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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【心が開く場所】

どれぐらいの時間をバギーで走っていたのかよくわからないけど、バーを握りすぎて手のひらの感覚がマヒしてきたころ、ようやくロックホール(水場)のある小高い山のふもとに到着した。ロックホールは山の中腹にあるらしくここからはバギーを降り徒歩でロックホールへ向かうことになる。

Koori Mail : Ngoia takes out major art award
目の前に立ちはだかる大きな岩壁。こんな所ホンマに行けるんやろか?

山を見上げると岩がゴロゴロむき出しになっていて、たしかにマークが言ったようにサンダルで登るにはキツかっただろう。

さらにオーストラリアには毒性の強いヘビが多く生息しているので、ブッシュを歩くにはブーツをお奨めすると何かの本に書いてあった気がする。マークやジェイミーの足元を見ると、さすがに足首までがっちりと保護されている網紐のブーツだ。

ちなみに砂漠地域ではデスアダーというヘビが生息していて、毒性はかなり強いらしい。ジェイミーに言わせると「30分以内に血清を打たないとゆっくり眠れるぜ!」ということだ。

マークとジェイミーが軽快に登っていくのを見て「二人の歩いた所を通って行けば安全やろ」とついていくがなかなか追いつけない。僕の後ろを歩いていたジェイミーの友人も四苦八苦している。草木をよけたり、両手を使って大きな岩をよじ登ったり、くぼ地を飛び越えたりと日本でこんな経験をしたことのない僕にとって、トレッキングの中でも上級レベルに入ると思う。さらに、「岩の窪みには気をつけろ!ヘビがいるかもしれないから」とマークの真剣身を帯びたアドバイスを聞くと、トレッキングというよりかはアドベンチャーに近いんじゃないかと思えてくる。

岩山を登り続けること20分弱。マークとジェイミーが高くそびえたつ岩壁の前で座ってくつろいでいるのが見えた。「やっとロックホールに着いたんかな?」と、したたる汗をぬぐいながら、足を速める。

二人が座っている場所にたどり着くと少しひんやりとしていて、岩壁に囲まれた直径5mほどの水場が目の前にあった。コミュニティを出発してから熱く乾いた大地を延々と移動してきたせいか、「なんでこんな所に水がたまっているんやろ?」とすごく不思議な気持ちになる。

切り立った岩壁の上の方に目を向けると岩壁の表面が水で濡れていたので、下から湧き出てくるのではなくてガケの上から流れているようだ。水はとても澄んでいて飲めそうな気もしたが、さすがに生水は危険だからと思いとどまり、代わりに頭から顔をつっこんだ。

マーク
岩の裂け目から水がしみ出し、青々とした植物がガッチリと根を下ろしている。ロックホールまでの道中、くすんだ色の草木ばかり見てきたので心落ち着く光景だった。

「うっひょー、メッチャ気持ちええ〜!」

ロックホールにたまっていた水は、日の光を浴びていなかったのかかなり冷たい。こういうのを「砂漠のオアシス」と言うのだろうか?ロックホールまでの道中の疲れなんか一気に吹っ飛んでいくかのように体がシャッキリとしていく。さらに老人介護施設やストアーで働きだしてからはコミュニティからは一歩も出ることがなかったので、知らず知らずのうちに溜まっていた精神的な疲れも一緒に吹き飛んでいくような気がする。そんなはしゃぎまくっている僕を見てマークが一言、

「いい場所だろ?カズ」

まるで自分の持ち物を自慢するかのように話かけてきた。タバコをくゆらせて一息ついている彼の隣に座り、

「うん、ここはホンマに最高やわマーク!なんか生き返ったような気がする」

「そうだろう。こんな場所を知ってしまうと、町なんかで暮らすのが窮屈に感じるんだ」

「でもマークの奥さんや子供は町(アリス・スプリングス)に住んでいるんでしょ?離れて暮らしていて寂しくないの?」

「寂しくないことはないな。以前オレは長距離トラックの運転手をしていたんだが、生活が不規則になって体はボロボロになってしまった…。そんなことを思うと、まだコミュニティで働いているほうがマシなんだ。それにオレは小さい頃からグラニスに連れられてコミュニティで過ごしてきたからあまり抵抗感はないんだ」

マーク
一息ついているマーク。この場所でマークの心に触れることが出来たような気がする。

どことなしか寂しげに話すマークを見てこれ以上何をしゃべることもなく、ロックホールはしばし静寂に包まれた。その間マークが見せた少し悲しそうな表情はなんだったんだろう?そのことが頭の片隅に残っていたけれど、久しぶりにコミュニティを離れた開放感に包まれていた僕は、

「マーク、また機会があったらここに連れてきてな」

と約束をしてロックホールをあとにした。

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