EarthTube  
Research 林 Jeremy Loop Roots
林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

14. Gitkitthurruna「笑ったなぁ」

■高級ゴミ袋

前回同様、今の居候先ではキッチンで寝ているので、どうしても寝つきが悪く、朝起きても体が少し重い。居候先の姉は寝言がうるさく、旦那が頻繁に「静かにしろよ!」と怒ってるのが面白くて、なかなか熟睡できなかった。

7月4日。今日はすごく風が強くて、大半のヨォルング達はあまり表に出ず、家の中にいるらしい。僕は逆に風が気持ちよくて清々しかったけどなぁ。

ミリンギンビのスーパー
ラミンギニンのスーパーの前にある子供達の遊び場。暑くて誰もおれへん。

正午にはスーパーが閉まってしまうので、必要な物を買出しに行く。いつもお世話になってるので、今日は僕がお金を払うことにして、事前に姉夫婦に買ってきてと言われていたゴミ袋を探すと、なんと50枚入りで30ドル!!

高すぎやろ、あまりにも。

お世話になってるし、どうしようかと迷ってると違う場所に10枚入りで6ドルのものがあったので、迷わずそちらを購入。日本だと100円ショップで買えそうな代物なのに…

入念に下準備していた学校の作業も突然キャンセルになったので、昼過ぎからゴロゴロと寝転がって本を読む。オーストラリアを含め、アフリカ、インド、カナダ、メキシコ等々、世界各地で文化をデジタル保存する動きがこの10年間で活発化してきているみたい。

来週はラミンギニンで初の仕事なので(1年間無職だったけど、ようやく仕事にありつく事ができたので、気兼ね無く、たくさんイダキを買おう)、事前準備のために全く畑違いの書類を読もうとしたけど、日本語でも専門用語ばかりの世界なので、英語ではまったくお手上げ状態。引っ切り無しに辞書を引きまくりなんとか読むことはできたけど、頭に定着させるには時間がかかりそう…

■アイクリンプ、ウルパン。ユークリンプ、エミュー

居候させてもらってる家がラッキーなのか、頻繁に隣人や知り合いがたくさん食べ物を持って来てくれる。

マッド・クラブ、バラマンディ、その他魚類、本当に美味しいものばかり。去年来た時には牛の後ろ足一本丸ごと頂いた時にはびっくりしたけど、今は季節柄、首長亀が美味しいらしい。

そういえば、出発前にYoutubeで北東アーネムランドのヨォルングが海亀を調理する映像を発見した。海亀が解体されるところを始めて見たし、音もリアルで、ちょっとショッキングだったけど、なかなか美味しそう。

友人の遼平君は北東アーネム・ランドでジュゴンが獲れた時に偶然居合わせ、食べたらしい。

 

肉をくわえた犬
解体後の牛の後ろ足。犬のご馳走。

日本人がナマコ、タコ、イカを生で食べるよってヨォルングに言ったら、「よくそんなモノ生で食べるね。病気にならないの?」と聞いてくるから、場所それぞれだなあとつくづく思う。

夕食にマッド・クラブと食パン(かなり食べ合わせ悪し)を食べた後、姉夫婦と父親達が集まって、雑談。いろいろと歌について教わっているときに、1人の父親が「アイクリンプ、ウルパン。ユークリンプ、エミュー」と笑いながら言い出した。何度も聞いたことのあるフレーズだったので、すぐにピンと来た。

Songs from the Northern Territory vol.4
このCDの1曲目で「クリンプ」聞けます。

「Songs from the Northern Territory 4」の1曲目に収録されている今は亡きGupapuynguの偉大な先導者、Djawaが曲間に喋っている曲の説明や!!

僕も分からないながらに、何か変な表現の仕方しはるなぁ、と思ってた。Djawaの息子(笑って話している父親)はネタにして色んな場所でこの話をしているらしい。アイクリンプやユークリンプはブロークン・イングリッシュらしく、正しくはアイコールヒム(I call him) とユーコールヒム(You call him)らしい。

つまり「私達はウルパンと呼び、あなた達はエミューと呼ぶ」ということみたい。

ということは、DjawaはCDの中で丁寧に動物の呼び名をグパプユング語と英語の両方で解説してくれていたのだった。上のCDの1曲目の最後部分にはチャイロハヤブサの曲が収録されていて、その曲名を解説する時、DjawaはHawk(ホーク)をウォークみたいな発音をしていて、それもその父親の笑いのツボらしい...

僕は勝手に「〜クリンプっていう接尾語が昔はあったのかな?」と思っていたので、100%勘違いだった。その父親と僕はクリンプにはまってしまって、ケタケタ笑い転げて「アイクリンプ、ムティカ(車)。ユークリンプ、カー(車)」とか言葉遊びをしていると、姉夫婦は実際にその音源を聞いたことが無かったので、僕のパソコンに入っているそのアルバムを再生して、4人で集中して聞き、皆で笑った(注:今夜は笑ってしまったけど、普段は偉大な先導者としてDjawaは本当に尊敬されている人物です)。

2曲目に収録されているBungguwuyの独特の歌い方は今でも真似する人がいるらしく、「他の国でも歌が上手い歌手の真似をする他の歌手がいるだろ?俺達もそれと同じだよ」と父親が真面目に言ったので、納得した。それにしても昔の音源のイダキ音と今の若い世代のイダキ音は異質だなと感じたし、姉夫婦も「同感だよ」と言っていた。今、何人のイダキ奏者が昔の音源に聞かれる音と同質の音を出すんだろう。 姉の寝言をドア越しに聞きながら…

(C)2004 Earth Tube All Right Reserved.