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1. アーネム・ランドってどんな所?

日本の国土の20倍以上もある広大な島、オーストラリア。その中でもアーネム・ランドという地域では、先住民アボリジナルの人たちの力強い伝統文化が現在でも息づいている。

日本ではまだまだなじみの薄いアーネム・ランドは、オーストラリアにある5つの州のうちの一つノーザン・テリトリー州北部(トップ・エンドと呼ばれている)にある広大なアボリジナル保有地の名称だ。世界遺産に登録されているカカドゥ国立公園が隣接していることでも有名。アーネム・ランドに入るには北部土地管理(Northern Land Council)という公的機関の許可が必要だということもあり、そこでは大自然に囲まれながらアボリジナルの人々が、より伝統的な生活様式に近い環境で生活している。

2. アーネム・ランドの風土

オーストラリアの中でも赤道に近いアーネム・ランドは、乾期(5〜10月)と雨期(11〜4月)のあるトロピカルな気候。雨期のど真ん中になると平坦な大地に降り注いだ大量の雨は蛇行する太い川となり、水かさが増して洪水し、道路の一部は水没する。実際にアーネム・ランド内のNgukurrという町では、雨期になると住宅のある場所が川に囲まれて中州のようになってしまうため、住民はみな飛行機で他の地域へ移動すると現地の人が教えてくれた。

また、乾期にブッシュの中で空を見上げると、マンションの2階以上はあろうかという樹上に、枯れ木の断片などがひっかかっているのをよく見かける。それはその高さまで水かさが増していたという事だ!

じゃぁ、この時期アボリジナルの人達は何をしているんだろうか?僕のイダキの先生「Djalu Gurruwiwi」に浜辺にぼんやり座っている時に「雨期は何をしているの?」と聞いたら、その答は「ナッシング(なにもしないよ)」だった! 雨が降ったらお休みだ。

それが逆に乾期になると大地はカランカランに乾く。乾期にアーネム・ランドを旅するとモウモウとした煙や、夜中に赤や黄色にチロチロと光る残り火に出会う事がある。これはブッシュ・ファイヤーという伝統的に行われる野焼きで、落雷や風の摩擦による自然発火もあるが、アボリジナルの人々の手によって人為的に行われている。乾いた下草は風にあおられてアッというまに燃え広がり、ユーカリの疎林にまで火は燃え移る。

それは新しい生命の誕生を促すと同時に、アボリジナルの人たちにとっては下草がなくなり視界が開けることによって狩りをしやすくするという効果がある。アーネム・ランドではブッシュ・ファイヤーに焼かれることによって始めて殻がわれ、種が地上に落ちるという種類の植物まであるのだから驚きだ。乾期のアーネム・ランドは非常にすごしやすく、人々も活動的。そして雨期は芽吹きと豊穣の時期で一気に草花や動物達の息吹が萌え立つ。

なんとなくアーネム・ランドの風景が見えてきただろうか?

前述のようにアーネム・ランドは外部の人間が入る場合に許可が必要なアボリジナル保有地であり、このような激しい自然環境のため、人の手が加わる事も少なく、今もなお自然が手つかずで残されている。そして、アボリジナルの伝統文化の一つである彼らの唄と踊りも親から子へと脈々と引き継がれ、さまざまな儀礼や娯楽の場面で生活に密着しながら営まれている。

3. アーネム・ランドの言語と文化

僕らが「オーストラリア先住民アボリジナルの人々の言語や文化ってどんなだろう?」って想像する時、オーストラリアもいわば大きい島みたいなものなんだから、日本のように地域ごとに方言があって文化的にある程度の共通性があるんだろうと思うかもしれない。

けれど実際はその逆で、地つづきでありながら別々の国・言語・文化があるヨーロッパのように、非常に多様性に富んだ豊かな文化が広大なオーストラリアのそれぞれの地域で育まれている。アーネム・ランド内でもエリアが違えば異なった言語が使われており、アボリジナルの人達同志でも言葉は通じないこともある(共通語として英語が使われている)。

書き言葉がなく、狩猟採集を生活の中心においた彼らの伝統的な生活様式の中で一番重要視されるのは、モノではなく、祖先から代々引き継いできた智慧だ。アボリジナルの人々は獲物を追ってある程度の移動生活を繰り返すため、荷物となってしまうモノは持たない。そして獲得した食料は均等に分配される。このように狩猟採集生活をする中で、唯物的な考え方は彼らの社会では息をひそめ、より人間の関係性を中心とした文化や、人間を含めた自然に関する文化が、より複雑に、そして高度に発展した。これこそがまさに物質化できない先祖伝来の智慧なのだ。

このような彼らの生活の中で、音楽は重要な位置をしめている。子供が生まれたら、その成長過程で複数の通過儀礼があり、命の炎が消えると葬儀があり、人生の全てのシーンに音楽が深く結びついている。

このようなアーネム・ランドの言語と文化は単一的ではなく、それぞれの言語グループ内で独自性を守りながら、固有の伝統を守り続けている。

4. アーネム・ランドのアボリジナルの唄と踊り

アーネム・ランドはオーストラリアの中でも赤道に近く、熱帯に近い環境なので、ウルル(エアーズ・ロック)のあるレッド・センターと呼ばれる中央砂漠などの地域に比べて動植物が豊富だ。つまり豊かな環境にめぐまれているので、どこまでも獲物を追って長期にわたる狩りの旅をする必要が少なく、狩猟採集が比較的容易になる。それによって音楽や芸術にいそしむ余暇の時間が多くなり、アーネム・ランドでは特にユニークで多様性のある複雑な文化が悠久の時間の中で育まれてきた。

アボリジナルの唄と踊りの中では、祖先の神々の旅、森羅万象に関するもの、夢見の中で精霊と交信して得たストーリー、日常生活の中での出来事など、様々なテーマが表現されている。それらはテーマの内容によって、通過儀礼を受けた男性しか参加できない秘儀でのみ演奏される高度に神聖なものから、たき火を囲んで皆が踊り歌う娯楽のためのものまで様々だ。その多種多様で複雑な彼らの音楽形態の中で、ぼくたちが実際に見聞きできるのは公共性のあるテーマの音楽に限られる。

しかし、公共性があるテーマで単なる動物の動きや自然現象についての唄のように見えながらも、その中には深い哲学的テーマが二重の意味として巧みに練り込まれていることがある。例えば、「ある季節になるとチギレ雲がどんどん集まって大きな積乱雲を形づくるようになる」という雲の様子をテーマにした唄では、私たち人間も雲のように一つになろうという友愛、そしてひとつひとつの雲がのびのびと天空を舞う姿から人間の自由さを暗に意味している(北東アーネム・ランド Galpu言語グループの唄から)。目に触れるあらゆる物事・自然現象・人工物、そして目に見えない精霊の世界を歌い、踊り、体現するのがアボリジナルの音楽なのだ。

そこには全人類があたりまえに持っていて、共感できる「自然と深く結びついたシンプルな哲学」がある。かれらの唄を聞いてもその言葉の意味はわからない。でも形態模写のように唄のテーマを体現するダンサーの姿と、ソングマンの言霊、そして全てを包み込む風のようなディジュリドゥのサウンドに身をまかせれば、おのずとそこに込められたイメージが伝わって来るだろう。

かれらの音楽の前には何も難しいことはいらない。ただ子供のように心を開き楽しめばいいだけなんだ。そして、彼らの舞踏と音楽に心打たれれば、「ガマック!(Goodを意味する言葉)」と声をかけてみて下さい。

-GORI 2006.4.1-
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