北東アーネム・ランドで当代一のイダキ奏者と言われていたWiriyiによる演奏がすさまじいオールド・スタイルの超絶的な演奏を聞くことができる。
■オーストラリア・アボリジナルの音楽
■オーストラリア先住民(アボリジナル)の人々と文化
■オーストラリア先住民(アボリジナル)の音楽芸能
■ライナーと解説
23〜28曲目の6曲に、信じられないほどすばらしいディジュリドゥの演奏が収録されている。北東アーネム・ランドのElcho島のアボリジナルの60年代のレアな録音。Djaluに近いダイナミックで倍音成分の豊かなサウンドで、北東アーネム・ランドながらトゥーツをほとんど使わず、すばやい舌の動きで生まれる滑舌のよいドローンのリズムが渋い。
1〜22曲目まではCape Yorkにて'63年に録音されたクラップスティックと歌、もしくはドラムと歌でディジュリドゥは入っていないが、この6曲だけのためだけでも価値があります。
もともとはLyrichordからLP(LLST-773318)のみでリリースされ、同レーベルから98年にCD化されるもすぐに廃盤になり、'02年にイタリアの民族音楽レーベルAlbatrosの日本盤『アルバトロス名盤復刻30選』として日本のキング・レコードから限定リリースされた。
ディジュリドゥを収録している23-28のみ下記に解説してあります。LP盤の解説に載っている写真を見ると細めの長いディジュリドゥを空き缶に向けて演奏している。感涙の超絶ディジュリドゥを収録!!!!!!!
下記はキング・レコードから発売された日本盤のライナーに掲載されている文章です。
日本語盤のライナー
■オーストラリア・アボリジナルの音楽
このCDには、オーストラリア先住民(アボリジナル)の多様な音楽芸能のうち、クインズランド州北部のケープヨーク半島(1〜22)と、北部準州(北部特別地域)のアーネムランド北東に位置するエルチョ島(23〜29)の2地域のものがおさめられている。いずれも、1960年代初頭の貴重な記録となっている。
■オーストラリア先住民(アボリジナル)の人々と文化
オーストラリア大陸の先住民であるアボリジナルは、今から4〜5万年前に当地に移住してきた。そして、伝統的には数十名からなる小さな共同体を形成し、ある特定の領域内で採集・狩猟・漁撈生活をおこなっていた。そうした領域には、各共同体の構成員の祖先とみなされるトーテム(特定の動植物)の霊場(聖地)がある。そこでは、神話時代(「夢の時代」という)に英雄が、人々の食料となる動植物の精霊をばらまいたとされる。そして、動植物を増殖するには、神話で語られている英雄の行為を再現し、精霊を鼓舞する必要があると考えられていた。この様に人々と霊場(聖地)には深い結び付きがあり、また動植物の増殖、英雄の行為の再現、そして音楽芸能の上演は同一の営みであった。
約600の言語・地域集団からなるアボリジナルの人々は、白人との接触が本格的になる18世紀には30万人程の人口を有していたとされるが、植民地化の進行にともなう、虐殺、伝染病、強制移住などによる生活環境の悪化等によって、20世紀初頭には6万人程までになってしまった。その後、様々な復興活動や社会保証制度により、人口は約35万人(1996年統計)にまで回復した。現在では多くの人々が都市部に居住し、混血もすすんでいる。また畜産や鉱山労働者として従事する人々も多い。現代のアボリジナルの人々は、未だにのこる人種差別や経済的問題に対処しながら、先住民土地権運動や、聖地回復問題をはじめとする、様々な文化復興運動にとりくんでいる。
■オーストラリア先住民(アボリジナル)の音楽芸能
オーストラリア先住民アボリジナルの音楽芸能においては前述の様に、神話でかたる事柄を再現して演ずることが重要な意味をもってきた。したがって、動植物の増殖儀礼やイニシエーション、死者儀礼等が音楽が音楽芸能の増殖儀礼等が音楽芸能の主要な上演機会となっていた。これらは通常、秘儀的な扱いをされ、特定の男性集団ないしは女性集団のみが参加できることが多い。その一方、娯楽的な集団舞踊であるコロボリーのように、誰でも参加できる音楽芸能もある(特に北部地域)。また様式としては、もっとも古い要素を保持している南部様式(中央部をふくむ)と、メラネシアや白人の影響もある北部様式の2つをみとめることができる。このCDにおさめられている2地域は、いずれも北部様式に属している。
声楽には、霊界からもたらされたとされる宗教歌と世俗歌がある(舞踊歌の形態をとることが多い)。下行的な旋律の反復、一節が短い有節形式、ピッチの微妙なユレや旋律線のぼかし、短い滑唱やトリルを駆使する複雑な装飾などに特色がある。また掛け声や叫び声を多用する他、特殊な発声法(ノンブレス唱法等)や発声法の使い分けなどもみられる。さらに、リズムも複雑で、ポリリズムや複雑なシンコペーションが顕著である。舞踊においては、身体打奏や脚の震わしの多用、短い時間内での動物などの適確な描写、身体装飾(ボディペインティング)との密接な関わりが顕著である。楽器の種類は少ないが、ディジェリドゥー(ユーカリの木製トランペット)やうなり板、ブーメラン、相互打奏棒(拍子木)、スクレイパー(ささら)などユニークなものがある。
