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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Merrepen Art Festival編 4-

【そして2日目】

昨日はとにかくなにからなにまでうまくいかなかった。やっとの思いで焼いたシチュー肉をほおばりながら、夜のライブへとくりだしたのだが、途中からあいにくの雨。しかも風が強くめちゃくちゃ寒い。みんな寝袋や毛布などあるものをたくさん着込んでいた。そんな中、僕らはTシャツの上に一枚羽織った程度。僕にはダーウィンは暑いという先入観があったので、そんなに着るものをもってきてはいなかった。震えながらみたライブはロック、ブルース、ポップス。期待していた伝統的なパフォーマンスは一切ない。

そんな前日のつらい経験から一夜明け、僕たちは爽やかな朝を迎えるはずだった。 目が覚めるとテントの外はすでに明るくなっていて、なにやら大勢の人の声が聞こえる。しかもすぐそばで。なにごとだろう?とテントから這い出してみてびっくり!僕らのテントを囲んでソフトボールの試合が始まろうとしていたのだ!

リアル・ブッシュマン

これがその時の写真 テントは完全に三塁ラインの内側だった

カキーン!すぐそばをボールがころころ転がっていく。大急ぎでテントをたたんで移動した。

だいたい実際に使用するグラウンドをキャンプ地に指定するなんて日本では考えられない。驚く僕らとは対照的に彼らは爽やかに「ありがとうございまーす」なんて言っている。

感覚の違い?文化の違い?朝から起こったこのハプニングに僕らはしばしボー然とした。


【気を取り直して】

フェスティバルのメインは2日目。各種イベントが開催される。ペイントや工芸品の販売、コンサートなどがありブッシュ・タッカーも食べられる。メインの道路にでてみると1日目にくらべて訪れている人たちも圧倒的に多くなっていた。

アートセンターのほうもとてもにぎやかになっていた。外の通路には子供たちのペイントが手頃な価格でところ狭しと並べられ、倉庫の中には大きなサイズの作品がズラッと展示されていた。それらを訪れた人たちがどんどんと購入していく。のりくんとユウジはお気に入りの子供のペイントを発見していたのだが、すこし目を離した隙にもうなくなっていたらしい。一期一会、ほしいと思ったものはすぐに購入することをお勧めする。

ブッシュ・タッカーのコーナーでは亀やタロイモなどが焼かれていてすこしずつだが無料で食べることができる。その隣ではおばちゃんたちがディリーバッグを編んでいて直接購入することができた。

ディリーバッグというのは、パンダナスという木の葉っぱを裂いて染めた紐で 編んだ袋のこと。カラフルで美しいだけでなくとても丈夫にできていてさまざまな用途に使われる。ディリーバッグはダーウィン近郊の地域からアーネムランドまでさまざまな地域で作られているようだ。

パンダナスのひも

これがパンダナスの葉を裂いて染めた紐 色合いがとてもきれいだ 右下にすこし見えるのが編みあがったもの

パンダナスは螺旋状に回転しながら成長しているように見えるのが特徴の植物でダーウィン近郊でも結構簡単に見つけることができる。過去にはこのパンダナスで作られたディジュリドゥもあったようでいくつかの音源でその音を聞くことができる。


【パンダナス製ディジュリドゥの音が聴ける音源の紹介】

下記のCDの4曲目でパンダナス製ディジュリドゥの音を聞くことができます。このCDではほかに中央ア−ネム・ランドを代表するディジュリドゥの名手であるデビット ブラナシのもっとも古い音源や、世界的に有名なペインターでもあるパディ フォーダム(Paddy Fordam)のディジュリドゥの演奏などが収録されており大変貴重です。詳しくはGORIくんのディスコグラフィーをチェックしてください。

ARNHEM LAND POPULAR CLASSICS ARNHEM LAND POPULAR CLASSICS
-1961 Field Recordings of Traditional Singing & Didjeridoo by Australian Aboriginal Elders
CD-R from LP 1961-62年 Wattle


【期待の伝統的パフォーマンス】

とりあえず一通りのイベントを見終わったころにいよいよ伝統的なパフォーマンスが行われることになった。僕らは屋台であつあつのたまご入りステーキサンドを買い込んで、はやばやと最前列の席をキープ。まわりにはボディペインティングをした地元の人たちが集まってきている。高まる期待。僕らはいまかいまかと本番を心待ちにしていた。

そしてディジュリドゥ奏者やソングマンが横一線に並び、ついに本番が始まった!

Aboriginal Musicians in Merrepen

パフォーマンスをしたソングマンとディジュリドゥ奏者

またもや、である。僕らの期待はことごとく打ち砕かれることになった。それから数分後、がっくりと肩を落とした3人は最前列から最後列へ移動していた。

まったくやる気の感じられないダンスは、始まってからわずか数分で見ていられなくなり、肝心のディジュリドゥ奏者はなぜか音を出すのに苦労していて曲になっていない。彼はしきりとマウスピースのあたりの白い部分を変形させていたが途中であきらめ、他のディジュリドゥを持ち出してきたのだがそれも振るわなかった。それらのディジュリドゥは前日アートセンターで見た「アレ」だったのである。

いくら奏者がすごかったとしてもあの状態のものを吹くのは無理だろう。ただ付け加えて言っておくと二人のソングマンの歌はとてもよかった。ダンスはともかく、歌のほうはディジュリドゥがいいものだったらすばらしいパフォーマンスになっていたのではないだろうか。それがとても悔やまれる。

すべての演目が終わったあと、ディジュリドゥ奏者がしきりと変形させていた白い部分がなんだったのか、のりくんが確認しにいってくれた。なんとそれは「水を含ませた白い紙(ティッシュペーパーか?)」だったらしい。つまりマウスピースが大きすぎたかクラックが入っており空気が漏れたため、しかたなく紙で塞いで吹いていたと考えられる。これも結構ショッキングな出来事だった。

「さあ、そろそろ帰ろうか・・・」張りのない声で誰かがボソッとつぶやいた。

「そやな、もう帰ろう・・・」

こうして僕らの初めてのフェスティバルは静かに幕を閉じることになった。ところが、今回の旅はそう簡単に終わることができなかった。帰りに僕らを待ち構えていたのはさらに大きなトラブルだったのだ。

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