Djaluとその息子Larrtjanga、そしてBarrnyulnyulの3人による圧巻イダキ・ソロとそのリズムを歌ったマウス・サウンドを収録した超絶イダキ・ソロ集。天才的演奏の嵐。
■Djalu Gurruwiwiプロフィール
■ライナーの翻訳と解説
■Djalu Gurruwiwiディスコグラフィー
全世界のディジュリドゥ・プレーヤーが待っていたイダキ・マスター「DJALU」による教則CD第一弾!!
レインボー・サーペントに見入られた人々Galpu'クランの長老Djaluが息子のLarrtjangaにイダキ(ディジュリドゥ)を教えるという形で録音されている。全99トラック。
Djaluは北東アーネム・ランドを代表するイダキ・プレーヤーであり、イダキ製作のマエストロでもある。北東アーネム・ランドのイダキの演奏スタイルの中でも老練で他の追随を許さない圧倒的な演奏能力は、クランの儀式やManikay(歌という意味のヨォルング語)についての深い知識に裏付けられている。彼のヒーラーとも言うべき柔和なパーソナリティから創造されている力強くダイナミックな演奏、それとは対照的に若さとパワー溢れるスピーディーでタイトにコントロールされたサウンドを奏でる若き息子のLarrtjanga、そしてBarrnyulnyulによる超絶イダキ・ソロのアルバム!
このCDには歌は入っておらず、ディジュリドゥ・ソロとそのマウス・サウンド(ディジュリドゥの演奏に使われるリズムを表した歌というAlice
M. Moyle博士の作った造語)と会話が収録されている。Djaluによる伝統的なソング・サイクルの演奏は『Contemporary
Master Series 2: WALUKA』(CD 2001 : YYF)と最新作『DILTJIMURRU-Djalu
Gurruwiwi-』(CD 2003 : ON-Records)でじっくり聞くことができる。99トラック入り。何度も聞ける激烈にすばらしい内容。
このCDで唯一残念な点は、彼等の会話がG畦pu'クランの言葉Dhan\uで話されているため、理解不能な上に、ライナーの説明が非常に少ないため、一つずつの曲を理解するのが難しい点である。そのため、著者はこのCDのレビューのために全曲が譜面おこしをし、楽曲、イダキの演奏技術、音の響きなどを中心にレビューをしています。ヨォルングのイダキ奏者の観点では無く、ノン・アボリジナルの日本人の主観とイメージで解説がされている事をご了承下さい。レビュー内に不適当な文章、間違いなどがございましたら御指摘いただけたら幸いです。
下記は、12Pブックレットに掲載されている英文の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■Djalu Gurruwiwiプロフィール
Djalu Gurruwiwiは、Yidaki(ディジュリドゥ)の製作、演奏、教育を専門に行うG畦pu'クランの年長者である。G畦pu'の人々は集合的にYolnguとして知られる数多くのオーストラリアのアボリジナルの人々のグループの一つで、G畦pu'の人々はDhuwa半族に属し、Dhan\u語を話す。Djaluは、彼の妻GumatjクランのDhopiyaの土地であるGunya\araに住んでいる。彼はオーストラリア北東アーネム・ランドのGulkulaでヨス・インディ基金が毎年催す、伝統的文化の祭典「Garma Festival」で、海外の生徒を教えるイダキ・マスター・クラスを指導している。LarrtjangaはDjaluとDhopiyaの息子で、Barrnyu`nyu` はDjaluのいとこである。
■ライナーの翻訳と解説
2-4. Guykarri(Dolphine)|5-6. Yinydjapana(Dolphine)|8-9. Djarrak(Crested Turn)|11-12. Wuduku(Driftwood)|14-16. Mokuy(Spirit People) I 18-24. Gudurrku(Brolga)|26. Gathaka(Sooty Oystercatcher)|28. Gathaka|30-33. Djarrak(Crested Tern)|35. Wuduku(Driftwood)|37. Mimarr|38-39. Water|40-43. Guku(Sugarbag,Wild Honey)|45. Guykarri(Dolphine)|47/49. Djarrak(Seagul)|51-52. Gathaka(Sooty Oystercatcher)|54-55. Gudurrku(Blorga)|57. Gapu(Saltwater Current)|59-61. Wapurrarr(Calm Glassy Water)|63-69. Waltjan(Rain)|71. Yukuwa(Chewy Yam)|73. Yam|74-76. Ngerrk(White Cockatoo)|78-86. Djamba(Platform for the deceased)|87. Djamba|89. Warrakan(Bird)|91. Ngapa-Gapu(The Salt Water)|93. Gapu-Rangi(The Shorewater)|95. Gapu(Saltwater)|97/99. Larrtjanga Style
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1. Talk
イダキに使われる特定の木の種類、Gadayka(Stringybark-Dhuwa)、Gungurru'(Wollybutt-Yirritja)、Badawili(Bloodwood)があげられおり非常に興味深いが、残念ながらG畦pu'クランの言語Dhanguで話しているため、理解不能。
2-3. Guykarri(Dolphine)
Dolphineソングのマウス・サウンドを息子のLarrtjangaが歌っている。
4. Guykarri(Dolphine)
