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BAMYILI CORROBOREE -Songs of Djoli Laiwanga
BAMYILI CORROBOREE -Songs of Djoli Laiwanga
NO GRVC 1030
Artist/Collecter David Blanasi(Didjeridu Player)
Media Type LP/Cassette
Area 西南アーネ・ムランド
Recorded Year 1976年
Label Grevillea Records
Total Time
Price 廃盤
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TRADITIONAL ABORIGINAL MUSIC -Sounds from the Bush World Music Gala Collection 100 世界民族音楽大集成 オセアニアの音楽II      
ディジュリドゥ・マスター「デビッド・ブラナシ」の鬼気せまるほどタイトなサウンドがすさまじい。カセットとLPのみで発売され、現在惜しむらくも廃盤のブラナシ最高の音源。

■Djoli Laiwangaとその音楽
■ライナーの翻訳と解説
■David Blanasi ディスコグラフィ

言わずとしれたディジュリドゥ・マスター「デビッド・ブラナシ」全盛期の'76年5月録音。目まぐるしいリズム・チェンジを持つ複雑な曲を高度なテクニックとパワーで楽々と演奏しているのがはっきりとわかる超ド級な内容です。録音状態もすばらしくかなりのバランスでディジュリドゥの音が幅広いレンジで入っている。カセットとLPで発売されたが、惜しくも廃盤。アルバム・タイトルのBamyiliは、コミュニティの名称で現在Barungaと名前を変えている。

これ以降、'79年のフランスでのライヴ盤『Les Aborigenes Chantes & Danses de l'Australie du Nord』(CD 1979 : Arion)、'98年の初のブラナシ名義のアルバム『Didjeridu Master』(CD 1998 : Big Ban)と比較してみるとこの当時の鬼気せまるほどタイトな演奏をより明確に感じられる。

また、ソングマンDjoli Laiwangaの存在なくしてデビッド・ブラナシを語れない。ここでの彼の歌とディジュリドゥがガッチリと組み合わさった演奏は、まさにこのアルバムを名盤たらしめている。ディジュリドゥ・ソロ以外は全てDjoli Laiwangaが夢の中で精霊から授かった歌である。

下記はLPのバックジャケットに載せられていた文章の翻訳で、この地域のアボリジナルの人々の音楽的特徴やこの録音で使われているディジュリドゥのサイズなどが書かれていて興味深い。「上記はライナーの翻訳」という書き出しの段落の文章は、ライナーとは無関係のレビューです。

■Djoli Laiwangaとその音楽
このレコードに収録されている歌はアーネム・ランドで最も有名なソングマンの一人「Djoli Laiwanga」によって作曲された。ソングマンになるためには死者の霊と交信できなければならず、それは通常、真夜中に墓場に寝て行われる。精霊達はソングマンと会話する時には、振動と音を通じておこなう。このようにして新しい音楽がアボリジナルの人々の音楽のレパートリーに加えられるのである。

部族の選ばれたメンバーだけが聞くことができるアボリジナルの歌には様々なカテゴリーがある。しかしながら、音楽はアボリジナル社会の基本的なパワーであり、皆が聞き、楽しむことができる、かなりオープンな音楽もある。この録音にはコミュニティの人々が楽しむため、時には旅行者のために演奏されるオープン・カラバリーが収録されている。このカラバリーを演奏しているグループは、世界のたくさんの国々をツアーし、アボリジナル文化を世界中の人に紹介してきた。

非技術社会のほとんどでは、音楽と踊りというものの区別は無い。アボリジナルのカラバリーにおいて踊りは、音楽同様重要なパートを占めている。この録音のカバーの写真を見れば、踊りの雰囲気を心に描くのに役立つかもしれない。様々な動物、鳥類、そしてそれらの歌に関する人間を、ダンサーとミュージシャン達が生き生きと描いているという事が心からの喜びと熱意をもってみつめられる。カラバリーを見る時に最もおもしろいのは、その演奏者がどれだけ、(そのカラバリーに出て来る)キャラクターの習慣、習性をよく理解しているかという点である。彼等が動物そのものを描写することにおいて、そして狩猟の上演においては、演奏者達は長く築き上げて来た「土地をよりどころにした伝統」を最後まで演奏する。聴衆の中には、狩りの経験の無い少年達がおり、その儀式初心者達は狩りの技術を学ぶためにそのダンスをじっと眺めるのである。

