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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Merrepen Art Festival編 5-

【アクセル全開!】

静かに幕を閉じた3人の初フェスティバル。僕らはあまりにも偏ったものを求めすぎていたのかもしれない。僕はこのフェスティバルを通して知らない間に自分が抱えていた「フィルター」の存在に気がつくことになる(この話に関しては【フィルター】を読んでみてください)。

とにかく、さまざまな思いを抱えながら僕らは帰りの道を走りはじめたのである。

Community Shop in Nauyiu

Nauyiuのなんでも屋さん。食料品からCDまでなんでも手に入る

帰りは一度走った道ということもあり、不安もなく快調だった。3人ともそれぞれが今回のフェスティバルで感じたことや、これからの自分たちの方向性などを楽しく語りながら、果てしなく続くブッシュを駆け抜ける。

3人のテンションが上がり始めるとなぜか車の調子も良くなっていき、行きは時速80kmで走っていた道をなんと100kmで走っている。「これは予想より早く帰れるかもしれないな・・」そんなことを考えていた時だった・・

フゥーーーン・・

コンセントの抜けてしまった掃除機のように、さっきまで快調だった車のエンジン音が一気に力を失っていく。その時アクセルは全開だった。

「あっあれっ?あれれれ?」
「どうしたんですかあ?」
「いや・・・アクセル、きかへんねんけど・・」
「またまたあ、変な冗談はやめてくださいよ!」

そして数十秒後、次の町アデレードリバーまで100km程を残して車は完全に停止した。またまた3人しばしボー然。シーンと静まり返る車内。この事実を受け入れるまでにどれぐらいの時間が必要だっただろう。

「これは・・大変だ」
「これは・・大変ですね・・」

僕らは急いで車を飛び出しボンネットを開けて確認してみる。考えられる原因としては出発前に確認したあのひび割れだらけのファンベルトだ。早速確認してみると、切れてない!バッテリー?とにかく鍵を回してみる。キュンキュンキュン。大丈夫セルはまわっている。じゃあガソリン?コミュニティで満タンにしたのでメーターも最大。ありえない。それならオーバーヒートか?冷却水はたっぷりと入っている。これもない。さあ、こうなるとエンジン内部にトラブルか!?

一瞬ただよう絶望感。

こういう話はガイドブックで読むことはあっても、まさか自分たちが実際に体験するとは誰も思っていないだろう。しかし僕たちは今まさに「アウトバックでトラブル発生!」というコラムの登場人物になっていた。

とにかくボーとしていてもなにも始まらない!

「おーーーーーーーい!!」

僕らは通りがかった車に必死に手を振っていた。

故障した車

最初でも紹介したこの写真 この場所が車が止まった現場である
    前にも後ろに地平線まで道路が続いていた


【アウトバックを走る心得】

「これはどうにもならんなあ、一通りのことはやってみたけど・・」
修理の知識があるということで、僕らの車をチェックしてくれていたおじさんが僕らにそう告げた。

一つの問題は先生から借りた車がオートマチック車だったこと。オーストラリアでは、大半の人がシンプルな構造で悪路に強いミッション車に乗っている。ミッション車は素人でもある程度整備できるため、多くの人が修理の知識をもっている。 万一アウトバックでトラブルになったとしても助けてもらえる可能性が高いのだ。 一方でオートマチック車の場合は素人が簡単に修理することはできず、悪路にも弱い。だからアウトバックでなにかあった場合のことを考えて敬遠される傾向にある。彼はそういうふうに説明してくれた。

つまりお手上げというわけである。この時点で自力で走って帰るという可能性は完全に閉じられてしまった。

次に僕らが考えたのは一人が次の町まで助けを呼びにいき、その間残った二人はブッシュ・キャンプをしながら待つという方法。考えたというか、もうそれしか方法がなかった。僕とユウジは英語力を考えると確実性にかけるので、英語に堪能なのりくんが助けを呼びにいくことに決め、次の町まで送ってあげるといってくれた車に乗りこんだ。

「できるだけ早く帰ってくるから・・二人ともがんばってな!」
「うん、頼む。待ってるで!」

Sunset in the Bush

ブッシュの夕暮れは空と大地のコントラストが影絵のように見え、怖いぐらいにきれいだ

のりくんを乗せた車が遠ざかっていくと、あたりには再び静寂が訪れた。

木々が風に揺れる音と鳥の声しか聞こえない世界。すでに太陽もすこしずつ傾きはじめている。暗くなるまであと数時間程度といったところか。

僕はこの時なんともいえない切なさを感じていた・・。


【ブッシュ・キャンプとブッシュ・タッカー】

のりくんが助けを呼びにいったあと、ユウジと僕は修理する努力を続けていた。その後も数台の車が止まってくれたのだが答えは同じ。結局原因が判明することはなく、僕らは道路脇にキャンプを張り、助けが来るのを待つことにした。

こういう状況でまずしなければいけないのは今持っている食料と水の確認だろう。そう考えた僕は車中を探し回ってみた。しかしその結果は悲惨なものだった。

2リットルのペットボトルに1/4程度のサイダー。・・以上。これが僕らの持ち物のすべてだった。のりくんが出発した時にはすでに太陽も傾き始めていたので、今日中に助けがくる可能性は低い。とすれば最低1日、うまく助けが呼べなかった場合、へたをすると2日のブッシュ・キャンプを余儀なくされる。

「なあ、ユウジ、これかなり厳しいよな・・・」
僕はこの心細い内容に一抹の不安を感じてユウジにそうつぶやいてみた。すると、

「えっ?そうなんですか?さっきの車の人が食料はいるかって聞いてきたのでいらないって答えときましたけど?」

「えッ?そうなんや・・・・、ってエェェェッ!!!!!?」
僕は一瞬耳を疑った。どこにその答えの根拠があるのか検討もつかなかったからだ。

「なんで断ったん!僕ら食料なんてなんにも持ってないやんか!」
「いや、だって、そのへんにいっぱい生えてるから大丈夫かな、と・・」

生えてる?食料が?どこに??

ユウジが指差した先を見ると赤い植物が確かにいっぱい「生えて」いた。

「ほらこれ、さっきブッシュタッカーだって教えてもらったじゃないですか」

「・・・」

しばしの沈黙のあと僕の頭はフル回転し始めていた。 それでも僕は彼のこの一連の発言を理解するのに結構時間を費やした。 確かに、確かにそう教えてもらった。けど・・それは・・この場合・・??

つまり彼はこの植物だけを食べて助けを待つつもりなのだ。 水分はわずかに残ったサイダーのみという状況で。

ブッシュ・タッカーを食べるゆうじ

これがそのときの植物 食べるとすごくすっぱく、レモンのような感じだ  この植物を僕らは食べまくった

しかし彼の言葉、そして表情には自信が満ち溢れ、「いったいなにがそんなに心配なんですか?」と逆に問い返されているような気すらした。 あまりにも楽観的な考え方と意味不明な自信、だけど妙な説得力。それになぜか納得している自分がいる。こんな人が日本にもいたんや・・、と妙に関心してしまった。そしてそのあとに笑いがこみ上げてきた。自信満々のユウジと心配しすぎていた自分の凸凹コンビぶりがとてもおかしかったからだ。僕はいっきに肩の力が抜けていくのを感じ、あらためてこう考えることができた。

「まあ、なんとかなるやろ!」

僕とユウジはこの赤い植物を集められるだけ集めて、ブッシュキャンプの準備をすることにした。

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