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林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

2. Yakay!!「うわぁ」

■ついに犬に噛まれた…

今日は4月8日。かわいい子供達とボール遊びしている際、後ろに気を使っていなかったので、バクッと左足のヒラメ筋の下を噛まれてしまった。

コミュニティーの犬たち
コミュニティーには犬がめちゃくちゃ多いけど、飼い犬である場合がほとんど。

一瞬絶望したけど、その犬の皮膚の状態を見ると、悪い病気にはかかっていなそうなので、水で流した後、Detollの消毒液を入念にすりこんだ。

いやあ、Detoll持って来ててよかった。念のため、オーストラリア産のかなり大きい抗生物質を一気に4粒飲んだので、恐らく大丈夫だと思う。

あぁぁ、嫁にこの事を話したら、これから近づいて来てくれへんやろうなあ。

■ヨォルング語のむずかしさ

気を取り直してブングルが夕方から始まるとの事だったので、再度犬に噛まれた場所へ。ちょっと始まるには暑い時間帯だったので、しばし近くに居た人達と雑談。最近感じる事は、全く動詞の単語力が足りていないという事。動詞が文頭に来ることもある言語なので、即座に言葉に詰まってしまう。まだまだ修行が足りないと実感する。

名詞、代名詞の接尾語変換はスラスラと口から出るようになったので、あとは動詞をしこたま覚えれば、また違う次元でヨォルングと話が出来そう。そんなことを感じながら話していると、突然空が曇りだし、海風が暴風の様に吹き始めた。昼間話したお父さんによると、「今日か明日降る雨が、今回の雨季の最後の雨だよ」との事。そんな天気激変の中、ブングルが近場で始まりだした。

が、そろそろ本当に雨が降りそうなので、機材に雨カッパを被せていると、あっというまにバケツをひっくりかえした様な雨が降り出した。

■雨の中のダンサーたち

昨日はスポットライトに照らされた中で見るブングルは最高だと書いたけど、雨の中のブングルはもっとかっこいい!みんなずぶぬれになっているのに、踊る踊る!歌い手とイダキ奏者は雨を凌ぐために屋根の下に入っているけど、その他の大勢の老若男女はずぶぬれで踊っていた。

ステップの度に髭から滴る雨。髪の毛から飛び散る雨。屋根から滝の様に流れ落ちる雨で顔を洗うダンサー。一つ一つの動きがめちゃくちゃかっこいい。今日は踊りを練習しようと思ったので、事前に兄弟に「教えてね」といっておいたけど、この状態で踊ると恐らく風邪ひくので、僕も屋根の下に避難。

そのおかげで少しエコーの聞いた感じで歌とイダキの音を聴くことができた。今日のイダキ奏者は昨日と違い、2004年のガルマ・フェスティバルでも演奏していた甥だ (彼とはダーウィンで何度も会い、お互いに助け合った関係なので気が置けないヨォルング)。めちゃくちゃパワフルだけど体はほとんど微々とも動かない。昨日のフッティーを練習したらもしかして?っていうのは恐らく違う。やっぱり体の内側の力か。本当にすごい音だなあと感心していると、突然彼が

Yuw, Ba?a?i, nhe dhu wa?a. (じゃあバンガディ[僕のスキンネーム]、お前がイダキ吹け)

Yaka, dhu?ga rra ?uruki tunegu.(いやや、だって曲分かれへんし)

Ba¨ydhi, follow rraku tune. Wa?gany ?arra yi?aki-wa?an, ga nhe dhu next.(大丈夫やって、俺の曲についてこい。一回吹くから、そうしたらお前が吹けよ)

と言って、一回歌にあわせてイダキを吹いた後、スッとイダキが僕の手元に…。「この笛昨日吹いたけど、めちゃくちゃ難しかったやつやから、あかんて…」破れかぶれの状態でディッディッと鳴らすと、何故か昨日よりイダキが引き締まっていて、唇がビロ〜ンとなりにくい。恐らく誰かが吹く前にイダキに水を通したか、イダキの半分くらいが屋根から外に出ているので雨に濡れまくっているからかどちらかだ。かなり良いイダキだった。

ちょうど吹かせてもらった曲は女性だけが踊る曲だったので、曲終了後は「ウェエエエエエイ、イェエエエエイ、バンガディ!!!」と非難の声かもしれないけど、一瞬盛り上がった。明日は絶対踊るでえ。

結局、雨があまりにもきつく、その後ブングル練習は中止になったので、泣く泣く帰宅。今日はダーウィンから持ってきたグリーン・カレーを牛肉バージョンで作る予定。居候しているヨォルング宅のキッチンで作っていると、義兄がマッド・クラブをたんまり持って帰ってきた。あまりにも量と蟹が大きいので、「バンガディ、いつでも蟹食べなよ」って言って、冷蔵庫に蟹の山ができた♪

甲殻類が大好きなのでさっそく2爪頂いたけど、明日も朝から1つ食べよう。いやあ、マッドクラブは毛ガニの次においしいと思います。明日もいろいろと朝から夕方まで歩き回って学校のプロジェクトを進めよう。

■異文化を理解するには.......

学校で色んな研究課程の学生と話していると、

「あなたのプロジェクトの方法論は何なの?」

ってよく質問されるが、良く分からない。適切な方法論があれば、もっと効率的に進めることができるだろうし、もっと学術的に進める事ができるだろう。

なので、いつもその質問に対しては

「方法論はとりあえず歩きまくって、ヨォルングと会話し、彼らの意見を汲むことかな?」

ミリンギンビへのフィールドワークのセット
パソコン、ビデオカメラ、イダキを装備してフィールドワーク。

と答えることしかできない始末。何かの方法論をヨォルングに当てはめると、その時点でヨォルングの文化視点からずれてしまう気がしてしまう。

何年か前にNHKで大阪民博の特別番組がやっていて、ある文化人類学者が「異文化を理解するにはその異文化の視点から眺める事が一番重要なんです」という様な事を言ってはって、まさしく同感です。犬に噛まれた箇所が悪化しない様に祈って、床につきます。

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