北東アーネム・ランドYirrkalaとMilingimbiのクラン・ソングManikayと、東アーネム・ランドの島Groote Eylandtの独自性の強いクラン・ソングEmebaを収録。
■Groot Eylandtを含んだ北東アーネム・ランドの音楽概要
■ライナーの翻訳と解説
■Groote Eylandtの録音を含む音源
このアルバムでは前半にMilingimbiとYirrkala(ともに北東アーネム・ランド)の録音を収録し、後半にGroote Eyrandt(東アーネム・ランドの島)を収録しており、その地域差を示唆している。例えば、北東地域ではクラン・ソングを「Manikay」というのに対してGroote Eyrandtでは「Emeba」といい、声を震わすして歌う傾向があるなど、その特徴と比較を深く楽しめる内容になっている。LPで発売されたものの再発盤CDです。
特に、Groote Eylandtの録音が秀逸で、短いフレーズの繰返しでありながら、すさまじくスピーディな舌の動きを要するリズミックなディジュリドゥの演奏を聞くことができる。中でもAlice M. Moyleが「Slurred up-figures(ドローンから続けて高い装飾音トゥーツを出す事)」と表現しているドローンからアタック感の無いトゥーツ(ホーン・サウンド)の演奏スタイルはこの地域のディジュリドゥの演奏スタイルの特徴の一つで、他ではあまり見られない。
Groote Eylandtの録音を集めた音源は少なく、他では『Aboriginal
Music from Groote Eylandt and Brickerton Island, Australia』(CD with a Book1969
: Peter Lang)などがある。
下記は、ライナーに掲載されているAlice Moyle博士の著述による東アーネム・ランドの音楽についての音楽概要の翻訳です。このシリーズ全5作品に共通して書かれている文章の翻訳に関しては、vol. 1のページにその全翻訳が掲載されています。ここでは文章の繰返しになるため、割愛されています。
■Groot Eylandtを含んだ北東アーネム・ランドの音楽概要
音楽的分類の目的でみれば、「東アーネム・ランド」は沖合の島々も含めた北東地域、はるかRoper Riverまで南に沿岸に沿ってひろがる東地域、Carpentaria湾の北西のGroote Eylandt諸島の三つにわけられる。
このCDに収録されているフィールド・レコーディングは、東アーネム・ランドの北東地域にあるMillimgimbi、Yirrkala、そしてGroote EylandtのAnguruguとUmbakumbaにて録音された。
Galiwin'ku(以前はElcho島と呼ばれていた)の人々と共に、この2つの地域にあるアボリジナルのコミュニティは、民族学の論文ではMurngin(WL Warner博士)、とWulamba(RM Berndt博士)と呼ばれてきたが、最近では現地の言葉でPeople(人々)を意味する「Yol\u(ヨォルング)」として知られるようになってきた。
Groote Eylandtの島の人々は、Wayingurraという名前でオーストラリア本土のアボリジナルに知られ、Ingurra語を話す。Groote Eylandtの島の民そのものを表わす名前が無いので、以前に島の中で最も大きなクランの1つに付けられた名前Warnindilyakwaがその総称として使われることがある。
1960年代に演奏され、録音された東アーネム・ランドの「クラン・ソング(同一の言語グループに属する歌)」(全て男性が歌っていた)の特徴は、下記の通りである。
- 大きく異なる2種類の音を活用したディジュリドゥの伴奏(高い、もしくは吹き込んだ音と基本音の隔りは、ほぼ10度の差あるが、ディジュリドゥの長さや形によって異なる)
- (例えば、西アーネム・ランドの歌と比較すれば)ボーカルの音程の幅が狭く、5〜6度の差を超えることはなく、おそらく6度以上になることは無いだろう。
- 「Unaccompanied Vocal Termination(UVT)」伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること。ボーカルによるソング・アイテムの終了、もしくは伴奏楽器の演奏が止まった後に、ボーカルだけが残る。Disc3のTrack11とDisc4のTrack1は、この(4). の特徴の良い例である。
- Groote Eylandt(Track7〜13)では、上述の(1)〜(3)の特徴があてはまり、(4)のUTV(伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること)はここで録音されている歌には見られず、下記に追加されている特徴が「Manikay(北東アーネム・ランドのクラン・ソング)」と「Emeba(Groote Eylandtのクラン・ソング)」を区別している。
歌の反復部分は、一連の言葉とシラブル(音節)か、長く伸ばした一つのシラブル、もしくは鳥の鳴き声などのボーカル・サウンドのパターンの繰り返し、このいずれかで構成されているようだ。こうしたコール(掛け声/動物の鳴き声/叫び声などを指す)は、東アーネム・ランドで演奏される数多くの反復フレーズのような構造、もしくは特定の部分的構造の中に組み込まれている。
