クイーンズランド州の北端の半島Cape YorkにあるLockhartコミュニティの教会がプライベートに作製したレコードで現在廃盤。ゆったりとした暖かな歌声がすばらしい「アイランド・ソング」。
■CAPE YORKの録音を含む音源
何もプリントされていない白無地のジャケットにわら半紙にガリ版印刷のような手法で手書きのアートワークがプリントされたものがぺらっと貼ってあるだけ。ライナーもなく、このレコードの内容を説明する文章と曲名はわからない。
A面では、ゆったりとしたシンプルな2ビートを基本としたリズムで構成されている曲が多く、パプア・ニューギニアから持たらされたとされている砂時計型の片面ドラム(ジャケットの絵参照)「Poi」が4分を打ちつづけ、それを伴奏に複数のシンガーがハーモニックに歌を歌っている。時にギターが伴奏に参加しており、8分でシンプルなバッキングをしていてギターが入っている方がより2ビート感を強く感じる。
この地域ではディジュリドゥは伝統的に見られず、Torres海峡の島々の音楽の影響が色濃く、オーストラリア全域でもドラムが伝統的に演奏される珍しい地域である。Torres海峡の島々ではアボリジナル音楽研究者達のつけた名称で「アイランド・ソング」として広く知られており、白人の入植移行100年以上に渡って西洋音楽に影響を受けて生まれた音楽スタイルだとされている。
ケープ・ヨーク半島はTorres海峡に面しており、文化的にもオーストラリア的というよりもよりTorres海峡の文化に非常に近い。A面に収録されている曲はそういった文化の中でもより最近の傾向として広く歌われるようになった「アイランド・ソング」が男女複数のシンガー達によってハーモニックに重厚的に歌われている。非常に聴きやすく、ゆったりとしていて猛烈に和む曲調のものが多い。多様なアボリジナル音楽の一つとして聴くこともおもしろいが、個人的にはそういった文化的背景を考えずに、日曜の午後の暖かな日ざしの差し込む時間に、そよ風をあびながら聴きたくなるような激ゆるの音楽である。
B面頭には鬱蒼としたジャングルのまっただ中のような鳥達の鳴き声。そして片面太鼓Poiの伴奏付きの伝統曲が数曲収録されており、後半には再びアイランド・ソングが収録されている。「Bora」と呼ばれる儀礼の音楽に似たこれらの伝統曲の方がよりフラットなメロディーで歌われており、Poiの演奏も複数で行われていて、より独特な音楽的特徴を感じる。
近年、アーネム・ランドのアボリジナルの若者達が好んで演奏するコンテンポラリー音楽では、レゲエやロックに影響を受けたラブ・ソングや風景を歌った歌、そして教会音楽から影響を受けたゴスペル風の歌などが多いように感じる。彼等が音楽的に良いと感じ、それを取り入れているのだから、そこに何か共通したセンスがあるのかもしれないと思う。そういう観点でもこのエリアの「アイランド・ソング」は非常に興味深い。
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