イルカが浮上する時、その泣き声は海の彼方にあるというBurralku島(西洋人にとっての天国のような場所)に人の霊を返している。イルカは上に向かって鳴き、雲は島から離れて海面にたたずみ、イルカ達は別れ、あっちへ行き、こっちへ行き、泳ぎ、深く潜り、そして空中に跳ね上がる。DjaluがLarrtjanga(以下Larry)にGuykarriの曲を演奏するようにうながしている。
5-6. Yinydjapana(Dolphine)
ライナーなし。Larryによるイルカの曲Yinydjapanaの演奏を2曲収録しており、いずれも20秒程の短い曲で、イントローメインーエンディングというシンプルな構成になっている。クラップスティックが入っていないため不明だが、おそらく3拍子の曲をイダキは全て「DoronDituDoron」のような3連で演奏していると思われる。特にコール部分などに若さが溢れるダイナミックなLarryの演奏を聞く事ができます。
『Contemporary Master Series 6 : Djalu 2』(CD 2003 : YYF)のトラック23、25ではDjaluの演奏する「Yinydjapana(イルカ)」ソングが収録されている。
7. Talk
Djaluが「Ngati(鳴き声)」を含んだDjarrak(かもめ)のリズム・ソングを歌うように言う。かもめは人々が踊っているのを表わしていて、彼等はイルカを追い、イルカは空気を吸うために浮上する時に鳴く。
8. Djarrak(Crested Tern)
ライナーなし。Djarrakはカモメといわれることもあるが、ここではアジサシというカモメに似た鳥になっている。Djarrakのリズム・ソングを息子のLarrtyが歌っている。タイトルではDjarrakとあるが、この曲はDolphineではないかと思われる(不明)。
9. Djarrak
Larryによる演奏。「Du-, Du-, Du- Du-」という連続した長いトゥーツの音が特徴的。まるで裏拍から曲をスタートさせているかのようなトリッキーなイントロの部分は、まさにLarryらしい即興である。この曲の解釈は4/4か3/4か微妙だが、感覚的にはメイン部分は4/4、ブレイクとエンディングは3/4にすると演奏しやすいため、この構成じゃないかなと思われるが不明である。イダキは全体を3連で演奏しており、トゥーツを含んだ2拍3連を「2+3+3+1+1+2」や「2+3+3+4」などで割っている即興的なリズムはかなり渋い。即興性の高いすばらしい演奏です。
10. Talk
DjaluがWuduku(漂流する木)を紹介、Wudukuが凪の水面に浮かんでいる。
11. Wuduku(Driftwood)
Larrtyが歌うWudukuのマウス・サウンド。
12. Wuduku
ライナーなし。ここでもトラック9と似通った「Du-, Du-, Du- Du-」という連続した長いトゥーツの音がブレイクとエンディングで使われている。このLarryの演奏はかなりストレートな4/4で「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」というオーソドックスな曲展開で、「Ditu Doron Doron」といった他の曲でもよく使われる基本的な3連をベースに、様々な即興的バリエーションを次々と変化し続けるように演奏しており、そのサウンドを聞くと、まるで流木が川の流れの中を浮きつ、沈みつしながら流れているようなイメージを感じさせる。「Dupu Dupu Doron」といったかなり高度な演奏リズムが光る。
13. Talk
DjaluがMokuyのリズムを紹介。「Mokuy(Spirit People)」とは亡くなった人の霊をいう。
14. Mokuy(Spirit People)
ライナーなし。滑舌の良さがはっきりとわかるLarrtyが歌う「Mokuy」ソングのマウス・サウンド。トゥーツの部分を「Dut」といったサウンドで発音しており、それが他のドローンの部分より多少力強く発音されている。トラック15に収録されているDjaluの同じ「Mokuy」ソングのマウス・サウンドと比べてその差を聞いて欲しい。
15. Mokuy
Djaluが歌う「Mokuy」ソングのマウス・サウンド。ドローン部分を「Tet Tere Tet Tere」といった音で表現しているのが彼の個性的なサウンドに影響していると思われる。トゥーツの部分はLarry同様「Dut」といったサウンドで発音されている。コール部分は「Turu-turuturuturu」や「Toro-torotoro」などと舌を激しくシェイクさせた音で表現されており、『Songs from the Northern Territory』など60年代の北東アーネム・ランドのディジュリドゥ奏者のマウス・サウンドとも共通点を感じる独特なマウス・サウンドである。同一の曲に対するLarryとDjaluのマウス・サウンドを聞けば、かなりの相違点に気付くだろう。それぞれの音に対するプレーヤーの受け取り方、年齢やクラン、趣向性や個性、そして地域性など様々な要素がマウス・サウンドにかかわっているようだ。
16. Mokuy
Larryによる演奏。クラップスティックの入り方とイダキのリズムのマッチングがすばらしいリズミックな曲で難易度の高い曲になっている。イントロ部分が曲の頭から入っていると考えれば、4/4の4小節周期で曲が展開しており、その4小節が2小節づつに別れて対になっているという構造である。基本的には2小節目の3拍目にクラップが入り、3〜4小節は、4小節目の4拍目以外の4分(音符)には全てクラップが入る。この2小節目の3拍目のクラップスティックの直前にはトゥーツや「Ditu」といった強調的なサウンドをディジュリドゥで演奏され、その後7回クラップスティックが演奏される。
この妙な雰囲気をかもし出すリズム割りを聞けば、この歌のテーマ、人に害をもたらすという死者の霊「Mokuy」が、抜き足差し足近付いて来て、パッと急に動き出す、そんなイメージを抱かせるような非常に説得力のある超絶ディジュリドゥ・ソロ! 名曲です。
17. Talk
