Ralkurruのオリジナル・ソング「Mamba」はこのシリーズの中でも最も聞きやすく、その伴奏をするYothu Yindiの若きイダキ奏者Narripapa(Nicky)とMalngayの演奏も非常にクール。
■ライナーの翻訳と解説
Rirratjinguクラン(Dhuwa半族)のソングマンRalkurru Marikaのオリジナル・ソングを含むクラン・ソングに、Gumatjiクラン(Yirritja半族)の二人のイダキ・プレーヤーMalngay & Narripapa(Nicky) Yunupinguの伴奏による非常にポップで聞きやすい内容になっている。この二人の若きイダキ奏者は、ともにロック・バンドYothu Yindiのメンバーで、若いイリチャのイダキ奏者らしい演奏スタイルでディジュリドゥを演奏するリスナーは舌を巻くだろう。
葬式の時に演奏されるDhambul(Morning Star : 夜明け前に見える金星)が収録されていたりとソングマンのRalkurru Marrikaのオリジナル曲とRirratjinguクランの曲が多数収録されている。
イダキの音は、ロック・グループYothu Yindiを輩出したGumatjiクランのイダキ・プレーヤーらしい軽快でポップなサウンドで、コンテンポラリーなディジュリドゥの演奏を目指す人にも参考になるだろう。トゥーツの軽さに注目したい、うまさの光る演奏である。曲ごとにどちらが演奏しているのかわからないのが残念だ。
一点だけ難をあげれば、トラック44-47にかなりきつめのテンポディレイが効いていて、それがパンされてしまっており、伝統的なアボリジナルの音を求めてこのCDを買う人には、少しつらいかもしれない。しかしながら、このアルバムで最もすばらしいのはRalkurru Marikaの作曲センスとその歌声で、伝統的なアボリジナルの曲に多少抵抗のある人でもサラッと聞けてしまう程の説得力がある。この『Contemporary Master Series』の中でも最も聞きやすいアルバムです。
下記は8Pブックレットに紹介されている各曲紹介の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナーの翻訳と解説
2. Mamba(Sandcrab)|4. Wuyal(Sugarbag Man)|6-12. Yinydjapana(Dolphin)|14. Nadinynga(Waterhole)|16. Gudurrku(Brolga) I 18. Galkarringu(Crow)|20. Gurrumattji(Magpie Geese)|22. Nowulpul(Ghost Bat)|24. Dhambul(Morning Star)|26. Nganuk(Spirit Man)|28-32. Gamadala(Red Kangaroo)|34-38. Ganambawurru|40. Milika(Butterfish)|42. Malpinymalpiny(Ancestral Sisters)|44. Wuyal(Sugarbag Man)|46. Mamba(Sandcrab)
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
2. Mamba(Sandcrab)
「Mamba」は小さなサンド・クラブ(オーストラリアのワタリガニのようなカニ)で、この歌の中ではカモメがそのカニを捕まえようとしている。カモメはそよ風にのって飛び、カニを捕獲しようと飛び下りる。Ralkurru Marikaの作曲。
上記はライナーの翻訳。アルバム・タイトル、そしてソングマンRalkurru Mamba Marikaのミドル・ネームにもなっているサンド・クラブ「Mamba」の歌。彼の唇を震わせる歌い方が非常に特徴的で、彼のオリジナルの歌。メロディー豊かで力強く、「Mamba」と繰返し歌っている所などは非常に耳につく。イダキもソングマンの力強い歌い回しに合せて、コールを多用した激しい演奏をしている。
4. Wuyal(Sugarbag Man)
