近年になってディジュリドゥが使われるようになったMornington島の音源を集めたCD。2本同時に演奏する点がユニークだが、現在は廃盤。
■Mornington島のLardilの人々の歌
■ライナーの翻訳と解説
■Mornington島の録音を含む音源
Mornington島は独自の文化を持つCarpentaria湾南部(Groote Eylandtよりもさらに南)にあるクイーンズランド州の島で、複数のディジュリドゥを同時に演奏したりする。近年になってからディジュリドゥが入って来たと言われており、そのサウンドからはより息の流れで作られる響きを感じさせる。はっきりとしたスタイルが確立されていない分、様々な地域のアボリジナルのスタイルを取り入れながらも、オリジナルのリズム、演奏方法をしている点が最も興味深いものになっている。
この島で使われる打楽器は通常のクラップスティックではなく、ブーメラン・クラップスティックが使われている。この楽器は実際に投げたり、狩猟のために使われることはなく、楽器として作られる。ブーメランを両手に()の形に持ち、とんがった両端をぶつけあわせる。最も特徴的なサウンドは「トレモロ効果」ですばやく震わせるように二つのブーメランをこすりあわせて得られるサウンドは様々な曲の局面で具体的なイメージを表現するために巧みに使われているのがこのアルバムを聞くとよくわかる。残念ながら、現在廃盤。
8Pのブックレットには「Mornington島のLardilの人々の歌」という題での短いコラムと曲解説が掲載されており、下記にその翻訳がのせてあります。
■Mornington島のLardilの人々の歌
Mornington島はクイーンズランド州のCarpentaria湾の南東に位置するWellesley諸島最大の島である。この島がオーストラリア本土とつながっていた1万年程前の氷河期以前からMornington島の伝統的な所有者であったLardilの人々の歴史から伝説が生まれている。現在のMornington島の人口は1,000人近くである。
島はブロルガ(豪州ヅル)や海鳥、様々なカモ類とオウムなどの渡り鳥とワラビーの住処になっている湿地平原帯、そして低木とメラルカの木にかこまれている。そこにはオークの木が生え、カキに囲まれた岩が露出した風に吹きさらされた海岸線、そしてダンサーのボディ・ペイントに使われる白いオーカー(顔料)で輝く崖がある。海に囲まれて、様々な魚や、カメやジュゴンなどその他の海の生物が豊富である。
Lardilの文化の多くは神聖で、このCDに収録されている歌はオープンで、他の文化の人々とシェアされている音楽である。
全ての歌は、夢見で得られ、その歌の所有権はその家族へと受け継がれる。またトーテムとドリーミングの関係を通じて、様々な他のクランの人々と重大な関係を持ち、Mornington島とオーストラリア本土の両方に語り継がれて来た場所とのつながりを持っている。ドリーミングはMornington島にある「物語の場所」と現代をつなぐ直接的なつながりなのである。こういった歌を歌う事で、人々と大地の間を精神的かつ文化的につないでいるのである。それが過去と現在を一つにする。
彼等の行政組織「Woomera Aboriginal Corporation, Dancers from Mornington Island」は、規則的にオーストラリア内外の学校やコミュニティのイベントで演奏しツアーをすることによってLardilの伝統を伝え、共有している。
下記にはライナーの翻訳の後に、ディジュリドゥの演奏が収録されているトラックを中心に単なる聴感上での筆者の所見が加えられています。「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、音の響きから感じた聴感上の主観的な感想と、各曲に特徴的な音楽的構造や、楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。
■ライナー各曲の翻訳と解説
1. Mari Dilanga/Remembering the Past|2.Buthamar/Brolgas Calling throught the Larrwa(didgeridoo)|3. Yarra Yarra/Murangadji/Brolga Feeding|4. Gunaramana/Brolgas|5. Jangala Nyarambi/Dingo Travelling I 6. Wanda Malabanye/Mullet and Rockod|7. Yagimar Gana/Spotted Stingray(Balibal) and Redbill(Gathagu)|8. Wanberere/High Tide|9. Mundalbi/Sea and Rock|10. Burri Burri/South Wind|11. Malalabanda/Fresh Water Mermaid|12. Birrinjil(Cold Rain)|13. Warambalanyi(Whirliwind)|14. Borbee/Tuwartu Rainbow Serpent|15. Rabuldabuldar/The Suffering of Tuwartu|16. Djuarn Baila/Dolphin|17. Bilijilan/Shooting Star|18. Yawiyar Minalay/Coral Reef|19. Dandaman/Water Spout|20. Magura Warambi/Female and Male Wallaby|21. Geewee-Geewee/Redjbe-Redjbe/Byee Gingara Bushfire
