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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【コミュニティの労働事情】

グラニスがアボリジナル・アートの展覧会で来日し、

「カズ、私達のコミュニティで働いてみない?」

と誘われた時にコミュニティに行く事を決心したものの、「アボリジナル・コミュニティのどんな施設で日本人が働けるんだろう?」とふと疑問に思った。その事を彼女に話すと、ワイングラスを片手にかなりいい気分で

「No problem. You just come.(なんの心配もないから、とりあえずおいで)」

と言った。「いやいや、それ俺の問いの答えになってへんやん!」と無言でつっこむと同時に、僕が今までに出会ったオージー達はどんな時でも、「No problem.(大丈夫だ)」とか「No worry. (心配ない)」という言葉で話しを終わらせる事を思い出した。一瞬、グラニスの笑顔とおおらかさに引き込まれそうになったものの、ふと我に返りコミュニティでの仕事についていろいろと訊ねてみた。

コミュニティにあるほとんどの施設は、オーストラリア政府が運営もしくは補助をしていて、グラニスが経営するアート・センターと彼女の旦那ティムが経営するストアー(生活雑貨店)だけが個人経営だそうだ。その他のカウンシル(村役場)や保育園、小学校、老人介護施設、病院といった施設では職業的な経験が必要であるらしく、欠員があるからといって誰でもすぐに働けるという事では無いらしい。ちなみに僕は介護施設で働いた経験が無いのにもかかわらず、老人介護施設で働かしてもらう事が出来たのは、メインで働いている白人女性のアシストをするという事で可能になったらしい。

それぞれの施設では、白人を中心に数名のアボリジナルが働いている。しかし、アボリジナルの為に働きたいという白人労働者は少なく、さらに働き始めてもほんの数ヶ月で仕事を辞める人が多いみたいで、人の入れ替わりが激しいようだ。グラニスが言うには、「アボリジナルと信頼関係を築くには長い時間が必要なので、人がすぐに入れ替わる今の状態は良く無い」という事らしい。

一方アボリジナル労働者はというと、そういった施設で働く人はある程度英語を理解できるわずかな人達だけに限られているみたいだ。コミュニティ内では一応英語が共通語として使われていて、学校で子供達に英語の授業をしているが、その習熟度は低いみたいで、大半のアボリジナル(特に男性)はなんとなく理解しているといった感じらしい。なので、白人とのコミュニケーションが難しく、なかなか働ける人が少ないらしい。しかも、彼らが毎日働いているのか?というとそういう訳でもなく、隣のコミュニティで用事があるといっては数週間留守にし、Watiyawanuに滞在している時ですら規則的に働くことはないそうだ。なので、一つの作業がなかなかはかどらずに数週間ほったらかしになる事もざらにあるそうだ。

余談ではあるけれども、「じゃあ、働かないアボリジナルはどうやってお金を手に入れ、生活に必要な物を購入しているのか?」というとオーストラリア政府から失業保険などが定期的に支給されているので、毎日働いて収入を得るという感覚は僕達に比べて少し希薄なのかもしれない。

グラニスの話を聞き、Watiyawanuでは安定した働き手を見つけるという事が大変なんだと思いつつ、だからといって遠路はるばるやってきた日本でコミュニティ労働者を確保しようとするグラニスのいきあたりばったり感に、彼女のおおらかな性格の一面を垣間見たような気がした。

そら「No problem」やわ。

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