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Research 林 Jeremy Loop Roots
Peter Photo Peter Lister / イダキ奏者・ヨォルング文化研究者
Peter Listerのディジュリドゥ・ページ

2. Top Endの伝統音楽とディジュリドゥ

-目次-
 2-1. ノーザン・テリトリー州Top Endの伝統音楽とディジュリドゥ
 2-2. ディジュリドゥの使われる地域
 2-3. 地域による伝統音楽のスタイル
 2-4. Top Endのソング・タイプ
 2-5. Top Endのディジュリドゥの演奏とスタイルの多様性
 2-6. Top Endの伝統音楽の用語集
 2-7. ディジュリドゥを伴った伝統的なアボリジナル音楽の参考文献

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2-5. Top Endのディジュリドゥの演奏とスタイルの多様性

すでに論議してきたように、この地域には3つの主要な音楽的スタイル / ジャンルが存在する(『2-3. 地域による伝統音楽のスタイル』参照)。使われるディジュリドゥのタイプは、演奏される音楽のジャンルと地域によって異なる。このページでは、Top Endのディジュリドゥと、その演奏方法における地域的なバリエーションの一般的な概観が紹介されています。

Top Endの音楽演奏は、 ボーカル、スティック、ディジュリドゥ、ダンスの4つの要素で成り立っているという事を覚えているということが重要です。これらの中で、もし単独で使われるとしたら、ボーカルだけという事はめったにない。

多くの慣れ親しんだリスナー達は、即座に伝統的なディジュリドゥの演奏を「退屈だ」、「繰り返しが多い」、「前後関係の中で使われるべき事を忘れている、あるいは知らない」と批評する。伝統的な慣習に沿ったディジュリドゥの演奏を単独で聞けば、このようなリスナー達は冷淡な反応をするようだ。しかし現代では、ディジュリドゥは時々ソロで演奏する、あるいは少なくともそれが伝統音楽である時には、伴奏としてというよりもむしろ音楽における卓越した役割を果たすという事を期待されるのである。

「声というものは、オーストラリアのアボリジナルの人々の重要な音を作り出す楽器である」

Stubington, 1979(※1.)



Top Endのディジュリドゥの演奏とスタイルの多様性
  1.地域的な楽器のスタイル
2.楽器のアートワーク
3.演奏技術
4.AタイプとBタイプの伴奏
5.マウス・サウンド
6.言語

  ※1.〜7.は全てページ内リンク。

  ディジュリドゥの真実性の問題

  Guan Y. Limのエッセイ。Earth Tube内の別ページへとびます。

  The Didjeridu in Maningrida

  Murray Gardeのエッセイ(英語/外部リンク/現在サイトなし)




1. 地域的な楽器のスタイル

・WanggaとKun-borrkの音楽におけるディジュリドゥ
Wangga(※2.)Kun-borrk(※3.)と呼ばれる音楽では、ディジュリドゥの音程がソングマンの声に合うように楽器が選ばれる事が多く、そのサウンドは声を(ドローンに)混ぜる事によって生まれる倍音が顕著で、特に低いしわがれ声が使われる。Aタイプの伴奏(サンプル・サウンド:wavファイル 304k)が演奏され、だますようなシンプルなリズムが滑らかなドローンの中で演奏される。曲の長さは2-3分続けて演奏される。

-楽器の形態-
このようなスタイルで演奏される楽器は、一般的に短く、時にかなりまっすぐで、その中の空洞は比較的広めで空気が中を通りやすい。それゆえに、この手の楽器はバックプレッシャーが低く、しばしば音程が高い。このような楽器をKunwinjku/Kuninjku語を話す人々はMako(Mago)と呼び、Gundjeihmi語を話す人々はMole(Morle)と呼ぶ。

・Bunggulの音楽におけるディジュリドゥ

Bunggul(※4.)と呼ばれる音楽に使われる楽器では、楽器の音程はあまり重要ではないようだ。その他の地域のディジュリドゥ奏者以上に、この地域のディジュリドゥ奏者は様々なテクニックのバリエーションを使う。

例えばブロルガ(豪州ヅル)の鳴き声など、鳥の鳴き声を模倣するため、そして低いしわがれ声と鼓動を作り出すために、ディジュリドゥの演奏時に声(裏声であることが多い)が使われることがある。Bタイプの演奏(サンプル・サウンド:wavファイル 308k)の標準的な曲は短く(20-30秒というのが普通にある)、そのリズムはより速いテンポでより複雑である。

