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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【カンガルー・パワー】

ある土曜日の午後。いつもどおりにグラニスとティムは町へと戻り、僕もたまった家事を終えコミュニティをブラブラと歩いていたが、コミュニティはひっそりとしていた。老人介護施設のキッチンも、フェイが朝食を配り終えた後に片付けていたので特にやることもない。フェイに赤いランド・クルーザーを借りてドライブに行こうか、家に帰ってテレビでも見てグダグダとしようかと考えていたときだった。

フロントガラスが取れたTOYOTAランドクルーザー
よーく前方を見るとフロントガラスが・・・、ないっ!走ることで車としての機能は充分に果たしているように思えるけれど、これってありなんでしょうか?

前方からフロントガラスが大破したランド・クルーザーが僕の方に向かってノロノロ走ってきた。遠目に、運転しているのはCedrick Tjungarrayi(以下セドリック)というここ数日よく話すようになったアボリジナル男性だと気づいた。車に歩み寄り、車内をのぞき込むと銃が見えたので、

「カタ クィヤ、セドリック。今からどこに行くの?」

「オー、カタ クィヤ、カズ。さっきカンガルーをしとめたんだけど塩を忘れて取りに戻ってきたんだ」

「マジで?オレも一緒に連れて行ってよ」

「いいぞ。じゃあ車に乗りな」

車のバックドアを開けて飛び乗ると、他にも3人のアボリジナル男性が後ろの席に向かいあって座っていた。この車はランド・クルーザーのトゥルーピー(詳しくは「出口晴久のブラブラ日記2【トゥルーピーが欲しい】を読んでみてください)という車種で、後部座席は向き合って座れるタイプだ。

彼らとはあまりしゃべったことがなかったので、お互いぎこちなく挨拶を交わしていると車が動き出した。コミュニティを離れてから15分ほどだったろうか、前方に数人のアボリジナル男性が集まって楽しそうに話している姿が見えた。

Watiyawanuで暮らしたぼくの部屋
トゥルピーの後部座席。それぞれのイスは上に持ち上げて固定することができるので、全てのイスを上げるとかなりの荷物を積むことができる。
アボリジナル料理:カンガルーのアースオーブン焼き
尻尾と後ろ足を切られた黒コゲのカンガルー。お腹からはみ出しているのは内臓だ。焼いている間はお腹に木の枝を突き刺し、内蔵が戻らないように固定されている。おそらく内臓の中の空気が熱で膨張して、破裂しないようにしているのかもしれない。

やがて車が男性たちの前に止まり、みんなが次々と車から降りていく。僕も彼らに続いて車から降り、ふと地面に目を向けると真っ黒に焦げたカンガルーの丸焼きが僕の目に飛び込んできた!想像もしなかったショッキングなカンガルーとのご対面にしばらく呆然としていると、

「オー、カズ。お前もカンガルーを食べに来たのか?」

と、話かけてきたアボリジナル男性はWalter Tjungarrayi(以下ウォルター)で、がっちりとした体格にランニングシャツが似合うことこの上ないナイスガイだ。彼はよくセドリックと一緒にいるので、セドリックを通じて仲良くなっていた。

Walterがカンガルーに近寄り、すぐ横の地面をスコップで掘り始めた。「何をしているんやろ?」と思い、ウォルターに聞いてみると、

「穴に入れてさらに焼くんだ。カズ。」

どうやらまだカンガルーは生焼けらしく、これから焼けた炭でジワジワと焼いていくそうだ。ある程度の深さまで穴を掘ると炭を敷き詰めていく。そしてカンガルーをその上に投げ入れると、さらに炭をカンガルーの周りにまんべんなくかぶせていく。「そういえば、以前にトカゲをごちそうしてもらったときも同じやり方やったなぁ」と、興味津々にその作業を見ている間にもジュージューと脂の焼けるいい音が聞こえ、次第に香ばしい匂いがあたりを包み込んでいく。

カンガルーの調理を待っている間みんなとしゃべっていると、コミュニティにいるときよりもみんなの表情がイキイキとしているように感じた。今でこそ彼らは日々の食事の大半をストアーの食料でまかなっている。しかし、狩りは長い間繰り返し行われてきた彼らの日常的な生活の一部分だ。白人文化が入ってくる以前、ヤリとヤリ投げ器を使い徒歩で行われてきた狩りは、想像するだけでも大変なことだったと思う。だから獲物をしとめた後に、みんなで分け合って食べることはとても楽しかったに違いない。

そんな彼らの生活のワンシーンに自分がいるということになんとなく感慨深い気持ちになっていると、セドリックがカンガルーの近くに葉っぱの生い茂った木の枝を置きだした。そして素手でカンガルーの足をつかむと、無造作にその上に放り投げた。

どうやら木の枝はカンガルーに砂がつかないようにするためのお皿といったところだろう。ナイフとプラスチックの容器を片手ずつに持ったセドリックが、容器をカンガルーの後ろ足の付け根にあてがい、おもむろに切ると血がふきだしてきた。流れ出る血を容器に受け取っていき、ある程度たまると「肉を食べる前にまずはこいつだ」といった感じで僕の方に差し出してきた。

カンガルーの食べ方
水の乏しい砂漠地帯ではカンガルーの血といえども重要な水分補給になったのだろう。でも血を飲んだ後、妙にのどが渇いたような気がする。塩のせい?

少しためらいがあったけれど、「飲んでみなくては美味しいか不味いかわからないし、こんな機会はめったにないのだ。」容器を受け取り口に含んでみるが、正直あまりおいしくない。血は熱を加えられて少しトロっとしていて、鉄サビのような味が濃縮されている感じだ。僕の曇った表情を見て、セドリックが塩をひとつまみ入れてくれた。「そんなことして味が変わるんかいな?」と、半信半疑で再び飲んでみるとこれが予想以上においしかった!トマトジュースに塩を一振りすると味に重みがでるのと同じようなものなんだろうか。血をすべて飲み干すとセドリックが、

「風邪を引いたときに、こいつを飲んだら直ぐによくなるぜ」

「へぇ、カンガルーの血って滋養にいいんや。でも今風邪なんか引いてないけど」

「じゃあ、今夜はギンギンだな!」

ニマっと笑うセドリックに、「一人身やのに、どないせいっちゅうねん!」と僕の心の叫びが大自然の中にむなしく溶け込んでいくのだった。

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