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林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

9. Milkmilk「蚊」

■ニンニクの臭い

4月15日。朝8時頃に目が覚めた。寝袋の下に毛布を2枚敷いて寝ていたので、背中が痛い。昨日の夜に焼いたソーセージの残りと凍った食パンを朝食にし、タバコを吸っていると近くのホームランドセンターで1週間ほど釣りをしていた姉の息子が帰って来た。両手に大きな魚を3匹抱えて豪快に冷凍庫に放り込む。

ヨォルングの冷蔵庫
ラミンギニンでお世話になってる家の冷凍庫はいつもブッシュタッカーで一杯!

彼はすごく音楽センスがあって、キーボードを使って作詞作曲し、かれこれ50曲ほど持ち歌があるみたい。

全部は聴いたことがないけど、大好きな曲があって、メロディーも綺麗だし、なんといっても彼のセンチメンタルな声がすごく感動的だ。

ぼくの嫁はヨォルングの伝統曲は苦手みたいだけど、彼の歌は好きらしく、家で曲を流しても嫌がらない。今回ラミンギニンに来た目的の1つは、この好きな曲の歌詞を彼から直接教えてもらうこと。

釣りで疲れていた様子だったけど、快く紙にすらすらと歌詞を書いてくれて、二人で単語の綴りを確認しながら一緒に歌った。いやぁ、なんとも嬉しい限りだ。去年の11月に居候させてもらっている時にバラマンディーを1匹、隣人から分けてもらったので、夕食にニンニク油でこんがりバラマンディーを焼いた。するとその姉の息子が「ニンニクって良い香りだよね。食べた後も口の中に香りが残るし、大好きだよ」と。ニンニク食べた後に口臭予防することが何か異常な事に感じた。

■あこがれのイダキ奏者

今日か明日には姉夫婦がダーウィンから帰ってくるらしいので、スーパーで買い物をする。牛肉ステーキ4切れ、鶏の胸肉、冷凍ミックス野菜、ジュース、パン、コーンビーフ、お米、紅茶の葉、油で計98ドル.......会計間違えてるんちゃうの?って思うくらい高い。

お金を使った勢いで、いつもは値段が高いので利用しないテイクアウトの店でカレーを食べた。9ドルもしたのに、あんまり美味しくない。不満ながらに店の前のベンチで食べていると、「やあ、久しぶり!」と後ろから声がかかったので振り向くと、そこにはYoutubeでおなじみのGupapuynguのイダキ奏者が!

すらっと背が高くて細い体なのに、彼の音は信じられないほどパワフルで柔らかい。去年ある機会に彼の演奏を前から横から後ろから観察した結果、背筋の下の筋肉をすごく使っていて、その部分が音の強弱に合わせてぱこぱこ動いている。その時は撮影が許されたので彼の背中をアップで撮影した(イダキマスターが「イダキを吹くパワーの源はここだよ」と背筋の下の筋肉をパンパンと叩く場所と同じだ)。なにやら最近はすごく忙しいみたいで、イダキ製作は全くしていないとの事。

■Gupapuyngu独自のイダキの演奏スタイル

金曜日は時間があるからという事で、彼の住む近くのホームランドセンターを訪れて色々教えてもらおう。それから夕方まではプロジェクトの為に費やし、日が暮れてからは家の前の広場でブングルが始まった。今月か来月に大きなセレモニーが控えていているので、3週間程前から毎夜ブングルが行われているとのこと(昨日は何故かなかったけど)。今、夜中の1時だけど、実際ついさっきまでおもてで歌とビルマとイダキが鳴っていた。

ブングルを見ると、それまでのある意味ストレスだった事とか悩みが一気に解消される。ブングルで使われるイダキを吹かしてもらったけど、めちゃくちゃ口が大きいし、マウスピースもボトムも切りっぱなしで中は何も手をつけていないイダキだった。キーもCくらいじゃないかなっていう位低く、トゥーツとの距離もあり、めちゃくちゃ難しい。

今回出会うイダキは全部今の自分のレベルよりもはるかに上にあるのでかなり落ち込む。

特訓の為、ブングルの合間、しばらく借りて吹き続けたけど、だらしない音しかでなかった.......。

落胆していると、何故か無性に体が痒くなってきた。

「サンドフライおれへんはずやのに、何故だ。」と思っていると、横に座っていたお父さんが、ミルクミルクが出てきたね、と。

Darwinのアートギャラリー
ダーウィン市内にあるファインアートギャラリーの二階には秘密のディジュリドゥ部屋が。

お父さんは冷静に携帯電話のディスプレイの明かりで自分の足を照らし、一匹ずつ潰していたけど、僕はもうその時尋常じゃない数を噛まれていたので、イダキを置いて家に非難。家の蛍光灯の下で足をみるといたるところが噛まれていて、どこが痒いのか分からない。この時期は蚊が発生する事を知らなかった。

ミルクミルクっていう可愛い呼び方だけど、全くかわいくもなんとも無い。明日はベビーオイルとDetollの消毒液で気を紛らわすしかなさそうだ。

この3週間後にダーウィンへ戻った際、学校のパソコンで書き溜めた日記を保存しておいたファイルをあけたところ、何故かファイルが破壊されて、修復不可能になりました.....。めちゃくちゃ残念です。

ということで、次回の日記は次のフィールドワーク(2009年6月末出発)の際に書いたものです。

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