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
1. Mari Dilanga / Remembering the Past
過去を聞き、現在を聞きなさい、現在の本質は過去の「ドリーミング」の中にある。だから歌と文化と儀式を通じて、ドリーミングとのつながりを持ち続けることが重要なのである。過去と現在と未来のドリーミング。 上記はライナーの翻訳。ブーメラン・クラップスティックと歌(ディジュリドゥの伴奏は無い)。最初にトレモロ効果のあるブーメランの両端を震わせるようにたたく音で始り、リード・シンガーによるスティックと独唱が続き、即座に複数の男性シンガーが入って来る。ディジュリドゥのドローンのように一定に抑揚をつけずに歌うシンガーに、少しだけ抑揚がある複数の歌のメロディがのり非常に宗教的。最後にトレモロ・サウンドのブーメランの音で終わっている。
2. Buthamar / Brolgas Calling throught the Larrwa(didgeridoo)
Wayne Williams WoonanとLance Gavenor Gagawunの二人によるディジュリドゥの演奏。 上記はライナーの翻訳。Groote Eylandt以外のアーネム・ランドでは、ディジュリドゥの伴奏は1本だけで行われるのに対して、複数のディジュリドゥを同時に演奏している他の地域ではみられない。最初の1分程はおそらく2本のディジュリドゥでの演奏のみで、途中から複数の男性ヴォーカルとクラップスティックとブーメラン・クラップスティックが入って来る。録音の状況のためか、ドローン部分では、なにやらどっちがどっちをやっているのかよくわからないのが残念だ。
3. Yarra Yarra / Murangadji/Brolga Feeding
同じテーマの異なる二つのドリミーング・ソング。1曲目はLarry Gavenorが夢で授かったLarembenda(南)からの歌で、2曲目はHenry Petersが夢で得たDjigurrumbanda(北)からの歌である。ブロルガ(豪州ヅル)は平原で、えさを食べている。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥとブーメラン・クラップスティックの伴奏を伴う、複数のシンガーによる歌。ここで聞かれる2/4拍子のディジュリドゥのリズムは、この地域独特のもので『Mornington
Island Corroboree Songs』(LP 1966 : W&G)でも同様の伴奏を聞くことができる。この曲もブーメランのトレモロ・サウンドから曲が始っている。ブロルガ(豪州ヅル)の声をまねていると思われるコールが聞かれる。
4. Gunaramana / Brolgas
Lindsay Roughseyの夢見で得た歌。ブロルガ(豪州ヅル)は早朝に彼等の「物語りの場所」の大地のあたりを飛んでいる。
上記はライナーの翻訳。トラック3と同じディジュリドゥのリズムだが、かなりダイナミックにコールを多用したパートがあり、恐らくダンサーが叫んでいると思われる力強いコールとユニゾンしている点がおもしろい。東アーネム・ランドのブロルガ(『Songs
from the Northern Territory 2』に多数収録されている)と似たリズムだが、演奏スタイルと解釈が違うためか、曲から受ける印象はかなり異なっている。
5. Jangala Nyarambi / Dingo Travelling
Kenny Roughseyの夢見の歌。Augusta湾の南あたりから中央オーストラリアを通って旅し、最後にMornington島に辿り着いた赤、黒、白のディンゴ(オーストラリアの野生の犬)Nyarambiの重要な伝説の一部。ディンゴは走り、息を切らせて木陰で足を止める。ディンゴは先祖の法律を作り、ドリーミングの伝説で彼等が旅してきた大地を通じて全てのアボリジナルのグループをつないでいる。
上記はライナーの翻訳。ブーメラン・クラップスティックと複数の男性シンガーの歌。ディジュリドゥの伴奏は無い。4/4拍子の曲で「1 2 3 休」でブーメランが演奏され、曲中に一度、そして曲の最後に一度「Wuuuu-!」というディンゴの遠ぼえをまねた声が入ると、8分(音符)で連続的にたたかれるブーメランの音をバックに歌が続く。同様の曲が『Aboriginal
Sound Instrumetns』(CD 1963-68/1996 : AIATSIS)のトラック8にも収録されている。
6. Wanda Malabanye / Mullet and Rockod
Henry Petersの夢見の歌。ある特定の特別な場所についての歌で、その場所の「ドリーミング・スピリッツ」から得られた歌である。
上記はライナーの翻訳。トラック5と同じセットで、ディジュリドゥの伴奏は無い。
