B面全部にGoulburn島の音楽を収録しており、GUNBORGスタイルのディジュリドゥを伴奏にした非常にポップでユニークな歌がすばらしい!!!そして貴重な内容です。
■序 論
■ライナーの翻訳と解説
■B面の各曲解説
■CAPE YORKの録音を含む音源
■GOULBURN島の録音を含む音源
複数の民族学者によって集められたオーストラリア全域にわたる非常に貴重な音源、珍しい録音地域の音楽を集めたアルバムで、特に、B面に収録されている西アーネム・ランドのOenpelli対岸にあるGoulburn島のGUNBORGは必聴です!
このB面全てに渡って聞くことができるGoulburn島の音楽は、アーネム・ランドのディジュリドゥ文化の源流を感じさせる、アーネム・ランド的な楽曲のエッセンスがつまった、リッチでメロディアスな歌が非常にすばらしい。他の地域では聞くことができないポップで耳について離れないメロディーは、民族音楽という枠組を越えて何度も聞ける非常に音楽的な内容です!
A面にはCape York、中央オーストラリア、南オーストラリアの歌に加えて、南アーネム・ランドのBamyili(現Barunga)の神聖なアリゲーターの歌(トラック9-10)など、ディジュリドゥの伴奏を伴わない「ドリーミング・トラック」あるいは「ソング・ライン」と呼ばれる、先祖の精霊、神々、英雄などが旅してきたルート、もしくはその一部が歌の中で表現されている。
B面のみにディジュリドゥが収録されています。1曲づつナレーションでタイトルを知らせるためわかりやすい。全体的にユニークな歌のメロディが飽きの来ない、親しみ深いものになっているのがGoulburn島の歌の最も際立った特徴である。この地域のディジュリドゥの演奏はGUNBORGスタイルで、GUNBORGやWANGGAの演奏スタイルを目指す人にはマストです。録音はディープなアボリジニ研究で著名な民族学者Ronald M. Berndt。
下記は、カセットなのにジャケットに、細かい文字でビッシリと11ページにわたって掲載されている解説の翻訳です。各録音を行った民族学者の手によって書かれた各曲解説は非常にディープです。A面はディジュリドゥの演奏が無いためレビューは追加されていません。B面にはそれぞれの曲に対するタイトルと解説がないため、各曲の冒頭のナレーションをタイトルにして、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落から、ディジュリドゥの音の響きを中心に、それぞの曲の聴感上の響きとその印象、曲構造のみを詳しくレビューしてあります。レビュー部分はライナーとは無関係で、その内容は推測の域を出るものではないことをご了承下さい。
■序 論
伝統的なアボリジナル文化において、歌はその中心であり、重要である。歌はしばしば踊りや視覚的装飾と共に演じられる。通常、このような歌には宗教的な性質を持つ儀式においてその最大の意味がある。アボリジナルの伝統文化がいまだ栄えている地域では、歌はイニシエーション(通過儀礼)、死、そして豊穣についての主要な宗教儀式のための祭礼で歌われる。アボリジナルの住むオーストラリアの多くの場所では、儀式的背景を持つ歌以外にも個人による作曲と演奏の慣習もある。個人作曲以外の儀式的な歌の伝統をほぼ失ってしまった南東オーストラリアの一部地域では、このような個人作曲による歌は生き残った。それはおそらく、個人作曲の歌はその存在を維持するために宗教的儀式に依存していなかったからだろう。儀式的、非儀式的、両方の歌がこのカセットには収録されています。
アボリジナル・ソングの初期のサウンド・レコーディングは世紀の変わり目に行われたのだが、録音の大半は1950年頃のテープ・レコーダーの到来以降に行われた。このカセットに収録されている最初期の録音は1956年で、録音の大半は1960年代に行われた。スタジオで録音された曲は一つもなく、ここに収録されている音源の音質は様々である。オリジナルのフィールド録音のテープ、あるいは第一世代のコピーは、AIATSIS(Australian Institute of Aboriginal and Torres Strait Islnder Studies : オーストラリアのアボリジナルとトレス海峡島民研究協会)の音源記録保管所に納められています。そしてライナーには、このAIATSISの記録番号が追記されています。
ライナー・ノーツに書かれているいくつかの専門用語には説明が必要なものがあるだろう。アボリジナルの歌の多くは、名前を付けられたソング・シリーズにグループ化されており、それぞれのソング・シリーズには、たくさんの節、あるいは歌が含まれている。儀式的なソング・シリーズは、ドリーミングの中に存在する精霊や神話上の神々の特徴や活動に関係している。このような精霊や神々の存在の後にソング・シリーズが名付けられた。精霊的神々のいくつかは大地を旅し、その道程でその土地の目印になるものを創造し、それらに精霊的パワーを注ぎ込んで来たと信じられている。彼等が通ってきた道は、英語では「ドリーミング・トラック」と呼ばれ、それに関するソング・シリーズは、その旅の道程の話について歌われている。人々のグループと個々人は、このようなドリーミングの物語の登場人物、そしてドリーミング・トラックに沿った所にある場所と特別な関係にある。その関係性は複雑だが、最も重要な事の一部は二つの称号「所有者」と「管理者」のもとにグループ化されていると思われる。「所有者」は歌と儀式を演奏する権利と責任があり、「管理者」は歌と儀式を演奏するだけではなく、ドリーミングの場所と儀礼的道具一式の管理もしなければいけない。
現在まで商業的な録音として発行されてきたアボリジナルの歌の大半は、アーネム・ランドを中心とした北オーストラリアの録音である。おそらく、北オーストラリア、とりわけアーネム・ランドが、ディジュリドゥが生まれた場所であるという事への事実の一致は全くない。しかしながら、ディジュリドゥは伝統的に広く広まったというわけではなかった。このカセットに収録されている歌は、西ニュー・サウス・ウェールズ、Cape York、中央オーストラリア、アーネム・ランドを含む広大な地理的範囲を網羅し、伝統的に存在した幅広い地域的なスタイルを表わしている。
このカセットは、『Oceania Monograph No. 32』として出版されたMargaret Clunies Ross、Tamsin Donaldson、Stephen Wildによる編集の同じタイトルの本に掲載されている論文からの文章がライナーに附随しています。関係している論文への参照は、続きの記述に書かれています。
■ライナーの翻訳と解説
SIDE A :
1. Song about a Lost Boy|2. Dyirbal Gama Songs
|3. Storm Bird Songs |4. Apalach Songs |5.