DjaluがGudurrku(Brolga)を紹介。
18. Gudurrku(Brolga)
DjaluがGudurrku(Brolga : 豪州ヅル)のリズム・ソングを歌う。
19. Gudurrku
トラック16の「Mokuy」ソングと非常に似た曲構成とリズムになっている。曲中2箇所の激しいコール部分が印象的。また、トラック16よりもより複雑な場所でトゥーツを使ったり、アクセント部分をすかしたりとハイ・センスなLarryの即興演奏である。ほとんど同じだが、曲名が「Mokuy」と「Brolga(豪州ヅル)」で違うのが不思議である
20. Gudurrku
DjaluによるGudurrkuのバリエーションのリズム・ソング。
21-22. Guddrrku
ライナーなし。LarryによるGudurrkuのバリエーション演奏。トラック21では、3/4拍子の曲で2小節(6拍)周期で曲が展開しており、全て3連符で演奏されている。時にトゥーツをともなった2拍3連の部分は非常に印象的で他の歌の伴奏でもよくみられるリズム・パターンである。「イントロ+メイン+エンディング」という短い構成になっている。
メイン・パートの最初の1小節目では、「Dherei Doron Doron」といった舌をカールバックさせた3連符だが、ほぼ「Ditu Doron Doron」と聞こえるくらいのアタック感のあるダイナミックな舌の動きになっている。
トラック22も3/4拍子の曲で2小節(6拍)周期で曲が展開していると思われるが、クラップスティックが入って来るまでの部分が長いため、どこまでをイントロとみなすのかが不明なので断定することはできない(7拍子というとらえ方もあるが、可能性は薄いと思われる)。トラック21同様全て3連符で演奏されている。
このバリエーションでの特徴は、「長いイントロ」、もしくは「イントロ+クラップスティックを伴わないディジュリドゥのみのパート」の後に短くダイナミックなトゥーツを多用したクラップスティックを伴うパートがエンディングまで続いていることである。
23. Talk
24. Guddrrku
ライナーなし。Larryによる演奏で、トラック名は「Gudurruku(ブロルガ)」ソングとなっているが、トラック26/28と比べれば「Gathaka(Sooty Oystercathcer : ススイロミヤコドリ)」ソングの伴奏のリズムと同じである。クラップスティックの基本リズムが非常に特徴的で、3連で「1 2 ・、 1 2 ・、1 ・ ・、 ・・・」(「・」は休符を意味しています)という4/4のリズムになっており、ハネるような印象を与えている。
声が入らないコール部分があり、それがブレイクとエンディングに入るための合図になっていて曲展開が非常にわかりやすい。クラップスティックとイダキのリズムだけで、ススイロミヤコドリが浜辺で2歩ギャロップで駆けて、次の1歩で止まるようなイメージを感じさせる、またエンディング部分ではまるで鳥が飛び去って行くようなイメージを抱かせ、この曲独特の雰囲気をかもし出している。
25. Talk
26. Gathaka(Sooty Oystercatcher)
ライナーなし。トラック24の「Gathaka(ススイロミヤコドリ)」ソングのヴァリエーション。トラック24よりもシンプルな即興的要素と曲展開になっているため、この曲自体を理解しやすい。
27. Talk
28.Gathaka
ライナーなし。トラック24/26のバリエーション。Larryが3曲のバリエーションの中で最も複雑な即興的演奏をこのトラックでしている点に注目したい。特に、イントロ部分を1拍休んでからスタートさせるというトリッキーな方法で曲をはじめている点がまさにヨォルング的な即興センスである。また曲中、ブレイク前の合図を2倍の長さで行っているのも興味深い。
Djaluの兄Gurritjiri(ソングマン)とDjaluによる『Contemporary
Master Series 2: WALUKA』(CD 2001 : YYF)のトラック11と12でも「Gathaka(ススイロミヤコドリ)」ソングをソング・サイクルの中で演奏しているのを聞くことができるが、クラップスティック、イダキともに異なったリズムで演奏されている。
29. Talk
30/31. Djarrak(Crested Tern)
Larryの演奏による「Djarrak(Crested Tern : アジサシ)」ソング。クラップスティックとイダキともに、トラック16の「Mokuy」ソングや、トラック19/21/22の「Guddruku(ブロルガ)」ソングに似たリズム。
Djaluによる「Djarrak(アジサシ)」ソングの演奏がトラック47/49に収録されており、ここでLarryによって演奏されている曲展開とリズム・パターンと似たヴァリエーションを演奏しているので比較してみて欲しい。
32. Djarrak
Djaluが歌うDjarrakのマウス・サウンド。Djalu自身の特徴的な歌い方がよくわかる。「Duru Teredi-ro Teredi-ro」といった舌をシェイクさせる動きが独特。
33. Djarrak
ライナーなし。LarryによるDjarrakのバリエーションの演奏。トラック30/31とはうって変わって、ゆったりとしたテンポでの演奏になっている。コールや「Dituro」といった舌を一番前に出したアタックの強いサウンドをクラップスティックの入る直前に入れ、クラップスティックと同時にはイダキの音が入らない、BPM20-25くらいのゆっくりのテンポの時に頻繁に見られる曲のパターンである。それゆえにクラップスティックの音がはいる間尺には大なり小なり幅の差がある。このような超低速の曲をどのような感覚で演奏しているのかは不明だが、ここにもヨォルング的な曲のセンスがあるのは間違いない。
ミドル・テンポの「Djarrak(アジサシ)」ソングは『Contemporary
Master Series 6 : Djalu 2』(CD 2003 : YYF)のトラック28/30にDjaluによる演奏が2曲収録されている。
34. Talk
11.
