【アボリジナル社会に突入】 「ねえリネット。今日はスキン・ネーム(専門用語解説【スキン・ネーム】を参照)について教えてよ」
「スキン・ネームねぇ。あなたはTjakamarraでしょ。だから奥さんはNapaltjarriで、そのきょうだい(男性)がTjapaltjarri。Tjapaltjarriのお父さんがTjungarrayiで、そのお母さんがNakamarraで、あなたのきょうだい(女性)よ。わかった?」 「・・・。はへっ???」 「あなたはTjakamarraでしょ?だからね、コミュニティにいるNapaltjarriという女性はみんなあなたの奥さん候補なのよ。私はNungarrayiだからあなたの姪ってことになるわね。お互いの呼び名はUkariよ」 「・・・。ところでTjakamarraってどういう意味なの?」
「Ukariっていうのは僕とリネットおばちゃんの間での呼び名でしょ?じゃあ他のスキン・ネームを持つ人ともそんな呼び方があるの?」 「もちろんあるわよ。ほら、ビルがあなたにMarutjuって呼ぶでしょ?あれはあなたとの関係が義理の兄弟だからそう呼ぶのよ。お互いの呼び名を使うことはそれぞれの親族の関係をはっきりするために重要なことなのよ。でも私たちは生まれたときからずっと教わってきたからそれがあたりまえなんだけどね」
頭を冷やすためにみんなにお礼を言ってアート・センターを後にした。そして、コミュニティを歩きながら再びスキン・ネームのことを整理しようと試みた。このとき僕の頭の中を混乱に落とし入れていたのは、Tjakamarra以外にも全く聞き慣れないたくさんのスキン・ネームがあったということに尽きる。「こら、全部のスキン・ネームを覚えるしかないな」そう心に決めた僕はその日以来、いろいろな人に会うたびにその人のスキン・ネームと僕との関係を聞くようになった。 そんな日がしばらく続くと、僕の感覚がいくつか変わっていくことに気付いた。それはグラニスやフェイたち白人社会の人たちと、アボリジナルのことを話しているときのことだった。白人オージーのみんなが話をするときにはスキン・ネームではなくて英語の名前を使う。しかしそれが誰のこと言っているのか一瞬とまどうことがでてきたのだ。それはおそらく、白人オージーのみんなはアボリジナルのみんなを英語の名前で認識し、僕はスキン・ネームで認識し始めたからだった。 また、アボリジナルのみんなとLuritja語で話していると、話しの内容はあいかわらずあまり理解できないままだった。しかし、ときおり会話のなかに親族呼称が使われているので、誰のことを話しているのか想像できるようになってきたのだ。そんな僕の雰囲気を知ってか、アボリジナルのみんなも僕に対して親族呼称で呼んでくれる。 そしてこの頃になると相手が親族呼称を使うと、その人のスキン・ネームはもちろん、その人をとりまく社会的な位置も分かるようになってきた。初めて会ったアボリジナルとお互いのスキン・ネームを教えあうのは、名刺交換のようなものかもしれない。そう考えると、「スキン・ネームって結構便利かも?」と思えるようになったのだ。そして、ようやくアボリジナル社会に一歩踏み入れたんじゃないかな?という感じがした。 |トップへ|
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