Waripiri Women's Emu Songs |6. Waripiri Men's Love Magic Song|7.
Pitjantjatjara Finch Songs|8. Mountain Devil Lizard and Blue
Tongue Lizard Songs|9. Catfish Songs|10.
Alligator Songs
SIDE B :
SONGS FROM THE GOULBURN ISLAND AND IMMEDIATE MAINLAND, WESTERN
ARNHEM LAND
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
SIDE A
1. Seven performances of a song about a lost boy, from western New South Wales
別々のシンガーによる同じ歌の7つの歌唱の比較は、南東オーストラリアの音楽的歴史の理解を再構築するのに役立つだろう。Fred Biggsが1932年にこれらの歌を作曲した。そして人々がともに歌い、踊るCorroboree(カラバリー:アボリジナルの歌と踊りを指す英語)をもはや行わなくなった時でも、彼は歌を作り続けていた。この歌は、CobarとIvanhoeの間に位置するNgiyampaaの人々の土地に新しく到着した選択者の子供である一人の小さな少年について歌われており、彼はブッシュの中で行方不明になった。このテープでは、この歌の7つの歌唱が作曲者自身によって歌われている。彼は周期的に「Thirramakaanhthi(丘の上)」という言葉を発し、その音程を彼が次に何を歌うかを予想する方向に変化させている。作曲者ではないその他のシンガー達は、そのような事をしない。他の人達と共に歌われる作曲者の熟練した歌唱は、この歌がダンスのために長時間に渡って歌われるタイプの歌だったという事を暗に意味している。それぞれのシンガー達が、異なる歌詞句のコンビネーションを歌っている
数人のシンガー達の歌詞の憶え間違いを考慮に入れても、歌詞句(a)と(b)はすぐに繰返されるかもしれないが、歌詞句(c)、(d)、(e)はただ歌詞句(ab)の後に続くだけだろう。Fred Biggs(vii)が、たてつづけに5つの歌詞句(abcde)を歌うと、「Thirramakaanhthi」という言葉が一つの下降する歌唱形式の中で歌われている。全部の歌詞を歌い終えた後に、彼が歌詞句(ab)だけを歌い、その時最初の歌詞句に戻る時には、彼は「Thirramakaanhthi」という言葉の音程をはねあげている。その後に、彼がひとりで歌詞句(ab)を繰返すと、「Thirramakaanhthi」という言葉は音程にむらなく平坦に歌われている。カラバリーにおける歌唱の中でシンガーがどんな繰返しのパターンを選ぼうとも、その他の参加者の人達は、シンガー、楽器の伴奏者、あるいはダンサーとして自分のすべき事を合わせることができるので、このような合図を発するシステムは、理論上、他の人達が演奏に参加する事を可能にしている(『Making a song and dance in south-eastern Australia』Tamsin Donaldson著を参照して下さい)。
2. Dyirbal Gama songs of Cape York
シンガー : Jimmy Murray
録音者 : R.M.W. Dixon
録音地 : Murray Upper, Cape York, クイーンズランド州
録音年 : 1963
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 354A, 02.22 and 00.00
このトラックにはDyirbal語の「Dragnet」ソング2曲を収録しています。Dyirbal語は、ケアンズの南、Tully River地域の熱帯雨林地帯に住む6つの隣接した部族によって話される言語で、それぞれの部族がこのDyirbal語の変形した言葉を話す。Gamaソングは、Dyirbal語圏すべてに渡って歌われる最も普通なタイプのカラバリーの歌である。R.M.W. Dixonは、1963年当時目撃したそのカラバリーを下記のように表現している。白、黄色、赤の粘土と炭でボディ・ペイントをした男性のダンサー達は、弓矢での狩り、釣り、飛んでいる鳥、白人の女性が長くふさふさとした髪をといている様子など、歌の中で表現されている出来事を踊りでまねている。この曲のオープニングでは、Lawyer Cane(Floraとも呼ばれる北クイーンズランド州独特のヤシ科の木)で作った網を波間へ投げ、身をくねらせる銀色のたくさんの魚を引き上げるアボリジナルの人々のグループについて歌っており、このテープにその曲が収録されている。Gamaソングは全て同一のリズムとメロディーのパターンで演奏される。メロディーのバリエーションが一点だけ示されるかもしれないが、それは演奏はじめの部分である。このテープに収録されている最初の曲は、標準的なGamaソングである。2番目の曲は、実際はオープニング・ソングで、最初の曲よりも歌の導入部分でメロディーがより高く上がるという導入部分のフレーズにより広い音域がある。
伴奏は、曲全体を通してしっかりとしたパターンで叩かれる2つのブーメラン・クラップスティックからなる。追加的なリズムの音は、ビートが代わる時に起っている。
3. Storm Bird songs from northern Central Australia
シンガー : Pharlap Dixon、Ashwood Anderson、Leo Anderson、Horry Jones、Paddy Waddawadda、Paddy Henderson
録音者 : Peter Sutton
録音地 : Longreach Waterhole(Elliott付近)、ノーザン・テリトリー州
録音年 : 1983
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10322A, 01.20
