【レッスンの約束】 彼らのパフォーマンスの興奮も冷めないうちに、僕とユウジは次の行動にでるため、ザワザワとうごめく人ごみを掻き分けていた。僕らの目的はただひとつ。さっきのディジュリドゥプレイヤーに直接レッスンの申し込みをすることだった。
すこし緊張していた僕は彼らに「写真か?」と聞かれ思わず「はい」と答えてしまった。とりあえず僕らはまわりにいたダンサーやソングマンの人たちと一緒に写真を撮る。そしてついに本題をきりだした。 「演奏めっちゃすごかったです!あんな音はいままで聞きたことないです」 なんと彼は以外にあっさりOKをくれたのだ!こんなに簡単にことが進むとは思っていなかったので、この成果に僕らのテンションは最高潮。自分達のテントに着くと同時にディジュリドゥを持ち出し、その夜は遅くまで必死で練習した。明日の朝が待ち遠しかった。 【コミュニティを彷徨う】 次の日の朝、パッチリと眼が覚めた僕は、まだヒンヤリとした冷たい空気が漂うテントの外へと這い出した。昨日は本当に興奮状態で何時に寝たのかすらはっきり覚えていない。 それどころかレッスンの約束を取り付けたことすら夢なんじゃないかという気がした。 まさかとは思うけれどなんとなく不安になった僕は、ユウジを探して確認することにした。 しかしテントの中に彼の姿はない。これはいつものことなので驚くこともなく、はなちゃん達がテントを張っているところへいってみた。 もうすでに煙すらたたなくなった、小さな焚き火のそばに紫色の丸い塊がひとつ。ユウジだった。よほど寒かったのだろう、薄っぺらい寝袋を体に引き寄せるようにして丸くなり、小さな焚き火に体を寄せるようにして眠っている。 そんなに寒いのならなんでテントで寝ないのだろう? ただ彼は「地球がベットだから」と豪語し、決してテントで寝ようとはしなかった。 ふと見ると彼の寝袋は焚き火の熱で一部分が溶け落ちて穴が開いている。 寝袋が焦げても眼が覚めなかったということか・・よく丸焦げにならなかったものだ。 とにかく彼を起こして確認するとやはりレッスンの約束は夢ではなかった。そうとなればグズグズしていられない!「早速彼らのキャンプを尋ねなければ!」と意気込んでディジュリドゥを持ち出してから僕は肝心なことに気が付いた。
【レッスン】 とにかく彼らはこの会場のどこかにいるわけだから吹いていたら気づいてくれるに違いない、そう考えた僕達はグランドでディジュリドゥを吹きまくっていた。 ところが彼らはなかなか現れず、ただ時間だけが経過していく・・。 「もうだめか・・」と僕達があきらめかけたその時・・ 「よーおまえら来てたか!」 声のした方に振り向くと、昨日デイジュリドゥを吹いていた彼だ!ソングマンやダンサーも含めて8人程度がぞろぞろとこっちに向かってくる。聞くと彼らは散歩に出ていたらしい。 「じゃあ約束どおり教えてやるよ」 そう言うと彼らは昨日のカラバリーで吹いていたディジュリドゥを持って再び集まってくれた。彼らはそれからいろいろと教えてくれた。Numbulwarコミュニティからバスでフェスティバルまで来たこと。彼らとこのコミュニティ周辺の人たちは兄弟のような関係にあり、親交が深いこと。そしてディジュリドゥのこと。 「これは北東アーネムランド、YolnguのDatjirriが作ったものなんだ」 僕はこのとき初めて言語によって呼び方が違うということを彼らの口から直接聞いた。
「Lhambilbilkを吹くときに一番重要なのは力強さだ。」 彼はそういいながら手をおなかの下あたりから上のほうへと移動させるゼスチャーをした。 そして「吹いてみろ」と彼らの楽器を手渡してくれた。僕はすこし緊張しながらも思い切って吹いてみた。すると彼らは「いいぞ!その調子だ。もっと力強く!」と言う。僕はがんばって力を込めてみる。 しばらくするとソングマンの人が僕の演奏に合わせて歌ってくれた。 彼が吹き、僕らが交代で吹く。そしてソングマンがそれにあわせて歌ってくれる。 そんな楽しい時間が数時間にわたって続いた。 彼らの伝統文化であるディジュリドゥ、歌、踊り、そしてストーリー。 本や映像、CDでは知ることができたとしても、それらに関して彼らの口から直接伝えてもらうことができる機会を得るというのは日本にいてはなかなか難しい。「彼らから直接なにかを感じ取りたい」、その思いが僕をオーストラリアに向かわせた。そして今その機会に恵まれている。このフェスティバルに来て本当によかった、そう思えた貴重な数時間だった。 |トップへ|
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