アボリジナル研究の民俗学者達が収集したすばらしい音源を集めた2枚組LP。貴重なGoulburn島のGUNBORGや北東アーネム・ランドのDjapuクラン・ソングなど多数収録。
■曲解説
地図や多数の写真やイラストを含んだ320ページの百科事典のような本、そして2枚組のLP+ライナーのセットでアボリジナル文化を総合的に学ぶためのキットして発売され、その内容は蒼々たる民族学の教授達によって収集された各地の録音が収録されており、中でもノン・アボリジナルで自らイダキも演奏をするTrever A. Jones教授によって録音されたレコード1のB面のYirrkalaやElcho島の北東アーネム・ランドの録音が特にすばらしく、他にもR.M. Berndt教授によって録音されたGoulburn島のGUNBORGはその貴重さ、録音状態の良さ、音楽的内容の良さの3拍子がそろった録音です。またAlice M. Moyle博士によって録音された北東アーネム・ランドのDjapuクラン(Dhuwa半族)の歌のディジュリドゥの伴奏は超絶。文句無しの名盤です。
包括的にアボリジナル音楽をとらえる目的というものを感じさせる幅広い地域の録音を収録しながらも、それぞれ数人の民族学者達が収集した非常に秀逸な録音から持ち寄られたレコードであるため、かなりの聞きごたえがある。ディジュリドゥが収録されているトラックに関しては全て良好な録音状態と内容です。
このLPのライナーは、LPサイズの4Pだが、ほとんど曲の解説や詳細は述べられておらず、曲タイトルの演奏者名がわかる程度になっている。そのため下記の「ライナーの翻訳と解説」ではほとんどが筆者のレビューが中心になっています。 レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がなく、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■曲解説
RECORD 1
SIDE A : LEARNING ABORIGINAL MUSIC 1.Tululu Rungkanma Ngana Ngali|2.Yu:rungkanma Ngana Ngali|3.Tjarpama Walpangka Ngana Ngali|4.Purunti|5-6.Unedited Section of Nyi:nyi: Ceremony|7-8.Transition 'Coon' Song
SIDE B : Yiraki(Didjeridu) Playing in North Eastern Arnhem Land 9. Djadpu Manigai/Seagull|10. Djadpu Manigai/Brolga|11. Gumaidj Manigai/Kangaroo|12. Riradjingu Manigai/Seagull|13. Gumaidj Manigai/Sailing Boat|14. Djedbangari/Mailplane|15. Djedbangari/Devil Dance|16. Repeat of 15, recorded near player's nose
17-23. Recrded at Elco Island 17. Djedbangari|18. Manigai|19. Manigai/Spider Web|20. Manigai/Seagull|21. Eastern Gardjambal Kangaroo|22. Western Gardjambal Kangaroo|23. Pigeon (Lalamberi)
24-29. SIX ABOIGINAL SONGS 24.Bururu Cycle(South Eastern Kimberley) I 25.Nanbaidjara Singing(South Eastern Kimberley) I 26.Wadawada Cycle(South Eastern Kimberley)|27. Morning Star Cycle|28. Yibiyibi Cycle|29. Goanna Cycle
RECORD 2
SIDE A : SONGS BY YOUNG ABORIGINES 30.3 Wongga Items I 31.Wongga Item I 32-35.8 Play Songs I 36.Naru Naru Kulpanja I 37.Song by Walmadjeri Girl|38-39. Isaac's Song|40. Didjeridu Only and Mouth Sounds|441. Wongga
