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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【君はBunngul派?それともGunborrk派?】

Yidaki Heaven
無造作に壁に立てかけられているディジュリドゥと床に積まれているウッド・クラフトたち。こんな場所で寝たらものすごい夢を見るに違いない!

グアンさんに部屋を案内されて目に飛び込んできたものは、壁にところ狭しと無造作に立てかけられているディジュリドゥ。そして床には、足の踏み場もないぐらいに積み重ねられているシールド(楯)、スピアー(槍)、ウーメラ(槍をテコの原理で遠くに飛ばす道具)、ブーメランといったウッド・クラフト達。

思わず絶句!「いったいどれぐらいのアボリジナルに関するグッズを持っているの?」という質問をする事が愚かに思えるほどの数だ。

さっそく彼に「ディジュリドゥを吹いてもいいですか?」と尋ねると快くOK。「待ってました!」とばかりに物色し始める。1本1本、吹き終わるたびに「これはどこそこのディジュリドゥでねぇ〜‥‥。」と丁寧な説明をしてくれる。今日、初めて会ったとは思えないぐらい、グアンさんの対応は紳士的だった。が、グアンさんのディジュリドゥの説明は専門的な方向にドンドン進んで行く。僕の頭の中は?マークで埋め尽くされていくのだが、説明を終えた時の彼の表情は、まるで少年の笑顔のように純粋で、自信に満ち溢れていた。

僕とグアンさんの二人だけなのに、あまり一人でディジュリドゥを吹きたおしていても申し訳ないなぁと感じ、数本のディジュリドゥを吹いたところで一旦楽器を置く。今回の訪問のもう一つの目的である中央砂漠地帯の情報を聞こうと思い、彼の方を振り返った。するといきなり「カズくんはBungglの演奏方法(北東アーネム・ランドで主に聞かれる)とGunborrkの演奏方法(北西・中央アーネム・ランドで主に聞かれる)の違いって知ってるかい?」とイダキとマーゴを片手ずつに持ち、レクチャーが始まる。

グアンさんは、イダキとマーゴを順番に吹きながら片方の手で細かな舌の動きを再現してくれ、吹き終わると「じゃ、吹いてみて。」と楽器を手渡してくれる。僕が吹いている間も、ビシバシと舌の動きや、リズムの指示が飛んでくる。「BungglはHard Tongueで GunborrkはSoft Tongueダッー!!」と、アントニオ猪木ばりの闘魂をひしひしと感じる。まさかマン・ツー・マンで教えてもらえるとは予想もしていなかったので、嬉しさのあまりしばしグアン特別レッスンに没頭する。

ふと時計を見ると既に4時過ぎ。5時から別の知人と市内で会う約束をしていたので、電車の時間を計算に入れるとそろそろ帰らなくてはいけない。名残惜しいけれど、楽器をグアンさんに返して、中央砂漠の事についていろいろと尋ねてみた。が、あまりはっきりとした事は教えてはもらえなかった。最後に「カズくんも知っているとは思うけど、アーネム・ランドでも中央砂漠地帯でも、彼らの伝統的な文化は少しずつ失われてきてはいるよね‥‥。」

Yidaki Headz Guan
グアン特別レッスン中。彼が聴く音楽はアボリジナル・ミュージックだけだそうだ。すごすぎます!グアンさん。

グアンさんとさよならの握手を交わし、駅まで一人で歩く数分の間、彼の最後の言葉が頭の中で響きわたる。

「彼らの伝統的な文化は少しずつ失われてきてはいるよね‥‥。」

グアンさんの言葉は、アボリジナル・コミュニティを訪れるたびに、いつも僕の心に浮かびあがってくるざわめきにも似た感覚をはっきりと言葉にしたものだった。経験豊富なフィールド・ワーカーである彼の口から、僕が感じていたのと同じ事を耳にするとは正直ショックだった。

Dancing Aboriginal Child
夕日の中で一心不乱に遊ぶ子供。この子がこれからどんな世界を見ていくのだろう?
さっきのグアンさんの言葉と自分の想いを考えながらぼんやり歩いていると、いつのまにか駅までたどり着いていた。この時、 「アボリジナルの人々も僕らと変わる事の無い、今という時間を生きている。そして、悩んでなくても数日後にはWatiyawanuで今を生きるアボリジナルの人々の生活を自分の目で見て、体で感じる事ができるんだ。」

そう思うと、心に風が吹き抜けたようにざわめきは姿を消し、なぜかスッキリとした気持ちになっていた。

やってきた電車に乗り込む。とたんにハッと後ろ髪を引かれる別の思いが頭をかすめた。「そうや!今度グアン邸にくる機会があればもっと時間的に余裕があるときに来よう!」

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