Bタイプの演奏は、ヨォルングとその近隣の人々、Groote EylandtのEnindilyaugwaの人々、南東アーネム・ランド(Groote Eylandtの対岸にあるNumbulwarコミュニティ周辺)のNunggubuyuの人々(Moyle(※5.), 1981)、そしてRembarrngaやKuneの人々のような中央アーネム・ランドと東アーネム・ランド沿岸の西端のBurarraの人々によって用いられる。(Garde, 1997)

-楽器の形態-
この演奏スタイルで使われる楽器は、一般的に比較的長く、かなりまっすぐ、あるいは曲がりくねっていることが多いが、内部の空洞はより狭く、先細りになっているという事は少ない。内部の空洞はその長さにわたってわずかに広がっている、あるいは上部1/3ほどが平行で、末端部までずっとほどよく広がっている。空洞の形によってさまざまなバックプレッシャーの楽器があり、空洞の形がより狭く、より平行になっているものが比較的簡単にオーバートーン(トゥーツ)を演奏することができる。ヨォルングの人々の間ではディジュリドゥは、共通してYidaki(Yirdaki)と呼ばれている。

東と北東アーネム・ランドでは、イダキの形態には数多くのバリエーションがある事は注目すべき点だろう。DhuwaとYirritja半族の楽器は、長さや形がそれぞれのMoiety : 半族(※6)で異なっており、クラン(言語グループ)の所属によって楽器にかなりのバリエーションがある。




関連リンク

Roy Burnyilaのイダキ作り

  このサイト内の「5. 東アーネム・ランドのディジュリドゥ製作」へ飛びます

Djalu' Gurruwiwiのイダキ作り(英語/外部リンク)

  '99年にRandy Gravesが取材した写真付き解説。

楽器の地域的なバリエーション(英語/外部リンク)

  Ed Drury氏個人所有のディジュリドゥを元に楽器のバリエーションを推考。




2. 楽器のアートワーク

ここでは簡潔に、楽器に施されるアートワークについて述べます。普通、儀式で使われる伝統的な楽器は装飾が非常に少ない。たとえペイントがされていたとしても、全てを一色で塗られている、あるいは楽器の一部分を2、3色の色で塗られているという事が多い。現在手の込んだアートワークがほどこされた楽器を見かける。それは製作者のクランや土地とのつながりを反映していることが多いのだが、実際は、楽器の美しさと価値を上げるためだけに行われているようだ。

率直に言えば、現在購入される楽器の大半は、見た目で購入されている。購入者の大半は決してその楽器を演奏せず、彼等の視点ではそれらはアートワークなのである。アートの内容についてさらに論議すれば、文化的な背景について口火を切ることになるので、論議をせずにおいておきます。

3. 演奏技術

ディジュリドゥの伝統的な演奏技術は、商業的に手にすることができる数多くの録音で聞かれるコンテンポラリーの演奏とは基本的に異なっている。伝統的な演奏技術はTop End内でも様々である。伝統的なディジュリドゥの演奏技術の外観を知るには、アボリジナル音楽のディスコグラフィを御覧下さい。

-Aタイプ-
Ed Druryの西アーネム・ランドのテクニック(英語/外部リンク)のページを御覧下さい。滑らかなドローン(持続低音)を得るために、ところどころで頬が使われる。

→私が演奏したAタイプの例を聞くことができます Aタイプの伴奏(サンプル・サウンド:wavファイル 304k)
-Bタイプ-
この地域では、仮に使われるとしても頬が使われる事は非常に少ない。演奏は精力的かつ余す所がなく、その呼吸は短くすばやく取られる - (1秒間に)2回の短い呼吸がすばやく連続して行われる事も多い。この演奏スタイルは、「循環呼吸(Circular Breathing)」というよりも、「循環しながらハァハァと息を切らしている(Circular Panting)」と表現したほうがよいのではないか、と私は思う。オーバートーン(トゥーツ)は、約2秒くらい伸ばした音と、音楽にパーカッシブな構造を加える極端に短いパシっという音の両方で演奏される。舌は、ディジュリドゥの空洞の中に空気の筋を「ポンと鳴らす」ために、横隔膜と連動して力強く、素早く使われる。

→私が演奏したBタイプの例を聞くことができます Bタイプの伴奏(サンプル・サウンド:wavファイル 308k)

このリズムの中でアクセントがついている部分が、上記で「ポンと鳴らす」と表現されている音で、オーバートーン(トゥーツ)はこのサンプルの最後に聞くことができます。





関連リンク

Yolngu-style FAQページ(英語/外部リンク)