これらのMudburaとDjingiliの人々の歌は、祖先のStorm Bird(オオオニカッコウ)のドリーミング・トラック(ソング・ラインとも呼ばれ、一続きの長い曲で構成され、先祖の精霊が旅してきたルート、もしくはその一部が歌の中に表現されている)を追って歌われる。これらの歌は、「Ngajakura」と呼ばれる儀式に属しており、その歌はより長いソング・シリーズ、Roper River上流域から中央オーストラリアへと何百kmと続くドリーミン・トラックのごく一部である。このテープに収録されているセクションでは、Larrimah-Warloch Ponds地域と関係している(『Mystery and change』Peter Sutton著を参照してください)。
4. Apalach songs of Western Cape York
シンガー : Cape Keerweerの男性達
録音者 : Peter Sutton
録音地 : Watha-nhiinアウトステーション、西Cape York、クイーンズランド州
録音年 : 1977
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 5022A, 00.08
Cape Keerweerの男性達は、定期的に「Apalach」と呼ばれる儀式を催し、彼等はその儀式の中で「Pungk Apalach」という二人の祖先が、Archer-Love River地域からはるかKendall Riverまで南(彼等の内の一人はそのすこし北まで)へ移動した時の旅とその活動を追っている。「Apalach」ソングは、この儀式を執り行う様々なクランの人々が話すたくさんの言語で歌われている。特定の歌が、ドリーミング・トラックに沿った特定の場所について歌われるが、その歌の言語はその場所を所有しているクランの言語と同じである必要はない。このような歌における曖昧さは、アボリジナル社会に広くひろがっていると思われる(『Mystery and change』Peter Sutton著を参照)。
5. Waripiri womens's Emu songs from Central Australia
シンガー : Dora Nampijinpa、Mary Nangala、Naggie Nangala、Alice Nampijnpa、Maggie Napangardi、Annie Nungarrayi、Maisy Napangardi
録音者 : Stephen Wild
録音地 : Lajamanu、ノーザン・テリトリー州
録音年 : 1979
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 6165、03.28
これらの歌は、「Yawulyu」と呼ばれるタイプの歌に属する女性だけの歌で、祖先の「Yangkirri(Emu)」についてのより長いソング・シリーズの一部である。「Yawulyu」ソングは、同一の名前の女性の儀式「Yawulyu」で歌われるが、割礼の儀式のような、男性も女性も参加する儀式でも女性によって歌われることがある。Waripiriの歌のカテゴリーの多くは、一つの儀礼だけに属するものではなく、同じ歌が違う儀礼的背景で歌われることがある(『Recreating the Jukurrpa』Stephen A. Wild著を参照)。
6. Waripiri men's love magic songs, Central Australia
シンガー : Jimmy Robertson Jampijnpa、Jimmy Jangala
録音者 : Stephen Wild
録音地 : Lajamanu、ノーザン・テリトリー州
録音年 : 1979
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 6148、00.49-05.44
ここに収録されている歌は、「Nakamarra(Waripiri社会の一部門の名前)」という名前の一人の祖先の女性に関する長いソング・シリーズの一部である。そのソング・シリーズは、「Yilpinji」という名で知られる男性の歌のカテゴリーに属している。「Yilpinji」は一般的に「恋の魔法」と翻訳され、特に女性を魅了するために歌われ、そのような時にはソロ、あるいは、ここで収録されている曲のように2-3人のシンガーによって歌われることが多い。しかし、「Yilpinji」ソングは、より大人数のグループでより大きなスケールで歌われることもある(『Recreating the Jukurrpa』Stephen A. Wild著を参照)。
7. Pitjantjatjara Finch songs from South Australia
シンガー : Minyungu Bakerが率いる男性、女性、子供の集団
録音者 : Max Ellis
録音地 : Indulkana
録音年 : 1975
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10296A、11.30
メロディーに対する歌詞とリズムの合致が演奏を通じて次々と変化するということが、中央オーストラリアのアボリジナルの歌の特徴である。このトラック7と次のトラック8の歌は、もう一方の歌詞とメロディーの関係を決定付けている異なる二組のルールを明らかにしている。このトラックの歌では、西砂漠地帯の東と南の地域を通して知られている「Nyiinyl(Zebla finch : 錦花鳥)」についての長いソング・シリーズの一部である。中央オーストラリアの全ての歌同様、それぞれの節はリズムに連結した言葉のはっきりとしたまとまり(律動-逐語的単位)で構成されている。歌のメロディーは、ソング・シリーズ中の全ての節において一様で、全てのシンガーが一緒に行う息の吸入の時に上がり、そして次の呼吸まで下がっていく。この特有なソング・シリーズにおいて、2回の呼吸が行われるメロディー全体の中心部分は、どれだけのフレーズと律動-逐語的単位がどんな形で終結しようと関係なく、つねに約8秒ほど遅れる。
8.Pitjantjatjara Mountain Devil Lizard and Blue Tongue Lizard songs from South Australia
シンガー : Minyungu Baker、Billy Coulthard、Teddy Wintji、Tony Yaluriti、Tommy Murulyina、Teddy Yatjitja
録音者 : Catherine Ellis