Groote Eylandt(Track7〜13)では、上述の(1)〜(3)の特徴があてはまり、(4)のUTV(伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること)はここで録音されている歌には見られず、下記に追加されている特徴が「Manikay(北東アーネム・ランドのクラン・ソング)」と「Emeba(Groote Eylandtのクラン・ソング)」を区別している。
- Shaky Voice(喉を震わせた声)。Emebaシンガー達が使う、意図的な声の装飾
- Break。シンガーが選んで歌うある特定の言葉をシグナルにして、Groote Eylandtのクラン・ソングにおけるボーカル・パートが簡潔に停止する。(この時点で、歌のテーマは崩れ、舞い降り、もしくはなんとかして突然変わる。Breakがあることで、シンガーが次に歌うべき言葉を決める時間ができるのだと言われている。)
- Breakの間のスティックとディジュリドゥの短いパターン化された交錯。
- 「Emeba」と「Manikay」のさらなる比較をすれば、1曲の演奏時間は「Manikay」が通常約1分もしくはそれ以下、「Emeba」は2分以上は演奏されるということが明らかである。
- 同時に様々に異なる場所から起こるスティックを打つガチャガチャとしたサウンド
「Emeba」と「Manikay」のさらなる比較をすれば、1曲の演奏時間は「Manikay」が通常約1分もしくはそれ以下、「Emeba」は2分以上は演奏されるということが明らかである。
■ライナーの翻訳と解説
DISC 4 : ABORIGINAL MUSIC FROM NORTH-EASTERN ARNHEM LAND including GROOTE
EYLANDT
Milingimbi 1963 : 1(a). Clouds, (b). North Wind,
(c). White Cockatoo, (d). Brown Hawk, (e). Emu
Milingimbi 1962 : 2(a). White Cockatoo, (b). White
Stork|3(a). Nalpa, (b). Wilata
Milingimbi 1963 : 4. Song words by Gungupun
Yirrkala 1962 : 5(a).Seagull|5(b).Didjreridu
only|6(a). 'Makassan' song words
Yirrkala 1963 : 6(b). Djatpangarri : Butterfly;
Cora|6(c). Wandjuk talks about Cora
Angurugu, Groote Eylandt 1962 : 7. Eagle|8(a).
Stingray|8(b). Curlew
Umbakumba, Groote Eylandt
1962 : 9(a). Dugong|9(b). Night
Angurugu, Groote Eylandt 1963 : 10(a). Seaweed|10(b).
West Wind|10(c). Didjeridu only|10(d).
Aeroplane|10(e). Didjeridu only |11(a).
Dove|11(b). East Wind |11(c). Caterpillar|12(a).
Seven Sisters|12(b). Shark|13. Song words
by Nabilya
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
下記は32Pというかなりのページ数のブックレットに解説されている各曲解説の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、ディジュリドゥのサウンドを中心に、音の響きからくる聴感上の主観的な感想と各曲に特徴的な音楽的構造や楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はAlice M. Moyle博士が書かれたライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
Milingimbi 1963
1(a). Clouds(1-2)
(b). North Wind(1-2)
(c). White Cockatoo(1-2)
(d). Brown Hawk(1-2)
(e). Emu sung by Djawa with Dhalnganda(didjeridu)
ここに再録されているDjawa(1905年生まれ)の歌のトラックには、ほぼそのソング・セッションの全貌が収録されている。彼はダンサーで樹皮画家でもある。彼のはっきりとした発音の仕方と権威ある歌のスタイルには目を見張るものがある。Djawaと反対のDhuwa半族Galpu'クランのDhalnganda(1927年生まれ)がその伴奏をつとめるディジュリドゥ奏者である。このソング・シリーズの歌は、Yirritja半族の埋葬の儀式の最後の儀礼の一つである「Djalambu(A
Hollow Log Ceremony : 棺桶として使われる中が空洞になった丸太の儀式)」の最中に歌われている。Djawaの歌う「Mangan(Clouds
: 雲)」と「Dirrmala(North Wind : 北風)」の2曲の歌にみられるWarramiriクランの歌詞には、Disc3 Track3(a)に収録されている女性シンガーBambayの歌う北風の歌と似通っている。北風を送り込むその雲は、雨をたっぷりと含んで海からたちのぼる。