  Richard Mans氏が詳しく説明したヨォルングの演奏スタイルの解説。



4.「Aタイプ」と「Bタイプ」の伴奏

Moyle 博士(1978)は、西アーネム・ランドと東アーネム・ランドのディジュリドゥの演奏スタイルを区別するのに「Aタイプ」と「Bタイプ」という言葉を用いている。

「一般的に、Aタイプのディジュリドゥの伴奏は西アーネム・ランドで聞かれ、Bタイプのディジュリドゥの伴奏は東アーネム・ランドで聞かれる。このようなディジュリドゥの伴奏スタイルは、ソング・タイプによって変化する。しかしディジュリドゥの伴奏スタイルの重要な相違点は、低い音つまりドローンの音の1オクタープかそれ以上(たいてい10度上)高い、吹き込んだ音 [トゥーツ] にある。これはBタイプと区分される全ての東アーネム・ランドの伴奏スタイルに見られる特徴である。」

-Alice M. Moyle 1978(※7)-

この高い音(オーバートーン、あるいは強く吹いた音[トゥーツ]としても知られている)は、金管楽器奏者が行う唇の当て方に似た方法で演奏され、両唇の緊張と空気の流れを強くすることによって得られる。西アーネム・ランドの楽器でも、しばしばオーバートーンを出すことができるのだが、基本のドローン音から滑らかに明瞭なオーバートーンへ移動することが難しいので、その地域の音楽ではオーバートーンが使われることがない。

中央アーネム・ランド(Maningridaの東と南)のMann RiverとBlyth Riverに隣接する地域では、両方の音楽スタイルと両方の楽器のタイプが重なっており、AタイプとBタイプの両方のディジュリドゥの伴奏が行われる。AタイプとBタイプの両方の伴奏をともなった音楽を演奏するこの地域には、Burarra、Rembarrnga、Kuneの人々がいる。

地図 3. (「2-3. 地域による伝統音楽のスタイル」の地図に飛ぶ)は、このような重要な地域とAタイプとBタイプの伴奏が用いられる地域の輪郭を描いている。

→サウンド・サンプル
 ・私が演奏したAタイプの例を聞くことができます。Aタイプの伴奏(サンプル・サウンド:wavファイル 304k)
 ・私が演奏したBタイプの例を聞くことができます。Bタイプの伴奏(サンプル・サウンド:wavファイル 308k)




関連リンク

Music in Maningrida(英語/外部リンク)

  残念ながら現在このホームページはweb上から無くなっている。



5.マウス・サウンド

民族音楽学者Alice Moyle博士がこの専門用語を作った。Garde (1997) はそれをうまく表現している;

「多くの伝統的なディジュリドゥ奏者達は、10代の頃から儀式で演奏をしはじめる。彼等は、それぞれの歌の伴奏の複雑なリズム・パターンを記憶するために、私が表現する所の [リズムの音声化] という記憶を助ける手法を用いる。楽器の英語名 [Didjeridu : ディジェリドゥ] は、この [リズムの音声化] の手法の簡単な模倣音の一例から来ている。」

-Garde(1997)-

マウス・サウンドが使われる事例
リズムを習い、練習する目的として使われる。
ある演奏のために必要な伴奏のリズムの種類をソングマンとディジュリドゥ奏者の間で伝えあうために使われる。
歌詞の一部に使われることがある。曲の短いイントロで使われることがあるが(ある意味では上記2番目の例と似た役割を果たす)、より一般的には「楽器の伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終える場合 - UVT(※8)」 に使われることが多い。

マウス・サウンドの例:
Moyle博士のSongs from the Northern Territory vol 2, トラック 8 (b), 10 (c,d), 12 (b)を参照して下さい。

マウス・サウンドはディジュリドゥの中に向けて、話されることはない。誰かの記憶を呼び起こすためにある曲をハミングする時のように、あるいはピアノ、ギター、ドラム、なんでも自分が演奏して欲しい曲を相手に伝えるためにある曲をハミングする時のように、マウス・サウンドは声でディジュリドゥのリズムを表す手段なのです。自分の声でディジュリドゥと同じ音を作り出すことができないので、その音を声を使って描写するのである。

マウス・サウンドの中には「dup」(この音は短いポンッというオーバートーン)のように広範囲の地域で共通して使われるものもあるが、特定のディジュリドゥの音を表すマウス・サウンドに規範的なものは全くない。同様に、マウス・サウンドでは舌を巻く時の音は、ディジュリドゥでは低い声を使ったうなり声で演奏される。

ポイントを説明するために一般的なマウス・サウンドの例を紹介します:

西アーネム・ランドの「Did-ar-o」というタイプのマウス・サウンドでは、「Did-」は前歯のすぐ上の口蓋を打つ力強い舌の押し込みと、力強く吐く息が組み合わさって鳴らされる。「-ar」はすばやい舌の引っ込みと、喉の開放で鳴らされ、「-o」は低い声を使ったうなり声である。

「dup」(ここでの「u」は「put」と同じような発音)というマウス・サウンドは、中央、東、北東アーネム・ランドとGroote Eylandtで使われる。この音には声は全く使われておらず、短いポンッというオーバートーンを出すために、同じ唇と舌の動きが使われる。



6.言語

Moyle 博士(1981)は、Bタイプの演奏におけるオーバートーンの使用と言語の間にはつながりがある可能性があると指摘している。オーストラリアの約7/8は「Pama-Nyungan」語族の言語が占めている。奇妙な事に「Pama-Nyungan」語族の言語を話す北東のヨォルングの地域をのぞいて、残り1/8であるTop Endには、それとは対照的に約20種類の異なる語族が存在する。つまり、Top Endでは「Pama-Nyungan」語族のヨォルングがオーバートーンを使い、「Pama-Nyungan」語族ではない西と南アーネム・ランドの大半が、オーバートーンを使わない。

前述したヨォルング文化圏に隣接した地域はその例外であり、その地域の人々はヨォルングと長く続いてきた接触を通じて、オーバートーンの使用を身につけてきたのである。伝統的なディジュリドゥの演奏技術は、オーストラリアの言語を話さない人達(もしくは逆に英語のみを話す人達)にとっては比較的難しいように思える。これはアボリジナルの言語の中に、英語で使われることのない、異なる発音があるためだからだろう。このようなサウンドには、英語を話す私達が使わない舌の位置が使われる。そしてその舌の動きを習得するのは難しい。それには、我々よりも低く、より平坦な口蓋とより制限された鼻腔がそれぞれの役割を果たすのかもしれないと考えられている。



【注釈】
※1. J. Stubington 1979
North Australian Aboriginal Music 参照
『Australian Aboriginal Music』7-19Pより 編集:Jennifer Isaacs 出版:Aboriginal Artists Agency, Sydney  >>戻る

※2. Wangga
Wanggaと呼ばれる音楽は、伝統的にSouth Alligator Riverの河口からはじまる南西の線、南東はNgukurr、南はKatherine地域、そして西はキンバリー地方まで走るラインで聞かれる。 >>詳しく読む  >>戻る

※3. Kun-borrk
Kun-borrkと呼ばれる音楽は、南東へKatherineまで走っているAdelaide Riverの河口からはじまる東の線、その東の領域はMann Riverのほんの東で、Rose Riverあたりから、Borroloolaを越えてCarpentaria湾の海岸線にそって南東までの領域で聞かれる。 >>詳しく読む  >>戻る

※4. Bunggul
Bunggulと呼ばれる音楽は、Mann Riverの東、Mainoruまでの南、そしてNumbulwarまでのRose River地域までの南東の領域で演奏されている。 >>詳しく読む  >>戻る

※5. Alice M. Moyle 1981
The Australian didjerdu: A late musical intrusion 参照
World Archaeology, Vol. 12 No. 3, Musical Instruments, 321-331Pより   >>戻る

※6. Moiety : 半族
逐語的には「半分」を意味する人類学の専門用語。宇宙の全てのものは、社会的、宗教的に半分それぞれに属する(陰陽の観念や、同様の二分する観念とは全く違う)。全ての人々、クラン、祖先の人々、(リズムや、クラップスティックのパターンを含む)歌、デザイン、もの、現象、植物、動物は、この二つの半族のどちらか一つに属している。この半族は、異種族間結婚の単位でもある。東アーネム・ランドでは、この半族は、DhuwaとYirritjaと名付けられ、その他の地域では下記の図の名称で呼ばれている。   >>戻る

※7. Alice M. Moyle 1978
Aboriginal Sound Instruments』 レコード付属のブックレット参照
販売元:Australian Institute of Aboriginal Studies, Canberra 品番:AIAS/14   >>戻る

※8. UVT
北東アーネム・ランドの歌で特徴的なのが、Unaccompanied Vocal Termination(UVT : 楽器の伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること)である。これは、スティックとディジュリドゥの演奏が停止した後に続いて、リード・ソングマンが長くのばした歌い方でその歌を終わらせることについてMoyle博士が使った言葉である。   >>戻る

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