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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【出発】

これまでオーストラリアには、ワーキング・ホリディと観光を合わせて1年3ヶ月程滞在し、その間いくつかのコミュニティを訪れる機会もあった。自分で言うのもなんだけれど、オーストラリアには慣れている方だと思う。それにもかかわらず、いざ出発となると「砂漠での生活って?」、「アボリジナルの人達と上手くやっていけるんやろか?」、「一体、仕事って何すんねん?」、と頭をよぎるのは不安な事ばかりだ。唯一安心できる物といえば、これまでにオーストラリアの旅を共にしてきたバックパック。相棒とも呼べるバックパックを背負い一路、空港へと向かう。

数ヶ月前に航空チケットを購入した時には気が付かなかったのだけれど、今回のフライトは「11月1日の11時00分」。これから先に何か起こるような気がする数字の並び!「これで席番号が11番やったら最高やわ!」とたわいもない事を考えながらチェック・インしたのだが、残念ながらその座席番号は取れなかった。

Watiyawanuの風景
まだ見ぬWatiyawanu内の風景。
チェック・インを無事に終え、預けた相棒(バックパック)がベルトコンベアーにのせられて流れていくのを眺めていると、「あいつをオーストラリアで拾ったらんとあかんし、ここまでくるとジタバタしても仕方が無いな。」大きな深呼吸をし、余計な雑念を息と共に吐き出す。そして、今まで漠然とあったアボリジナル文化への思いや、僕の夢であったアボリジナル・コミュニティでの生活に思いを馳せると、今まで不安の中に埋もれていた前向きな感覚が呼び起こされていく。そして、「Watiyawanuに近づきつつあるんだ!」という実感が湧き上がってきた。

手荷物の整理を終え、ある人との待ち合わせ場所に向かう。その人とは、以前にノーザン・テリトリー内のコミュニティを一緒に訪れた事のあるデグチさんだ。彼は、アボリジナルと同じ家で数ヶ月間生活を共にしたという貴重な経験を持つ大先輩だ。砂漠でアボリジナルと生活する僕の身を案じてか、空港まで奥さんと見送りに来てくれた。

僕たちは空港内のレストランでしばらく食べる事ができないであろう日本の料理を食べながら、自然と会話はオーストラリアで一緒に旅をした思い出話になった。出発間際だというのにやたらと会話は盛り上がる。いつの間にか、港内のアナウンスが搭乗の案内を流し始めた。なんと食事を始めてから1時間半は経っていた事になる。「カズくん、今から搭乗に間に合えへんで。このまま日本に滞在しとく?」と突っ込まれる程にのんびりとしていた気持ちを引き締め、

「向こうで何が起こるかは分からないですけど、とにかくコミュニティ・ライフを楽しんできます!」

デグチ夫妻
デグチ夫妻。Watiyawanuで日本語を聞きたくなった時には、いただいたCDのお世話になった事はいうまでもない。

と、誓いにも似た別れの言葉をかわすと、なにやらデグチさんがカバンの中をゴソゴソと漁り始めた。そして、1冊の本と1枚の邦楽のCDが入った袋を手渡してくれた。袋を開けCDに目を落とすと、タイトルは、オフコースの「ベスト・セレクション」。そういえば、一緒に旅をしていた時に確かに聴いた事のある懐かしいタイトルだ。けれども、機内では絶対に聴かないと心に決めていざ搭乗ゲートへ。さすがにオーストラリアに向かう旅路で「さよなら」は聴けないッスよ!デグチさん!!!

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