っており、重層的で、幻想的な雰囲気が流れ、このソング・サイクルの一つの山場を迎える。非常に美しいメロディを聞くことができる。
ア−ネム・ランドで最も重要なソング・サイクルの一つであるMorning Starの歌を収録している他のアルバムには、中央ア−ネム・ランドでの録音を収録した『GOYULAN -The Morning Star』(Cassette 1978 : AIATSIS)や、北東ア−ネム・ランドでの情景的なまでにすばらしい録音を収録した名盤『The Land of the Morning Star』(LP 1970's : His Master's Voice)などがある。
7. Waramiri
北東アーネム・ランドのArnhem Bay周辺のWaramiriというクラン(言語はDjangu)に所属しているカラバリー。さらに言えば、Yirritja半族に属した歌なので、ノン・アボリジナルのテーマの曲も含まれることがある。ここに録音されている曲のテーマは、順に雲、ギャンブル、地蜂、鉄床(かなとこ:鉄製の工作台)、ハーモニカである。ダンサー達は踊りがはじまる前に地面に向かって叫ぶ。Waramiriカラバリーの特徴は、ダンサーの出すシーシーというシンコペーションした音、リズムの変化、大きくなる興奮などである。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥのサウンドはかなりやばい。まさにYirritja半族の曲的な舌のすばやい動きによる超スピーディな曲を9曲収録。「Dupu Dere Dupu Dere」といった連続してのトゥーツとドローンの高速の繰り返しは圧巻。
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