SIDE B : SONGS BY YOUNG ABORIGINES 42. Djabi/Friction|43. Helicopter|44. Lugger, Truck, Mailplane|45. Buffalo or ABC Ceremony|46. Bushfire and Korara
RECORD 1
SIDE B : Yiraki(Didjeridu) Playing in North Eastern Arnhem Land / Recorded by Trevor A. Jones
9-16. Recorded at Yirrkala, 30th January 1964
9. Djadpu Manigai/Seagull(Yanggarin)
Yanggarin(Dhalwanguクラン-Yirritja半族)によるイダキ・ソロ。4分で刻んでいるクラップスティックとディジュリドゥの短いトゥーツがユニゾンして演奏されていて、たたみかかけるようなメイン・リズムと対照的に、ブレイク部分にのみコールが入るという構成になっている。
彼が演奏しているイダキはディープなサウンドで、幅広い倍音が聞かれる。トゥーツとドローンの行き来がスムーズで、トゥーツを非常に軽快に演奏している。タイトルからDjapuクラン(Dhuwa半族)のManikay(歌)で、曲名はDjarrak(アジサシ)であることがわかる。若者らしい軽快でリズミックな演奏スタイル。
10. Djadpu Manigai/Brolga(Yanggarin)
トラック1と同じYanggarinが演奏するDjapuクランのGudurruku(ブロルガ)ソングのイダキ・ソロ。ブロルガ(豪州ヅル)の鳴き声を模倣したコールをダイナミックにシンコペーションして入れ、ドローンよりも前に出るように演奏しているのが特徴的である。ブレイクの部分での2回連続していれるトゥーツのリズムがDjaluのCDに入っている同じブロルガとは違っており、より跳ねた感じのリズムになっている。メインのドローン部分はシンコペーションしているのに対して、このブレイク時には2回目のトゥーツで表にくるようになっている。
コールの勢いに若さを感じるが、曲の吹きはじめのダイナミックさや、トゥーツの音の美しさに既に名手的な演奏能力の高さを感じさせる。
11. Gumaidj Manigai/Kangaroo(Wurumila)
Wurumila(Gumatjクラン-Yirritja半族)のカンガルーの歌のイダキ・ソロ。スローなブロルガの曲のような3拍フレーズのドローンのリズムに、ブレイク部分で長いトゥーツが入るというあまり他で聞くことのないリズムになっている。クラップスティックのリズムも珍しく、イダキとクラップスティックはユニゾンして演奏している。
ディープで低い音程のイダキを使用した演奏で、唇と舌ともに比較的ルーズな感じの印象を受ける。その分、ドローン部分に幅広い倍音が聞かれる。
12. Riradjingu Manigai/Seagull(Wurumila)
トラック3と同じWurumilaによるDhuwa半族のRirratjinguクランのDjarrak(カモメ)の歌のイダキ・ソロ。多重的な倍音がバランス良く聞こえ、低音部分もかなり太いサウンドになっている。早いテンポの曲で、舌の動きもリラックスした舌が激しく口腔内を動き回っているのがよくわかるトラックです。うねる低音と複雑な高音域の倍音に加えて薄く声が入っている。
13. Gumaidj Manigai/Sailing Boat(Wurumila)
Gumatjクランのイダキ・プレイヤーWurumilaの演奏はかなりDjaluに近い雰囲気で、複雑な倍音を同時に出している。この曲ではイダキが全体的にゆったりしたリズムで演奏しており、クラップスティックに早いパートと遅いパートがあることで曲が展開している。「Dhitu」といった一番アタックの強いサウンドが非常に力強く、舌がカールバックする時でもダイナミックで、それでいてカールバックで生まれる倍音も美しい。
14. Djedbangari/Mailplane(Wurumuila)
Wurumilaの演奏による3拍子の若者のパブリック・ダンス・ソングDjatpangarri。ブレイク部分でのクラップスティックの展開がおもしろい。かなり自由なリズム割りで即興演奏されており、プレーヤーの卓越したリズム・センスがうかがえる。
15. Djedbangari/Devil Dance(Wurumuila)
Wurumilaの演奏の中で、最もやばいリズムと演奏。5拍子を3+2で割ったリズムで終始演奏されており、北東アーネム・ランドの録音ではあまり聞かれないリズムである。ドローン部分では低い声が入っており、それが曲の雰囲気と倍音をより強めている。パワフルで野太い、圧巻のサウンド!
