【外国人としての僕】
「じゃあ、カズはお年寄りのみんなを起こしていってちょうだい」 「う、うん…」 フェイの一声でまるで金縛りが解けたかのように、ようやくわれに返り動き出す事ができた。「よしっ!やるで!」と自分自身に声をかけ、気合いを入れる。手に持ったトレーをキッチンに置き、ベッドの上の何枚か重ねられた毛布を軽くゆすってみた。するとモゾモゾと毛布が動き、次いで両手が現れ、さらに顔が出てきた。そして僕の顔をじっとにらむと、ふたたび目を閉じ寝ようとした。とりつく島もないその態度にたじろいでしまい、それ以上何をするでもなくふたたび立ちすくんでしまった。そんな僕を見かねてフェイが 「彼は今日から私と一緒に働いてくれるカズよ」 と話しかけるとようやく上体を起こした。彼女の名前はKumanytjayi Napaltjarri(以下ヌンティ)だ。髪の毛全体に白髪がまじり、顔のほほはこけ、深く刻まれたしわから高齢のように見える。なにか病気を患っているのだろうか、ノースリーブのワンピースから出ている腕はかなりほっそりとしていた。ただ、彼女の眼光は、弱々しい見た目に反して力強かったのは印象深かった。 起きだした彼女に、 「Good morning! How are you? (おはよう!元気?)」 「........。」 と無言のままだ。さらに現地で使われているLuritja語で 「Nyuntu Palya?(元気?)」 と話しかけても 「........。」 どうも無反応というか無視に近く、ちょっと気まずい雰囲気が漂う。お薬と朝食を彼女にわたし、その場からKumanytjayi Tjapaltjarri(以下ビル)のいるとなりの部屋へと逃げるように移動した。ビルはベッドの上で毛布も何もかぶらずに、ひじ枕をして寝そべっていた。彼はすでに起きていたみたいで、僕が部屋に入った事に気付き、ちらっと僕の方に視線を向けると 「Marutju ngayuku. Nyuntu Palya?(ワシの義理の兄弟よ。元気か?)」 と話かけてきたので 「Yuwa. Palya! Palya!(うん。元気!元気!)」 先日ジェイミーと一緒に彼を迎えに行った時のことを覚えてくれていたのだろうか、先ほどのおばあちゃんよりかはいくぶん柔らかい表情をしていたので少しホッとした。が、朝食をわたそうするとちょっととまどった表情を見せ、身振り手振りで床に置くように伝えてきた。なにかひっかかるような気持ちがあったけれど、ふかく考えずに彼の部屋を後にした。
車からおりると、みどりのペンキで塗装された家に向かって歩いていった。コミュニティ内の家は住人の好みなのか、さまざまな色のペンキで塗られている。クリーム色、水色、なかにはピンク色に塗られた家もあってなかなかカラフルだ。ここにはおじいちゃんとおばあちゃんが夫婦で暮らしていて、おじいちゃんは、ほぼ寝たきりの生活をしているらしい。フェイがまずおじいちゃんを起こすと、彼を車イスに乗せるために僕を呼んだ。力仕事は今自分に出来る一番の手助けだ!勢い勇んでおじいちゃんを起き上がらせようとしてみたが、以外に重たくなかなか思うようにいかない。四苦八苦しながらようやくおじいちゃんを車イスにのせると、おばあちゃんが僕の事をジッと見ているのが視界のはしに映った。彼女の方に振り向き 「Nyuntu Palya?(元気?)」
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