かん高い声で鳴く「Dan-gi(White Cockatoo : 白い大きなオウム)」は何も恐れず、「Wopulu(Brown Hawk : アオバズク)」 は白人の土地で魚を探しながら狩りをしている。「Wurrpan(Emu : エミュー)」ソングでは、エミューはヤリの上を歩くので、ヤリの作り手であると考えられている。
上記はライナーの翻訳。Milingimbiにて'63年録音。Warramiriクラン(Yirritja半族)のソングマンDjawa(当時58才)とGalpu'クラン(Dhuwa半族)のディジュリドゥ奏者Dhalnganda(当時36才)による全9曲7分程の録音。全体的に同じ曲調の歌のメロディとイダキ(ディジュリドゥ)のリズム・パターンが使われていて、曲による差異をあまり感じさせない。Yirritja半族の埋葬の儀式の中の一つ「Hollow Log」の儀礼で歌われる歌で、低いピッチのイダキによるあまり抑揚のないフラットな曲調がその儀式の内容を感じさせる。
Milingimbi 1962
2(a). White Cockatoo
(b). White Stork(1-2) sung by Bongawuy with Darringguwuy(didjeridu)
録音当時、クランのリーダー的なシンガーだったBongawuy(1922年生まれ)は、Yirritja半族のGupapuyngu言語グループに関する儀式において、頻繁にMilingimbiで演奏をしていた。
トラック1(c)のDjawaの歌に比べれば、歌詞の違いにかかわらず、Bongawuyは「White Cockatoo」ソングをメロディ的に似せて歌っているのではないかと疑われる。このトラックの最初の曲(トラック2a)の歌詞によると、南風は「Dan-gi(White Cockatoo)」の羽を逆立て、そのトサカを吹き動かすので、White Cockatooは南風を好む。「Gananhdharr(White Stork : コウノトリ)」ソングは、魚を探しながら水辺にたたずむYirritja半族の白いコウノトリとDhuwa半族の黒いコウノトリについて歌われている。
トラック2(b)で著しく変化するディジュリドゥ奏者Darringguwuy(1925年生まれ)の演奏スタイルは、低い音(ドローン : 持続低音)から高い音(トゥーツ)へとすばやく変わるスラーが自由に使われていてすばらしい。
上記はライナーの翻訳。'62年Milingimbiにて録音。Darringguwuy(当時37歳)のイダキの演奏についてライナーで紹介されている特徴はよくわからないが、2(a)ではエンディング部分のみに少し長めのトゥーツ(ホーン)を演奏しており、2(b)でもエンディングでトゥーツが使われているが、曲中ではドローンとトゥーツをかなりスピーディーに切り返したリズムが使われている。
3(a). Nalpa(1-3)
(b). Wilata(1-2) sung by Mutpu, Buramin and Bunbatjiwuy with Durmarriny(didjeridu)
3曲収録されている「Nalpa(黒い海鳥、もしくはチドリ)」はDhuwa半族の歌で、1曲目を1人で歌っているMutpu(1924年生まれ)が率いる少人数の男性グループによって歌われている。これらの歌の中では、繰返して歌われる歌詞で鳥のさえずりが表現されており、またMelville島の「Wilata(Friar-bird
: ミツスイ)」の鳴き声が踊りの時に「ye-e-e gitja」という音で表現されている。引き続いてボーカルが参加してくることでポリフォニックな効果がつくり出されている。
上記はライナーの翻訳。'62年Milingimbiにて録音。Durmarryの演奏するイダキはCくらいのDhuwaの曲らしい低音の楽器で、唇がルーズでリラックスした演奏方法のすばらしい例です。倍音成分が幅広く出ているのがよくわかる。低音部分にメロディックな響きがあり、トラック3(b)「Wilata(Friar-bird : ミツスイ)」の2曲目では、すさまじい高い倍音が聞かれ、また途中のブレイクの後に一瞬だけスピーディーな舌の動きを使ったリズムが使われているのが印象的である。ここで歌を歌っているMutpo(Mudpo)のすさまじいイダキの演奏をレコード『Land of the Morning Star』(LP 年代不明 : His Master's Voice)で聞くことができる。
Milingimbi 1963
4. Song words for 1(c) and 1(e) spoken by Gungupun
トラック1(c)のWhite Cockatooの歌詞の一部がGungupun(Gupapuyngu語)によって話されている。
djikiding djikiding
cockatoo talk
ngathi marrtji dan-gi
is screeching cockatoo
ngopirrk ngopirrk
cockatoo
ngathi marrtji dan-gi
yawuku gaypirra yawuku
breeze from south south wind
djikiding djikiding
そしてGungupunが下記の事を語っている:
Ngarra dhuwala yaku[Gungupun]. Dhuwala ga dar'taryun
I here name[Gungupun]. This sings
djawulpa Djawa. ga manikay ngayi ga dar'taryun Wurrpan.
old man Djawa. And song he sings Emu.
