【心が開く場所】 どれぐらいの時間をバギーで走っていたのかよくわからないけど、バーを握りすぎて手のひらの感覚がマヒしてきたころ、ようやくロックホール(水場)のある小高い山のふもとに到着した。ロックホールは山の中腹にあるらしくここからはバギーを降り徒歩でロックホールへ向かうことになる。
マークとジェイミーが軽快に登っていくのを見て「二人の歩いた所を通って行けば安全やろ」とついていくがなかなか追いつけない。僕の後ろを歩いていたジェイミーの友人も四苦八苦している。草木をよけたり、両手を使って大きな岩をよじ登ったり、くぼ地を飛び越えたりと日本でこんな経験をしたことのない僕にとって、トレッキングの中でも上級レベルに入ると思う。さらに、「岩の窪みには気をつけろ!ヘビがいるかもしれないから」とマークの真剣身を帯びたアドバイスを聞くと、トレッキングというよりかはアドベンチャーに近いんじゃないかと思えてくる。 岩山を登り続けること20分弱。マークとジェイミーが高くそびえたつ岩壁の前で座ってくつろいでいるのが見えた。「やっとロックホールに着いたんかな?」と、したたる汗をぬぐいながら、足を速める。
「うっひょー、メッチャ気持ちええ〜!」 ロックホールにたまっていた水は、日の光を浴びていなかったのかかなり冷たい。こういうのを「砂漠のオアシス」と言うのだろうか?ロックホールまでの道中の疲れなんか一気に吹っ飛んでいくかのように体がシャッキリとしていく。さらに老人介護施設やストアーで働きだしてからはコミュニティからは一歩も出ることがなかったので、知らず知らずのうちに溜まっていた精神的な疲れも一緒に吹き飛んでいくような気がする。そんなはしゃぎまくっている僕を見てマークが一言、 「いい場所だろ?カズ」 まるで自分の持ち物を自慢するかのように話かけてきた。タバコをくゆらせて一息ついている彼の隣に座り、 「うん、ここはホンマに最高やわマーク!なんか生き返ったような気がする」 「そうだろう。こんな場所を知ってしまうと、町なんかで暮らすのが窮屈に感じるんだ」 「でもマークの奥さんや子供は町(アリス・スプリングス)に住んでいるんでしょ?離れて暮らしていて寂しくないの?」 「寂しくないことはないな。以前オレは長距離トラックの運転手をしていたんだが、生活が不規則になって体はボロボロになってしまった…。そんなことを思うと、まだコミュニティで働いているほうがマシなんだ。それにオレは小さい頃からグラニスに連れられてコミュニティで過ごしてきたからあまり抵抗感はないんだ」
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