【アクセル全開!】 静かに幕を閉じた3人の初フェスティバル。僕らはあまりにも偏ったものを求めすぎていたのかもしれない。僕はこのフェスティバルを通して知らない間に自分が抱えていた「フィルター」の存在に気がつくことになる(この話に関しては【フィルター】を読んでみてください)。 とにかく、さまざまな思いを抱えながら僕らは帰りの道を走りはじめたのである。
コンセントの抜けてしまった掃除機のように、さっきまで快調だった車のエンジン音が一気に力を失っていく。その時アクセルは全開だった。 「あっあれっ?あれれれ?」 そして数十秒後、次の町アデレードリバーまで100km程を残して車は完全に停止した。またまた3人しばしボー然。シーンと静まり返る車内。この事実を受け入れるまでにどれぐらいの時間が必要だっただろう。 「これは・・大変だ」 僕らは急いで車を飛び出しボンネットを開けて確認してみる。考えられる原因としては出発前に確認したあのひび割れだらけのファンベルトだ。早速確認してみると、切れてない!バッテリー?とにかく鍵を回してみる。キュンキュンキュン。大丈夫セルはまわっている。じゃあガソリン?コミュニティで満タンにしたのでメーターも最大。ありえない。それならオーバーヒートか?冷却水はたっぷりと入っている。これもない。さあ、こうなるとエンジン内部にトラブルか!? 一瞬ただよう絶望感。
【アウトバックを走る心得】 「これはどうにもならんなあ、一通りのことはやってみたけど・・」 一つの問題は先生から借りた車がオートマチック車だったこと。オーストラリアでは、大半の人がシンプルな構造で悪路に強いミッション車に乗っている。ミッション車は素人でもある程度整備できるため、多くの人が修理の知識をもっている。 万一アウトバックでトラブルになったとしても助けてもらえる可能性が高いのだ。 一方でオートマチック車の場合は素人が簡単に修理することはできず、悪路にも弱い。だからアウトバックでなにかあった場合のことを考えて敬遠される傾向にある。彼はそういうふうに説明してくれた。 つまりお手上げというわけである。この時点で自力で走って帰るという可能性は完全に閉じられてしまった。 次に僕らが考えたのは一人が次の町まで助けを呼びにいき、その間残った二人はブッシュ・キャンプをしながら待つという方法。考えたというか、もうそれしか方法がなかった。僕とユウジは英語力を考えると確実性にかけるので、英語に堪能なのりくんが助けを呼びにいくことに決め、次の町まで送ってあげるといってくれた車に乗りこんだ。 「できるだけ早く帰ってくるから・・二人ともがんばってな!」
【ブッシュ・キャンプとブッシュ・タッカー】 のりくんが助けを呼びにいったあと、ユウジと僕は修理する努力を続けていた。その後も数台の車が止まってくれたのだが答えは同じ。結局原因が判明することはなく、僕らは道路脇にキャンプを張り、助けが来るのを待つことにした。 こういう状況でまずしなければいけないのは今持っている食料と水の確認だろう。そう考えた僕は車中を探し回ってみた。しかしその結果は悲惨なものだった。 2リットルのペットボトルに1/4程度のサイダー。・・以上。これが僕らの持ち物のすべてだった。のりくんが出発した時にはすでに太陽も傾き始めていたので、今日中に助けがくる可能性は低い。とすれば最低1日、うまく助けが呼べなかった場合、へたをすると2日のブッシュ・キャンプを余儀なくされる。 「なあ、ユウジ、これかなり厳しいよな・・・」 「えっ?そうなんですか?さっきの車の人が食料はいるかって聞いてきたのでいらないって答えときましたけど?」 「えッ?そうなんや・・・・、ってエェェェッ!!!!!?」 「なんで断ったん!僕ら食料なんてなんにも持ってないやんか!」 生えてる?食料が?どこに?? ユウジが指差した先を見ると赤い植物が確かにいっぱい「生えて」いた。
しかし彼の言葉、そして表情には自信が満ち溢れ、「いったいなにがそんなに心配なんですか?」と逆に問い返されているような気すらした。 あまりにも楽観的な考え方と意味不明な自信、だけど妙な説得力。それになぜか納得している自分がいる。こんな人が日本にもいたんや・・、と妙に関心してしまった。そしてそのあとに笑いがこみ上げてきた。自信満々のユウジと心配しすぎていた自分の凸凹コンビぶりがとてもおかしかったからだ。僕はいっきに肩の力が抜けていくのを感じ、あらためてこう考えることができた。 「まあ、なんとかなるやろ!」 僕とユウジはこの赤い植物を集められるだけ集めて、ブッシュキャンプの準備をすることにした。 |トップへ|
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