16. Repeat of 17, recorded near player's nose
トラック7と同じ曲を鼻の辺りで録音している。この録音方式はどういうタイミングで声を出しているのかという事と、呼吸をするタイミングがわかって非常に画期的とも思える録音内容になっている。しかも、声を入れている感じがはっきりとわかって、すばらしい。イダキの音は管の出口よりもより倍音が強調されて聞こえ、プレイヤーがどんな音を聞いてるかという事もわかりやすい。
17-23. Recrded at Elco Island, 10th February 1964
同じ地域ということもあってか『AUSTRALIA -Songs of the Aborigines』(CD
1963/2002 : King/Alvatoros)に収録されているElcho島のディジュリドゥ奏者のサウンドに近い、パワフルでダイナミック、そして乾いたサウンドが特徴的な演奏。声を使わないのにドローンが舌の動きでメロディアスに聞こえる所がすさまじい。特に7曲目と8曲目は激烈にやばい。
17. Djedbangari(Bulingbuy)
Bulingbuy(GalbuクランーDhuwa半族)によるすさまじくタイトでパワフルなイダキ・ソロ。GalbuとはDjaluと同じGalpuクランのスペル違いと思われる。トゥーツを全くつかわないリズムで、説得力のあるドローンのみの演奏。ドローンでのカールバックの舌の動きが如実に高音域の倍音に影響している。ブレイクの時の休符のはいるカットアップしたリズムの切れ味に注目したい。
18. Manigai(Bulingbuy)
Bulingbuy(GalbuクランーDhuwa半族)によるイダキ・ソロ。トラック9と同一人物。トゥーツの音が太くきれいでいて、しかもはじけるようなサウンド。かなりの速度にもかかわらず、トゥーツとコールがふんだんに入り、ドローンのリズムとのからみも最高。
高い声のコールとトゥーツの美しさ、そしてドローンとトゥーツの切り返しの自然さ、複合的な演奏能力の高さが光るトラックだ。非常に複雑でタイトでありながら、リラックスした幅広い倍音が聞かれる。若い時のDjaluは、こんな感じだったんじゃないかと想像してしまう程、壮絶な演奏能力である。
19. Manigai/Spider Web(Bandgmepamiri)
Bandagmepamiri(DjambarbinguクランーDhuwa半族)によるイダキ・ソロ。スピーディーで短い4拍子の曲。安定した高いプレッシャーに裏付けられた、はねるようなリズミックな演奏。
20. Manigai/Seagull(Bandagmepamiri)
Bandagmepamiri(DjambarbinguクランーDhuwa半族)のイダキ・ソロ。13拍子(3+3+3+4)という究極的に複雑なリズムのようだが、3連x3+4というふうに演奏すればさほど難しくはないが、この拍の感覚をつかんで曲をインプロバイズするには卓越したリズムセンスが要求されるだろう。サラリと自由に即興的要素を多分に含んだ演奏をやってのけている所がたまらない。ツボは4の所が3+1になっていて、その休符の1の所に軽いコールが入っている所だろう。
21. Eastern Gardjambal Kangaroo(Bulingbuy)
Bulingbuy(GalbuクランーDhuwa半族)によるイダキ・ソロ。トラック3も同じカンガルー・ソングで、同じリズムを演奏しているのだが、GumatjクランのWurumilaによる演奏とは印象がかなり違う。トゥーツの響きを比較してみて欲しい。透き通っていてしかも音が太いように感じる。長いトゥーツを多用したこの曲ならではの雰囲気がある。ドローン部分での幅広い豊かな倍音が気持ちいい。またBulingbuyは、途中から早いバージョンの演奏に切り替えている。
22. Western Gardjambal Kangaroo(Baraltja)
Bulingbuy(WonguriクランーYirritja半族)のイダキ・ソロ。かなりリラックスしたゆるい唇での演奏が伝わる。トゥーツはアタックを若干弱くしたやさしい音でトラック13のBulingbuy(GalbuクランーDhuwa半族)の演奏と比較すると対照的。
23. Pigeon (Lalamberi)
Lalamberi(DhalwanguクランーYirritja半族)のイダキ・ソロ。『THE LAND OF THE
MORNING STAR』(LP 年代不明 : His Master Voice)と『TRIBAL MUSIC
OF AUSTRALIA』(CD-R from LP 1949 : Folkways)でしか聞くことができない特別な演奏方法で鳥の鳴き声を出している。シークレットな演奏スタイルとされているようだ。
24-29. SIX ABOIGINAL SONGS / Recorded by Ronald M. Berndt トラック16-18は、ディジュリドゥの伴奏の無いクラップスティックの伴奏を伴った歌が収録されています。
27. Morning Star Cycle(North Eastern Arnhem Land/Elcho)
北東アーネム・ランドのElcho島での録音。DjambarbinguクランのMorning Star(明けの明星-金星)の歌。Dhuwa半族の死者の神話上の島Burralkuに関する歌で、夜明け前にMorning
