EarthTube  
Research 林 Jeremy Loop Roots
林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

8. Latju Wanga

■プリペイド携帯のお金が.....

翌朝4月14日。久しぶりに目覚ましで起きた。義兄と姉にお礼を言い、海岸へ向かった。今日は火曜日なので週に1回ダーウィンから大きな船がミリンギンビに寄港し、スーパーで販売する食品・電化製品や車などの飛行機で運べないものを大量に運んでくる。

コミュニティーに荷物を運ぶ船
冷蔵庫、石油、車、なんでも運びます。

学校で先生として働いている人達の中にはダーウィンの大型スーパーにインターネットで注文し、好きなものをミリンギンビに持って来ている。

船の輸送費を含めても、コミュニティーのスーパーで買うよりもダーウィンから持ってくる方が経済的らしい。

その船を横目に、いつも対岸のラミンギニンに連れていってくれている兄の家に向かう。

運良く何人かが対岸に渡るらしいので、同行させてもらう。しかし、問題は対岸に船で行った後、車で30分強かかるラミンギニンまでどうやって行くかということだ。あいにく対岸に車は待機していなかったので、兄が僕のプリペイド携帯電話でラミンギニンにいる人達に電話をかけ続け、ようやく車の手配ができた。

すごく嬉しかったけど、僕のプリペイドのお金がゼロになった。あと1週間半、嫁への連絡が出来なくなってしまった。ごめんなさい。

■ラミンギニンへ

対岸のダービラに到着後、今まで乗った中でもだんとつにおんぼろの4WDに乗って、ラミンギニンへ向かう。おそらくブレーキに大きな問題があるらしく、カーブに差しかかる何百mも前から減速し始め、10キロくらいのスピードでカーブを曲がる。ホイルの内側からはカラカラと変な音がするけど、カーブを抜けると、スピードをあげる。以前にアーネム・ランド内で大事故を起こしているので、正直車を降りたい気分だった。

それにしても窓から見る景色は緑が濃く、空がきれいだったので、気分を紛らわすために何度も何度も木々の写真を撮った。

やっとこさラミンギニンに到着。

いつもお世話になっている姉夫婦は今ダーウィンで仕事中だけど、鍵を用意していてくれたので、しばらく一人で過ごすことになりそう。

久々に家に入るとめちゃくちゃきれいに掃除されていて、ごみ1つ落ちていないのに驚いた。

Raminginingの風景
ラミンギニンへ向かう途中、綺麗な景色を携帯電話でパシャ。

キッチンもトイレもシャワーもぴかぴか。今朝、姉に電話で「きちんと掃除とモップかけとくから、ダーウィンから帰ってきたらピカピカやで」と言ったけど、掃除する必要はなさそう。

■快適なラミンギニンの盲点

朝から何も食べていないので、荷物を置いてスーパーへ向かった。途中、4ヶ月ぶりに再会する人達と会話しながら「あぁ、なんて良い場所なんやろ、ミリンギンビより少し涼しいし、サンドフライおれへんし」と感じていると、唯一問題があることを思い出した。犬だ。

ミリンギンビと比べると今までの滞在期間が少ないので、犬が僕の事を覚えていないので、すぐ襲ってこようとする。前回来たときは5匹くらいの犬に囲まれて、ほんとうに襲われるところだった。そういえばGori氏もベズウィックでほんとうに犬に襲われそうになっていた。犬に襲われそうな人間の顔っておそらく同じだと思う。怖いので本能的に顔が弱気になってしまうのに、犬を怖がらそうと怖い顔を作るので、顔が異常に引きつる感じ。

それ以降、ラミンギニンでは常時石と大きな枝を携帯することにしている。犬が覚えてくれるまで待とう。

■テープ or パイプ?

ポテトフライでお腹を満たした後、アートセンターを訪問。イダキの数は少なかったけど、お土産用では無いイダキが何本かあり、購入しようとしたが、結構値段がするので、少し悩む。結局購入しなかったけど、これから1週間の滞在中に良いイダキに出会わなかったら、アートセンターで一本買って帰ろう。

Bula'bula Arts ラミンギニンのアートセンター
ラミンギニンのブラブラ・アートセンター。著名アーティストの作品ばかりです!

悩みながらブーブー吹いていると、なにやらアートセンターの職員に真剣で絵の話をしているヨォルングの男性がいる。

盗み聞きすると、ヨォルング社会内でのデザインの所有権について話している。すごく興味深い話だったので、その後2人でアートセンターの外で話をする事に。

彼の人柄も関係しているけど、色々話している内に、彼はヨォルングの親族関係上の僕の父で彼が属すクランは僕が養子縁組されたクランと同じことも分かり、あっという間に親密になることができた。

ヨォルングの親族システムは、皆なんらかの関係で繋がっているので、養子縁組された後は、複雑なシステムの中に放り込まれるけど、こうして特別な印象で繋がりが持てるヨォルングと知り合えることが宝だ。

夕方、彼の家を訪れると、彼の息子が玄関先でテープグルグル巻きのイダキを吹いていた。吹き心地はどっぷりイダキなのに、マウスピースが大きい!唇を押さえ込むのにかなりの力が必要で気を抜くとあっというまにビロ〜ンとなってしまい、だらしない音になってしまう。

あぁ、まだまだあかんなと落胆していると、彼が「ラチュ・イダキ・エッ?ドゥワラ・ラコ・イダキ!」(良いイダキだろ?俺のイダキなんだ)と満面の笑みで言ってきた。やっぱりこのレベルのイダキを吹きこなせないとあかんという事か。似たような吹き心地のイダキがアートセンターにあったから、何も無かったらあれを買って帰ろう。

夜、家に戻って4ヶ月前に買ってそのまま冷凍庫に放置されていた賞味期限切れソーセージを焼き、カレー粉をたくさんかけて食べた。すると道路を挟んだ向かいの家の空き地で笛の音がする。走って行くと、少年が鉄パイプを空き缶に向かって吹いていた。鉄パイプなのにすごい音だ。

生まれて初めて鉄パイプというものが欲しくなった。

(C)2004 Earth Tube All Right Reserved.