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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【砂漠を駆け抜けるモヒカン・ドライバー】

日本を出てから1週間、Watiyawanuに着いてからまだ3日しか経っていない。にもかかわらず、この数日間で様々な出来事や驚きがあったので肉体的、精神的にもかなり疲れが溜まってきてるなぁと感じていた。だから、今日は1日ゆっくりと過ごそうかと思いながら朝食を食べていた時だった。グラニスから「私の甥っ子が隣のコミュニティまでアボリジナルの老人を迎えに行くから、カズも一緒に行ってきたら?」と勧めてくれた。迎えに行く先はIkuntji(英名:Haasts Bluff/ハースツ・ブラフ)コミュニティ。隣といってもWatiyawanuから南東におよそ200Km以上は離れているアボリジナル・コミュニティだ。往復するとしておよそ4〜5時間。一日とは言わないまでも半日はかかるだろう。束の間のためらいがあったものの、Watiyawanu以外のコミュニティに行けるんだ!という好奇心から「Yes」と即答していた。

ライフルをかまえるジェイミー
ジェイミーはボーガン片手によく狩りに行くらしい。この時は的を作って、点取りゲームをして遊んだ。
グラニスの甥っ子であるジェイミーはWatiyawanuで働く白人オージーの1人で、主に家の修復、上下水道・発電所の管理、空港滑走路の整備等を行っている。

彼の仕事を一言で説明するなら「Watiyawanuのライフ・ラインを管理する人」といったところだろう。

モヒカン・サングラス・ヒゲさらに手にはボーガンと、漫画「北斗の拳」にでも出てきそうなこわもてなジェイミーだが、Ikuntjiに行く車中ではタバコを吸わない僕に気遣って、タバコを我慢してくれるぐらい心優しいジェントルマンだ。

僕と年齢が近いということもあってか、この時以来よく話をするようになった。

ジェイミーが乗って来た車は、オーストラリアのアウト・バックではよく見られる、トヨタのランドクルーザーだ。アウト・バックを移動する人達(アボリジナル、白人問わず)はトヨタというブランドに絶大な信頼があるらしい。

地元オージーいわく、「メンテナンスをあまりしなくても壊れることがなく、程度のいいトヨタなら3年はほったらかしでも大丈夫だ」という事らしい。

アウト・バックでは川渡りもすれば、木の根がぼこぼこと剥きだした路面を走る事もある。気温が40℃に近い灼熱の路面を3〜4時間以上ぶっとおしで運転する事もあるし、傾斜角度30度はある小高い丘を登ったり降りたりする事もある。

トヨタ ランドクルーザー オージー仕様
Watiyawanuで暮らすオージー所有のランドクルーザー。車体の周りに張り巡らされた鉄パイプ。巨大な目のような印象を受けるビームライト。五寸釘を踏んでもバーストしそうにない分厚いタイヤ。この車が故障するなんて思います?

そんな過酷な環境下でも3年間は大丈夫というのだから、その頑丈さがいかにすごいか想像してもらえるだろう。そんなタフなトヨタは大雑把な彼らの性格にはもってこいなのかもしれない。

炎上する車
ロール・オーバーした後に炎上する車。こういった事故が起こらない為にも、アウト・バックでは揮発性の低いディーゼル車の方が安全なのだろう。
ジェイミーが運転する車でWatiyawanuを出てから5分。ダート・ロードは地平線の遥か彼方までまっすぐ伸びている。徐々に上がり出すスピード・メーター。ちらっとメーターを見ると、既に110Km/hを超えているではないか!グラニスの甥っ子だけあって、お前もスピード狂なのか!?

ジェイミーにとっては走り慣れた道だから、多少のスリップぐらいではなんとも思わないのだろう。けれども、僕の心臓は、アリス・スプリングス空港からグラニスの家までの恐怖のドライブ以上にバクバクしていた。なぜなら、ダート・ロードでは急にハンドルが捕られてスリップし、衝突・横転事故につながる危険性が高いからだ。

日本を出発した時にお見送りに来てくれたデグチさんから、実際にオーストラリアのダート・ロードでスリップによる横転事故を起こした時の話を聞いていただけに(この時の詳しい話は「ブラブラ日記2 -キャサリン回想中編-」を読んでみてください)他人事のようには感じられない。けれども彼のドライビング・テクニックを見ていると、そんな僕の不安感も徐々に薄まってきた。

ジェイミーはただ単にアクセルをベタ踏みにして走っているという訳ではなく、刻々と変化していく路面の状態に合わせてアクセルを調節しているようだ。おそらく彼のこれまで経験から、砂利道では〜Km、砂地の多い所では〜Kmと彼なりの安全速度域みたいなものが出来上がっているんだろう。さらにはコルゲーション・ロードといった危険な道では両手で、比較的安全そうな道ではタバコを片手に、と状況に応じて集中力のコントロールもしている。彼に「事故をした事があるの?」と尋ねたら、「1度も無いね!」と自信満々の答えが返ってきた。

その言葉を聞くまでは、道路の窪みや、砂利の多い所、石の出っ張りといった道路の表面だけに目を向けがちだった。けれども「ジェイミーの運転やったら、まっ大丈夫やろー」と思いはじめると徐々に風景を楽しめる余裕が出てきた。

岩肌が剥き出た山や丘、植物が群生している所とそうでない所、ブッシュ・ファイアーの焼け焦げた跡、大地にも様々な表情がある事に気付かされる。草むらの中や木立の影から動物が飛び出て来そうで、まるでサファリ・パークに来ているような気分がしてきた。

トヨタ ランドクルーザー オージー仕様
ライオン、キリン、ゾウといった動物が出てきそうな雰囲気が充分にあるあるがここはオーストラリア。代わりにカンガルー、エミュー、ラクダが出てくる。

「うォォォォ、めっちゃワイルドやん!」と1人心の中で叫びたおしている。たかだか隣のコミュニティを訪れるだけなのに冒険的な要素が含まれているのは、オーストラリアのアウト・バックをドライブする醍醐味なのかもしれない。ただ僕達が想像するサファリ・パークと大きく違う所は、滅多に動物にお目にかかれない事。勢いよく砂塵を巻き上げながらダート・ロードを110Km/hで走るなんてしないという事。ドライバーは決してモヒカンではないだろうという事だ。

ジェイミーの方に目を向けるとこれまでの緊張感を解きほぐすようにタバコを吸い始めていた。やがて僕達の前方に「Welcome to Ikuntji/Haasts Bluff Community」と書かれた看板が見えてきた。コミュニティはもう目の前だ。次第に近づいてくるコミュニティの風景に僕の緊張感も時ほぐれていくのだった。

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