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Research 林 Jeremy Loop Roots
Peter Lister|イダキ奏者/ヨォルング文化研究者
イダキとディジュリドゥ - その呼び方とスペル

ぼくたちは普段の生活の中でなんの違和感もなく、外国の言葉をカタカナ表記にして日本語的な発音とイントネーションで使っている。それが普通になってしまうとそれが様々な問題を引き起こすこともある。

個人的な例をあげると、初めての海外旅行の機内で「ビール下さい」と白人のキャビンアテンダントに言ったら、「ミルクですか?」と二度聞き直された経験がある。この時は衝撃を受けた。ビール、いや、多少照れながらもビアーと言いましたよぼくは。ビアー、ビアー、ミアー、ミルク........いやいや間違わないでしょ!

こういったお恥ずかしい経験も今となっては笑い話だが、それが自分がやっている楽器にまで派生すると笑いごとですませない。イダキ、ディジュリドゥ、この楽器にはいろんな呼び方があり、その中にも異なったスペルが存在している。これは一体なぜなのか?

それを理解するためにも、まずはオーストラリアのディジュリドゥ・センター「アーネム・ランド」とその付近における地域的な呼称について触れてみたい。

1.地域によってことなる名称

イダキ(Yidaki)はアーネム・ランドの北東部を中心に住むヨォルングと呼ばれる人たちの使う名称で、ディジュリドゥ(Didjeridu/Didgeridoo)はノン・アボリジナルの人たちがアボリジナルの演奏する音を聞いてつけた名称だということは、現在では広く知られるようになった。

しかし、イダキ以外にもアボリジナルの人々がディジュリドゥを指す言葉は多様で、ダーウィンやデイリー・リバー周辺地域で使われる楽器はカンビ(Kenbi/Kanbi)、アーネム・ランドの南部や北西部ではマーゴ/マーコ(Mago/Mako)、東アーネム・ランドではランビルビル(Lhambilbil)、カーペンタリア湾にある島Groote Eylandtではイラガ(Yiraga)と呼ばれるなど、さまざまな名称で呼ばれている。(各地域の楽器や演奏スタイルなどについてはぼくのコラム「5. 音楽的異能者/伝統的音楽の継承者としてのソングマン」をご覧下さい。)

地域によって演奏方法はことなり、話される言語によってディジュリドゥを指す名称はことなっている。さらにアーネム・ランド北東部に住むヨォルングの人々の使うイダキと呼ばれる楽器の中には、ある特定の言語グループがある特定の儀礼のために使う楽器が存在しており、彼らにとってイダキという言葉はより広義的な名称として使われている。そして、非常に細分化された楽器的特長とそれにまつわるストーリーと名称が存在する。

では、アーネム・ランド全域でディジュリドゥを指す言葉として共通して使われるものはないのだろうか?古くからはバンブーという言葉が使われ、実際に現在でもディジュリドゥ奏者のことを「バンブーマン」と呼ぶ。そして昨今、アボリジナルの人がディジュリドゥという言葉を使うのも時々耳にする。

なぜ彼らは自分たち固有の名称で呼ばないことがあるのか?それは、彼らの文化によっぽど精通している人でもない限り、このような地域的な差や名称の違いを気にするノン・アボリジナルの人が少ないので、彼らもぼくたちと話をする時、ノン・アボリジナルの人に通じる言葉としてわざわざ「ディジュリドゥ」という言葉をチョイスしているのだろう。

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