その演奏は、泥でボディ・ペイントし、トーテム(クランの精霊的存在や神々。その精霊や神は、霊的本質だけではなく、動物や植物、こしらえられた物などの姿でも現れる)のマークを装飾したアボリジナルの人々によって、清掃された場所で演じられるたくさんの踊りと歌からなる。一人のディジュリドゥ奏者、幾人かのクラップスティック奏者、そして一人のリード・シンガーからなるリズム・セクションがあり、それら全ての人達がそのストーリーにおける自分達の様々な役割を実演している間にダンサー達は、その歌に参加していくのである。リズム・セクションはたいてい固定で、彼等は踊らずそばに立っている。

この録音に使われたディジュリドゥは122cm程の長さで、アーネム・ランドでは全く普通のサイズである。183cmにもなる長いディジュリドゥは強く吹かれることがなく、そういった楽器とは違って、ここで使われているような楽器はたいていオープンな場での音楽で使われる。演奏者によってディジュリドゥの演奏に抑揚をつけるには様々な言葉があり、それらはシンガーの歌の抑揚の変化を追わなければいけいない。ディジュリドゥ奏者は鼻から息を吸うのと同時に、自分の唇から息を吐き出すことができるので、そのサウンドが途切れることはない。二人の伴奏者があり、「Dick Plummer」と「David Blanasi」である。DavidはRlf Harrisのショーや録音などでディジュリドゥ奏者として有名で、アーネム・ランドのこの種のスタイルでの演奏では最高の演奏者だと言われている。A/B両面の最初のトラックには旅行者のためにコール(掛け声)の二曲が収録されており、オープン・カラバリーにつねに関連した娯楽の一部として作られた曲である。

一つのカラバリーで表現されているストーリーは変化する。あるダンスは単純に動物や鳥の習慣を示し、その他では狩りの習慣や、ユーモア溢れる出来事について示されている。

レコードのバックジャケットには各曲毎に非常に短い説明が掲載されているおり、「ライナーの翻訳と解説」では翻訳部分の後にすぐさま著者によるライナーとは無関係な聴感上のレビューを加えてあります。レビューの部分で書かれている内容はライナーとは全く関係がありません。また、レビュー部分でなされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。

■ライナーの翻訳と解説
SIDE A :1. Dabid Blanasi-Didjeridu Call Brolga2. Ngaratj(White Cockatoo)3. Gunrit(The Argument)4. Galawan(The Goanna)5. Bidjurdu(Willy Willy) I 6. Djedberdeh(Rifle Fish)7. Cloud
SIDE B :8. David Blanasi-Didjeridu Call Kookaburra9. Mimi10. Debil11. Lumbuk(Pigeon)12. Nabale(Possum)13. Rugout(The Wild Man's Song)
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。

SIDE A :
1. Dabid Blanasi-Didjeridu Call Brolga
CD『Didjeridu Master』とは違って高い声でのコール。Gordoh(ブロルガ : 豪州ヅル)の鳴き声を模倣していると思われるこの曲は、観光客用のファン・ソングとして作られたもので、確かに正式な歌の伴奏ではコールが入る曲はない。この当時のキレがわかるすさまじくタイトな演奏。全てのアルバムに収録されている。

2. Ngaratj(White Cockatoo)
White Cockatoo(白いオウム)がPandanus(和名:タコノキ)の木の実を探しながら、上がったり下がったりして飛んでいる。『David Blanasi Tribute Album』(CD 2002 : Big Ban)のライナーによるとソングマンDjoli LaiwangaをBlack Cockatoo、David BlanasiをWhite Cockatooと呼んでおり、興味深い。この曲は4/4でディジュリドゥが演奏されているが、ブレイク部分は5小節プラス半小節になっており、感覚的には2ビートで演奏しているのかもしれない。ブレイク部分は、クラップスティックとシンクロした演奏で非常に印象的。より複雑な展開で4曲収録されているCD『Didjeridu Master』のNgaratjよりも比較的シンプルな構成。カセット『Songs of Bamyili』以外全てのアルバムで演奏されている名曲です。