録音地 : Centre for Aboriginal Studies in Music、Adelaide
録音年 : 1977
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10297A、12.40
これらの節が属するソング・シリーズは、祖先の「NgiyariもしくはMiniri(Mountain Devil Lizard : モロクトカゲ )」と「Langka(Blue Tongue Lizard : アオジタトカゲ)」の両方に関係しており、南オーストラリア州のIndulkanaの400km程西の場所に属している。このソング・シリーズでは、どれだけ多くのフレーズが律動-逐語的単位を作るかという事とその部分の連続に関わらず、一つの律動-逐語的単位と次のフレーズを占めるように中心的なメロディー部分が歌われる(トラック8と比較してみて下さい)。つまり、歌詞とそのリズムに対するメロディーを結び付けるルールは、ソング・シリーズによってそれぞれ異なる(『Melody and rhythmic structure in Pitjantjatjara song』Guy Tunstill著を参照)。
9. Catfish songs of the western Roper River、Arnhem Land
メイン・シンガー : Hickey Hood Janbuyin
録音者 : Doug Myer
録音地 : Barunga(Bamyili)、Arnhem Land
録音年 : 1976
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10307A、22.00
一般的に、アボリジナルの歌の歌詞の多くは、普通の言語と同一ではない。このトラックと次のトラック11に収録されている歌が育まれたアーネム・ランドの西Roper River地域では、歌の語彙がある特定の言語の言葉と同一であることが時々あるが、いかなる特殊な言語であっても歌の存在について話す事は、多くの場合において、明らかに不適切である。その歌の所有者にとって異質な歌詞の使用にも積極的に価値を見い出される事がある。つまり、歌は流動的な解釈の影響を受けやすく、その影響は一つの節の全ての言葉というよりもむしろ、節全体に受ける傾向にある。トーテムの姿の描写には典型的な顔つきに、かなりの強調が見られる。歌詞のフレーズの多くからは、その神々の典型的な肉体の動き、音、そして環境を思い起こさせられる。もしくは、そのような動き、音、環境を表現するために、ほとんど使われない言葉が使われる。その他の歌詞とフレーズは、特定の場所と人々とつながっている。
西Roper River地域では、「Lorrgon」、「Manggarlagarl」、「Gujiga」の主に三つのタイプの歌が認識されており、これらの「Warrba(ナマズ)」ソングは元来、埋葬の儀礼に関連している「Lorrgon」に属している(残りの二つのタイプの歌は、イニシエーション[通過儀礼]に関係している)。歌の所有者「Mingirringgi」は小さな、はっきりと区別されたグループを形成しており、ノーザン・テリトリー州のBarungaに少し、そして残りはMataranka付近の牛の牧場に住んでいる。歌の言語は、歌の所有者のだれもがうまく話すことができないMara語(Carpentaria湾)なのだが、多くの人々はそれらの歌がMangarrayiの土地に属しているのだと述べている。Elseyアボリジナル保留地の小さな地域内では、ナマズに関するドリーミングの場所はたった3箇所しかなく、たった一人の歌の所有者だけが、その場所と個人的に強く結び付いている。歌詞は、ナマズの典型的な動きについて述べられており、ナマズの鼻、水の中を旋回し、ナマズの波打つような尻尾の動きについて歌われている(『Catfish and Alligator』Francesca Merian著を参照)。
10. Alligator songs from western Roper River, Arnhem Land
メイン・シンガー : Hickey Hood Janbuyin
録音者 : Doug Myer
録音地 : Barunga(Bamyili)、Arnhem Land
録音年 : 1984
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10300A、10.05
このドリーミング、あるいはトーテムに付けられている名前「Alligator(アリゲーター)」は、Mangarrayi語の言葉「Dirrag」を南と西アーネム・ランドの通商語の「Kriol(クリオール)」に翻訳された言葉である(英語では海水に住むクロコダイルという意味)。この歌もまた「Lorrgon」タイプの埋葬の儀礼に関係している歌である。その神話と歌は、「Catfish(ナマズ)」ソングよりも長く、劇的により詳しく述べられており、それは、この歌の所有者達は最も重要かつ、危険な現地の儀式と関係があるという事実からもわかるだろう。歌の所有者達は自分達を「Ngalakan」の人々であると考えており、一部のRembarrnga語圏出身の人々もその所有者達のグループ、儀式的伝統、そしてその場所に関する他の役割に組み入れられてきている。アリゲーターは北から南へと移動し、Ngalakanの土地のより中央部分から南の部分へFlying Fox小川を下り、Roper Riverでその旅を終える。このトラックでは少しだけしか紹介されていないが、このソング・シリーズには、はっきりと区別できる79節があると思われる。
「Jarlburrgij」という鳥に関する神話の詳細について述べられている。アリゲーターは物音を聞き、それが「Gurrubaba(Flying fox : オオコウモリ)」だろうと考え、オオコウモリを食べるという思いでうれしそうに見えた。しかし彼はつかまえるのに失敗した。この行の最後の言葉はどんな日常言語とも関係がない。
シンガーは4節目の歌詞の意味に、オオコウモリを木からたたき落とすための棒、Mangarrayi語で「Gurayungu」言葉をあてている。これはアリゲーターがオオコウモリをつかまえられるかもしれないという望みの失敗と関連がある(『Catfish and Alligator』Francesca Merian著を参照)。
11.
