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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【子供専用レジ係】

ストアーの開店前から、ドア越しに度々店内を覗いている数人のアボリジナルの姿が目に付いた。ミックが入り口の鍵を開けると「待ってました!」とばかりに我先に入店してきた。さしずめパチンコ店の開店の時のような感じに似ている。ただ明らかにちがうのは、アボリジナルの後を追うように、犬たちもチョコチョコと入ってくる所だろう。「犬が同伴できるストアーか・・・、レアやな」と眺めていたが、ミックがしきりに犬を追い払っているので、どうやら招かれざる客のようだ。

僕はレジの1台に陣取り、アボリジナルのみんなを眺めていると少し落ち着かない気持ちになった。店員(僕)と買い物客(アボリジナル)というシチュエーションを初めて経験しているからかもしれない。彼らは僕と目を合わせようとはせず、ふと目が合うと不自然に視線をそらす。ミックはもう1台のレジを陣取り、椅子に座りながら新聞を読み、モリーンはどこかに行ったみたいだ。店長のティムは事務所でなにやら作業をしている。なんとなく居心地の悪い時間が延々と流れている...。

すると、突然

「Good Mornig! What is your name?(おはよう!お前の名前なんていうの?)」

と、僕の肩に手を回しながら、めちゃくちゃフレンドリーに話しかけてきたアボリジナルのおっちゃんが現れた!

「I’m Jerry! Jerry Tjungarrayi! (俺の名前はJerry! Jerry Tjungarrayiだ!)」

突然の出来事にドギマギしながら

「僕は日本から来たカズ。今日からストアーで働くねん」

としどろもどろに自己紹介をすると、

Watiyawanuのストアーの裏口
Jerryと彼の息子。英語を流暢に話す事が出来るJerryは、英語をあまり話せないアボリジナルとLuritja語を話せない白人とをつなげれる貴重な存在だ。

「ニカッ!」とスマイリーな笑顔が返ってきた。視線すら全く合わそうとしないアボリジナルが多かったのに、なんなんだろうこの温度差は!?無精ヒゲがやたらと似合うこのおっちゃん。なんとヘアー・スタイルはドレッドである!しかもかなり年季が入っているっ!

しばらくJerryと話してみると、すごく流暢に英語を話しているのに気付いた。そして、自分もストアーで働いている事を教えてくれた。

時間が経つに連れて店内も徐々に活気だってくる。大人たちの話し声、子供たちの叫び声、犬の鳴き声、とカオス度は右肩あがりだ。しかし肝心の買い物をしている人はあまり見かけない。外が暑いので涼んでいる感じの人もいれば、知り合いとしゃべりに来ているだけといった風の人も多い気がする。なんとなくストアーはみんなの社交場といった感じがする。それはなにもアボリジナルに限らず、白人のみんなも買い物ついでにミックやティムと情報交換をしているようだ。

ストアーも12時の休憩間際になるとようやく忙しさが増してくる。両手いっぱいの品物を抱えてお客がレジへと並び始める。慣れないレジ操作でノロノロと会計をしていくのだが、ふとおかしな事に気が付いた。どうも僕のレジには子供たちしか来てない気がするのだ。大人のアボリジナル(特に女性)は、僕のレジが空いているのにもかかわらず僕の所には並ばず、ミックのレジが空くまで待っているのだ。そして僕が、

「次の人どうぞ」

と促してみても、はにかみ笑いをしたままこっちのレジに来ようとはしない。「なんでこっちに並ばへんのやろ?空いてるのに…」と思いながら、ミックがドンドンとお客をさばいていくのを横目で見ていた。そしてティムが事務所から出てきて最後のお客を見送ると、入り口のドアを閉めて午前中の営業が終了したのだった。

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