(My name is Gungupun. This old man, Djawa is going to sing Emu.)
トラック1(e)のEmuについて語られた言葉
wurrpan wurrpan
emu
wurrpan wurrpan
baypaymi wadhaybulu
thick bush emu feathers
Ngalakandi binguwarr ralirali.
place name mountain
iwurrpan garrigarri romdhirri
emu makes spears
gutjirri warrawunbum-a
mountain walks on spears
BL
Yirrkala 1962
5(a). Seagull(1-4) sung by Mathaman with Milirrpum
Yirrkalaにて1962年録音。Rirratji\uクランのMathaman(1920年生まれ)がクランの領域と「Djarrak(Seagull : カモメ)」に関する歌を4曲歌っている。これらの歌では歌詞の中でその地域の様々な土地の名前が上げられている。3番目の歌では10箇所以上の土地の名前があげられており、音楽的にその重要性が明白である。
ディジュリドゥ奏者Milirrpum(1927年生まれ)がゆったりとしたゴーンゴーンと鐘の鳴る音のような規則正しいサウンドを出している間(Disc 1 Track8/Disc3 Track2と比較してほしい)、シンガーは自分のスティックを早いテンポで打ちながら、叙唱的なスタイルで歌っている。そしてシンガーは休憩せずにSeagul(カモメ)とEast Wind(東風)両方の名前をはっきり発音している対照的な4番目の曲を続けて歌っている。
上記はライナーの翻訳。'62年Yirrkalaにて録音。Alice M. Moyleは1〜2曲目(メイン-エンディング)を2曲ととらえ、3曲目の(メイン-ブレイク-メイン-ブレイク-メイン-エンディング)を2曲ととらえているようだが、実際は、曲構成の違う3曲だと考えられる。1〜2曲目ではクラップスティックとイダキ共にゆったりとしたテンポで演奏しており、3曲目のみ、1回目のブレイクまでクラップスティックが5連、2回目のブレイクまでクラップスティックが6連で、イダキはゆっくりした4分(音符)のドローンの伴奏をしており、2回目のブレイクから、逆にクラップスティックがゆっくりの4分(音符)になってイダキが3連のリズムで共に8拍フレーズのループの中で即興演奏をしているという複雑な構成になっていると思われる。イダキの演奏は3曲目のエンディングの前のパートが秀逸です。
5(b). Didjreridu only, played by
Milirrpum
この録音ではMilirrpumがディジュリドゥの演奏中に、指を木管(ディジュリドゥ)に打ちつけている音がはっきりと聞くことができる。
上記はライナーの翻訳。Milirrrpum(当時35歳)によるC#くらいのピッチの楽器を使ったイダキ・ソロ。3曲目とは構成が違ったファストパート(タッピングが16分)とスローパート(タッピングが4分)を交互に2回繰返す構成になっており、ダイナミックでパワフルなイダキの演奏を披露している。特にスローパートに行く時にコールでブレイクにもっていき、そこからリズムをガラっと変えてスタートするあたりが非常にクール。
6(a). 'Makassan' song words spoken
by Mawalan
Makassanと呼ばれるインドネシアの漁師達が何十年も前に北オーストラリアの海岸から年一回出発する前に詠唱したと信じられている呪文を思い出して話しているのをここで聞くことができる。この歌詞はMakassanが船から帆をひき、甲板にあげる時に歌ったとされる歌が翻訳されたものである。そして彼等は家路への旅の準備をしてイカリを上げる。
Yirrkala 1963
6(b). Djatpangarri : Butterfly; Cora sung by Galarrwuy
with Mulung
Galarrwuy(1948年生まれ)による若いヨォルングに人気のあるダンスソングの一つDjatpangarriを2曲収録している。最初の曲は、「Bonda(Butterfly : 蝶)」の歌で、形式的な踊りのための言葉だけで構成されている。2曲目は「Cora(Delayed Supply Boat : 遅れている物資供給船)」についての歌で、この録音でGalarrwuyのディジュリドゥの伴奏を演奏しているWandjuk(1927年生まれ)がトラック6(c)でその説明をしている。
6(c). Wandjuk talks about the ship, Cora
WandjukがCoraソングについて説明している。
「あの歌はCoraという名前で、同じDambijawaという男が作った。というのもBrisbaneからMelville湾へと運ばれる私達の積荷を長い間待っていたからだ。彼はそれを憂い、そしてこの歌を作ったんだ。」
