音楽、儀式、芸術、政治的活動など様々な面で秀でた北東アーネム・ランドYirrkalaのRirratjinguクランのセレモニアル・リーダー「Wandjuk Marika」のイダキ・ソロ。
■WANDJUK MARIKAのプロフィール
■ディジュリドゥ / イダキ
■Seminar on Art in the Third World
■ライナーの翻訳
すでに亡くなっているWandjuk Marikaのオールド・スタイルのイダキ・ソロを聞くことができる非常にレアな7インチ・レコードです。ルーズな唇で鳴らす倍音豊かでダイナミックなサウンドがすさまじい。
A-B面合計で6曲収録されているが、残念ながら両面ともメドレーで演奏されている。タイトルにあるPort Moresbyとはパプア・ニューギニアの首都で、当時、音楽、儀式、芸術(樹皮画など)、社会的活動など多方面で活躍していた彼が、パプア・ニューギニアで行われた「South Pacific Festival of Arts」という南大平洋の様々な国々や島々から人々が集まった芸術祭に参加した時に録音されたと思われる。1976年2月25日に国立放送委員会にて録音。
その時のライヴ音源と思われるイダキ・ソロが『World Music Gala Collection
100 世界民族音楽大集成 オセアニアの音楽II』(CD : King Record)のトラック18に収録されている。また『SONGS
FROM THE NORTHERN TERRITORY 3』(CD 1961-63 : AIATSIS)のトラック13に歌の解説をする彼の声が聞かれ、vol.4のトラック6(b)にイダキの伴奏(不明)、6(c)で歌の解説をしている。
Wandjuk Marikaについての詳しい情報は、デビッド・ブラナシのライブ盤CD(仏)『Les Aborigene』(CD 1979 : Arion)のライナーを書いている研究者Jennifer Issacsによる著作『Wandjuk Marika Life Story』(Book 1995 : University of Queensland Press)で知ることができる。
また、彼はドイツの奇才映画監督ヘルツォークの作品『Where the Green Ants Dream(邦題 : 緑のアリが夢みるところ)』に役者としても出演していたり、1970年代に行われたIan Dunlopによる映像プロジェクト『Yirrkala Film Project』によって撮影された記録映画でも儀式の中心人物として活動している彼の姿を見ることができる。
■WANDJUK MARIKAのプロフィール
Wandjuk Marikaは北東ア−ネム・ランドのRiratjinguクラン(言語グループの一つ。Dhuwa半属)の儀式的リーダーであり、アボリジナル芸術委員会の委員長でもある。1930年頃にYirrkalaに生まれ、当時Yirrkalaは教会が管理する小さなアボリジナル居住区だった。この事が後にこの土地のアボリジナルの人々の土地所有権や、巨大なボーキサイトの発掘場所Nabalcoに関する最も重要な焦点となるのである。Wandjuk Marikaと彼の一族は、産業社会との対決に身を投じ、その過程で政治的かつ社会的な結束力と力強さを得たのである。東アーネム・ランドでは伝統的な文化が生活の重要な部分を占めており、DjanggawulやWawilak Sistersのようなドリーム・タイムの祖先の神々の大地開びゃくのストーリーは、誕生から死にいたるまでの人生の全ての局面にわたって儀式的かつ社会的義務を伴う儀式的な長篇伝説をはらんでいる。
Wandjuk Marikaは、人々に尊敬された偉大な儀式的リーダーである彼の父親Mawalanから幼少期からディジュリドゥを学び、現在彼が自分の息子にするように神聖な知識や、儀式、聖なる図案などを父親から受け継いだ。またRiratjinguクランの伝統的生活におけるWandjukの役割と同じように、彼はオーストラリア・アボリジナル芸術委員会における仕事を通じて全てのオーストラリア人にドリーム・タイムのストーリーを説明し、自分の文化の深みを知ってもらうように努めている。
「わしらは、昔の流儀が二度と戻ってはこないことは知っている。けれど、わしらの音楽、歌、ダンス、そしてアートは人類の文化の重要なものとして保存されうるし、されるべきだろう。」とWandjukは語っている。
■ディジュリドゥ / イダキ
持続低音ドローンを出すパイプ、ディジュリドゥは北オーストラリアのアボリジナルの人々の伝統的な管楽器です。ディジュリドゥはシロアリが食べて中が空洞になったストリンギーバークなどの若いユーカリの木の幹、あるいは枝から作られる。ディジュリドゥ製作者は、その木の空洞が十分あいているかを指ではじいてその反響を聞いて確かめて木を切る。そして楽器に適した長さに切りそろえるのである。そして木の表面を滑らかにし、ペイントが施され、口をつける部分にはビーズ・ワックス(蜜鑞)かゴムがつけられる。ビーズ・ワックスをつけることで楽器の空洞の内径を狭くし、口をつけた時にスムーズなマウスピースになる。ディジュリドゥに口をつけ、リラックスした唇を振動させて吹くのだが、その音程は楽器の長さと中の空洞の直径で決まる。唇を絞ったり、開口部分にむけて舌を動かしたり、引いたりしてディジュリドゥのサウンドにバリエーションが与えられるのである。