3. Gunrit(The Argument)
初めて白人がアボリジナルの所に来た時、たばこをアボリジナルにあげた所、そのアボリジナルは毒を吸わされたと思った。このアルバムにのみ収録されている曲だが同じメロディが他の曲にも使われているようだ。ゆったりしたテンポで4分(音符)をきざむクラップスティックにあわせて、ディジュリドゥは8分(音符)でシンプルな伴奏をしているが、時々スピーディで滑らかなダブルで使われている喉と舌の動きすばらしい。

4. Galawan(The Goanna)
雨季の間ゴアナ(大トカゲ)は地面の下に身をひそめている。ゴアナを見つけるまで狩人はヤム・イモを掘る棒で注意深く地面を突く。時には、狩人はゴアナではなく蛇に出くわすことがあり、こういった出来事が踊りのコミカルな要素になっている。トラック3とほとんど同じディジュリドゥの伴奏リズム。歌のメロディは違う。曲の最後にクラップスティックが16分(音符)になる部分が印象的。この曲も他のアルバムには収録されていない。

5. Bidjurdu(Willy Willy)
土ぼこりをたてる荒々しい風が煙のようにまっすぐに立ち上る。だから人々はいつも一緒に踊りを踊る。他のアルバムのライナーでは「Bidgurdurr」と表記されている。「Willy Willy」とは乾季の時に吹く風の事で、『Didjeridu Master』にも同じ曲が2曲収録されており、この曲とはバァージョンが違っている。録音年代が近いせいかフランスでのライヴ盤『Les Aborigenes』に収録されている「Bidgurdurr」ソングとは似通っている。

6. Djedberdeh(Rifle Fish)
大きな川の上流に初めての大雨が降ると、きまって魚達が現れる。その時には人々はヤリでRifle Fishを捕まえにでかける。淡水魚「Rifle-fish(別名Archer Fish、和名テッポウウオ)」の歌。北西アーネム・ランド、キンバリーなどのWANGGAや中央アーネム・ランドなどのGUNBORGにおいて、広く聞かれる「1+2+3+休」というクラップスティックのリズムを基本にしたタイプの曲展開。冒頭部分のシンプルな2拍のフレーズから割りで入る所がかなりかっこいい。クラップスティックの入り方を注意して聞きたい。『Les Aborigenes』にも同一の曲が「Djetberdi / Rifle Fish」として収録されている

7. Cloud
雲はいつも人々の天上にある。人々は雲がやってくるのを見、雨が降るかもしれないなと思う。カセット『Songs of Bamyili』では同一の曲が「Gun-Ngwaral (The White Cloud)」として収録されている。早めのテンポの3/4の曲で、ブレイク部分は、2/4で11小節という不思議な構成になっており、特にクラップスティックのリズム・パターンが秀逸で歌のメロディが気持ちよい。

SIDE B :
8. David Blanasi-Didjeridu Call Kookaburra
デビッド・ブラナシのディジュリドゥ・ソロの中でも最も激しいコールをするKookaburra(ワライカワセミ)の曲。これもトラック1同様ファン・ソング。ワライカワセミは、「Goro-goro」という名で呼ばれ、この名前をそのままコールで叫んでいるようなすさまじいコール。全てのアルバムに収録されているブラナシ三大ディジュリドゥ・ソロの曲の一つ。

