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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【雨のメルボルン、そしてガサ入れ】

Watiyawanuの風景
メルボルン国際空港を出た所。雨音と共に雨への思いを募らせる。
メルボルン国際空港に到着した時、僕のテンションは猛烈に上がっていた。預けた荷物を受け取るのにもつい力が入る。しかし高まる気持ちをよそに、空港を出るとあいにくの雨だった。盛り上がっていたさっきまでの僕の気持ちは、空港出口でしばし呆然と雨を眺めている間に徐々にクールダウンしていった。

その昔、オーストラリア中西部の砂漠地帯に住むアボリジナルは「水」を求めて移動を繰り返し、雨乞いの儀礼で特別な祭具を用いて雨を呼び起こし、時には水場を求めて争ってきたというのを何かの本で読んだことがある。

「水」を得ることがなによりも大事なのだろう。そう考えると、この雨は今から砂漠へと旅立つ自分へオーストラリアの大地がくれたプレゼントなのかもと思えてきた。

どれぐらい雨を眺めていたのだろうか?ふと我にかえると「あっ、ヤバッ!今晩の宿まだ決めてへんかった!」雨に濡れながら、荷物でパンパンに膨らんだバックパックを背負い、ディジュリドゥバッグを肩に担いで宿探しへと急ぐ。

目的地であるWatiyawanuには、アリス・スプリングスから車での移動となる。日本からアリス・スプリングスへの直行便が無いので、オーストラリアの沿岸部にある都市(ケアンズ、ブリスベン、シドニーなど)のいずれかを経由する事となる。しかし、今回メルボルンを経由地に選んだのには少々訳があった。

メルボルン空港
空港シャトルバスの発着場。日も傾き始めていたので宿探しを急ぐ。

1つは、年に数回Watiyawanuに滞在し、現地の情報に詳しいメルボルン在住の日本人アボリジナル・アート・コーディネーターである内田真弓さんに会う事。そしてもう1つ。ノーザン・テリトリー州で人類学のフィールド研究を続け、「iDIDJ Australia」のコーディネーターでもあるGuan Y.Lim (以下グアン)氏の邸宅を伺い、砂漠地帯で暮らすアボリジナルの話しを聞き、彼のイダキ・コレクションを見たかったのだ!!(詳しい情報はEarth Tubeのリサーチ・ページのGuan Y.Lim、出口晴久の「ブラブラ日記2 -聖地巡礼-」を読んでみてください)。

メルボルンを走るトラム
メルボルン市内を走るトラム(路面電車)。観光用にメルボルン市内を1周する無料のトラムもある。
彼の家はメルボルンの中心部から電車で30分ほどらしく、電車に揺られながらどんな話しが聞けるだろう?いったいどんなイダキがあるのだろう?とあれこれ期待を募らせている間に、頭の中は「お宅訪問」からほとんど「ガサ入れ」になっている自分に気づいた。そして車内のアナウンスが目的の駅を告げた。

駅についてあたりを見回すと、そこは閑静な住宅街で、平日の真っ昼間だからかひと気がなかった。駅までグアンさんが迎えに来てくれることになっているので約束の時間に遅れまいと早めに宿を出たのだが、待つ事およそ30分。

いっこうにグアンさんが現れる気配がない。「やっぱり、彼もオージー・タイムなのか?」とちょっと早めにきた自分の日本的な時間感覚が恨めしく思えはじめた頃、遠くの方から背の高い東洋人が近づいて来た。

ここで重要なことにハタと気が付いた。僕はグアンさんに会った事がないし、もちろんグアンさんも僕を知らない。お互いの顔を知らないのに、どうやって落ち合うねん!心の整理がつかぬ間に、その男性が笑顔と共に近づいてきて、

「カズ?」

「は、はいそうです」

あっけないぐらいのご対面。少し緊張しながらも、無事にグアンさんに会うことができた喜びで、握手に力が入った。彼の家に行くまでの道すがら、簡単な自己紹介と砂漠のコミュニティに行くことになったきっかけなどを話し、さりげなくさっきの出来事について聞いた。

「駅で待っている時に、なんで僕ってすぐに分かったんですか?」

「うーん、この駅に日本人が来ることってあんまり無いから。それになんとなくね。」

「なんとなくか。いや、っていうかそんなに怪しい雰囲気していました?ぼく。」

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