持続的なリズムはユニークな呼吸法によって得られ、鼻から空気をすばやく引き込んで呼吸している。サウンドを維持し続けるために、この空気を頬にためて継続的に口から吐き出される。
一般的に、ディジュリドゥはソングマンとソングマンが打つクラップスティックの伴奏としてリズミックに演奏されるが、キャンプ・ダンスや娯楽目的でソロで演奏されることもある。
■Seminar on Art in the Third World
Wandjuk Marikaは、1976年にパプア・ニューギニア大学にてパプア・ニューギニア学会によって催された「Art in the Third World」に客員講師として招かれた。その時Wandjukはディジュリドゥの演奏をし、アボリジナル・アート、アボリジナル・ミュージックについての講議を行った。さらに、樹皮画を描いて説明し、パプア・ニューギニア学会にてアボリジナル・アートの展覧会を開いた。
■ライナーの翻訳
SIDE A : (a). Dangultji(Brolga)|(b).
Malwiyi(Emu)|(c). The Wawilak Story I and II
SIDE B : (a). Wawilak Story III|(b).
Kadabana(Buffalo)|(c). Wawilak Story IV|(d).
Katjambal(Kangaroo)
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
SIDE A :
(a). Dangultji
ブロルガ(豪州ヅル)の歌。とりわけ子供などがブロルガの動きをまねて踊る非宗教的なキャンプ・ダンス。
(b). Malwiyi
エミュー。オーストラリアで最も大きな鳥Emuのキャンプ・ダンス。エミューは1.8mほどになる飛べない鳥です。アボリジナルの人々は食料としてエミューを狩り、彼等の大きな緑色の卵を採る。
(c). Wawilak Story
Wawilak神話は北東アーネム・ランドで最も重要なソング・サイクル、あるいは儀式である。ドリーム・タイムと呼ばれる太古に、Wawilak姉妹の一人が妊娠し、大地を旅し、ついに礁湖のそばで身を休め、そこで子を生むために日よけになる場所を作る。姉妹の一人がペーパーバークの木の樹皮を集めていると、天へ届くほど巨大なヘビ「Lightning Serpent(稲妻の大蛇)」の住む水場を偶然汚してしまった。怒った大蛇は頭上にまっ黒な雨雲を呼び寄せ、どしゃ降りの雨を降らせた。姉妹は大蛇の怒りを鎮めるために泣き叫び、踊りをおどったが、そのかいもなく大蛇は二人を飲み込んでしまう。「Wawilak Sisters」は創造の姉妹であり、彼女達が育んだ人々が現在のアボリジナルの人口にまでなったのである。
(I). 最初のディジュリドゥ・ソロは、二人の少女達がその水場までたどりつくまでの旅を伝える歌の伴奏のリズムです。
(II). 2番目のソロは、巨大なヘビ「Lightning Serpent」がどしゃぶりの雨を呼び寄せたことを伝える歌の伴奏リズムです。
SIDE B
(a). The Wawilak Story
(III). Djuwan
この伴奏では、創造の姉妹Wawilak Sistersの子供達があの大蛇が住む神聖な水場へと戻り、当初の出来事を儀式の中で演じるというドリーム・タイム以後の話を伝えている。この歌とディジュリドゥの伴奏リズムは、埋葬や加齢の儀式で演奏される。現在ではDjungguwanと綴るようだ(Yothu Yindiの歌『Back to Culture』より)。
(b). Kadabana
バッファロー。初期のヨーロッパ人入植者達が持ち込んだバッファローはアーネム・ランドの湿地や平原を荒々しく走る。この歌は狩りをするアボリジナルの男達に追われて、潅木をけちらす重厚な動物バッファローをあらわしている。
(c). The Wawilak Sisters
(IV). The Cloud
この短いパートは、「Lightning Serpent」が頭上に呼び寄せたまっくろい雲と雨についての歌の伴奏リズムです。
(d). Katjambal
カンガルー。草の生い茂った平原とかん木の林を駆けるカンガルーの様子を歌っている。
このライナー・ノーツはWandjuk Marika自身が語った表現から抜粋されている。ここで使われているつづりはWandjukが選んだものが使われています。また各曲のレビューは追って追加されます。
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