僕たちより一足先にシドニー入りしていたGoriくんとノンくんは、今回の旅の最初の難関であり、もっとも重要な要素でもある「車探し」をしてくれていた。これが決まらないことには旅を始めることはできない。ところがこれが思った以上にハードルが高かったようだ。
日本と違い、オーストラリアでの車の購入は個人売買が中心になる。取引も非常に簡単でいくつかの必要書類さえ揃っていれば、その場で交渉が成立し、現金と引き換えに購入者が買った車に乗って家まで帰る、なんてことも可能だ。
その反面、責任はすべて当事者にかかってくるためリスクも高い。どれだけ質のいい車を安い価格で手に入れられるかは本人たちの眼力にかかっている。
このためにオーストラリアへ旅立つ直前、Goriくんと僕は知り合いの四駆スペシャリストのもとを尋ね、中古車購入のチェックポイントを学ぶということまでしていた。
|
聴診器のような専門の道具でベアリングの状態を調べる訓練。 この道具、オーストラリアにもっていくの??
|
検討に検討を重ねた結果、4WDがポンコツになるまで乗り回されているノーザン・テリトリー州ではなく、より質の高い車をもとめ、遥か遠く離れたシドニーで車を探そうと決めていた。ただシドニーからダーウィンまでは4,000km以上を走らなければならない。この距離は東京-大阪間が約500kmなので、連続4往復分に相当する!それだけでも車への負担は大変なものだ。また今回はアーネム・ランド内の未舗装路「セントラル・アーネム・ハイウェイ(Central
Arnhem HWY)」を駆け抜けるため、さまざまな必要条件が課せられていた。いくつかあげてみると・・・
(1). |
四輪駆動車(4WD)であること |
|
ダートをはじめ、川渡りやブルダスト(まるで小麦粉のようにキメの細かい砂)など、さまざまな路面に対応するため。 |
(2). |
構造が単純で丈夫なミッション車(MT)であること |
|
オートマティック車(AT)では万一故障した場合、修理等が難しくなるため。 |
(3). |
燃料はディーゼルであること |
|
アーネム・ランドには、ガソリン車(オーストラリアではペトロ車という)では一部入れない地域がある事と、遠隔地域ではガソリンを補給できない場合が多い。またガソリン車は横転した場合に炎上する可能性が高い。加えて川渡りの際にエンジン・ルームに水が入った場合、ガソリン車は一発でお釈迦になる。 |
(4). |
5人以上の人員、人数分のキャンプ用品や食料、そして各地域で購入したディジュリドゥを運搬できること。特にディジュリドゥを寝かせて乗せられることは重要。 |
(5). |
そして最後に、予算はAUD10,000ドル前後(約85万円)であること。 |
これも日本での訓練のひとコマ、Goriくんが車体の挙動についてのお勉強中。このままの状態進みすぎると右に車体が倒れる?
|
Goriくんと日本で打ち合わせた結果、最低でもこれだけの条件が必要だということになった。考えるだけなら簡単だけれど、実際に調べてみると、これだけの条件をすべてクリアできる車というのは数少ない。
その中でも最終的に僕たちが狙いを絞ったのが「トヨタ ランドクルーザー・トゥループキャリアー(LAND CRUISER Troop Carrier)」、通称「トゥルーピィー」という車だった。
|
ランドクルーザーの中でもこの車種は日本では販売されていない、いわばオーストラリアの特別仕様。直訳すれば「歩兵を運ぶ車」という名前の通り、横向きシートタイプの車種であれば1度に11人も乗せることができるのだ!!
Goriくんたちと合流してすぐ、僕は一番の心配ごとであった車について切り出してみた・・。
「あの、ところでさ・・・。車、どうやったん?」
「・・・」
「え?え?・・・。で、ど、どうやったん・・?」
クイズミリオネアの時のみのもんたばりの長〜いタメのあと、彼らがだした答えは・・・
「フワッハッハッハ!! やりました!! 手に入れましたがなー、トゥルーピィーを!!」
「まっ・じっ・でーーー!!」
思わず踊りだしそうなほどの興奮!!2人とガッチリ握手を交わす。僕は2人のこの仕事に表彰状でも授与したい気分だった。正直な話、僕はこの車が手に入れられる確立は60%ぐらいだと予想していたのだ。それぐらい大変な仕事だったと思う。事実、ことにあたったGoriくんたちは、異国の地でこの車を手に入れるため想像を絶する苦労をしたようだ。
その晩、僕たちが彼らから聞いた話は、聞くも涙、語るも涙の「シドニー・ジリジリ生活」だった・・・。特にホームレスの人たちのための無料食料配布所を訪れた話や、公園でパンを鳩にあげた話などは涙なしでは語れません(笑)
|
これが、僕らの愛車となる「ランドクルーザー・トゥループキャリアー!」実車を見たときの興奮はいまでも忘れられない。全員笑顔がたえなかった。 |
しかし、彼らはあらゆる困難を乗り越えて、本当に「トヨタ ランドクルーザー・トゥループキャリアー」を手に入れていたのだ!!ブラボー!!今は修理工場に修理に出していて2〜3日後には仕上がるということだった。ついに僕たちの新しい旅が始まりを告げようとしていた・・・。
(注). |
「ジリジリ生活」というのはなぜかオーストラリア滞在中に互いに頻繁に使っていた言葉で、下記のようなケースに使っていました。
(1)お金が無い、もしくは食料が手に入らないため、冒険的なまでにかなり質素な食生活を送ること。
(2)コミュニティ内など自分達の自由がきかない、もしくは右も左もわからない状態でまんじりともしない状態が続いている事。
(3)事故や人間的トラブルなどのハプニングで思いもよらない窮地に立たされている事。
使い方としては、アーネム・ランドからダーウィンやキャサリンに戻ってきて、「どうやった?」と人に聞かれた時に「いやぁ、それがめっちゃジリジリでしたわ〜。」など。 |