上記はライナーの翻訳。'63年Yirrkalaにて録音。ソングマンは当時15歳のGalarrwuyで、ここでは2種類の若者のダンスソングDjatpangarriが歌われている。イダキの伴奏はライナーでは、画家としても高名なRirratji\uクランのセレモニアル・リーダーWandjuk Marika(当時36才)が演奏しているとされているが、目次ではMulungとなっていて不明である。Dくらいのピッチのディープなサウンドのイダキでシンプルなリズムを繰返していて、2曲ともトゥーツは使われていない。Wandjuk Marikaのディジュリドゥ・ソロは『World Music Gala Collection 100 世界民族音楽大集成 オセアニアの音楽II』(CD 年代不明 : King/Seven Seas)に1曲、そして非常に貴重な7インチ・レコード『Wandjuk Marika / Didjeridu Solo in Port Moresby』(EP 1976 : Larrikin)でのみ聞くことができる。
『The Land of the Morning Star-Songs from Arnhem Land』(LP 年代不明 : His Master's Voice)のトラック6にも同じソングマンGalarrwuyによるトラクター・ソングが収録されており、歌のメロディは、ほぼ同じである。
7. Eagle(1-2) sung by Nanggabirrima with Bayema(didjeridu)
録音当時、多くの「Emeba(Groote Eylandtのクラン・ソング)」のシンガー達は、「Shaky Voice(震えた声)」スタイルで歌っており、それによって喉がかゆくなる事があるので若いシンガー達にとっては時に「Shaky Voice」で歌い続けることが難しい事があると言われていた。「Yinungwakarda(Sea Eagle : 大鷲もしくは海鷲)」ソングを歌っているNanggabirrima(1910年生まれ)は、つねにその「Mamura(Voice : 声)」で歌うことができる選び抜かれた1人である。大鷲が魚を捕まえるために海面に降りて行く様子をNanggabirrimaが歌ったちょうど後に、この曲のブレイクが起こっている。ディジュリドゥ奏者のBayema(1929年生まれ)はその時点でドローン(持続低音)の演奏スタイルを変え、シンガーの打つスティックのビートに組み合わせるように演奏している。その短い間奏部分では、高い方の音(トゥーツ)をはじめて聞くことができる。
Nanggabirrimaの2番目の大鷲の歌では、ボーカルの音程が段々上がっていくという所が注目されるべき点である。
上記はライナーの翻訳。'62年Groote Eylandtにて録音。Bayema(当時33歳)の演奏する「Yiraga(この地域でディジュリドゥを指す言葉)」は、Groote Eylandt特有の演奏スタイルで、シンプルなようで非常に複雑な舌の動きを要求される演奏方法である。またクラップスティックに対してシンコペーションしたリズムが多用されるのもその特徴の一つである。2曲目で聞かれるトゥーツを使った6拍子(4+2)は他の地域では全く聞かれる事のない独自の伴奏リズムである。またメイン・リズムではシンコペーションしたリズムを演奏し、エンディングやブレイク部分でシンプルに頭の拍をおさえるように展開するのもこの地域の伴奏スタイルの一つであると言える。
8(a). Stingray sung by Nanggalilya
with Negabanda(didjeridu)
Groote EylandtのシンガーNanggalilya(1937年生まれ)が一時的に住んでいたDarwin近郊のBagot居住区にて録音された「Yimaduwaya(Round
Stingray : マダラエイの一種)」の歌。ここで聞かれる非常に広い音域で音を切らずにゆっくりと歌う歌い方は、島では新しいエイの歌で使われる歌唱法として知られていた。この歌の作曲者は、Nanggalilyaが属するWarnungwamadadaクランの一流のシンガーNagulabena(Gula)である。その二人の父親達は兄弟だった。
続けて繰返される言葉「nawerruwerrukwayinamurra kwija Arrindingmanja yangi(Arrindingで互いに彼等が通り過ぎるのを見つめる)」は、川を削り出したSawfish(ノコギリエイ)とStingray(アカエイ)が共有するAngurugu川にある場所について歌っている。
上記はライナーの翻訳。'62年にBagot Reserve(Darwin付近)にて録音されたGroote Eylandtのシンガーによる珍しい録音。残念ながらディジュリドゥの音は小さめで聞き取りにくいが、シンガーの非常にメロディックな歌声をしっかりと聞くことができる。
(b). Curlew sung by Nagulabena(Gula)