Ralkurru Marikaの作曲。「Wuyal-Sugarbag Man : ハチミツを探し集める神。Sugarbag(5種類あるユーカリの木の空洞部分に住む針をもたない小さな黒いハチの総称)の蜜を集めて、Stringybarkの木を石斧で切り倒して旅し、今ある世界の一部を作った先祖の神の一つ。」が、Sugarbagを探してブッシュを通り、森の中を行く。彼はハチを追い、水を探していた。彼が水を見つけた時、その池のために踊りを踊った。
上記はライナーの翻訳。4/4拍子の曲で、クラップスティックの演奏はメインの部分では「1 ・ 2 ・ 」(・は休符)、ブレイク/エンディングでは「1 2 3 ・」という単純なリズムになっているが、メインが4分(音符)、ブレイクが8分(音符)に聞こえて、イダキの演奏はあまり変化しないのに、ブレイク/エンディングの部分だけ全体的に2倍の速度になったように聞こえる。
6-12. Yinydjapana(Dolphin)
Yinydjapana(イルカ)が水の中を泳いでいる。彼女は赤ん坊を産む予定なのである。
上記はライナーの翻訳。DjaluのCDにも多数収録されているイルカの歌。トラック6/8の曲の基本構造はトラック4の「Wuyal」ソングとほとんど同じ。
トラック10は曲の雰囲気、スピードがガラっと変化して3/4拍子の曲になり、イダキの演奏もタイトかつ、かなりスピーディーな3連で演奏されている。ちょうど半分くらいの所からクラップスティックが入ってきて、イダキの3連感が前に出て来てグングンとイルカが泳ぎ進むようなイメージを感じさせる。
トラック12では、さらに曲の展開がおもしろくなる。前半は3/4拍子の4分(音符)に「1 2 ・」(・は休符)とクラップスティックが入り、イダキは8分(音符)ベースにきざむような演奏をしている。そして「イー」と長く伸ばした声を合図にブレイクに入り、後半部分に突入するのだが、なんとテンポは維持したまま2/4拍子に変化し、クラップスティックは8分で「1 2 3 ・」とたたき、イダキは前半同様8分ベースでの演奏で変化しない。ソングマンが自由にのびのびと歌っている印象を受ける。
14. }a[iny\a(Waterhole)
狩人はブッシュや山を超えて「}a[iny\a(池)」を探してやってきた。私が若い頃、この歌を習った。
上記はライナーの翻訳。ミドルテンポの3/4拍子の4分で「1 2 ・」たたくクラップスティックに、イダキも4分ベースでの即興演奏を行っている。メインのパートでは裏拍にコールを入れて裏拍を強調し、エンディングで表拍にトゥーツを入れたリズムで終わるという非常にヨォルングらしい即興センスである。
16. Gu[urrku(Brolga)
「Gu[urrku(ブロルガ : 豪州ヅル)」は、Witchetty Grub(蛾の幼虫。体長12cm太さ3cm程の大きさ)やその他の昆虫を食べながら、ラグーン(潟湖)を歩いている。ブロルガは大地に話しかけ、自分の背後で太陽が輝いている時は太陽に話しかけ、そして踊り、2回、3回、4回と跳ねる。この歌は私の兄弟Dharritharriが作った伝統的なRirratji\uクランの歌である。
上記はライナーの翻訳。前半部分ではかなり遅いBPM20以下の速度での2/4拍子の4分にクラップスティックが入り、イダキはおそらく3連ベースで演奏していると思われる。後半では、前半のテンポの16分以上の速度でクラップスティックがたたかれるテンポへと変化する。後半部分は4/4拍子の4分全てにクラップスティックが入り、イダキはブロルガの鳴き声を模倣していると思われるコールを多用した、ヨス・インディの『Homeland
Movement』(CD 1989 : Mushroom)のトラック8の「Mambulmambul」でミルカイが演奏している基本リズムに非常に似通ったリズムを演奏している。
18. Ga` karri\u(Crow)
「Ga` karri\u(カラス)」は「Wuyal(ハチミツを探し集める神)」が残した残飯を食べるために木から飛びおりる。
上記はライナーの翻訳。3/4拍子での30秒以下の短い曲で、クラップスティックは4分で普通に演奏しており、それに比べてイダキはこの短い間に凝縮された3連のスピーディーな即興演奏をしている。