このCDに収められている2地域のうち、ケープヨーク半島の音楽的特徴としては、トレス海峡島、さらにはニューギニア島の音楽芸能と強い関連をもっていることを指摘することができる。たとえば、舞踊歌の伴奏に良く使用される砂時計型太鼓(ワユバ)は、ニューギニア島やトレス海峡島で非常に一般的な楽器で、そこから移入されたことが明らかであることはその一例である。また、音楽芸能の重要な機会となっているボラというイニシエーション結社の儀礼およびそれにともなう仮面や舞踏はトレス海峡島民がニューギニア島のパプア湾から受容したものをさらに受容したものであるなど、文化的にも結び付きは深い(ケープヨーク半島は、オーストラリア本土で砂時計型太鼓や仮面が使用される唯一の場所である)。こうした背景には、ケープヨーク半島の人々が漁撈のためにトレス海峡島に出むいたり、トレス海峡島の人々が交易おこなるために、ケープヨーク半島に定期的にやってくるといった、長年にわたる交流があた。両者の間には混血もすすみ、特にケープヨーク半島海岸部ではそれが顕著である。ただし、内陸部に居住しているカーンジュ集団には、そうした外来の要素はほとんどみられない。
一方、アーネムランドは伝統的な文化が豊かに伝承されている地域として知られている。同地域を代表する楽器が、ディジェリドゥーである。これは1〜2メートルのユーカリの木をシロアリによって空洞にさせたものを、トランペット式にふきこむ気鳴楽器である(指孔はない)。低くて良く響く音が出、循環式呼吸によりドローン音(持続低音)を連続的にだす奏法が顕著である。倍音が使用される他(10度音程)、口腔・舌・唇を駆使して、多様な音色の音響をうみだすことができる。また、うなり声をふきこむことによって、精霊の声を表現する技法もある。なお、石油缶などを管のそばにおき、ミュートをかけるということもおこなわれている。アーネムランドは、卓越したディジェリドゥー奏者を輩出している。
上記はライナーより。多少かための日本語が英語の文章の翻訳で使われているのが気になるが、それ以外は北部オーストラリアの音楽や文化の概要をケープ・ヨーク半島とアーネム・ランドを中心に簡潔にのべられている。石油缶のそばでディジュリドゥーを演奏するのは、ミュートするというよりも、逆に演奏者自身が石油缶から跳ね返って来る音を聞くためという目的で使われるだろう。
下記にはディジュリドゥの演奏が収録されているトラックの部分の日本語盤のライナーの曲解説に加えて、単なる聴感上での筆者の所見が加えられています。「上記は日本盤のライナーより」という文章ではじまる段落には、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造や、楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナーの翻訳と解説
CAPE YORK PENINSULA/North Queensland
1. Malkari(Mimic Entertainment Dance Song)|2. Bora(Initiation Ceremony Song)-"Tara Kuikui Waru Mapangu"|3. Bora-"Wirru Wirru"|4. Bora-"Puipume Malung Inana"|5. Bora-"Tike Apuya"|6. Extracts from Bora Song Rehearsal|7. Extracts from Bora Song Rehearsal|8. Extracts from Bora Song Rehearsal|9. Antjali(Mimic Entertainment Dance Song)|10. Malkari song|11. Women's Wungka Dance Song|12. Women's Wungka Dance Song|13. Women's Wungka Dance Song|14. Man Ungginy(Lyrical Improvisation)|15. Bora-"Boala Malu Wurtyu"|16. Bora-"Timbara Lupu Intynawa"|17. Malkari Song-"Centipede"|18. Malkari Song-"Snake"|19. Song Associated with Bora-"Ontoimo Owa"|20. Women's Wungka Dance Song|21. Women's Owalapatanu(Funeral) Song|22. Women's Funeral Song
ELCHO ISLAND / Central North Australia
23. Djadbangari Dance Song-"Eastwind"|24. Karideyeri Dance Song|25. Didjeridu Solo |26. Didjeridu Solo |27. Bunggul Dance Song-"Djerag(Seagul)"|28. Bunggul Dance Song-"Gar(Spider)"|29. Bunggul Dance Song-"Gar(Spider)"
ELCHO ISLAND / Central North Australia
23. Djadbangari Dance Song-"Eastwind"(Shelatan)
23-29には、アーネムランド北東に位置するエルチョ島で、当代最高のディジェリドゥー奏者といわれていたウィリィ(当時22歳)と、歌唱と舞踏の名手とされていたブワイジグ(当時26歳)の共演がおさめられている(曲によっては役割を交代している)。言語はゴコピング語とデャポ語で、演唱者自らが重い相互打奏棒をうちながらうたっている。こうした卓越した歌手とディジェリドゥー奏者の名声は、アーネムランドにおいて広くしられるものとなっている。