with Nanigila(didjeridu)
「Duwalya(Curlew : ダイシャクシギ)」の歌はその歌の所有者であるGula(1925年生まれ)によって歌われており、Stingray(アカエイ)のように、繰返される言葉を含んでいる。その型にはまったメロディは以前にNunggubuyu語の歌で使われていたと言われている。全体を通してディジュリドゥの伴奏は跳ねた感じで、「ngarningka
numerrumungkwada waruma(彼等の翼の表面はふたたびよじれてしまっている)」という歌詞の後に、ブレイクが起こっている。
上記はライナーの翻訳。'62年Groote Eylandtにて録音。ディジュリドゥはNanigla(当時33歳)で、5拍子(3+2)で演奏される基本のリズムにはトゥーツが頻繁に入りながらも、リズムや音量が揺らぐことなく演奏している。ブレイク部分の引き金は、ライナーにもあるように「ソングマンの歌うある特定の歌詞」によって引き起こされるというのも非常に特徴的である。
Umbakumba, Groote Eylandt 1962
9(a). Dugong sung by Nangarunga with Muganga(didjeridu)
Nangarunga(1933年生まれ)がWanaya(Track 10参照)作曲の「Dinungkwulangwa(Dugong : ジュゴン)」ソングを歌っている。ジュゴンは潮の動きを追い、彼が浅瀬でものを食べる時には水を泥まみれにしているという歌詞。
上記はライナーの翻訳。'62年にGroote Eylandtにて録音。短い同じメロディを歌っているが、なぜか叙情的なせつない響きのある歌で、歌が止まったら即座にディジュリドゥの伴奏はドローンの短いリズム・パターンからトゥーツに切り替わってブレイクとエンディングを迎えている。非常にスムーズにそして楽に吹いている感じが伝わるMungangaのディジュリドゥの演奏がすばらしい。また喉を開いた時に生まれる高い倍音が短いドローンのリズム・パターンの最後に聞かれる。ドローンが非常にメロディックに聞こえるのもこの地域の特徴の一つである。
(b). Night sung by Man-gwida with
India(didjeridu)
ここでは「Marringa(Night : 夜)」ソングがMan-gwida(1924年生まれ)によって歌われている。彼の歌では、次第に広がり、ブランケットのように私達を包み込む夜の到来について歌われている。この歌はMan-gwidaの兄弟による作曲で、シンガーは「Shaky
Voice」スタイルで歌っている。
ボーカルが止まった後でも、時々ディジュリドゥが継続して演奏しているのがわかる。オリジナル録音の最後には、ディジュリドゥ奏者が笑って「この曲をどうやって止めたらいいかわからなかった。」と言っていた。
上記はライナーの翻訳。'62年Groote Eyrandtにて録音。Indiaの演奏するディジュリドゥのサウンドはここでは音量が小さいので聞き取りにくいが、ゆっくりした8拍フレーズ(4+2+2)をクラップスティックが演奏し、ディジュリドゥは2拍フレーズを即興で演奏している。
Angurugu, Groote Eylandt 1963
10(a). Seaweed sung by Wanaya with Nanigila(didjeridu)
頭を垂れて歌を歌うGroote Eylandtの大多数のシンガー達とは違って、Wanaya(1916年生まれ)は頭を上げて左右に振りながら歌っており、また彼の「Shaky
Voice」は上記の他のGroote Eylandtのシンガーよりも美しく響いていた。 「Marrkwa(Seaweed : 海藻)」ソングの歌詞には、潮の干満に合せて前へ後ろへとゆらゆらと動いているBlack
Tree Coral(黒くやわらかい海藻のような珊瑚?)についての描写が含まれている。その珊瑚が砂に埋もれたという歌詞の所でブレイクが曲中で起こっている。
(b). West Wind sung by Wanaya with
Nanigila(didjeridu)
この歌のテーマは「Yinungkwura(West Wind : 西風)」で、西風は雲を持たらすモンスーンの風であり、雨期の到来をつげる使者である。Wanayaがこの歌を歌っている間、4つの異なる所から物を打つビートが聞かれる。シンガーの近くに座っている二人の男性が打つ一対のスティック、リード・シンガーの打つスティック、そしてディジュリドゥ奏者が自分の楽器を打つ小さなスティックである。
この録音の時には、ディジュリドゥの吹き口と逆の、出口の部分を木製の箱の中に置いて演奏された。時にはバケツがその代わりに使われることがある。かつてはBailer Shell(「ボートの水を汲み出す貝」と呼ばれるホラ貝の一種)がその役割を果たしていた。
(c). Didjeridu only by Nanigila