35. Wuduku(Driftwood)
ライナーなし。Larryによる演奏。トラック12にも同じ「Wuduku(流木)」ソングが収録されているが、テンポと曲構成が異なっている。このトラックでは非常にゆっくりのリズムで「イントロ+メイン+エンディング」というシンプルな構成になっている。『Contemporary
Master Series 6 : DJALU』(CD 2003 : YYF)のトラック36ではDjalu自身が演奏しているスロー・テンポの「Wuduku」ソングが収録されており、これは完全に4/4で演奏しているが、ここでのラリーの演奏はクラップスティックの音の代わりに指でイダキの側面をタッピングする音がかなり小さい音で入っていて、聴感上では4+4+3の11拍周期のように感じるが、正確なリズムはわかりにくい。「Dherei-ro」といったマウス・サウンドの「ro」の部分で十分に喉を開いて、多少低い声が薄く入っている点と、高い声でコールを入れるクラップスティックの半拍前の部分にヨォルングらしい音楽的センスを感じさせる。
G畦pu'クランの長老兄弟による『Comtemporary Master Series
2 : WALUKA』(CD 2001 : YYF)のトラック9-10では完全なソング・サイクルの中でDjaluが演奏する「Wuduku」ソングが収録されているので、歌の伴奏として演奏しているイダキをこのソロと比べてみてほしい。
36. Talk
Djaluが「Mimarr」のリズム・ソングを歌う。「Mimarr」は流木を運んでいく強い水の流れを表わしている。「この曲はおまえの曲だ。わしのスタイルじゃない。本当に早い曲だから、早いスピードで演奏しなさい。」とDjaluが述べている。
37. Mimarr
ライナーなし。Larryの演奏による「Mimarr(流木をおしながす強い水の流れ)」ソング。4/4拍子で2種類の展開があり、クラップスティックが4分(音符)で入るファスト・パートではコールが多用され、スロー・パートではクラップスティックが小節の頭に1回だけ入り、その頭の半拍前にコールが入る。「イントロ+(速+遅)x3+速エンディング」という構成で、通常のクラン・ソングの伴奏用というよりもソロ・パフォーマンス用に演奏しているのではないかと思われる。パワフルなコールを多用しても低音のドローンは安定している。絶え間無くリズムパターンのアクセントを少しずつ変えている点にも注目したい。
38. Water
Djaluによるリズム・ソング。コール部分がDjaluらしい。腹から息を出している瞬間がわかる。
39. Water
ライナーなしLarryによる「Water」の演奏。コールを連続的に多用した曲で、歌の伴奏ではあまり聞かれないタイプの曲調。どちらかといえばデビッド・ブラナシのブロルガ・ディンゴ・ワライカワセミのソロ3曲に見られるようなソロ・パフォーマンス用の曲といった印象を受ける。常に一定のプレッシャーをキープしつつ、激しいコールを演奏しても唇はきっちりと一定のサイズにホールドされている。若さ溢れるラリーの爽快なイダキ・ソロ。
40/41/42. Guku(Sugarbag,Wild Honey)
トラック41と42でDjaluが歌う「Guku(5種類あるユーカリの木の空洞部分に住む針をもたない小さな黒いハチの総称)」のマウス・サウンドを聞くことができる。Gukuは巣から飛び出していく、その精霊は踊る。Gukuはヨォルングの人々を表わしている。
43. Guku
LarryによるGukuの演奏。「Dron Dron」と連続して演奏される時のスムーズな舌と喉の動きの連動に卓越した演奏能力を感じさせる1曲。ブレイク部分のみにクラップが入り、その山場感がたまらない。
44. Talk
45. Guykarri(Dolphine)
Djaluの演奏「Guykarri(イルカ)」ソング。以前に「Yinydjapana」という名前がイルカに使われていて不思議に思うかもしれないが、ヨォルングは一つの生き物に対してたくさんの名前を持っている。YinydjapanaとGuykarriは外向きの名前で、他にも儀式用など様々な呼び方がある。
ライナーではタイトルがGuykarriになっているが、その内容は空を旋回し、「Yinydjapana(イルカ)」にむかって鳴いている「Djarrak(Crested Tern : アジサシ)」の歌だとも書いてあり、正確な曲のタイトルは不明である。
このCDに収録されているDjaluの演奏では最も長い曲で約2分程演奏している。おそらく3連であること以外に小節の長さなどには規制が無いようだ。常に薄くヴォイシングしたDjaluの奥深い倍音感覚がちりばめられた演奏で、太く繊細で多重的な様々な倍音が同時に聞かれる。トゥーツを4回繰り替えしているのが非常に印象的です。
「Guykarri」ソングは『Contemporary Master Series
2 : WALUKA』(CD 2001 : YYF)のトラック4、5、6にも収録されていて完全なソング・サイクルの中で演奏されている。
46. Talk
47. Djarrak(Seagul)
ライナーなし。Djaluの演奏する「Djarrak(Crested Tern : アジサシという海鳥)」ソング。様々なアボリジナルのフィールド録音のCDやレコードに収録されている、割にポピュラーなテーマの曲なようで、他のCDではアジサシという特定種の鳥ではなく、単にカモメの曲とされていることが多い。
このトラック47、49のDjaluが演奏するミドル・テンポの「Djarrak(アジサシ)」以外にも、このアルバムのトラック30、31にはかなりスピーディーなバージョンが、そしてトラック33にはスロー・テンポなバージョンが息子のラリーによって演奏されており、それぞれスピードの違いによって曲から受ける雰囲気が違う。