7. Yagimar Gana / Spotted Stingray(Balibal) and Redbill(Gathagu)
Kenny Roughseyの夢見の歌。小さな海鳥Redbillとエイの関係の歌。彼等は互いに引き潮、満ち潮の時にそれぞれ交代で狩りをする。潮が満ちてくるとRedbillの「Kirrikirri」という鳴き声をまねた声が聞こえる。
上記はライナーの翻訳。男性の集団による歌とクラップスティックのみ。ブロルガに代表される鳥類の鳴き声を模倣したサウンドというのは、アーネム・ランド中で、シンガーもしくはダンサーによってかなり具体的に模倣した声で叫ぶ、もしくはささやかれる。しかし、このMornington島の「Kirrikirri」という鳴き声の模倣は、通常の歌の部分から常にオクタープ上の決まった歌のフレーズとして使われている点が興味深い。
8. Wanberere / High Tide
Kenny Roughseyが夢で得た歌。潮が急激に引いていく。
上記はライナーの翻訳。トラック5と同じセットで、ディジュリドゥの伴奏は無い。おそらくダンサーと思われる人物による「Yaha-」という叫び声が何度となく繰り返される。
9. Mundalbi / Sea and Rock
Cecil Goodmanの夢見の歌。Mornington島の北にある特別な場所についての歌で、低いサンゴ礁が海の中で波に耐えている。
上記はライナーの翻訳。トラック8と同じように「Yaha-」というダンサーの叫び声と「Siiii-」という波が打ち寄せる音に似た声はこの他の地域では全く聞かれることがない独特のものである。
10. Burri Burri / South Wind
Sam Bushが夢見で得た南風の歌。南風は、冬の朝に時々島の上空にやってくる雲Gadjbalと深い関係にある。それはCarpentaria湾とMexico湾にだけみられる特別な現象で「Morning Glory(朝の光輪)」などと呼ばれている。この雲は、オーストラリアの内陸から吹く、「Burri Burri」という名の冷たい南の風の兆しである。
上記はライナーの翻訳。複数の男性ボーカルとクラップスティックにディジュリドゥ。ディジュリドゥの音は力強く、うねるようなサウンド。ホーンをリズムの頭に多用したMornington島独特のスタイル。
11. Malalabanda / Fresh Water Mermaid
GabanyariでSam Bushが夢みた歌。見えない精霊の一つである池にすむ人魚の歌。それは孤独なスイレンの花によって象徴されている。それは人が敬意と注意を示さなければいけない場所である。その人魚の霊は夢の中で水しぶきをあげ、遊んでいる。
上記はライナーの翻訳。複数の男性ボーカルとクラップスティックにディジュリドゥ。宗教的な詠唱のような複数の男性の歌声の中、切り裂くような叫び声が曲中に何度も入って、それがきっかけになって曲が展開しているようだ。ディジュリドゥの音はディープだがリズミックにきざんでいる。他の地域に見られないタイプの曲でおもしろい。
12. Birrrinjil / Cold Rain
Gully PetersとJessie Goodmanが夢見で得た歌。この歌は特別な時に特別な方法で自然に働きかけるために演奏される。歌の中で人々が冷たい雨の中でおののく声が聞かれる。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥの伴奏の無い、ブーメラン・クラップスティックと複数の男性ボーカルによる歌。トレモロ効果を多用したブーメラン・クラップスティックが8分(音符)できざみ、ダンサーが足を踏みならす音が4分(音符)で鳴っている。「Turururururu-」というライナーでいう「歌の中で人々が冷たい雨の中でおののく声」が印象的である。二人の人物が夢見で得た歌というのは珍しい。
13. Warambalanyi / Whirliwind
Percy Tobyが夢見で得た歌。葉とほこりを手にとり、大地にまきちらす。その渦巻く風は「メッセンジャー」で、彼は「乾季」のはじまりにやってくる。
Percy Tobyが夢見で得た歌。葉とほこりを手にとり、大地にまきちらす。その渦巻く風は「メッセンジャー」で、彼は「乾季」のはじまりにやってくる。
14. Borbee / Tuwartu(Rainbow Surpent)
Old Sandyが夢の中で得た歌。虹ヘビTuwartuの伝説の物語に関した力強い歌。彼が苦しんだ後に、どうやって現在では聖地となっている特別な地面の地下へともぐったかという場面。
上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥの伴奏の無い、ブーメラン・クラップスティックをともなった複数の男性シンガー達による歌。上記のライナーでは何の事か全く意味がわからないと思うが、この島でも最も重要な伝説の一つ「Tuwartu」にまつわる物語について歌われている。詳しくは『A
Changing Culture』(Cassette 1975-78/1991 : Social Science Press)か、『Mornington