Nanigila(1934年生まれ)の演奏するディジュリドゥの伴奏のリズムは、スティックが3回打つ間にディジュリドゥは2倍のリズムとなっている。ここでも歌のブレイクによって引き起こされるディジュリドゥの演奏リズムの変化を聞くことができる。
上記はライナーの翻訳。'63年Groote Eylandtにて録音。トラック10の(a)〜(c)のディジュリドゥの演奏はNanigila(当時29才)で、別々の歌だが(a)のSeaweed(海藻)ソングと(c)のWest Wind(西風)ソングでは共通して、クラップスティックとディジュリドゥは同じリズムの伴奏になっている。Nanigilaはシンコペーションしたドローンのリズムを常にクラップスティックの裏拍で演奏し、ブレイクとエンディングのみトゥーツを使っている。
トラック10(c)ではクラップスティックは3/4の4分(音符)、ディジュリドゥは3連のシンコペーションしたリズムをくりかえし、ブレイクとエンディングのみクラップスティックが3/4の頭だけたたいている。ディジュリドゥの演奏では非常に珍しいリズムになっており、ここでのディジュリドゥの3連のフレーズでは非常にスピーディーな舌の動きを要求されるが、スムーズにすばらしい演奏をしている。
(d). Aeroplane sung by Murrbuda with Nanbungwa
Murrbuda(1934年生まれ)は、自分のメロディに合せてAeroplane(飛行機)ソングを歌っている。その歌の内容は、飛行機が空に上昇し、早い速度で旅をしているというものである。2機の飛行機が見え、「別々に分れて飛び去る」。この「」内のシンガーの発する慣習に従った言葉がブレイクの合図になっている。ヨォルングのShipソング(Disc3 Track10)の注目すべき点は、Boat(船)とも訳される「Gabala(Kabala)」という言葉がこの歌で繰返されている所である。
(e). Didjeridu only by Nanbungwa
このトラック10に収録されている曲をしめくくるのは、Nanbungwa(1947年生まれ)の短いディジュリドゥ・ソロの演奏である。Nanbungwaは、トラック10(d)の伴奏で使った「Slurred up-figures(ドローンから続けて高い装飾音トゥーツを出す事)」を省いたディジュリドゥ・ソロを選んで演奏している。
上記はライナーの翻訳。'63年Groote Eylandtにて録音。トラック10(d)〜(e)のディジュリドゥの演奏はNanbungwaである。トラック10(d)では、Nanbungwaが演奏しているトラック10(c)と同じリズムをさらに難しくした、「Slurred up-figures(ドローンから続けて高い装飾音トゥーツを出す事)」をで聞く事ができる。この演奏スタイルはGroote Eylandtのディジュリドゥの演奏の特徴の一つで、Alice M. MoyleはこれをGroote Eylandtのみとは断定していないが、他の地域では意図的に多用されないディジュリドゥの演奏技術である。特に北東アーネム・ランドのアタック感の強いトゥーツと聞き比べてほしい。またブレイク部分ではコールを含んだ、かなりクールな演奏である。
11(a). Dove sung by Barrenggwa with
Murrbuda(didjeridu)
一羽とも数羽ともいわれる「Darrawurukukwa(Ancestral Dove : 祖先の鳩)」は、Groote Eylandtの一部を創ったと信じられており、またヒモの創り手だとされている。Barrenggwa(1906年生まれ)の歌では、「短いヒモ」について語られており、はるか東にDhuwa半族の死者の島Burralkuがあるという北東アーネム・ランドのMorning
Star(明けの明星 : 東の空に夜明けに見える金星)の神話とのつながりを示唆している(下記の歌詞を参照)。その短いヒモには、小さい星を模したレプリカが結びつけられており、Dhuwa半族のクランの領域に渡って同時に輝かくようになっている。
Murrbudaの演奏するこの曲でのディジュリドゥは、鳩がクークーと鳴く声を模倣しているようだ。
(b). East Wind sung by Bugwanda with Bayema(didjeridu)
「Mamarika(East Wind)」ソングを歌っているのはBugwanda(1910年生まれ)です。東のある場所から吹いてきて、砂埃で島をおおう風について歌われており、この歌の歌詞の一行ずつが2回繰返されている。シンガーがすばやく行う息つぎがはっきりと聞こえ、スティックの打つ音とディジュリドゥの演奏は複合的なリズムである3対2がより好まれる。
(c). Caterpillar sung by Badjura with Didjeridu
Badjura(1904年生まれ)の歌う「Yinikarrbiyama(Caterpillar : イモ虫)」ソングは、3人の年長シンガー達の中で最年長のシンガーから「トリッキーな歌」だと評価されていた。この人を刺す、毛がおおいイモ虫はハイビスカスの木から作られるヤリと関係している。
