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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【それぞれの週末】

Watiyawanuのガソリンスタンド
ガソリンの給油所。土曜日のストアー閉店間際になると4〜5台の車が並び、店内と給油所を行ったりきたりと大忙しだ。

土曜日のストアーはすごく活気がある。店内は人や犬がごったがえし、レジには「これでもかっ!」とばかりに人が並ぶ。さらに、「オレ(わたし)の会計を早くしてっ!!」と多少殺気だった雰囲気も漂っている。

土曜日の午後と日曜日は営業しないのでアボリジナルの多くがまとめ買いをするのだ。レジを打ちながら冗談交じりで会話をしていると初日の無反応ぶりがウソのようだ。

12時を少し過ぎてようやく店内が落ち着き、最後のお客がストアーを出るとレジ締めに入る。レジ締めというのは万国共通だと思うが、いわゆるレジスターに打った額と、実際にある現金を合わす作業のことだ。まずはレジスターに打った額の集計を出す。「フンフン、この金額ね」。つぎは実際にあるお金を数えていくと・・・、「あれっ!? 100ドル(当時のレートで約1万円)ほど足りひん!?」普通ならレシートの控えとかを調べて原因を探すのだが、ここMt, Liebigでは「No problem, mate!(まっ、いいから早く店を閉めようぜ!)」となる。なんなんだこのゆるさはっ!

とにもかくにもストアーを閉めてティムと共に家に帰る。同僚のミックも週末分の食料の入った大きな紙袋を抱えて「じゃ、月曜日に」と笑顔で家に帰って行く。家に戻ると、グラニスはあわただしくアーティストの描いた絵を集めていた。グラニスとティムはアリス・スプリングスにある家で毎週末を過ごす。もちろん休日をゆっくり過ごすためでもあるのだが、グラニスはアボリジナル・アートを町で販売して、アーティストにお金を渡さないといけないし、ティムは店の売り上げを町の銀行に振り込まなければならないので、必然的に町に戻る必要があるのだ。

その他の施設で働いている白人オージーたち(マークやジェイミーたち)も、家族と過ごすため、町に遊びに行くといった理由でアリス・スプリングスへと戻る。老人介護施設で一緒に働いているフェイは高齢で独身ということもあるのか、あまり町に戻ることはない。僕はというとコミュニティに残ることが多かった。町に行く用事がないというのも理由の一つだが、自分の自由な時間を持ちたいことや、仕事のことを気にせずにアボリジナルと過ごしたいというのが大きな理由なのだ。それは、アボリジナル男性から「狩りに行かないか?」と誘われても、仕事があるので断るしかないということが何度かあったからだ。

グラニスとティムは昼食を食べ終え、30分ほどゆっくりとくつろぎ、「Good weekend.(良い週末を)」と笑顔で言い残し町へと帰っていった。家にポツンと一人残されたような感じで、しばらくの間静かな時間を楽しむ。

といっても、たまった洗濯物や部屋の掃除があるのであまりゆっくりもしていられない。早く身の回りのことを片付けて、コミュニティをぶらつきたい!ホウキとモップの準備をし、お気に入りのCDをコンポにセット。ボリュームを大音量に上げてスイッチ・オン。音楽をガンガンにかけ無心で体を動かしていると結構気持ちがいいもんだ。

Watiyawanuで暮らしたぼくの部屋
約1年間過ごした僕の部屋だ。クーラーがついているので、暑い夜でもグッスリ。でも窓を切って直接取り付けられているので、そのすき間から砂が入り込み1週間もほっとけば部屋は砂だらけになってしまう。
Watiyawanuのガソリンスタンド
Watiyawanuの発電施設。ディーゼルエンジンを動かして発電しているので、音はかなりうるさい。中に入ったことはないが、管理をしているジェイミーいわく「うるさくて、臭いからあんまり入りたくない」とのこと。

1時間ほどで全ての用事を済ませ、これでようやく僕のコミュニティ生活におけるプライベートタイムの到来だ。汗ばんだ体を水シャワーで洗い流し、カメラをカバンに入れシューズを履き準備万端だ。なにか面白い出来事が起こることを期待して、意気揚々とコミュニティ内を歩き回ってみる。