SIDE B
Songs from the Goulburn Island and immediate mainland, Western Arnhem Land
シンガー : Gwuwadbad No.2(下記以外のメイン・シンガー / 主席シンガー)
Gamulgel(19-21曲以外のサブ・ソングマン)
Micky Ngolaman(19-21曲のメイン・シンガー)
Andrew Nadumalu(19-26曲のサブ・シンガー)
Mangulugulu(22-26曲のメイン・シンガー / トラック1-18のディジュリドゥ奏者)
ディジュリドゥ : Mangulugulu(1-18曲)、Mangundill(19-26曲)
録音者 : Ronald M. Berndt
録音地 : South Goulburn Island
録音年 : 1961 / 1964
AIATSISのテープ管理番号 : Tape 10295A and B
ここに収録されている歌は、Maung語(トラック1-18)とWalang語(トラック19-26)で歌われており、これらの歌を歌っている人々はGoulburn島と西アーネム・ランドに位置するその付近のオーストラリア本土に住んでいる。このような種類の音楽は、宗教的な音楽では無く、レクリエーション目的で歌われる。彼等は仲間の精霊からインスピレーションを得(ここではGoanna(オオトカゲ)であるMarwagaraとGawirdji、そしてGadigadi鳥)、それらの精霊は特定のソングマンの夢の中に現れる。このソング・サイクルの物語のすじは、ほとんどありふれた出来事に関連している。トラック1-12では、儀式への参加の招待、歓待の悪口、妻の浮気、不貞を働かれた夫、子供の誕生と妻を誘惑した男への罰について述べられており、残りのトラック13-26では、この悲劇の後に何が起ったのかを伝えている。その登場人物は、人間の容姿で振舞う人間ではない生き物である。
オオトカゲのMarwagaraは、カササギガンのManimunagと結婚し、南Goulburn島のIlimarという場所に住む。彼は、オーストラリア本土に住む自分の姉の息子Gawirdjiに儀式に参加するように招待状を送る(Gawirdjiもまたオオトカゲだが、別の種類)。彼は自分の仲間とその祭りに参加するために海を渡る。儀式が終わった時、その姉の息子以外は皆、家に戻った。彼はManimunagに恋に落ちたのだった。時間がたつにつれて、彼女は妊娠し、子供を産む。Gadigadi鳥がその知らせを叫び、夫はそれが自分の子供だと信じているが、その子の姿が自分の子でないことを示していた。結果的に、Gawirdjiの子供は殺される。Manimunagは自分の夫のもとを離れ、夫は策略に身をまかせる。Gadigadi鳥は、夫を東にみつけ、自分の友達をGoulburn島に残す。
人のかかわり合い同様、この物語は、現在オオトカゲMarwagaraがGoulburn島だけに見られ、オオトカゲGawirdjiはオーストラリア本土にだけ見られる理由、そしてカササギガンManimunagはGoulburn島をめったに訪れることはないという理由を伝えている(『Other cratures in human guise and vice versa』Ronald M. Berndt著)。
上記はライナーの翻訳で、下記はB面全体についての主観的なレビューです。数多くのアボリジナルに関するディープな著作で知られる民族学者Rolald M. Berndtによって61年と64年に南Goulburn島で録音された貴重な音源。Goulburn島の録音を収録したアルバムは、他にも若干あるが、収録されていても数曲で、一つの長いソング・サイクルがそのまま収められているのはこのアルバムだけである。
上記のように、Goulburn島の録音がまとめて収録されているのはこのカセットだけなのである。その内容は、ライナーとカセットのそれぞれの曲の前の冒頭に収録されているナレーションからも、その擬人化された動物達のストーリーがよくわかるゴアナとカササギガンの興味深い物語である。
1-18曲までのディジュリドゥ奏者Manguluguluの演奏は、特にその倍音のコントロールがすばらしく、中央アーネムランドのGUNBORGスタイルのディジュリドゥの伴奏スタイルと思われる。デビッド・ブラナシのようにパワーのある演奏だが、即興性は薄く、より伴奏的な演奏を続けている。そのため非常にシンプルなリズムの繰返しが目立つが、そのサウンドからは低音から高音まで幅広い倍音を聞くことができ、このディジュリドゥ奏者の卓越した演奏能力を感じさせる。また彼はトラック22-26ではメイン・シンガーとして歌を歌っている。
19-26曲までのディジュリドゥ奏者Mangundillのサウンドは、倍音成分よりも太い低音部分が力強い、そして特にトラック19-24の後半インスト部分では、即興的な演奏を聞くことができる
そして、Goulburn島の歌の際たる特徴は、何よりも泣けるメロディ・ラインである。特に2、4曲目の明るくやさしいメロディと16-17曲のブレイクでみられるせつなく悲し気なメロディがすばらしい。
■B面の各曲解説
TRACK 1-18 : Maung語グループによる歌
1. What we have began in Ilimar|2. An Invitaion
is sent|3. The Gawirdji decide to go |4.
They look forward to a happier occasion|5. The Gawirdji arrive|6.
The Gawirdji sing|7-8. Frog Song|9.
Manimunag's child is born|10. The deceit is revealed|11.
Punishment follows|12. Resolution in death|13.
Manimunag leaves her husband|14. Marwagara is left by himself|15.
Marwagara looks for food|16. Looking for rain|17.
Which way will I go|18. Marwagara meets(?)
TRACK 19-21 : Walang語グループによる歌
19. Gadigadi goes on her own way|20. Gadigadi
arrives at the dreaming site|21. The Gadigadi (?) symbol
TRACK 22-26 : Walang語グループによる歌
22. Gadigadi finds her lover|23. They move
along the beach|24. They cry out (?) fly away|25.