Starを島に引き戻すために、スピリット・ダンスが踊られる。「砂埃が上がっていく ダンサーの足下から上がっている Morning Starのために踊っている Morning
Starにつないだヒモをひっぱっている 太陽があがる前に 夜明けの最初の光の前に 新しい霊達を集めている 霊達はBurralku島の砂の丘に立っている」といった歌詞が歌われている。イダキのサウンドはディープで、ゆったりとしたテンポの3連ベースの短い曲が3回繰り返して演奏している。Elcho島での古い音源は少なく、これ以外だと『AUSTRALIA
-Songs of the Aborigines』(LP/CD1963/2002 : Albatros-King)に7曲収録されている。
28. Yibiyibi Cycle(Goulburn Island/Western Arnehm Land)
中央アーネム・ランドの北部の島Goulburn島の歌。Goulburn島の録音は珍しく、『SONGS OF ABORIGINAL
AUSTRALIA 』(Cassette 1961-64/1988 : AIATSIS)を録音や様々な著作で知られるR.M. Berndt教授によって録音されたMawan語で歌われているYibiyibi(Grasshopper:バッタ)の歌。バッタはブッシュに住む恋人のネズミに話しかけている。ネズミの妹が亡くなったので彼女は自分を置いてバッタに出かけてほしくない。
倍音の強い、引きずるようなサウンドのディジュリドゥに、声をはりあげるのではなく、しゃべってるより少し大きい声でのリラックスしたやさしい調子の歌がのっている。ディジュリドゥは高めの音程で、GUNBORGスタイルらしい倍音豊かなサウンドが聞かれる。
29. Goanna Cycle(Goulburn Island/Western Arnehm Land)
中央アーネム・ランドの北部の島Goulburn島のGoanna(ゴアナ:おおとかげ)の歌。雄のゴアナは既に結婚しているManimunagという名前のガチョウに恋をする。彼女の夫のゴアナはそれを知り、喧嘩になる。彼女は平原に飛び去るとつげ、Gadigadiという鳥が鳴く時私の子供が生まれたということを皆が知るだろうとつげる。
この曲は『SONGS OF ABORIGINAL AUSTRALIA』(Cassette
1961-64/1988 : AIATSIS)に収録されているものと同じ。トラック20よりも、より明確でシャープなディジュリドゥのサウンド。音量も大きい。伝説のディジュリドゥ・マスターデビッド・ブラナシの演奏スタイルと比べると、同じGUNBORGスタイルでもディジュリドゥの演奏は比較的シンプルな伴奏をしており、即興的な演奏がかなり少ないように思える。
GOULBURN島の録音を含む音源
・『Arnhem Land Popular Classics』(LP 1961-62 : Wattle
Ethnic Series) *トラック7
・『The Australian Aboriginal Heritage』(LP 1973 : Australian Society for Education Through the Arts) *レコード1、B面トラック20-21
・『The Land of the Morning Star』(LP 1960's : His Master's
Voice) *トラック10-14
・『Songs from the Northern Territory 1』(LP 1960's : His
Master's Voice) *トラック6
・『Songs of Aboriginal Australia』(Cassette 1961-64/88
: AIATSIS) *B面すべて
RECORD 2
SIDE A : SONGS BY YOUNG ABORIGINES
Recorded by Alice M. Moyle
38-39. Isaac's Song
Nhumbulwarよりもさらに南にある東アーネム・ランドの南下Borroloolaにて録音。低音のディジュリドゥによるトゥーツのないドローンのみの演奏(Alice
M. Moyle博士のAタイプ)にクラップスティックと歌。ディープで倍音豊かなサウンドは、よりGUNBORG的な演奏スタイルを感じさせる。Borroloolaの録音は、他に『Aboriginal
Sound Instruments』(CD 1963-68 : AIATSIS)に多く収録されている。Borroloolaは、AタイプとBタイプ両方のディジュリドゥの演奏スタイルが混在する珍しい地域である。
40. Didjeridu Only and Mouth Sounds
トラック10と同じプレーヤーによる同じ曲のディジュリドゥ・ソロと思われる。舌を一番前にもってきている時のアタックの強いサウンドに含まれる高い倍音成分が非常に特徴的である。後半に収録されているマウス・サウンドを聞くと「Lidomo- Lidedenmo-」という歌の「Li」の時にホーメイのような高い倍音成分が聞こえる。これがアタックの強いサウンドを出すと同時に高い倍音が出る理由と思われる。『Aboriginal Sound Instruments』のトラック11の中盤にも全く同じディジュリドゥ・ソロが収録されている。
