3. ケープ・アーネム 大晦日の朝、我々6人は1月3日までのアーネム岬キャンプに向けて出発した。アーネム岬内への立入り許可は、「クリスマス・プレゼントだよ。」とジェレミーが全員の分を事前に手配してくれていた。いよいよパーティが始まるのだと気持ちが浮かれる。途中、ガーマ・フェスティバルの開催場所に立ち寄ったが、今は閑散としていて荒れていた。 約3時間でキャンプ地に着いた。テントを設営して海を見ていると突然マンタ・レイ(イトマキエイ)がジャンプした。たった1回のジャンプだったけれど、マンタの全体像を見ることができた。マンタはタイガー・シャーク(イタチザメ)にでも追われていたのかも知れないが、僕はマンタが挨拶してくれたんじゃないか、と思っている。単なる偶然じゃないか、と言う人が大半だろう。でも、何か意味があるんじゃないか、と考えた方がロマンチックだし、偶然と思うにはちょっと不思議な出来事が時たまある。 以前、アッシュ・ダーガンからこんな話を聞いた。彼が初めての先祖の土地に行ったときに、突然カンガルー数頭が目の前に現れたそうだ。そして、瞬間的に、それは彼の先祖が挨拶に来たのだと知った、と言うのだ。アーネムランドでは、自分の感覚もこうしたサイン(しるし)に敏感になっている。ジェレミーも、イルカラでの生活で数多くの不思議な体験をした、と言う。 大晦日の夜は本当に楽しいパーティだった。周りには我々以外誰もいない。地元のヨルングの人たちもいなかった。新年が明けたばかりの真夜中の海は、海ボタルがきれいで、波が砕けるたびに水が光る。実際に海に入って動くと、体の周辺が光るのだ。クロコダイルがいても、光でわかるんじゃないか、と思えるくらいだった。地元パースの海でも、もちろん日本の海でもこの現象を見ることができるけど、周りの暗さや海ボタルの数の多さで、本当に幻想的な光景だった。更に砂浜は石英質なのだろうか、鳴き砂になっている。新年をこんなところで迎えるなんて、自分はなんて幸運なのだろう。 キャンプ地の近くの岩場には、満潮時に打ち寄せられた波によって潮が噴出す穴がある。ここはヨルングにとって非常に神聖な場所だそうだ。しかしながら、我々のようなヨルングでない人たちもこの場所に行くことができる。この穴については、「ソルト・ウォーター」というイルカラ・アート・センターによって制作された画集に詳しく書かれている。 蚊の大群、サンド・フライ、グリーン・アンツ、サソリ、蜘蛛、蛇等に悩まされることもあったが、それでもキャンプ中はまずまず快適に過ごすことができた。泥ガニ(マッドクラブ)やパロットフィッシュ等いろんな魚もヤリで捕った。パロットフィッシュは、パースの魚屋でも売っているけど今回初めて食べた。非常に美味だった。岩にびっしり密生するロック・オイスターは食べ放題だった。ヨルングの人たちは、今僕がいるこの土地を何万年も生きてきたのだ、と感じながらの4日間のキャンプだった。 |トップへ|
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