しかし、人の気配があまり感じられない。車の通りも少なくコミュニティ全体がひっそりとしている。「午前中はあんだけ人がいたのにみんなどこに行ったんやろ?」。とりあえずコミュニティを一回りしてみたけれども、やっぱりシーンとしている。聞こえてくる音といえば、コミュニティから50メートルほど離れたところにある発電施設のうなり音だけだ。

これといってすることもなくなったので、仕方なく老人介護施設のキッチンへと足を向けた。食材のロスを減らすために冷蔵庫の整理をし、来週の献立をおおまかに決めておこうと思ったからだ。土曜日の午後は基本的に働く必要はないのだが、平日にはなかなかできない作業なので、空いた時間を見つけて整理整頓をするのも僕のできることの一つだ。

キッチンでの作業を終え外にでると、前の広場の木陰の下で2人のおばあちゃんがくつろいでいた。彼女たちは僕がお世話をしているヌンティおばあちゃんとベティおばあちゃんだ。ベティおばあちゃんは目が見えない。でもそんなハンディキャップを感じさせないぐらいによく笑い、その笑顔がとても素敵なおばあちゃんだ。年齢は65才ぐらい。

二人が寝そべっている所に行き、僕も彼女たちと同じように地面にゴロンと寝っころがる。日本では服が汚れることを気にして座る場所すら選んでいた僕だった。しかし、アボリジナルのみんなと暮らすうちにそんなことは自然と気にもとめなくなってきていた。

日なたにいるとうだるような暑さでも、木陰にいると時おり吹く風が心地いい。空気が乾燥しているので風がサラリとしていて思いのほか涼しいのだ。なんといっても服の汚れなんかを気にせずに大地に身を預けることが、開放的で心地よさを感じる一番の理由なのかもしれない。

アボリジナルのベティおばあちゃん
静かなコミュニティでゆっくりとくつろいでいるベティおばあちゃん。言葉での意思疎通はなかなか難しいが、一緒にいると妙に心が休まってくる。

普段は二人のおばあちゃんの子供や孫たちが騒がしく周りを取り囲んでいるが、このときは静まりかえるコミュニティに二人ともリラックスしているように感じた。ヌンティおばあちゃんもベティおばあちゃんも英語をあまり話せないので、僕との会話は片言の英語と片言のLuritja語となる。

「午前中にはいっぱい人がいたのにみんなどこに行ったの?」

「私の息子はカンガルーを狩りに行ったわよ」

と、ヌンティおばあちゃん。続いてベティおばあちゃんが、

「私の娘は孫と一緒に町へ遊びに行ったみたいだねぇ」

「みんな平日でもよく狩りや町に行ったりしてるよね?でも、特に週末とかに行ったりしてるの?だって全然人がいなかったもん」

すると二人がLuritja語でなにやらボソボソと話し合い、やがてヌンティおばあちゃんが、

「カズの言うとおり、みんな平日でもいろんな所に行くわね。でも、週末はコミュニティ内に白人オージーがあまりいないから、みんなのびのびとするのよ。だから特に週末はみんな出かけたがるのと違うかしら」

「ふーん、そうなんや」

ヌンティおばあちゃんの話はちょっと衝撃的だった。というのも普段アボリジナルのみんなは、白人オージーたちにいろいろとものを頼みにいく。だから単純にアボリジナルのみんなは白人オージーたちと仲良くしているものだと思っていたのだ。アボリジナルと白人オージーのそれぞれの暮らしぶりは確かに異なっている。これまで大きな衝突は見たことがなかったが、お互いにストレスを感じているのかもしれない。

かくいう僕も、アボリジナル、白人オージー両方の生活ぶりにとまどいを感じることは多少なりともあった。だから白人オージーたちの多くが町に戻り、家族や気の合った仲間とそれぞれの時間を過ごすというのもうなずける。同様にアボリジナルもまた、白人オージーのいないコミュニティで自由な時間をみんなで過ごしているのだろう。「白人オージがいないときのアボリジナルの過ごし方ってどんなんだろう?」これまで意識したことのない新しい観点に、毎週末が楽しみに思えてくるのだった。

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