Gadigadi's husband returnes from trading|26. Farewell to the
Gadigadi
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
B面に収録されている歌については各曲解説とタイトルが無いため、各曲の冒頭に入るナレーションをタイトルにして、その翻訳を「 」内に記述し、その後に収録されている音楽のサウンド面のみについてのレビューが書かれています。ここで掲載されているレビューは録音内容に直接関係無く、筆者の個人的主観から書かれたものであり、推測の域をこえるものではないことをご了承下さい。 |
TRACK 1-18 : Maung語グループによる歌
シンガー : Gwuwadbad No.2 & Gamulgel(Maung語)
ディジュリドゥ : Mangulugulu
1. What we have began in Ilimar
「Ilimar(南Goulburnの地名)で最初にはじめた事」
ディジュリドゥは、WONGGAやGUNBORGタイプのダンス・ソングで典型的な4/4拍子のクラップスティックのリズム「1 2 3 ・」(・は4分休符)とユニゾンするかのように伴奏している。休符の部分で喉をグッと開いたような特徴的なグニャリとした倍音の動きが聞かれる。また「いい意味での滑舌の悪さ」、つまり滑らかでやわらかい舌の動きによるすべるような倍音が美しい。
歌は2小節周期で歌われているようで、ブレイクとエンディング部分は4分(音符)で2小節に渡って「1 2 3 4 / 1 2 3 ・」とクラップスティックをたたき、同様に「1 ・ 3 ・」を2回繰り替えし、もういちど「1 2 3 4 / 1 2 3 ・」を演奏して通常のフレーズにもどるというわかりやすい構造になっている。しかし、2回目のブレイクとエンディングは、「1 2 3 4 / 1 2 3 ・」とクラップスティックをたたき、次に「1 2 3 ・」にもどり、「1 ・ 3 ・ / 1 ・」という半小節から再度、「1 2 3 4 / 1 2 3 ・」を演奏する事で最後の2小節目の3拍目が小節の頭に来て曲が終わるという少しトリッキーな構造になっている。
2. An Invitaion is sent
「儀式の招待状が送られる」
4/4拍子の全ての4分にクラップスティックが入り、ディジュリドゥもクラップスティックとユニゾンするように4分を意識して伴奏しているようだ。歌の周期は、ブレイク、エンディングともに4/4拍子の3小節周期で歌われている。シンガー達の歌詞が、メロディックな「Lidomo- Lidomo- Lidomo- Lidomo-」というディジュリドゥの音を模倣したマウス・サウンドに変わるのを合図に、3小節目の1拍目でディジュリドゥと歌はピタリと同時にとまり、クラップスティックだけは4分をたたき続け、ディジュリドゥだけ3拍目から再度スタートし、歌が次の3小節周期の頭からスタートするという完全に決まったフレーズがブレイクとエンディングに使われている。
一つの単語だけが歌詞に繰り返し使われている点も興味深い。
3. The Gawirdji decide to go
「オーストラリア本土のゴアナGawirdji達は、Goulburn島へでかけることをきめる」
はっきりした曲構造は不明だが、クラップスティックは全体を通して4分で途切れる事なく演奏され、ディジュリドゥは、2ビート感覚で演奏しながら、シンガーの歌に寄り添うかのように演奏しているようだ。決まった歌詞のフレーズの後にシンガーが発するディジュリドゥの音を模倣したようなリズムの時には、ディジュリドゥ奏者がソングマンにユニゾンするように演奏し、それ以外の部分をビート感覚にとらわれずに、自由に演奏しているように聞こえる。
エンディングの時のみ2本のクラップスティックのうち、一方が1度だけたたく2拍3連が合図になってパっと見事に曲が終わっている。
4. They look forward to a happier occasion
「ゴアナGawirdji達は、めでたい儀式を楽しみにしている」
歌の入らない冒頭部分では、ディジュリドゥのダイナミックかつすさまじい倍音が聞かれる。この曲もはっきりした曲の構造は不明だが、トラック3同様にクラップスティックは全体を通して4分で途切れる事なく演奏され、ディジュリドゥは、2ビート感覚で演奏しているようだ。シンガーの歌の周期は7拍子周期で歌っていると思われるが、歌と歌の間奏部分の長さは、決まっていないのではないかと思われ、歌詞が終わった瞬間にディジュリドゥの音をまねたようなフレーズをシンガーが歌いはじめるとそこから4/4拍子になって次の歌のはじまりを待っているんではないかと聴感上は感じられる。
エンディング部分に4/4拍子の2小節周期のリズムをベースにしたすさまじいテンポチェンジの連続があり、ピッタリと息があった見事な演奏を聞くことができる。この歌のメロディーは特に音の幅の上下も激しく、耳につく見事な音楽センスである。楽曲、メロディーともにこのソング・サイクルの中でも特にすばらしい曲の一つである。
5. The Gawirdji arrive
「ゴアナGawirdji達が、南Goulburn島に到着する」
4/4拍子をベースにクラップスティックが2分をたたくパートと、8分よりすこし早いテンポでたたかれるパートの2つに別れており、それを繰返すという曲展開になっている。まるでゴアナがのっしりとゆったり歩き、突然パッと走りだすかのようなイメージをいだかせるどこかコミカルな曲調と歌のメロディである。特にゆったりとしたパートのメロディーは非常に陽気なあたたかな雰囲気がある美しい秀逸な旋律である。
6. The Gawirdji sing
「Gawirdji達が歌を歌う」
この曲も4/4拍子にクラップスティックが4分、ディジュリドゥが半小節周期の短いリズムを繰返し、歌は2小節周期で同じ歌詞が繰返されている。この曲では歌の合間には常にディジュリドゥの音を模倣した「Lido- Li-do-」といったフレーズが2小節繰り替えされているのが特徴的。
7-8. Frog Song
「カエルの歌」
トラック6と同じメロディーの歌だが、歌の合間にはディジュリドゥを模倣する歌は聞かれない。ディジュリドゥのサウンドは今までよりもより高音の倍音を意識したような音で演奏されているように思われ、タイトルからもディジュリドゥはカエルの鳴き声をまねるように意図的に舌をカール・バックさせて演奏しているように感じられる。ここではディジュリドゥの音が大きく録音されており、聞き取りやすい。
9. Manimunag's child is born
「Manimunag(カササギガン)の子供が生まれる」