トラック47のバージョンでは、ラリーの演奏しているトラック30、31と同じ曲構成で、そのテンポの遅いバージョンのようだ。Djaluらしい、ガッチリとした構成の中で即興的なリズムのバリエーションを巧みに操る機智に富んだ演奏である。曲構成は非常にシンプルな「イントロ+メイン・パート+エンディング」で、全体を通して非常に規則的なクラップスティックのリズムに支えられた即興演奏になっている。4/4拍子の2小節周期で曲が展開し、中でも「1 ・ 3 4 5 6 7 8」とたたき、次の小節の頭までたたくクラップスティックの固定のリズムは単純ながらイダキの演奏がそれに加わることでかなりダイナミックな効果を引き出している。
48. Talk
49. Djarrak
ライナーなし。Djaluの演奏する「Djarrak(Crested Tern : アジサシという海鳥)」。基本の構成はトラック48と全く同じだが、こちらのバージョンの方がより複雑なイダキのリズムになっている。クラップスティックは4分(音符)をベースに進む中、イダキは8分(音符)ベースになっているのはトラック48と同じだが、それに加えて8分を3割りで演奏したり(123 123 12)、3連の「Da-ru」というフレーズを意図的に小節の最後から次の小節にまたがるように演奏したりと、かなりトリッキーな即興演奏になっている。北東アーネム・ランドのイダキ・マスターたる由縁をこの短い曲中に見ることができる。
50. Talk
51/52. Gathaka(Sooty Oystercatcher)
ライナーなし。Djaluの演奏する「Gathaka(ススイロミヤコドリ)」ソング。4/4拍子の曲で、ブレイクまでクラップスティックなしで曲が進み、クラップスティックとイダキは共に8分(音符)で演奏されている。
トラック52はDjaluの演奏する「Gathaka(ススイロミヤコドリ)」ソングのバリエーション。トラック51と構造上の違いは無いが、エンディングの部分で意図的にクラップスティックが入る場所に対してイダキのアクセントが入る場所が重ならないようにずらしていたり、あからさまにエンディングだとわかるような連続的なコールが使われている。
同じアルバムのトラック24、26、28にはラリーが演奏する「Gathaka」が収録されているが、曲の構成は大分違う。『Contemporary Master Series 2 : WALUKA』(CD 2001 : YYF)のトラック11と12にも合計7曲収録されており、曲の雰囲気はこちらに近いが、クラップスティックのリズムとイダキのリズムは違っている。
53. Talk
54/55. Gudurrku(Blorga)
Djaluによる「Gudurrku(ブロルガ : 豪州ヅル)」ソングの演奏。トラック54、55ともに3連をベースに3/4拍子でイダキが演奏されていると思われる。「イントロ+メイン・パート+エンディング」という基本的な曲構造の1分未満の曲で、特徴としては、コールをあまり使わずに「Doro Dupu Dhere」といった3連の真ん中にトゥーツが入ったリズムを中心にメインの部分が組み立てられており、「DaruDa-ru DaruDaruDaru」といったコールがエンディングへの合図として使われているという点があげられれる。
このアルバムのトラック19、20、21にはラリーが演奏する「Gudurrku(ブロルガ)」が3曲収録されており、いずれもかなり速いテンポで演奏されている。
56. Talk
57. Gapu(Saltwater Current)
Djaluによる「Gapu(潮の流れ)」ソングの演奏。同じ曲をラリーがトラック95で2拍3連ベースで1分程の少し速めのテンポで、そしてトラック97でこれも3連での速めのスピードで4分というイダキ・ソロとしては珍しい長さで演奏している。
ここでのDjaluの演奏ではラリーのバージョンとは違って4/4拍子の8分(音符)で演奏している。「Dupu Tere Dupu Tere」といったようなリズムで、トゥーツを表拍を中心にたたみかけるようにちりばめた曲調になっている。主観的な観点から見ると、強拍を表拍に入れ続けることで波が次々と速い周期で押し寄せるようなイメージをこの曲から感じる。ミドル・テンポでの安定した70才超える老人とは思えない力強い演奏。
58. Talk
59/60/61. Wapurrarr(Calm Glassy Water)
Djaluの演奏する「Wapurarr Gapu(凪の時にガラスのように穏やかな水面)」ソング。26秒と非常に短い、スロー・テンポの3連の曲で、特筆すべき点はクラップスティックの後に3連の半拍休符が存在し、「Tereiro-」といったイダキの音はクラップスティックとオン・タイムではなく、3連の半拍後になっているように感じられる。ヨォルングのスロー・テンポの「Manikay(歌という意味。主に北東アーネム・ランドのクラン・ソングを表わす言葉として民族学者達は使っている)」に多く見られる特徴で、ブロルガやモーニング・スターなどの曲の遅いバージョンでも聞かれる。
トラック61はトラック59のバージョン違いで、トラック59のイントロではクラップスティックと重なって「Ditu Ditu Dherei」といったリズムが演奏されたのちに、メインのパートから突然3連の半拍ずれたリズムになるが、トラック61ではイントロの頭から終始意図的にずらした演奏がされている。
メイン・パートではシンプルに「・Tereiro-(・は半拍休符)」といったリズムのみが演奏されているが、「・Tereiro-O」といった感じで「ro-」の後に低い声でのヴォイシングがなされている。おそらく、これはシンプルなクラップスティックのリズムにこの複雑なイダキのリズムをからめるメトロノーム的な役割を果たしていると思われ、この声を入れた「O」という音の直後に間髪入れずにクラップスティックがたたかれている。
