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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【砂漠のリトル・ジャパン】

Makuが棲みかにしている木
Watiyawanuコミュニティの入り口にある看板。通常コミュニティ内に立ち入るには人数分の許可証をカウンシルから発行してもらわなくてはならないが、今回はグラニスの招待という事で許可を取る必要がなかった。

僕を含めた6人の日本人一行は、アリス・スプリングスを出発してからおよそ4時間、車のトラブルも全く無くWatiyawanuコミュニティにたどり着いた。お世話になるグラニスの家を目指しながら周囲に目を走らせる。人工的な建物がほとんどない大自然の中をひたすら走り続けてきた僕にとって、立ち並んでいる家屋は妙にほっとした気持ちにさせた。グラニスの家に行くまでの道すがら、人の気配はするが姿は見えない。その代わりに、よそ者の僕達に反応を示すでもなくトボトボと歩いている犬の姿がやたらと目に付いた。

車をグラニスの家の庭に入れると、今度はグラニスが飼っている犬のテリーがのそのそと現れた。「これじゃ番犬にもならないなぁ」というほど、こいつも全く無反応だ。どうもWatiyawanuで暮らす犬達は、人に対しての関心が薄い様な気がする。この家の住人であるグラニスと旦那のティムは、毎週末をアリス・スプリングスにある家で過ごし、週明けにコミュニティに戻ってくるという生活を送っている。彼女達はまだコミュニティには戻っておらず、テリーと一匹の猫がいるだけだった。

町でグラニスに会った時に、「私たちが居なくても、家にある物は好きなように使ってくれていいから」と、鍵のある場所を教えてくれていたので、各自それぞれの荷物や食料品を家へと運び込んだ。荷物の整理を済ませるとコミュニティ内を散策したい衝動に駆られたが、時間は既に夕飯時を迎えていたのでさっそく夕食の準備に取り掛かる。

キッチンを見渡すと、意外なコミュニティ生活事情が見えてきた。以前僕がオーストラリアの安宿やコミュニティに滞在した時に見たコンロのほとんどは電気コンロだった。

Watiyawanuコミュニティの犬
僕がグラニスの家で暮らすようになってしばらくすると、よく懐いてくるようになった。

ガスコンロより電気コンロの方が安全なのだろうけど、電気コンロでの調理は結構難しく、やたらと焦げやすいのであまり好きではなかった。しかし、ここにはなんとガスコンロが備えつけられている。料理好きな僕はこれだけで上機嫌だ。そして生活の中で最も重要とも言える水は、蛇口をひねると無色無臭の水が、勢いよく流れているではないか!正直僕はこれを見るまで、「コミュニティ内で暮らす人々は、水が極度に乏しい砂漠地帯で一体どのように水を確保しているのか?」と疑問に思っていたので、蛇口をひねった時の驚きはかなりのものだった。シャワー、炊事、洗濯といった生活用水として日常的に使う分には、充分な量を使えるらしい。ただ、飲料用にはストアーで販売されている水を使っている。

写真の許可申請中
冷凍庫に冷蔵庫。右奥にはプラズマテレビ。およそ思い付く限りの家電製品がグラニスの家にはある。 
さらにリビングの方に目を向けると、50インチぐらいはありそうなプラズマテレビ!電話にはファックス機能!そして電話回線に繋げられているパソコン!もちろんインターネット接続(アナログ回線)が可能だ。僕が日本で暮らしていた時とあまり変わらない環境に「ここ、ほんまにコミュニティの中なん?」と思わず目を疑ってしまう。そしてテーブルの上には、出来上がったばかりのご飯・お味噌汁・てんぷらと、日本食の王道とも呼べる代物が並べられている。それらをみんなで囲み食べ始めると、ますますコミュニティ内にいる気がしない。

夕食を終え、思う存分にシャワー(温水)を浴び寝床に潜り込む。改めて「俺、ほんまにコミュニティの中にいるんかなぁ?」と思いながら眠りについた。

翌朝寝ぼけ眼で表に出ると、ギラギラとした太陽光線が透明感のある大気を通り越して降り注いできた。Watiyawanuで見る最初の朝日だ。目をつぶっても瞼越しに眩しさを感じる。そのまま大きく深呼吸をすると、心なしか日本の大気より濃密な感じがする。緑が少ないと言っても、大自然に包まれたWatiyawanuでは空気中の酸素の量が多いのだろう。都会では味わう事の出来ない新鮮な空気だ。しかし、朝だというのに太陽の日差しは強烈で、既に30℃ぐらいはありそうな気がする。日本の様な湿度のあるジメジメした暑さでは無く、乾燥したカラッとした暑さなのでそれ程不快感は無い。部屋に戻り準備を整え、意気揚々とコミュニティ内の散策に出かける。 オーストラリアの砂漠の太陽
朝っぱらこの日差し。空気が澄んでいるのでまさしく「直射日光」と言うのにふさわしい。あまりの眩しさにサングラスが手放せなくなった。

昨日とはうってかわり、今朝は至る所でアボリジナルの姿を見かける。大人達は数人で固まり木陰に座って話をしている。その周りを子供達が好奇心を持った眼差しを僕に向けながら走り回っている。彼らに、モリーンが日本に滞在していた時に教わったLuritja語の「Palya?(元気?)」と声をかけてみた。けれども反応はかなり薄い。Luritja語の挨拶をきっかけに会話の糸口を作ろうと考えていたので当てが外れてしまった。唯一モリーンだけが「よく来たね」と、僕の声に反応してくれた。地獄に仏とはこういった事を言うのかもしれないが、挨拶も早々に「ジャッキー・チェンのポスターを持ってきてくれた?」と催促をしてきた。確かにモリーン達が日本を出発する時にそんな約束はしていた。でも…、もっと他に話す事あるのとちゃうの!?モリーンの一言に僕の心はノック・アウトされそうになった。

モリーンと別れ、コミュニティ内の散策を続ける。1周20分ぐらいで回れる規模のコミュニティだが、それぞれの施設をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと(「レッド・センター」目次ページの施設紹介を見てみて下さい)巡っていると、かなり喉が渇いてきた。ストアーは既に開店しているので、何か飲み物を買いに行こうと思い足を踏み入れた。冷房が効いている屋内には総勢20人ぐらいのアボリジナルを見かけた。買い物をしている人もいるけれども、涼んでいるだけという人の方が多い気がする。彼らにも「Palya?」と声を掛けながら店内を歩いて回るが、反応はやはりあまり無い。初めが肝心だと思って気楽に声をかけるのだが、ノーリアクションはさすがに心寂しい。

食糧を運ぶトレーラー
2週間に1度、食料品等がトレーラーで運ばれてくる。コミュニティの物価の高さには、輸送代が多く含まれているのだろう。 
冷蔵庫から値段が表記されていないコーラ(375ml)1本を片手に取り、ドキドキしながらレジに並ぶことほんの数分。白人の店員が「こいつ一体どこから来たんだ?」と言いたげなほど怪訝な顔をしながら告げたプライスは…、

「$2.5(日本円でおよそ250円)ね」

アリス・スプリングスで買えば$1.25ぐらいなのに、その値段の2倍。「めっちゃ高いやん!」と、一瞬体が固まってしまう。250円のコーラをちびちび飲みながら、「やっぱ、町から遠く離れたコミュニティにいるんや…」と痛感するのだった。

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