20. Gurrumattji(Magpie Geese)
ラグーン(潟湖)では、「Gurrumattji(カササギガン)」が話し、「R渓ay(百合の根っこ)」を食べ、その下を掘り、球根を取り出し、食べている。
上記はライナーの翻訳。トラック18同様、30秒以下の短い曲で、ゆったりとした3/4拍子でクラップスティックは4 分で演奏し、歌は2小節周期で曲を展開させているが。イダキは4/4拍子の3小節周期で回しているように聞こえ、また2拍3連の他ではあまり聞かないトゥーツをメインにしたリズムを演奏しており、聴感上ではより2ビートを感じさせる。短すぎて、はっきりした曲の構成は不明だが、陽気なほのぼのとした雰囲気が伝わる名曲。
22. Nowulpul(Ghost Bat)
「Nowulpul(サシオコウモリ)」はSpirit Manをひきつけようとしている。Spirit Manはコウモリ同様、暗闇からやって来ている。
上記はライナーの翻訳。4/4拍子の2小節周期で曲が展開し、クラップスティックは1小節目を8分で、2小節目は2分でたたくという少し変わったリズム。それに合せてイダキも1小節目は3連、2小節目は8分での演奏になっている。30秒以下の非常に短い曲だが、ユニークなセンスがつまっている。
24. Dh稽bul(Morning Star)
これは「Dh稽bul(Morning Star Pole : 2mかそれ以上の長さ、直径3cmかそれ以上の木の棒に、ヒモで鳥のハネをつけた棒でMorning Starの儀式の時に使われる)」の製作について歌っており、大きな儀式、葬式の儀礼の時に人々が歌い、踊る。Spirit Manが「Morning Star(明けの明星 : 夜明けに東の空にのぼる金星)」のために踊っている。
上記はライナーの翻訳。非常に有名なテーマで、葬式など非常に重要な儀礼の時に歌われる。「Morning Star」についての詳しい情報は、『Goyulan-The
Morning Star』(Cassette 1978/82: AIATSIS)、『The Land of
the Morning Star』(LP 年代不明 : His Master's Voice)のライナーの翻訳を参照して下さい。
短いバージョンの「Dh稽bul(Morning Star Pole)」ソングで、ゆったりとした4/4拍子の小節の1拍目だけクラップスティックをたたき、イダキは4分をベースに演奏していると思われる。
26. |系uk(Spirit Man)
「|系uk(Spirit Man)」は、あらゆる種類の果物を集めた後にブッシュから戻って来つつある。彼はGumatjやDha` wa\uクランの人々のような、全てのYirritja半族のクランがどこからやってきたのかという事とMitchell山脈について歌っている。
上記はライナーの翻訳。4/4拍子の3小節周期、つまり12ビートで曲が展開している珍しい曲。ブレイク/エンディングの時に演奏されるクラップスティックのリズムも独特。イダキのリズムも12ビートに合せて、定形のリズムがあり、それを崩さない程度に即興演奏がされている。1曲しか収録されていないのが残念。
28-32. Gamadala(Red Kangaroo)
「Gamadala(アカカンガルー)」はMitchell山脈にいる。彼は火を追い払い、ひっつかんでは食べている(トラック28)。
この節はアカカンガルーの肉を食べるという歌。狩人はカンガルーにヤリを投げ付ける、そしてそのカンガルーを食べる。血と肉を食べる、この部分は長い背中から、生肉を食べる(トラック30)。
人々はアカカンガルーの肉を分け合い、食べている(トラック32)。
上記はライナーの翻訳。トラック28では、常に8分でクラップスティックが鳴らされ、それに妙にずれた状態でイダキと歌がのっている。全体的にオン・タイムでは無いのはわかるが、どのようにずれているのかはよくわからない。
トラック30のバージョンは、ヨス・インディのアルバム『Homeland Movement』(CD