62. Talk
63-69. Waltjan(Rain)
ライナーなし。Djaluの演奏する「Waltjan(雨)」ソング。トラック63も前述の「Wapurarr」ソングと同様のクラップスティックとイダキの関係になっている。イダキ奏者の演奏感覚としてはこむずかしく演奏しているのではなく、どうも「Tere TereiRo」といったリズムの「Ro」の直後にクラップスティックが入るというような感覚で演奏しているように思われる。ただどういった意味をこめてこのような一風変わった伴奏をするのかは非常に気になる点でもある。
トラック65はDjaluの演奏するトラック63よりもテンポ・アップした「Waltjan(雨)」ソングの別バージョン。遅いテンポで噛みしめるかのように、ひとつずつの音をタメの効いたリズムで演奏しており、若者が絶対にまねることのできないDjaluのイダキ奏者としての歴史と風格を感じさせる演奏。
スローな4/4拍子に8分(音符)をベースにイダキのリズムが展開しており、その中に時折「Da-ruDa-ruDupu」といった2拍3連を混ぜ込んだり、中盤で一回だけ4分(音符)で「Dherei-」という踏み付けるような力強いサウンドを盛り込んだりしている。たった30秒の曲にここまでもりこめるセンスに脱帽する。
トラック67は曲構成、テンポなどほとんどトラック65と同じだが、曲中に2拍3連のリズムは意図的になのか使われておらず、逆に8分(音符)を強調するかのように「DupuTere DupuTere」というリズムが中盤で繰返されている。
ミドル・テンポになり、曲調が一気にガラっと変わるトラック69では、今までの短い「イントロ+メイン+エンディング」という曲構成とは異なり、「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」とう構造になっている。6/8拍子になっているようで、メインの部分では3連で演奏され、ブレイク部分で劇的に3連を2拍3連ととらえた時の2拍のビートで「Da-ru Da-ru Da-ru Daru」とはいる部分は鳥肌ものである。
こういった6/8ベースで、3:4のリズムのジャンプというのはアーネム・ランドのアボリジナルの音楽、特にイダキの伴奏を伴ったダンス・ミュージックにおいて広く見られる。おそらくこの劇的な変化の時に合せてダンスもダイナミックな踊りへと変化するのだろう。卓越したリズム感覚を駆使した名曲です。
70. Talk
71. Yukuwa(Chewy Yam)
このトラックでのイダキの演奏者Barrnyu`nyu` Wunu\murraはYirritja半族Dhalwanguクランの男子で、彼はDhuwa半族ではないのでDjaluとは親子という関係は成り立たず、親類関係上はDjaluのいとこに当たる。
Barrnyu`nyu` の演奏する「Yukuwa(ヤム・イモ)」ソングは、クラップスティックをベースに考えると3/4拍子でイダキが8分(音符)になるが、イダキのメインのリズムは固定的なので6連フレーズとしてとらえた方がわかりやすいかもしれない。割りは「12+1234」で「1」の所にクラプスティックが終始入り続ける。
フレーズの頭の部分を「DoronDitu」、もしくは「DhereiDitu」ではじめる事で高音域の倍音がメロディックに変化している点を注意して聞いていただきたい。また、彼の演奏スタイルで最も際立っているのは「Ditu」というアタックの強いサウンドの切れ味である。非常に滑舌の良い舌の動きがサウンドに如実に現れている。
72. Talk
73. Yukuwa or Ngerrk
Barrnyu`nyu` による演奏。ライナーではタイトルが「Yam」で、解説では「Yukuwa(ヤム・イモ)」と「|errk(ホワイト・カカトゥ)」を演奏していると書かれており、はっきりした曲名は不明だが、トラック71とほぼ同じ曲構成。トラック71よりもテーマ的なフレーズがより即興的に変化させて演奏している。その分トラック71で見られた高い倍音域のミニマルな変化はなくなっている。
74/75/76. Ngerrk
Barrnyu`nyu` の演奏する「|errk(ホワイト・カカトゥ)」ソングのバリエーションがトラック74-76に4曲収録されており、それぞれが20秒以下の短い曲になっている。
2/4拍子で4分(音符)のクラップスティックにイダキが8分(音符)で演奏されている。トラック71/73で6連フレーズで演奏されていた「Yukuwa」ソングと雰囲気が非常に似ているが、「|errk」ソングでは2ビート感たっぷりでより躍動感のあるサウンドになっている。
トラック74ではイントロ部分は特に秀逸で、「Dereiro」という短いフレーズを裏拍からスタートさせ、連続して演奏したのちに、さらに裏拍にトゥーツを入れて裏拍を強調した上で、表に強拍を置いたメイン・パートのフレーズへと移行している。
トラック74のバージョンではメイン・パートにトゥーツがふんだんに散りばめられているのに対して、トラック75のメイン・パートでは全くトゥーツが使われずに、エンディングの部分のみにトゥーツが使われている。「Dit」という強拍をつけたサウンドが美しい。
トラック76のバージョンもほぼ同じだが、なぜかエンディングを前にしてクラップスティックのビートが途中で抜けている。2ビートの中で3割りフレーズ「DituroDituroDoro」(3+3+2)が一度だけ使われており、若さ溢れるストレートな演奏の中にも即興的演奏がなされている。
77. Talk