上記はライナーの翻訳。'63年Groote Eylandtにて録音。(c)はライナーの曲リストにはのっていないが、解説はある。そのため、(c)のディジュリドゥ奏者の名前は不明。ライナーの解説では(b)は3対2の複雑なリズムとなっているが、(a)と(b)は3拍子、(c)は2拍子になっている。演奏の特徴としては、(a)のMurrbudaの演奏ではドローンに声を混ぜて演奏しているため、ドローンとトゥーツを合せて非常にメロディックな響きになっていて抑揚がある。(c)では、喉を開ける時に生まれる高い倍音がすさまじい。特に(a)のディジュリドゥ奏者の舌によるはっきりとしたドローンのきざみとスムーズな「Slurred up-figures(ドローンから続けて高い装飾音トゥーツを出す事)」がすばらしい。
12(a). Seven Sisters
Malkarri(1910年生まれ)はCP Mountfordが1948年に行った科学調査『American-Australian Scientific Expedition to Arnhem Land』の間にGroote EylandtのUmbakumbaにて録音したシンガーの1人だった。
歌の物語によれば、「Wurribirrimba(Seven Sisters : 7姉妹)」はプレアデスの星座(スバル、おうし座にある星団)が空に上がって行くように船を漕ぎ出す。彼女達は自分達の後にある銀の道を離れ、東風を吹かせる。
(b). Shark sung by Malkarri with Bayema(didjeridu)
「Bankwuja(Shark : サメ)」ソングでは、数頭のサメ、その背ビレ、歯、舵をとっている尾ビレの滑らかにすべるように動きについて歌われている。
Malkarriの歌うサメの歌を上記のCP Mountfordによる初期の録音と1960年代のこの録音と比較すると、彼は歌詞を演奏毎に変えているようだが、そのメロディと繰返される歌詞は変わっていない。
信頼できるディジュリドゥ伴奏者であるBayemaは当時、両方の半族のシンガーに頼まれて頻繁に演奏していた。
上記はライナーの翻訳。'63年Groote Eylandtにて録音。ライナーにあるCP Mountfordらが行った調査『American-Australian Scientific Expedition to Arnhem Land』での録音はSP盤で少数作られており、ほぼ手に入れることは不可能な最古のアーネム・ランドの音楽の録音です。シンガーMalkarri(当時53才)の歌はこの'48年の最古の録音にも収録されている。
ディジュリドゥの演奏はBayemaでD#くらいのディープな楽器でのダイナミックな演奏を聞くことができる。2曲とも2拍子の同じリズムの伴奏で、のどを使ったドローン部分のうねりをわかりやすく聞けるトラック。Bayemaの安定した演奏には派手さはないが、リラックスした、倍音成分を多く含んだきれいなドローン・サウンドである。
13. Song words for 10(d) and 11(a) spoken by Nabilya
Nabilyaによってトラック10(d)のAeroplane(飛行機)ソングと、トラック11(a)のDove(ハト)ソングの歌詞の一部がAnindiyakwa語で話されている。
Aeroplane Song
marrka 'murwurdanga ngeyeya ngeyeya
it climbed up (imitative sounds-repeated refrain)
marrka mingkwulanga
it went up higher
murrkwarrina waruma
it was rocking up high
kabala bribela
boat propeller
kabala biribela
numuwirrimilayina
it was whistling
marrkainjirre-langwa
it goes fast....
Dove Song
nalikilala 'rrajija(that is wurrajija)
the birds are singing
dirrukburrirru dirrukburrirru(repeated bird call refrain)
(cooing sounds)
mekarkaluwa-langwa
short length of string
angaba-langwa Bumara
from far off Bumara
angaba-langwa Manjarrnga
from far off Manjarrnga
(yuw) ayarrmiyarrma-langwa
from a narrow strip of land
narrumingkarnga wulyarra(the song break occurs here)
they cut the string in pieces
JS
|