9. Mimi
人が見る事ができないくらい小さいアーネム・ランドの小さな精霊のようなもの。ミミ・スピリットはよく洞窟や岩肌に描かれているのを見る。Djoli Laiwangaの曲の中でも最も複雑にリズム・チェンジする曲で、『Didjeridu Master』では「Wurrarl / Devil Devil」として2曲録音されているが、この当時の録音の方がディジュリドゥがしっかりとクラップスティックをフォローしている。ディジュリドゥのリズムはシンプルだが曲の展開と、ブレイクする度に変わるリズム・チェンジがすさまじい。「Mimi」の伴奏用のリズムを演奏していると思われるブラナシのディジュリドゥ・ソロが『Les Aborigenes』のトラック20で聞くことができる。また『David Blanasi Tribute Album 1998-2001』では、ブラナシの後継者Darryl Dikarrna Brownが演奏する「Mimi」ソング(トラック7)とブラナシの演奏する「Mimi」(トラック6)ソングの両方が収録されている。希代のソングマンDjoli Laiwangaの名曲中の名曲!

10. Debil
亡くなった人を埋めると、必ず一緒に住んでいた家族のもとにその霊が帰って来る。インド古典音楽の歌唱や八重山の歌のように長い一息で歌われるメロディアスでリズミックな名曲。ディジュリドゥのリズムも基本のリズムがあるがブレイク部分がフラクタルで渋い。ブレイク部分でのクラップスティックの抜き差し感が絶妙で、どこか陽気な感じがさえする猛烈にダンサブルな曲である。この曲の構成、メロディ全てが泣きです。このアルバムにしか入っていないが、『Les Aborigenes』のトラック18「Dance of Shadow」と『Songs of Bamyili』のトラック5「Waiyara(The Shadow)」と同一の曲と思われる。特に『Songs of Bamyili』の「Waiyara」はテンポが遅く、ディジュリドゥは低音で曲の雰囲気が異なるが、構成と歌詞は同一のものと思われ、比べて聞くとおもしろい。

11. Lumbuk(Pigeon)
鳩の曲。鳩はQoilと呼ばれているやぶの中に住んでいる。トラック5の「Willy-Willy」ソングのメロディと曲構成に酷似しているが、クラップスティックのリズムとディジュリドゥのリズムが違う。ここで使われている5拍子と4拍子の組み合わせは北西、西アーネム・ランドで広く使われている。『Les Aborigenes』にも同一の曲のヴァージョン違いを収録している。また『Songs of Bamyili』では同じヴァージョンのこの曲の珍しいディジュリドゥ・ソロを含む2曲が収録されている。

12. Nabale(Possum)
ポッサム(小型の有袋類)は空洞になった木の中に住んでいる。トラック11と同じメロディとリズム展開の曲。このアルバムだけで聞くことができる。

13. Rugout(The Wild Man's Song)
ある集団が池のそばに狩りをしにでかけた。狩りと魚をヤリで刺すのに集中している間、逆にある男が彼等をヤリで突こうと這って近付いているというユニークなダンス・ソング。とても変わったリズム・チェンジの仕方をする。基本リズムは7拍子で、ディジュリドゥはあまり特別な事をしていないが、クラップスティックのリズム割りがすごすぎる!他にこういう曲はないだろう。曲そのものが完全に決まっており、それをしっかり記憶して演奏されるGUNBORGならではの複雑な展開を歌、ディジュリドゥ、クラップスティックがガッチリと組み合わさった名曲。

■DAVID BLANASI ディスコグラフィー
・『Arnhem Land Popular Classics』(CD-R from LP 1961-62 : Wattle Ethnic Series)
・『Bamyili Corroboree』(LP/Cassette 1976 : Grevillea)
・『David Blanasi Tribute Album 1998-2001 / The White Cockatoo Performing Group』(CD 2002 : Big Ban)
・『Didjeridu Master』(CD 1998 : Big Ban)
・『Les Aborigenes Chantes & Danses de l'Australie du Nord』(CD 1979 : Arion)
・『Music of Aboriginal Australia』(Cassette 1972 : Hibiscus)
・『Songs of Bamyli』(Cassette 1977 : Aboriginal Artists Agency)
・『Traditional Aboriginal Music Sounds from the Bush』(CD 1998 : ARC)
・『World Music Gala Collection 100 世界民族音楽大集成 オセアニアの音楽II』(CD 年代不明 : King/Seven Seas)