ブングルという言葉が、アーネムランドの北東部における歌唱と舞踏の総称となっている。その中にディエラグ、ムララ、ジャダンガリ、カリデリといった、いくつかのジャンルがふくまれている。
このジャダンガリという舞踏歌は、複雑なリズム構造をもち、ディジェリドゥーも名人芸的な技巧をみせる。また、曲のちょうど真ん中辺で、ディジェリドゥーのリズムが突然中断し、別のリズムに大胆にかわるのが特色となっている。その間、舞踏手はその場でとどまってのステップをつづけ、歌手はうたわないか、「ゲ、ゲ」という言葉を発するのみである。しばらくすると、ディジェリドゥーのリズムは元のものにもどる。この曲の内容は、「東風」に関するものである。
上記は日本盤のライナーより。1963年にTorres海峡にある無数の島の一つThursday島にきていた、Elcho(エルコと読む)島で当時最高のイダキ・プレーヤーだといわれていたWiriyi (当時22才)とソングマンBuwaijiguによる演奏。
正確にはDjatpangarri(ジャッパンガリ)で、若者のダンス・ソング、もしくはファン・ソングの総称で、Comic、Canoe、など多数のテーマのDjatpangarriが存在するが、ここではEast
Windがテーマになっている。舌がかなり後ろの方までカール・バックした、リラックスした舌の動きによるパワフルなサウンド。『SONGS FROM THE NORTHERN
TERRITORY 3』(CD 1962-63 : AIATSIS)のトラック6(b)では同じEast Windが「Bulwunu」という名称で収録されているが、曲調や伴奏のリズムは異なっている。
24. Karidyeri Dance Song(Evil Bush Spirit)
カリデリは女性の娯楽的な舞踏とされる。舞踏手は身体装飾(ボディペインティング)をほどこし、上腕に鳥の羽をさした腕輪をつける。この舞踏歌は、木々の大きな窪にすむとされる悪霊に関するものである。
上記は日本盤のライナーより。空洞になった巨木に住む邪悪なブッシュの精霊の歌。4分のクラップスティックの裏から「Dhitu Derei Da-ru(2-3-3)」とシンコペーションしたイダキのリズムが特徴的。終始、イダキが裏拍でクラップスティックが表なのでポリリズムを感じさせる美しい曲。
25. Didjeridu Solo
ここでは、ブングル舞踏歌のディジュリドゥーのパートを、独立して演奏している。言葉による楽器音とリズムの模倣(いわゆる口唱歌)も収録されている。
上記は日本盤のライナーより。「Derei -ro Doron」といった基本的な3連で展開する曲だが、バリエーション豊かに変化する3連のリズム・パターンの流れに注目したい。演奏者の個性があらわれる「リズムの雰囲気を壊さないインプロバイゼーション」部分がおもしろい。Wiriyiによる演奏。
26. Didjeridu Solo
25と同じ内容。ここでの演奏はブワイジグ。
上記は日本盤のライナーより。4分のタップに2拍3連のイダキのリズムから、タップのみが3連の「1-2-休符」という早い刻みへと変化するファスト・コアな1曲。ブレイクに行く前に微妙に変化する音色は舌の場所のみで変化している。猛烈なスピードでこれ以上ない早さだが、正確でパワフルな演奏。しかも、リズム・ソングも入っているので包括的に曲を理解しやすい。Buwaijiguの演奏。
27. Bunggul Dance Song-"Djerag(Seagul)"
内容はカモメに関するものであることから、ブングルの内、ディエラグ(カモメの意)というジャンルの舞踏歌とかんがえられる。ディエラグは秘儀的な事柄とかかわる内容を持っているが、儀礼的ではない機会に演じられる。ディジュリドゥーの力強いリズムパタンにのって、朗唱的な様式でうたわれる。ここでは、ウィリィが歌い、ブワイジグがディジェリドゥーを吹いている。
上記は日本盤のライナーより。正確にはDjarrak(ジャラック : カモメもしくはアジサシ)でジャンルではなく、曲名である。2拍3連のイダキのリズムに2分のクラップスティックから、ブレイク部分では変化して4分のクラップスティックにシンコペーションしたイダキのリズムがダイナミックでクール。カモメの鳴き声をまねたと思われるコールがイマジネィティブな曲。この曲のみトゥーツが少し使われている。BuwaijiguのディジュリドゥとWiriyiの歌。
28. Bunggul Dance Song-"Gar(Spider)"
ディジェリドゥーのパートのみの演奏。内容はクモに関するもの。
上記は日本盤のライナーより。イダキ・ソロ。トラック29のイダキ部分のみを演奏している。29よりもゆっくりと演奏しているため聞きやすい。トゥーツが全く入らないが「Dhitu」という一番アタックの音が強い音へのアクセントを上手に使っている。Wiriyiの演奏。
29. Bunggul Dance Song-"Gar(Spider)"
28と同曲。歌唱とディジェリドゥーの両方のパートがおさめられている。27と同様、歌唱はウィリィ、ディジェリドゥーはブワイジグである。
上記は日本盤のライナーより。「Dhitu Dhitu Doro Daru」といった4拍フレーズを高速で演奏。薄く声が入る部分をずらした時にブレイクにはいるようになっている。この曲にもトゥーツは入っていない。Buwaijiguの演奏。
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