78-86. Djamba(Platform for the Deceased)
「Djamba」とはタイトルの英語を直訳すれば「亡くなった人を祭る祭壇」となるが、これでは何の事かわからないので、『Songs
of Armhem Land』(LP 1958-60/1966 : AIAS)のライナーから民族学者Lester Hiattの文章を下記に引用しました。
「まず最初に浅く掘った墓に死骸を埋めるか、木の祭壇に死体をかかげる。2〜3時間後に近親の男達が死体を葉っぱでみがく。その1週間ほど後に、死者のコミュニティの人々は、死者の持ち物を燃やし、近親の者達に水をかける。数カ月後、人々は乾燥した骨を取り出し、コミュニティにその骨を持ち帰り、近親者達がその骨を数年間保存しておく。最終的に、「Log Coffin」と呼ばれる中が空洞になった木を使った棺桶にその骨を安置し、それは埋められるか、もしくは地面に立てた状態で放置される。-Lester Hiatt」 |
上記の引用文の中の「木の祭壇」がおそらく「Djamba」ではないかと思われるが、これは中央アーネム・ランド北部の「Burara」と呼ばれる例であるため、明確ではない。
Barrnyu`nyu` の演奏する「Djamba(死者の祭壇)」ソングのバリエーションがトラック78-86に5曲収録されており、78、80、82は伝統的な演奏のバリエーションで、84はBarrnyu`nyu` 自身のスタイルでの演奏、そして86はラリーのスタイルでの演奏が収録されている。トラック80と86ではタイトルが「Djambu\」になっているが、そういった言葉はヨォルングの言葉には無いらしく、「Djamba\」ならばインドネシアのスラウェシ島の漁民マカサンがもたらしたタマリンドの木を意味する言葉になるが、ここでは「Djamba」の間違いであろうと思われる。
トラック78のバージョンではクラップスティックがブレイクとエンディングのみに入るので2/4拍子か4/4拍子ベースどちらか不明だが、おそらく2/4拍子を基本ビートにして演奏されており、メインの部分では「4+5+3」という割りになった基本リズムを即興で変化させて演奏している。ブレイク部分でのリズム・チェンジがヨォルングらしい曲展開になっており、ここで激しいダンスが行われるのだろうと思われる。基本リズムが全て頭にかえってくるようになっているのもすばらしい。
トラック80のバージョンは、トラック78と同じ「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」という曲構成で、リズムのバリエーションもほぼ同じ。
トラック82のバージョンは、ミドル・テンポの3/4拍子でクラップスティックが4分(音符)で「1 2 ・」(・は休符)と入り、それに対してイダキは8分(音符)で展開している。今までのバージョンのブレイクとエンディング部分ではコールが合図になっていたが、このバージョンからはメイン・パートでコールが多用され、エンディングのみトゥーツが使われている。曲の構成は「イントロ+メイン+エンディング」という半分の構成になっている。
トラック84のバージョンはBarrnyu`nyu` 自身のスタイルでの演奏。トラック82のバージョンと同じリズムで構成が2倍の「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」で演奏されており、即興性が最も高く、スピードも格段に速く演奏されている。唇のタイト感はその分薄れた感じになっている。また、前半のメインの部分ではコールを少なくし、ブレイクでコールを使い、後半のメインの部分でコールを多用し、エンディングをトゥーツで終えるという曲後半に向けて盛り上がって行くという曲の構成力の高さを感じさせるイダキ・ソロである。
トラック86は、Djaluの提案によりBarrnyu`nyu` はラリーの演奏スタイルを模倣して演奏している。具体的にどういう風に彼がラリーの演奏スタイルの特徴をとらえているのかがわかり非常に興味深い。連続的に使われるコールや、単発でのコールのダイナミズムを自分の演奏より力強く演奏している。後半部分のコールを使ったリズム割りは確かにラリーらしい即興センスである。
87. Djamba
Djaluの演奏する「Djamba(死者の祭壇)」ソングのイダキ・ソロ。トラック86でBarrnyu`nyu`が演奏したラリーの演奏スタイルを模倣した演奏に応えるような演奏。連続的なコールが聞かれ、長老のDjaluが若く、パワフルな演奏スタイルで「Djamba」を演奏している。粒のそろった多重的な複数の倍音を同時に聞くことができ、また音そのものが猛烈に太い!まさにDjaluならではのサウンドである。コールの時の倍音成分もきらびやかで、音に濁りが無く、一貫して乱れの無い唇の感覚が伝わってくる。常に均一な倍音をコントロールしている驚異的な演奏スタイル。
88. Talk
89. Warrakan(Bird)
Djaluの演奏する「Warrakan(全ての陸地もしくは海のほ乳類とヘビ以外の爬虫類と鳥類を表わす言葉)」ソング。トラック88のライナーで「Gudurrku(ブロルガ : 豪州鶴)」を紹介している事と、曲調からもブロルガを演奏しているのではないかと思われる。「イントロ、ファスト・パート+ブレイク、スロー・パート+ブレイク、ファスト・パート、エンディング」という構成の曲で、2/4拍子で演奏されていると仮定すると、便宜上スローとしている部分でクラップスティックが2小節区切りの頭だけでたたかれ、ファストとつけた部分では4分(音符)でクラップスティックがたたかれているという事になる。
スローな部分でのコブシの聞いた「Ditu」といった舌を一番前にもってきている強いサウンドがたまらない。また長いコールの後に、次の展開へと移るきっかけとしてトゥーツをふくんだ1小節の短いフレーズが演奏されているが、そこから小節の頭へと戻って行く感じがうまく表現されている。