2/4拍子で4分にクラップスティックが入り、その4分を強調するかのようにシンプルな「Lidumo-」といったリズムをディジュリドゥが繰返している。2/4拍子の4小節周期で歌が歌われるが、ブレイク部分は1小節だけで、ブレイクではクラップスティックは演奏されていない。妙に陽気な雰囲気のただよう歌で、歌詞は一節ごとに変化させているが、メロディーは常に同じものが使われている。2曲収録。
10. The deceit is revealed
「不貞があきらかになる」
ディジュリドゥの伴奏のない、クラップスティックの伴奏を伴った歌が2曲収録されている。同じ歌詞を同じメロディーで歌い、「Oho-, Oho-」という掛け声で歌とクラップスティックが一旦中断されるという事を繰返している。
11. Punishment follows
「続いて(不貞に対する)罰が行われる」
2/4拍子の4分に途切れることなくクラップスティックが演奏され、ディジュリドゥは「Lidumo Lebo-」といった1小節周期のリズムを繰返し演奏している。歌は4小節をひとまとめに2種類のメロディーが交互に歌われているが、エンディングの前には、この歌で使われている中で最も高い声からしだいに下降して行くメロディーで曲の終わりを示唆し、トラック3と同じ2拍3連を一回クラップスティックでたたいて終わっている。罰が行われるという歌だが、それでもまだ悲し気な雰囲気は無く、なごやかなメロディーで歌われている。
12. Resolution in death
「(不貞の罪は)死をもって解決された」
ここで亡くなったのはManimunagとGawirdjiの間に生まれた子供である。歌は4/4拍子の3小節周期で歌われ、クラップスティックは8分で連続的にたたかれている。このような早いスピードでクラップスティックが演奏されているのはこの曲がはじめてで、歌のメロディーも暗く、「死」を感じさせる不安感に溢れた曲調になっている。
ディジュリドゥは「Lidu-mo- Lidu-mo- / Lidoro Lebo- Lidu-mo-」といった1小節目が2拍3連、2小節目が3連と2拍3連のリズムの2小節周期で演奏し、シンガーが歌と歌の間で行うディジュリドゥの音を模倣したフレーズを歌うとそれにユニゾンして、ブレイクで歌、ディジュリドゥ、クラップスティックの全てがピタリと止まる。このブレイクを示唆する部分とブレイクはまとめて3小節の定型のフレーズのようで、トラック2でも同じフレーズが使われている。
13. Manimunag leaves her husband
「Manimunag(ゴアナの妻のカカサギガン)は夫のもとを離れる」
2/4拍子の歌で、クラップスティックは4分で断続的に演奏し、ディジュリドゥは「Lidumo- Lidumo- / Lebo- Lidumo-」といった2小節のリズムを繰返し演奏している。ブレイクは1小節だけの短いフレーズでクラップスティックは「1 ・」という2拍目を休符というシンプルなブレイクである。またブレイクは8小節歌が続いた後に1回という割合で行われているようだ。この周期的に止まる所から、妻のカササギガンManimunagが、未練も何もなく去って行くのではなく、振り返り、振り返りGoulburn島を去って行くようなイメージを抱かせる。
14. Marwagara is left by himself
「Marwagara(Manimunagの夫のGoulburn島のゴアナ)は一人置き去りにされる」
4/4拍子の2小節周期で繰返される最初のスロー・パートは、4分で「1・3 ・/ 1 2 3 ・」と打つクラップスティックにユニゾンした「Lidumo- Lidumo- / Lidumo Lebo- Lidu-mo-」といったリズムをディジュリドゥの伴奏に、同様に2小節周期で歌が歌われている。
途中でファスト・パートに移るが、4/4拍子の同じテンポのままクラップスティックが全ての8分を連続してたたき、ディジュリドゥは「Lidu-mo-」といった2拍フレーズを中心に演奏している。ブレイクは、歌の合間にソングマンのディジュリドゥを模倣した2小節分の歌を合図に、1小節の長さで行われており、クラップスティックはここだけ4分にもどって「1 2 3 ・」というリズムをたたき、ディジュリドゥは3拍目に強拍をおいた演奏をしている。
エンディングでは、上記のブレイクを2回くりかえし、最後にはクラップスティックは4分にもどって2小節だけディジュリドゥとともにゆったりとした演奏をして終わるという印象的なエンディングである。
前半のゆったりしたパートは短く、その後にスロー・パートの2倍の速度でクラップスティックをたたくファスト・パートへ移り、歌が入る前にはブレイクが繰返し演奏されて、ファスト・パートがより長い時間演奏され、最後に2小節だけスローにもどるというこの構成から、独り身になった事と妻の不貞への焦躁のようなものを感じさせる。歌のメロディーは全体的におだやかで、物憂気でけだるい脱力感のある雰囲気で、シンガー達はあまり声をはりあげて歌っていない。
15. Marwagara looks for food
「Marwagaraは食べ物を探している」
トラック14の前半のスロー・パートのみを抜いた構造で、ブレイク、エンディング、歌のメロディーはほぼ同じだが、ディジュリドゥのみ「Lidumo- Lidumo- / Lidumo Lebo- Lidu-mo-」といった2小節のフレーズをメインに組み立てていて、同じ8分のクラップスティックをバックに演奏されていても、少しゆったりとして聞こえる。
中盤からシンガー達は、力強く歌っており、同じメロディーなのにトラック14よりも哀愁をおびた感じに聞こえる。
16. Looking for rain
「雨を待っている」
悲し気だがあたたかな、やさしい歌のメロディーがたまらない名曲。歌は、4/4拍子の8小節で一つの大きなくくりになっていて、その内前半6小節は沈んだ重苦しい曇り空のような雰囲気のメロディーで、後半2小節はその重さを開放するかのようなあたたかさを感じさせるすばらしいフレーズである。またこの後半2小節だけ、二人のシンガーがはっきりと1オクターブ差で歌っている。
ディジュリドゥの演奏は、4分のゆったりとしたクラップスティックのテンポをバックに舌をカール・バックさせた高い倍音を随所に入れて、きらびやかで、限定されたリズムの中で音の質を変化させている美しいサウンドを聞くことができる。
17. Which way will I go
「どっちの道へいこうか」
トラック16とほぼ同じメロディーの歌だが、クラップスティックは8分で演奏されている。ブレイク前のディジュリドゥの高い倍音のキレがすさまじい。後半に向かってディジュリドゥの音のキレが良くなっているのがわかる。
