アーネム・ランドの伝統的なアボリジナルの儀礼の中でディジュリドゥが演奏される際には、ディジュリドゥは常にクラップスティックを両手に持ったソングマンを伴奏する。ディジュリドゥがソロで伝統曲を演奏することはないという。逆にクラップスティクはオープン・ソングからメンズ・セレモニーのようなクローズドな儀礼まで歌の伴奏に幅広く使われる。
左手に大きく少し平たいクラップスティックを持ち、右手に棒状の小さいクラップスティックを持って打ち付けて演奏される。だからよく見れば、アボリジナルの伝統的な手法で作られたクラップスティックのペアーはサイズが異なっている。西アーネム・ランドではブルータング・リザードやヤムイモなどの種の増殖を願う儀式などでその歌われる歌にあわせた形状をしたクラップスティックが使われることがあるという。
アボリジナルのソングマンたちはどういったクラップスティックを使うのか?その音色、木の種類、形状は多岐にわたっている。かれらと同じ目線でこの楽器を見つめてみる機会になればと願います。
【D. Gurruwiwi】
area : |
Birritjmi(N.E. Arnhem Land) |
wood type : |
Maypiny(Ironwood) |
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small : |
34cm/234g |
large : |
35.4cm/462g |
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イダキ・マスタ−のプライベート・ビルマ。2006年に「ぼくはイダキを持ってるけどビルマはない」と言うとベッドの下のかばんからこのビルマを出してきてホイっと手渡し、無言でくれた。小さいサイズの平べったい方のビルマは、アートセンターの改装時に出てきた廃材の床板から作られていて、軽く、ボソボソしている。大きい方のビルマは硬質で重たく、作りも丁寧。高めの音でやわらかさの中にも金属的な響きもあり、音量はやや低め。 |
【D. Gurruwiwi】
area : |
Birritjmi(N.E. Arnhem Land) |
wood type : |
Unknown |
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small : |
35.2cm/440g |
large : |
46cm/662g |
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イダキ・マスタ−のプライベート・ビルマ。小さいサイズのビルマはD. Gurruwiwi自身がカットしてDhuwa半族の木だと説明していました。黒と赤でペイントされた大きい方は、もともとファイティング・スティックだったものをD. Gurruwiwiが短くカットしてビルマとして使っていたものです。耳にツンと響く強いアタック感と重たさを感じさせながらもキンっとした響きもある。音量はやや大きめ。 |
【Galawupa Garrawurra】
area : |
Milimgimbi / Dhalinybuy |
wood type : |
Unkown Heavy Wood |
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small : |
33.7cm/370g |
large : |
32.5cm/489g |
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すべてオーカでペイントされた北東アーネム・ランドのビルマ。イダキにペイントされるパターンにはあまり見られない3つの円をつないでその間をRarrk(クロスハッチ)で埋めつくされた美しいペイントがほどこされています。詳細は不明ですが儀式用のビルマとして作られたものです。たたくとペイントが剥がれてしまうため、演奏はしていません。 |
【Unknown clapsticks collected in 1964】
area : |
Wadeye(Port Keats) |
wood type : |
Iron wood & unknown |
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small : |
24.5cm/90g |
midium : |
30.8cm/496g |
large : |
34.9cm/268g |
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WANGGAダンスソングの故地として知られるWadeyeで1964年に収集されたもの。彫刻のような模様がうっすらと描かれています。写真一番上の細い棒と真ん中の板のような組み合わせの時に一番金属的で高い質感になります。音質に太さはなく、ひたすら高音が強く響く。一番下の明るい色のクラップスティックは木質が異なり、モコっとした素朴な響きの中に高いやわらかい質感があります。 |
【Unknown clapsticks collected in 1980's】
area : |
Western Arnhem Land |
wood type : |
unknown |
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small : |
30.9cm/146g |
large : |
35.2cm/260g |
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1980年代の西部アーネム・ランドのクラップスティック。持った時にずっしり感がなく、全面ペイントされているため材質が不明ですが、木質のせいか軽量でやや薄手に作られています。特に右手に持つ振るう方のシェイプに意図的なものを感じさせる作りで、左手に持つ方は薄手に扁平に作られています。オーカでシンプルなパターンが描かれていて地域を特定するのは難しいが、Daly River方面の可能性も感じさせます。 |
【Robin Nilco】
area : |
Wadeye |
wood type : |
unknown |
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small : |
30cm/190g |
large : |
30cm/419g |
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Marluk職人として著名なRobin NilcoによるManok(クラップスティック)。ペイントの美しさもさることながら音量があってパワフルに鳴る!大きい方のManokの厚みは均一に2.1cmほどでもしかしたら古い床板から作られたのかもと思える幅と厚みです。乾燥しきっているせいか手に持った感じの印象はサイズのわりには軽い。ペイントされているため木の素材は不明ですが、音質的にアイアンウッドと思われますが重さが軽いので乾燥したものを使ったのではないかと思われます。カンカンとした高い芯のある音にくわえてキンキンとした耳をつんざくような金属的な音も同時に強く鳴ってくる。アボリジナルアートの4色である赤白黄黒以外のあざやかな色も使う、現在のWadeyeのアートらしい、極彩色に彩られたクラップスティック。 |
【Wakang Munyarryun】
area : |
Dhalinybuy |
wood type : |
Iron Wood |
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small : |
32.9cm/241g |
large : |
36cm/514g |
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Wakang Munyarryunが5年以上使っていたパーソナル・ビルマ。大きい方は下が完全にフラットに作られていて、深くえぐれた打痕から片面しか叩いていなかったことがわかります。一方小さい方は削れて音が悪くなったので反対側で叩いたという様子がうかがえます。いずれもクラップスティックのたたくべき場所が明確にわかるサンプルで、彼らがどこを叩けばより良く鳴るかを感覚的に明確に知っていることが伝わります。大きい方のビルマの表面に「JEWELFISH」、裏面に「MOON FISH」と黒いペンで書かれています。ここまで削れた状態でもアイアンウッドらしいカンカンときれいな音で鳴ります。 |
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