90. Talk
91. Ngapa-Gapu(The Salt Water)
ライナーなし。Djaluの演奏する「Ngapa-Gapu(海水)」ソング。Djaluの他のどのアルバムにも収録されていない曲。4/4拍子の曲で、クラップスティックとイダキいずれも8分(音符)をベースに演奏されている「イントロ+メイン+ブレイク+メイン+エンディング」という構成。かなり複雑な舌の動きを使って、細かな音色の変化をつけて演奏していると思われ、随所で微妙に声を入れてもいる。エンディングの部分では、16分(音符)裏からコールが入り次の小節の1拍目にまたがるフレーズを即興演奏しており、かなり高度なリズム感覚を感じさせる。
92. Talk
93. Gapu-Rangi(The Shorewater)
ライナーなし。Djaluの演奏する「Gapu Rangi(浜辺にうちよせる水)」ソング。この曲もDjaluの他のどのアルバムにも収録されていない。4/4拍子の曲で、メインのパートでは小節の頭だけにクラップススティックが入り、ディジュリドゥは4分(音符)をベースに演奏されている。ブレイクとエンディングではメイン・パートの2分(音符)の速度を4分にみたてた4/4拍子になっており、ここでのクラップスティックは「1 2 3 ・」(・は休符)というリズムで演奏され、これを1小節と考えるとメインの2小節がブレイク/エンディングの1小節にあたることになる。
メインのパートとブレイクのパートでは小節の取り方とクラップスティックの入り方が異なっており、それによりブレイク/エンディングの部分に楽曲的な躍動感を与える曲構成になっている。常にメイン・パートの4拍目からブレイク/エンディングが開始されており、これが非常にトリッキーな雰囲気を与えている。またイントロでは3連ではじめている点も渋い。
94. Talk
Gapu(水)のリズム・ソングをDjaluがLarryに聞かせている。
95. Gapu
ラリーによる「Gapu(潮の流れ)」ソングの演奏。トラック57ではラリーのバージョンとは違って、同じ曲をDjaluが4/4拍子の8分(音符)で演奏している。トラック95のバージョンでは、30秒づつ程の2部構成になっており、全てにおいて4/4拍子の2拍3連で2小節をひとくくりにして曲が展開しているようだ。
「潮の流れ」を表現する上でずーっと周期的に演奏されているトラック57と比べて、トラック95ではブレイク部分で2拍3連の最後にトゥーツをもってきて、小節の頭だけにクラップスティックが入るがイダキは2拍3連のままという「ぶつかる」ような感覚があるため、何か岩などに波がぶつかっているかのようなイメージを抱かせる曲展開になっている。
また後半では「 DupuDupuDupu DupuDupuDoDhi turoDupuDoron」といったドローンとトゥーツを切り替える事ができるスピードの限界くらいの速さでトゥーツを連続的に繰返して楽々と演奏している部分や「DoDoDoDhituro」といったすばやい舌の動きでドローン部分をカットしたラリーならではの即興演奏を聞くことができる。若さ溢れるタイトな演奏!
96. Talk
97. Larrtjanga Style
「Gapu」をLarryのスタイルで演奏。4分という長きに渡るイダキ・ソロは、おそらく北東アーネム・ランドの曲の伴奏用の曲では無く、イダキのみで演奏するための曲、もしくは同じソング・サイクルの曲をメドレー的につなげて演奏しているのではないかと思われる。
彼自身が自分のスタイルで演奏する時はかなりミニマルな即興演奏をしており、数回のフレーズ毎に基本のリズムを壊さないような微妙なリズムの変化をつけて演奏しているようだ。曲をインプロバイズするいいお手本的な内容。
98. Talk
99. Larrtjanga Style
自分のスタイルでのラリーの演奏。前述のトラック97と同様の5分程のイダキ・ソロを演奏しており、より自由に気の向くままに演奏しているような印象を受ける。パワフルなコールを演奏しても崩れることのない倍音成分を常に聞くことができ、それはまさに彼がタイトな唇をキープし続けるだけのコントロールを自分の演奏の中に強いている事の証明である。
Djaluに比べるとラリーの演奏は舌の動きと即興的リズムの変化のバリエーションがシンプルな気がするが、それが逆にミニマルでトランシーな演奏になっていてラリーらしさを感じさせるのである。若きイダキ・マエストロの最も充実した体力と気力の満ちあふれる時期を切り取ったすばらしい超絶イダキ・ソロ!
■Djalu Gurruwiwiディスコグラフィー
・『Contemporary Master Series 2: WALUKA Gurritjiri Gurruwiwi
featuring Djalu Gurruwiwi』(CD 2001 : YYF)
・『Contemporary Master Series 3: DJALU-Djalu Teaches and Plays Yidaki-』(CD 2001 : YYF)
・『Contemporary Master Series 6: DJALU -Djalu Teaches and
plays yidaki 2-』(CD 2003 : YYF)
・『DILTJIMURRU-Djalu Gurruwiwi-』(CD 2003 : ON-Records)
・『WANGGANY -Didjeridu Unites Us One』(CD 2005 : Dinkum
Muisc)
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