2. アーネム・ランドの風土
オーストラリアの中でも赤道に近いアーネム・ランドは、乾期(5〜10月)と雨期(11〜4月)のあるトロピカルな気候。雨期のど真ん中になると平坦な大地に降り注いだ大量の雨は蛇行する太い川となり、水かさが増して洪水し、道路の一部は水没する。実際にアーネム・ランド内のNgukurrという町では、雨期になると住宅のある場所が川に囲まれて中州のようになってしまうため、住民はみな飛行機で他の地域へ移動すると現地の人が教えてくれた。
また、乾期にブッシュの中で空を見上げると、マンションの2階以上はあろうかという樹上に、枯れ木の断片などがひっかかっているのをよく見かける。それはその高さまで水かさが増していたという事だ!
じゃぁ、この時期アボリジナルの人達は何をしているんだろうか?僕のイダキの先生「Djalu Gurruwiwi」に浜辺にぼんやり座っている時に「雨期は何をしているの?」と聞いたら、その答は「ナッシング(なにもしないよ)」だった! 雨が降ったらお休みだ。
それが逆に乾期になると大地はカランカランに乾く。乾期にアーネム・ランドを旅するとモウモウとした煙や、夜中に赤や黄色にチロチロと光る残り火に出会う事がある。これはブッシュ・ファイヤーという伝統的に行われる野焼きで、落雷や風の摩擦による自然発火もあるが、アボリジナルの人々の手によって人為的に行われている。乾いた下草は風にあおられてアッというまに燃え広がり、ユーカリの疎林にまで火は燃え移る。
それは新しい生命の誕生を促すと同時に、アボリジナルの人たちにとっては下草がなくなり視界が開けることによって狩りをしやすくするという効果がある。アーネム・ランドではブッシュ・ファイヤーに焼かれることによって始めて殻がわれ、種が地上に落ちるという種類の植物まであるのだから驚きだ。乾期のアーネム・ランドは非常にすごしやすく、人々も活動的。そして雨期は芽吹きと豊穣の時期で一気に草花や動物達の息吹が萌え立つ。
なんとなくアーネム・ランドの風景が見えてきただろうか?
前述のようにアーネム・ランドは外部の人間が入る場合に許可が必要なアボリジナル保有地であり、このような激しい自然環境のため、人の手が加わる事も少なく、今もなお自然が手つかずで残されている。そして、アボリジナルの伝統文化の一つである彼らの唄と踊りも親から子へと脈々と引き継がれ、さまざまな儀礼や娯楽の場面で生活に密着しながら営まれている。
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