【ついに伝統的パフォーマンスが始まった!】 昼の企画も一通り終わり、僕とユウジは食欲を刺激する匂いと見た目に負けて買ってしまったハンバーグサンドをテントの横でパクついていた。このハンバーグサンドが結構おいしくて、昨日からキュウリばかり食べていた僕らはとても幸せな気分に包まれていた。
メイン会場にはきれいに砂がひかれ、まだ強い午後の日差しがキラキラと照り返していた。 その日差しの向こうにはにはクラップスティックを持ったソングマンと、赤・黒・黄色のビニールテープで巻かれたディジュリドゥを持った人が座っている。その色の組み合わせはアボリジナルの人たちの旗と同じだ。そしてゆっくりとソングマンが歌い始めた。 その歌に導かれるように黄色いナガ(フンドシのような布)を腰に巻いたアボリジナルの人たちが大勢なだれ込んできた。リズムに合わせ、それぞれがさまざまな動きを見せているのだが、ある程度決まった動きがあるパートと、即興のように踊るパートがあるのがなんとなくわかる。そんな動きに合わせて砂が巻き上げられていった。 この黄色のナガをまとった人達は、地元、つまりBarungaやWugullarr周辺の人たちだったようだ。Barunga/Wugularr周辺地域のディジュリドゥの演奏には、北東アーネム・ランドで聞かれるようなトゥーツはほとんど使われず、安定して紡ぎだされる低音に平行して、うねるような倍音が絡んでいく。 僕達は規模、内容ともにMerrepen Art Festivalとはまったく違うことにすでに興奮状態になっていた(詳しくは「Merrepen Art Festival編4」を御覧下さい)のだがこれは序の口。ここからがさらに衝撃的だった。 【Red Flag Dancers from Numbulwar】 地元の人たちのパフォーマンスが終わり、会場はまだ拍手と興奮に包まれザワザワとしているころ、ふと気づくと先ほど地元のソングマンとディジュリドゥ奏者が座っていた場所に、全身を白くペイントし赤いナガを身につけた、いかにも威厳のあるソングマンとストライプのTシャツに赤い帽子というカジュアルな出で立ちのおじちゃんが、太めのストライプ模様にペイントされ彫刻が施されたディジュリドゥを持って座っていた。 会場の裏の方からは大勢の人たちの叫ぶような声が聞こえてくる。 そしてソングマンが歌いだすと・・・。高い!彼の歌声はまるで裏声のように高かった。 それに呼応するようにディジュリドゥ奏者が吹き始める。 ビィーーーーーーーーーン!!!! 僕は一瞬あっけにとられた。なぜならそれは会場全体が揺れているような錯覚を覚えるような爆音。その表面を鋭く磨かれた機械音のような倍音が滑っていく。こんな音は日本でもオーストラリアに来てからも聞いたことがない。準備されたマイクは音を拾いきれず、スピーカーがバリバリと悲鳴を上げているのがわかる。圧倒されるぐらいすごかった。 ハッと正気に戻ってディジュリドゥ奏者を見ると、彼の頬はカエルのようにパンパンに膨らんでいた!なんじゃこりゃ?こんな吹き方もいままで見たことがない。音、映像ともに僕の想像を超えた衝撃だった。 そこへ会場裏からダンサー達が一列に並んでリズミカルに入ってくる。彼らは体を白く塗り、さまざまな美しい装飾品を身につけ、赤い旗と白地に赤い十字の入った旗を手にもっている。中には小さな子供までいる。そしてアナウンスがはいった。 「Red Flag Dancers from Numbuluwar!!!!」 Numbulwar!! そうか彼らがNumbulwarの人たちなんだ! Numbulwarコミュニティは、キャサリンから温泉が沸くことで有名なマタランカ(Mataranka)を通り、ローパー・ハイウェイ(Roper HWY)を東に330kmほど行ったカーペンタリア湾の海岸線にある遠方のコミュニティだ。この地域の音源は数多く残っており、僕がミンディルビーチ・マーケットで出会ったマーク、ブロンソンの出身地であるGroote Eylandtとも関係が深いようだ。 Red Flag Dancersはこの地域出身のグループでも特に有名でGarmaフェスティバルやDarwinフェスティバルほか、数多くのフェスティバルに参加している。 彼らの歌、踊りは非常に洗練されていて動きに緩急があり、見ていてまったくあきない。 2人のダンサーが向き合いながら踊るシーンでは、まるで武道の演舞をみているような緊張感がある。一方でコミカルな踊りもあり、酔っ払いを起こすのに苦労するというストーリーのある踊りはミュージカルを見ているようで会場全体の笑いを誘った。 気が付くと日も西に傾き、夕方の柔らかな光としだいに長くなる影が彼らの踊りをさらに情感豊かに演出していく。足の動きによって鋭く巻き上げられる砂の流れるような動きは、ため息がでるほど美しく時間を忘れそうになった。 そして、あたりがすっかり闇に包まれたころ、会場には焚き火が炊かれた。
などということを漠然と考えているうちに彼らのパフォーマンスのすべてが終了した。 会場は自然と溢れ出した拍手と笑顔に満ちていてとても暖かい空気に包まれている。 そして僕も長い間拍手を送り続けていた。 |トップへ|
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