18. Marwagara meets(?)
曲冒頭のナレーションの聞き取りは不明。
トラック17と同じ構成。
TRACK 19-21 : Walang語グループによる歌
シンガー : Micky Ngolaman & Andrew Nadumalu(Walang語)
ディジュリドゥ : Mangundill
19. Gadigadi goes on her own way
「Gadigadi鳥は、旅を続ける」
Walang語を話す人々は、Maung語を話す人々の住む土地の東側に住んでいる。ディジュリドゥのサウンドはより低音部分が強調的に聞かれ、喉を開いた倍音も聞く事ができる。歌が終わってからもディジュリドゥの演奏は終わることなく、長めに演奏されており聞きごたえがある。2/4拍子の4分にクラップスティックが途切れることなく演奏されている。
20. Gadigadi arrives at the dreaming site
「Gadigadi鳥は、ドリーミングの場所に辿り着く」
この曲もトラック19と同様の曲で、このシンガーの特徴としてはディジュリドゥの音とクラップスティックの音をよりパルス的にとらえており、あまり拍子にとらわれない歌い方をしているか、あるいは非常に複雑で意図的なリズム感覚で歌っているかのどちらかである。
ディジュリドゥの伴奏には、即興性が見られ、常に4分のクラップスティックに合わせて、2ビート感覚を中心に演奏している。特に歌と歌の合間とエンディング前では、見せ場的な演奏を行っている。
21. The Gadigadi (?) symbol
曲冒頭のナレーションの聞き取りは不明。
トラック19-21は、ほぼ同じメロディーの歌と曲構造になっている。ディジュリドゥの音の収録は後半になれば、なる程よくなっている。全体を通して、曲が終わる前にディジュリドゥとクラップスティックだけの部分が長めにとられており、そこでみせるディジュリドゥ奏者の即興的な舌の動きがすばらしい。
TRACK 22-26 : Walang語グループによる歌
シンガー : Mangulugulu(Walang語) & Andrew Nadumalu
ディジュリドゥ : Mangundill
22. Gadigadi finds her lover
「Gadigadi鳥は恋人をみつける」
3/4拍子の4分にクラップスティックが入り、ディジュリドゥは3拍目の裏拍からはじまる1小節の「Lidumo Lidumo-」といったリズムを基本に演奏し、シンガーの歌は4小節周期で歌われている。Goulburn島の歌ではじめて3拍子が使われている例である。トラック22-26のメイン・シンガーMangulugulluの歌はトラック1-18のメイン・シンガーGwuwadbad No.2同様、やわからな歌い方で、彼はトラック1-18のディジュリドゥの伴奏も行っている。
トラック1-18の歌の伴奏をしているディジュリドゥ奏者Manguluguluと比べて、トラック19-26の伴奏をしているMangundillの演奏には、より即興的演奏が多くみられる。というのも、歌が終わった後に、クラップスティックとディジュリドゥだけが残って演奏されるパートがあるからなのだが、これは「Walang語グループの歌」の特徴なのか、ディジュリドゥ奏者の技量によって配分されるパートなのかは不明である。
このトラックではディジュリドゥ奏者は、歌のあるパートでは遊びの少ない決まった短いフレーズを演奏し、歌がなくなってからのインスト部分では、クラップスティックとともに非常に即興性の高いリズムを演奏している。トラック22-24は、ディジュリドゥの録音状態と音量も良好。
23. They move along the beach
「彼等は浜辺にそって移動している」
4/4拍子の全ての4分にクラップスティックが入り、歌が入っている間はディジュリドゥは2ビートのリズムをひたすら繰返しているが、最後のインスト部分では、舌をカール・バックさせた特徴的な「ひいた」サウンドを印象的に使ったり、即興的なリズムを演奏している。
24. They cry out (?) fly away
「彼等は叫び、飛び立つ」冒頭のナレーションの聞き取り不明のため不確か
トラック23と同じような曲構成の3/4拍子の曲で、ディジュリドゥの伴奏リズムも同じだが、シンガーは曲間で、鳥の鳴き声を模倣しているかのように低い声と高い声両方を使って、「Gadi- Gadi-」と歌っている。そしてインスト部分では2本のクラップスティックがそれぞれ4分と8分を別々に演奏している。
25. Gadigadi's husband returnes from trading
「Gadigadiの夫が交易をして戻る」
ディジュリドゥの音が録音の関係上か、こもったりフランジングしたりしている。4/4拍子の曲で、歌の前半と後半のメロディーがはっきりとわかれているGoulburn島の歌らしい音楽センスを感じさせる。このトラックのディジュリドゥの演奏には即興性は少ない。
26. Farewell to the Gadigadi
「Gadigadiに別れをつげる」
4/4拍子の曲で、4分で演奏されているクラップスティックとユニゾンして、「Gadi- gadi-」と一定の音程で2小節繰返し、3小節目の頭だけ1オクターブ高い声で「Gadi !」と歌っている部分が非常に印象的。ディジュリドゥの演奏は4分で「Lidomo-」といったリズムだけをひたすら繰返しており、即興性は少ない。
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