【砂漠の狩人】 都会から遠く離れ、大自然に囲まれたWatiyawanuコミュニティで暮らすアボリジナルが、未だに狩猟採集だけで暮らしているかと言うとそんなことは無い。日々の食料の大半を、コミュニティ内に一軒だけある食料雑貨ストアーで購入し、お腹を満たしている。だからといって、全く狩りに行かないかと言うとそんな事も無い。ブッシュ・タッカー(野生の食料)が採れる季節には、みんなで車に乗り込み、大地を駆け巡る。今日はそんな狩りに、日本で僕が出会ったモリーンと数人のアボリジナルが、子供達と僕達をブッシュに連れて行ってくれる事になっていた。
けれども…、まさかコミュニティのストアーでそんな物が販売されているとは…。かなりシュールな光景が僕の眼下に広がっていた。 カンガルーのしっぽを数本購入し、狩りに連れて行ってくれるアボリジナルを車で迎えに行く。狩りに行く事は、既に彼女達に伝えているし、結構乗り気だった。が、彼女達が待っている場所に着いても、全くそんな素振りがない。「こっちは今から狩りにいくで!」とかなり盛り上がっているのに、彼女達の反応は「おっ、今から行くの?」といった感じだ。もちろん狩りに行く準備など全くしていない。「こんなんでホンマ大丈夫なん?」と思ったのも束の間、彼女達の行動、というか指示がキビキビとしてきた。
先端をよく見ると平たく扇状に加工されている。車での移動と鉄の棒での狩り。文明社会とは遠く離れたコミュニティ内で暮らすアボリジナルも、現代を生きているんだという事を感じさせてくれる。 狩り場へは草がうっそうと生い茂った道なき道(ブッシュ・ロード)を進んで行く。以前に車が通ったであろうと思われる、大地に残されたわずかな轍を目印に車を走らせる。といっても、轍は草木に邪魔をされてかなり見づらい。しかし、モリーンは「そっちじゃないこっちだ」「そこは窪みがあるから気をつけろ」「ここは速度を落とせ」と色々な情報を教えてくれる。目が良いのか、道を記憶しているのか定かではないが、彼女にとって庭みたいな感覚なんだろう。だが、普段平坦で至る所に標識のある都会の道に慣れ親しんでいる僕にとっては、大地の表面を読み取る作業はかなり困難な事だった。やがて少し開けた場所に出た。モリーンの顔を見ると、どうやらここが狩り場らしい。 車を降りるとモリーン達はKurupaを片手に、それぞれに広大な自然の中に溶け込むような足取りで歩き始めた。モリーンの横顔を見ると、車内ではしゃいでいた時とは明らかに異なる雰囲気が出ていた。大地を一歩一歩踏みしめて行くモリーンの姿はどこか力強い。その光景を眺めていると、彼女達の祖先がこの地で狩りを営んできた時代にタイム・スリップしたかの様な錯覚にとらわれた。そして、砂漠の狩人がこの時代に生きていると感じた時、妙に体の奥底がじんわりと熱くなった様な気がした。それは、人間が本来持っているであろう、野性的な本能に訴えかけてくる感覚だった。遠くの方から別の狩人が「トカゲを獲った!」と叫んでいる。僕達はその狩人と合流し、火を起こしている場所へと向かった。
一通りの作業を終えると彼女が「これが伝統的なトカゲのさばきかたなのよ」と教えてくれた。そしておもむろに燃え盛る炎の中にトカゲを放り込んだ。直火焼きこの上無く、かなりワイルドだ。炎はみるみるトカゲの表面を焦がしていく。「このまま焼いても焦げるだけで、中身は生やで」と心配しかけた頃、彼女が炎の中からトカゲを取り出し、掘られた穴にトカゲを入れる。そして、真っ赤に燃えている炭をトカゲの周辺に敷き詰め、最後に砂を被せた。熾き火焼きという調理方法だろう。
調理の仕方や味に興味があったのだけれども仕方が無い。残ったトカゲの肉を食べていると、モリーン達が自分達の荷物を車に積み込み始めた。「まだトカゲを食べているのに、もうちょっと待ってや!」という僕の不満はモリーンの一言で俄然やる気に変わった。 「次はMakuよ!」 |トップへ|
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