近代WANGGA史上燦然と綺羅星のように輝く稀代のソングマンBarrtjapの唄を50年代後半から2000年代初頭までクロニクルにコンパイルした全集的アルバム。今なおBelyuenコミュニティで唄われ続けているBarrtjapの至極の名曲集。
アボリジナル音楽が記録して残されたのは、音響機材の歴史と符合していてオープンリールのポータブルレコーダーの開発と共にスタートします。最古の音源は50年代後半からスタートしますが、音源の質と量ともに充実するのは学者のAlice M. Moyleがフィールドレコーディング60年代からです。 このCDはそのAlice M. Moyleの録音したTommy Barrtjap自身の唄からスタートし、彼の晩年の音源、彼の唄を引き継いだ親族たち現代のシンガーたちによる演奏を収録することで、曲ごとにクロニクルにBarrtjapの唄を収録したBarrtjap全集的なアルバムです。 Barrtjapは、彼と「瓜二つの声を持つ」と言われる親族上の父(実父の兄弟)のJimmy Bandakから唄を学び、死後彼の唄を継承し、Bandakのゴーストから夢見の中で唄を授かったという。 葬儀や割礼といったオープンな儀式に採用されていない限り、ソングマンの没後そのソングマンの創った唄(実際は夢の中でゴーストから授かる)は徐々に唄われなくなるのが通例のようですが、Barrtjapの唄はいまだ忘れ去られることなくBelyuenコミュニティで唄い続けられています。 Barrtjapの唄にはそれほどにパワーがあり、唄っている内容がわからないぼくたち外人でもそのメロディーの美しさ、細かいコブシが効いた即興的な歌唱能力の高さに、いつのまにか彼の唄に引き込まれてしまう魔力がある。 ブラジル音楽でいうところのサウダーヂ、江戸文化における粋(イキ)、デンマークの文化のヒュッゲのような、他の文化の言葉には存在せず他の言葉に置き換えることのできないような、ある種の感覚を明確に指し示す言葉がある。 Barrtjapの唄を聞いていると、えもしれない郷愁のようなビジョン的な憧憬が切なさと力強さをもって立ち上がってくる。それが土地との直接的な関係があるアボリジナルの人たちならより強烈なのかもしれません。そして、この感覚がWANGGAダンスソングの水底に通底して脈々と流れているものなのかもしれません。 このCDを聞けば、古くはA.P.Elkinによる1952年のBarrtjapの師Jimmy Bandakの録音から、Barrtjapの唄の継承者Kenny Burrenjuckの1997年まで、半世紀に渡るBarrtjapの唄の音楽的記録の旅をすることができます。 不世出のソングマンBarrtjapの音源を余すことなく聞くことができ、しかもブックレットでは60年代のものと思われるボディペイントを身にまとったBelyuenのソングマン、ディジュリドゥ奏者、ダンサーたちの一座の白黒写真を多数見ることができます。 ※1. このディスクは出版元ではCDと表記されていますが実際はCD-Rです。お手元でバックアップを取っておくことをおすすめします。 ※2. このCDは8枚組(7セットで1つは2枚組)の「Wangga Complete CD set」の一部です。単体での販売はしていません。 |
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