1989 : Mushroom)のトラック6にも「Gamadala(カカドゥにある崖)」というタイトルで収録されているバージョンとほぼ同じで、かなり遅いテンポでたたかれるクラップスティックは時々、クラップスティックでたたける最も速い速度で短く連続的にたたかれ、この部分でどのような踊りが踊られるのか非常に興味をそそられる。
トラック32のバージョンは、ミドル・テンポの曲でヨス・インディの『Homeland
Movement』(CD 1989 : Mushroom)のトラック8の「Mambulmambul」とほとんど同じで、実際に歌詞の中で「Mambulmambul」と歌っているのが聞かれる。4/4拍子の4分すべてに単調なクラップスティックが入り、逆にイダキはダイナミックかつ自由にコールを多用したリズムをのびのびと演奏している。ポップ感のあるイダキのリズムが特に秀逸。
34-38. Ganambawurru
風がふき、潮は満ちてきている。大雨がふり、波が寄せて来る。海の真ん中にある花崗岩にぶつかる波の音。Spirit Manは、YirrkalaとDhambaliya島の間の海にある石に姿を変えた戦士だった(トラック34)。
海面は穏やかで、ただ息をしているかのようだ(トラック36)。
波は後ろからより強く吹く風に吹かれて、Yirrkalaにある私達のコミュニティの下手の「Ra\i(浜辺)」では、高い波が崩れおちている(トラック38)。
上記はライナーの翻訳。トラック34/36はゆったりとした3/4拍子の小節の頭だけにクラップスティックが入り、イダキは4分に合せて演奏していると思われる。このようなゆっくりしたテンポに関わらず、クラップスティックとイダキがガッチリと小節の頭で合うのは、イダキが3拍目の裏拍にアクセントを入れているからだろう。
トラック38はうって変わって、速いテンポの3/4拍子の8分すべてにクラップスティックが入り、イダキは逆にその頭だけにアクセントを入れて、あとは長くのばしたドローンを演奏している。
40. Milika(Butterfish)
「Milika(イボダイ)」が浅瀬の岩と岩の間を、前へ後ろへとすばやく泳いでいる。その平べったい魚をモリで突くが、速すぎて捕まえることができない。
上記はライナーの翻訳。ライナーにあるようにすばやく動く魚「Milika(イボダイ)」を表わしているだけに、速いテンポでの演奏になっている。特にイダキの伴奏はかなりスピーディーで、その中をきれいな音でポンポンと短いトゥーツを即興的に演奏しているすばらしい演奏。また楽曲も変わっていて、5拍子の2小節周期で曲が展開しているが、エンディングのみ1小節で終わっている。楽曲、演奏ともにすばらしい、まさにマエストロ的なイダキの演奏をここで聞くことができる。残念ながら25秒ほどの短い曲を1曲だけ収録しており、違うバージョンも是非聞いてみたい。
42. Ma` pinyma` piny(Ancestral Sisters)
ある時「Wawilak姉妹」二人は神聖な小屋で踊っていた。彼女達は、大地と人々、動物、そして言葉を創造してきた、そして今、彼女達はそれを祝うために踊っている。
上記はライナーの翻訳。速いテンポでの4/4拍子の曲で、クラップスティックが4分、それに対してイダキは2拍3連での演奏で、曲の構造的にはジャッパンガリ的なブレイクへのインディケーション(暗示)がもたらされ、そこからA.P. Elkin教授の言葉を借りるならば「Half-way Stop」、つまり「この構造の重要な基礎となっているのは[海岸に打ち寄せる波]で、波が浜辺をかけ登りながら、止まるようでまた続く(A.P. Elkin)」という曲の展開になっている。
44. Wuyal(Sugarbag Man)
ライナー解説なし。
46. Mamba(Sandcrab)
ライナー解説なし。上記2曲はトラック2と4で歌われている曲のイダキの伴奏なしの歌とクラップスティックだけの独唱で、テンポ・ディレイのようなものがかなり深めにかかっているトラック。
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