EarthTube  
Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【カタ クイヤ】

Koori Mail : Ngoia takes out major art award
記事には「念願の最優秀賞を手に入れ、喜びを隠せないNgoiya Napaltjarri。これからの彼女のアート活動にオーストラリアは期待している」とあった。

Watiyawanuにはグラニスが経営するアート・センターがある。アート・センターといっても作品の販売をしていないので、アボリジナルのアーティストが絵を描く作業場といったほうが正しいかもしれない。そしてWatiyawanu Artists(アート・センターの正式名称)はオーストラリアのアボリジナル・アート市場で、ちょっと有名なアート・センターなのだ。

というのも「National Aboriginal & Torres Strait Islander Art Award」というオーストラリア国内最大級のアボリジナル・アート展が毎年ノーザン・テリトリーの州都ダーウィンで開催されていて、アート・センターに所属しているNgoiya Napaltjarriという女性が2006年度の最優秀賞に選ばれたからだ。

その他にも僕が老人介護施設でお世話をしているKumanytjayi Tjapaltjarri(ビル)やWentja Napaltjarri(トカゲ狩りに一緒に行った女性)の作品は、仕上がる前から買い手が決まっているぐらいに名が知れている。

アート・センターが開く8時ぐらいからゾロゾロとアーティストたちが集まりだし、日がな1日キャンバスに向き合う人もいれば、すぐに帰る人たちもいる。とりあえずアート・センターが開いている間は誰かが絵を描いているので、ストアーのお昼休みの時間や、老人介護施設で働いている間でもちょっと手のあいた時間を見つけてはアート・センターに足繁く通うようにしていた。グラニスとフェイからアボリジナルの人たちとの接し方についての話を聞いて以来、アボリジナルたちとコミュニケーションをとる機会をできるだけ多く作り、彼らのことを知り、自分のことを知ってもらおうと考えていたからだ。もちろん、砂漠のアボリジナルの創作活動の現場に興味があったことも大きな理由だ。

アボリジナルの画家たちの絵の描き方は、少し変わっている。彼らが絵を描くときは決まって地べたにキャンバスをひろげ、あぐらをかいて筆をうごかす。テーブルやイスはあるけれども、誰ひとりとしてつかう人はいない。

「それが彼らのスタイルなんや」と思いつつ、僕も地べたにすわり作業をながめる。そして筆がとまれば、「なにを描いているの?」、「オレ、日本からたんだよ」とか「名前はなんていうの?」とさりげなく話かけてみる。

Koori Mail : Ngoia takes out major art award
アート・センターには冷房が備え付けられているので、ストアー同様に涼みにくる人や犬も多い。

はじめは案の定なんの反応もなかったけれど、何回も何回も僕がたずねるので、しぶしぶ「これはな、食べ物にまつわる絵」とか「日本ってどこなの?」と答えてくれるようになった。

ポツリポツリと会話をしていると、1人の大柄な女性がドカッと地べたにすわり絵をかきはじめた。「どこかで見た顔やな?」と記憶をたぐりよせていくうちに、2003年にアボリジナル・アート展の特別ゲストとして来日したリネットであることに気付いた。彼女とは日本で直接会ってはいなかったが、ぜひWatiyawanuで会って日本のことをいろいろと聞きたいと思っていた。早速彼女に、

「3年前に日本にきてどうだった?」

「オー、ジャパン!とても楽しかった!次はいつ連れて行ってくれるの?」

Koori Mail : Ngoia takes out major art award
リネットが日本での楽しかった思い出をコミュニティの人々に話ていたみたいで、数人のアボリジナルから「オレたちも日本に連れて行って」と言われることもしばしば。

と初対面にも関わらずになかなか親しげだ。はじめはリネットの日本に滞在していたときの話をしていたが、話題が僕の話になってくると徐々に僕たちの周りに人が集まってきた。

やがて「日本はどこにあるんだ?」、「家族はいるのか?」、「何を食べているんだ?」といろんな人が次々と質問してくるようになった。

ストアーや老人介護施設で働いているときにはお互いに必要最小限の会話しかなかったけれど、みんなの質問攻めにあって「彼らも話すきっかけが欲しかったんかな?」とふと思った。

その後もリネットに会うたびにLuritja語をいろいろと聞き、彼女も楽しそうにノートや地面を使って単語や簡単な会話文を教えてくれた。どうやら彼女はWatiyawanuの学校で子供たちに英語を教えていた時期があったらしく、とてもていねいに分かりやすくLuritja語を教えてくれた。

そんな日が数日経ったある朝、いつもどおりに老人介護施設に向かう途中で、一人の男性が遠くの方から僕に向かって

「おはようカズ。カタクィヤ!」

「おはよう」

とりあえず返事をしたけれど、あの人だれやったっけ?頭をフル回転させてみたが思い出せない。しかし、老人介護施設でくらしているおじいちゃんやおばあちゃん、ストアーで一緒に働いているドレッド・ヘアーのジェリー以外の人から先に挨拶をしてくれたことに素直に嬉しかった。

ところで「おはよう」のあとに続いた聞きなれない言葉のカタクィヤ?たしかリネットに教えてもらったLuritja語にあったような気がする。ポケットからメモ張を取り出し、単語をチェックする。するとカタは「頭」で、クィヤは…、「悪い」!?つまり・・・頭悪いってことかい!?意味を理解して男性の方に視線を戻すと、やっと意味が分かったかと言わんばかりに大笑いしている。名前もまともに思い出せない人からこの言われようとは。ガクッと力が抜けたが、気軽に声をかけてくれたことに、これからの展開を期待しつつ老人介護施設に向かうのだった。

(C)2004 Earth Tube All Right Reserved.