41. Wongga
Hall's Creek(西オーストラリア州)にて録音。1曲目に高目のピッチのディジュリドゥを使った15才の少年によるディジュリドゥの演奏にクラップスティックと歌が、続いてディジュリドゥ・ソロ、そして「DiDaRo DiDaRo-」という短いマウス・サウンドも収録されいる。息を吸う音が聞かれ、かなりルーズな唇に息を強く吹き込むように演奏しているように感じられるWANGGAスタイルの演奏である。
SIDE B : SONGS BY YOUNG ABORIGINES
Recorded by Alice M. Moyle
42. Djabi/Friction
La Grange(西オーストラリア州キンバリー地方)で録音された子供による歌を2曲を収録。ディジュリドゥの伴奏の無いクラップスティックと歌のみ。まるで大人を真似て練習してるかのようなほのぼのとした声のトーンがやさしい気持ちにさせるなごみのトラック。
43. Helicopter
Bmayili(現在のBarunga:デビッド・ブラナシで有名な南西アーネム・ランドのコミュニティ)での録音。二人のソングマンにディジュリドゥ。ディジュリドゥは、不思議な事にこの地域に特徴的なWANGGAやGUNBORGのスタイルではなく、なぜか切れのいいスピーディーな北東アーネム・ランドのスタイルで演奏されている。2曲収録しており、2曲目の最後にはトゥーツが入っている。ライナーが正しければかなり謎めいたトラックである。クラップスティックが入るブレイクとエンディングがダイナミックで渋い。
44. Lugger, Truck, Mailplane
Rose River(Groote Eylandtの対岸、東アーネム・ランド)。順にLugger, Truck, Mailplaneの3曲を収録。
「Lugger(ラガー:小型帆船)」ソングの伴奏のディジュリドゥはポップな、はねるようなリズムが目立つミドルテンポの曲だが、16分の激烈に早い部分がありディジュリドゥ奏者の高い演奏能力に裏づけされた自由な即興的演奏がすばらしい。他ではあまり聞くことのできない、かなりすばやい舌の動きを使った高速リズム・パターンが見られる。
「Truck」ソングはメロディックで叙情的で、インド音楽のボーカル物やバウル(吟遊詩人)の歌のような響きさえ感じさせる。それに合わせてディジュリドゥもゆったりとしたスローな舌の動きのリズムを繰り返している。歌がクール!
「Mailplane(郵便飛行機)」ソングは『ABORIGINAL SOUND
INSTRUMENTS』(CD 1963-68 : AIATSIS)にもディジュリドゥ・ソロと歌とディジュリドゥの2曲同じ「Mailplane」ソングが収録されている。スローパートとファストパートに別れており、スローな部分は「Truck」ソングのようなゆったりしたリズムで、早い部分は「Lugger」ソングをもっとダイナミックにした感じ。劇的に一部分だけ早く舌を動かして部分的にかなりスピーディーな演奏をしている。ディジュリドゥの音量も大きく、常に声を混ぜ気味に演奏しているディジュリドゥ奏者の超絶的な演奏技術もさることながら歌のメロディの美しさが光る秀逸な録音。ここで収録されているAlice
M. Moyle博士の録音の中でも特にこの3曲がすばらしい。
45. Buffalo or ABC Ceremony
Groote Eylandtの録音を4曲収録。録音内容はGroote Eylandtの音楽的特徴とは全く違うGUNBORGやWANGGAの演奏スタイルで、1-2曲目はスピーディかつ高音域の豊かな倍音を含んだドローン(持続低音)がすばらしい。3曲目では「Lidu-mo-ro」といったリズムの頭をかなり力強く演奏しており、このリズム・パターンと少しのバリエーションを延々と演奏している。4曲目は7拍子(3+2+2)で複雑なリズム割りでありながら、ディジュリドゥ奏者はきっちりとソングマンのクラップスティックをフォローし、その上である程度の自分なりのリズムのアレンジも加えている。ブレイクとエンディングはすさまじい。現存する資料からは、演奏者や年代を特定できないのが残念だが、GUNBORGもしくはWANGGAスタイルの秀逸な演奏であることには間違いなく、60年代のデビッド・ブラナシをおもわせる演奏スタイルだ。「ABC儀式」とは一体何だろう?
46. Bushfire and Korara
Mitchell River(東Cape York)にて2曲を録音。ギター、Seed Rattles(乾燥した種をガチャガチャと鳴らす音)、スプーンにスキン・ドラム。いわゆる「Island Style」と呼ばれるヨーロッパ音楽の影響とTorres海峡の島々の音楽の影響を受けたCape Yorkにみられる音楽の特徴で、ほのぼのとした底ぬけに明るい気分が漂うポップな音楽。
『Instrumental Music of Asia and the PacificSeries
2-2 & 3-3』(3 Cassettes with Booklet 1985 : ACCU)のブックレットにそれぞれの楽器と「Island
Style」についての詳しい解説が載っているので参考にしてもらいたい。
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