Island Corroboree Songs』(LP 1966 : W&G)のライナーの翻訳を参照して下さい。トラック16の解説にも短いストーリーが紹介されています。
15. Rabuldabuldar / The suffering of Tuwartu
Kenny Rougseyが夢見で得た、レインボー・サーペント(虹ヘビ)にまつわる歌。偉大な法の創始者。この歌は、Tuwartuの妹が彼女の赤ん坊を失った復讐としてTuwartuの身を焼き、その後、彼が痛みで苦しんでいるという事について歌われている。彼女はTuwartuのブッシュに火をつけ、その時彼は中にいて罠にかけられたのだった。その祖先の神は、ヘビの体で炎の中でもがき、その動きで川ができた。彼の身体は崩れはじめ、その部分部分から現在我々が持っている数多くの役に立つ物が生まれたのだ。肋骨からブーメランが、背骨からヤリが、彼の血液からは赤オーカー(顔料)が、彼の歯からはクラップスティックがうまれた。彼の苦しみが創造の時代だったのだ。
上記はライナーの翻訳。オーストラリア全土に広く語られるレインボー・サーペントのストーリーだが、Mornington島では独自のストーリーで島の創造について語られている。この歌にはディジュリドゥの伴奏がともなうことはなく、複数の男性による平坦なメロディーの中に歌詞がのった朗読的な響きのある歌とクラップスティックとブーメラン・クラップステック。トレモロ演奏はされていない。
16. Djuarn Baila
Kenny Roughseyの作。夢の中で、イルカが彼のアルミ製のボートを追い掛けている。このイルカDjuarnはTuwartu(レインボー・サーペント)の別の姿で、海の中にある彼の「物語の場所」と土地から現れた。広く知られるレインボー・サーペントの精霊Thuwartuが支配する海を旅したり、漁をする時にはその振るまいについて厳しい法律がある。
上記はライナーの翻訳。トラック10に似ているがディジュリドゥは2本で演奏されている。北東アーネム・ランドのスタイルに影響を受けたと思われるが独自の演奏スタイルで演奏されている。1本は、ホーンを頭に入れたリズムをくりかえしながら、曲中に長いホーンの音が入っている。2本目のプレーヤーはドローンでひたすらシンプルなリズムをきざんでいてコンテンポラリーな曲のような雰囲気さえ感じさせる。
下記トラック17〜19もトラック16同様のセットでの演奏で、ブーメランによるトレモロ演奏の無い似通った演奏であるため、レビューを割愛して、ライナーの翻訳のみが掲載されています。
17. Bilijilan / Shooting Star
Old Sandyの歌。「Bilijilan(流れ星)」ソングはレインボー・サーペント「Tuwartuの目」を表わしている。それは「物語の場所」のいずれかが敬われておらず、法が破られているという「しるし」である。
18. Yawiyar Minalay / Coral Reef
Kenny Roughseyの歌。魚がレインボー・サーペントの「物語の場所」であるサンゴ礁の辺りを泳いでいる。
19. Dandaman / Water Spout
Stanley Chongの歌。浜辺で眠っている人々は、海からの巨大な「水柱 Dandaman」の接近によって起こされる。彼等は、危険な道を自分達から追い払うために3つの事をためす。彼等は空を裂くような大きな声で叫び、赤ん坊と子供を持ち上げ、今度はブーメランで空を裂いた。この「水柱」もTuwartuに関係している。
20. Magura Warambi / Female and Male Wallaby
Kenny RoughseyによるSydney島のLanguangiにおけるワラビー・ストーリーの歌。ワラビー同士のラヴ・ソング。Lardilの人々は葬式の一部でもこの歌を歌う。
21. Geewee-Geewee/Redjbe-Redjbe/Byee Gingara(Bushfire)
Kenny Roughseyの葬式の歌としても歌われる歌を3曲収録。水平線まで漂うその煙りは旅行者の考えを運び、その煙りを見ると家に帰りたい気になる。その火は平原の草を焼き、そして最初の雨の後に、新しい草が芽吹く、そしてその大地は生き返るのである。この歌も人々がまた合う時に、大地の再生のように新たなる友愛を期待しながら、葬式の時に歌われる。
■Mornington島の録音を含む音源
・『A CHANGING CULTURE -Songs from Mornington Island』(Cassette
1975-79/1991 : Social Science Press)
・『Aboriginal Sound Instruments』(CD 1963-68/1996 : AIATSIS)
・『Mornington Island Corroboree Songs』(LP 1966 : W&G)
・『Songs from North Queensland』(Cassette 1966/1988 :
AIATSIS)
・『TRADITIONAL ABORIGINAL MUSIC -Sounds from the Bush』(CD
1998 : ARC)
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