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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【ストアーに就職】

フェイと別れ、老人介護施設をあとにして、僕はコミュニティに1軒だけあるストアー(生活雑貨品店)、正式名称「Amundurrngu Store Mt. Liebig」へと足を運んだ。どうやらストアーも人手不足だったらしく、グラニスから「あなたさえよかったら、老人介護施設で働きながらストアーでも働いてみない?」という誘いを受け、ストアーが営業する10時〜12時と14時〜16時の間はストアー勤務をすることになっていた。
Watiyawanuのストアーの裏口
ストアーの裏口。普段シャッターは閉められていて、町から荷物が運ばれてきた時だけ開かれる。写真は荷物を運び入れ終えて一息ついている3人。

ストアーの正面に着くと、頑丈に作られた鉄格子がドアの前に備え付けられていてガッチリと施錠されていた。その鉄格子の隙間から中を覗くと、ちょっといかつい雰囲気をかもし出している白人オージーが見えた。

ムキムキの腕に、でっぷりと突き出たお腹まである長いあごヒゲ、そしてヒゲと同じくらいの長さのある束ねられた後ろ髪!映画に出てきそうな酒場のガード・マンといった感じだ。

「ジェイミー(モヒカンのお兄さん)といい、このお兄さんといい見た目怖すぎんねん!」

とひとり突っ込む間もなく彼と目が合うと、身振り手振りで裏に回って来いと言っているのが見えた。裏に回ると、先ほどの彼が僕を迎え入れてくれた。彼の名前はMick(以下ミック)。僕が初めてストアーでコーラを買った時に対応してくれた店員だ。見た目のいかつさからは想像も出来ないが、笑った時に欠けた前歯がちらりと見える愛嬌のある顔をしている。

先行くミックの後を追うように、商品を保管する部屋を抜けて店内へと入り、視線を辺りに向けてみる。天井に吊るされた数個の電灯はすでに点けられているが、店内は薄暗くひんやりとしている。そして冷蔵庫のファンの「ヴーン」という音だけが無機質に店内に響きわたっている。

「倉庫を改造してストアーにしてみた」といった感じだ。商品が並べられている棚が縦に何列も並んでいるわけではなく、壁に面して備えられた棚に商品が置かれているので店内は広く感じる。

 

ストアーの風景
ストアーの入り口からの風景。キャッシャーが2台続いて並んでいる配置は日本ではあまり見かけないので、少し妙な感じに思った。

キッチンの方から水の流れている音が聞こえたのでそっちに入ってみると、モリーンがモップをゴシゴシと洗っていた。彼女もこのストアーで働いているらしい。

「この前は狩りに連れて行ってくれてありがとう」

と話しかけると、

「いつになったらジャッキー・チェンのポスターをくれるんだ!!」

と少し怒り気味なモリーン。

実は、彼女にお土産としてカンフー映画グッズを持ってくると約束していたのだ。もちろん今回Watiyawanuに来るにあたって、しこたまカンフー映画グッズを持ち込んできていた。そして彼女のためにも数点取り置いてあったのだが、モリーンの住んでいる場所が分らなかったので、渡す機会がなかったのだ。後日グッズを渡した時には、

「やっぱりジャッキー・チェンはかっこいいわねぇ〜!!」

と目を輝かせて、満面の笑みを浮かべるモリーンに対して「カンフーグッズ>俺、なんやなー」と若干の切なさは隠せなかった…。

Winfield Blueとパワーチケット
ストアーの裏口。普段シャッターは閉められていて、町から荷物が運ばれてきた時だけ開かれる。写真は荷物を運び入れ終えて一息ついている3人。

ストアーで扱われている商品は、冷凍のお肉・生鮮野菜や果物、パン・お米・小麦粉といった日常的な食料品。コーンビーフや豆類などの缶詰、冷凍されたハンバーガーやピザなど。塩・砂糖・胡椒・カレー粉などの調味料。

ポテトチップスやチョコレートといったお菓子類。お水やジュースなどの飲料。Tシャツ・短パン・ワンピース・下着等の衣料品。たばこ。電気を使うためのプリペイド・カード。車のタイヤやチューブ、そして工具類。ガソリンとディーゼル。

およそコミュニティ内で生活するために必要な物は、ほとんどストアーで買うことが出来る。ただし値段はかなりお高めで、コーラ(375ml)一本$2.5(およそ250円)、たばこ一箱$10(およそ1000円)、キャベツ半玉$7(およそ700円)とびっくりしてしまう。

ミックに「なんでこんなに値段が高いのか?」と聞いてみると、

 1. アリス・スプリングスやアデレードから陸路で運ぶために輸送代がかかるから

 2. 度々品物が無くなるから

 3. 俺らも喰っていかなあかんから

と答えが返ってきた。なるほど納得!それでも高すぎません?

商品の補充を終え、ミックからレジの簡単な操作を教えてもらい終えると、開店の10時を少し過ぎていた。ストアーに2台あるレジの1つを任された僕は「一体、アボリジナルは日常的にどんなものを食べてるのだろう?」と彼らの暮らしぶりに好奇心がうずうずとする。やがてミックが正面の鉄格子とドアを開けると同時に数人のアボリジナルが入店してきた。

さあ開店だ!

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