EarthTube  
Research 林 Jeremy Loop Roots
Gori|ディジュリドゥ奏者
アボリジナル・ミュージックを聞く

6. ディジュリドゥの演奏を楽しむ1 -倍音を聞く-

第1章で「ディジュリドゥの音を聞きたい」人が大半だという現状を考え、この章からはアボリジナルの人々の演奏するディジュリドゥの音の聞き方を紹介します。ディジュリドゥと言えばモンゴルやトゥバのホーメイ(フーメイ)のように、「倍音」に満ちあふれた楽器として知られています。この倍音とは正確には「振動体の発する音のうち、基音の振動数の整数倍の振動数をもつ部分音(上音)。管や弦の発する楽器では、部分音は全て、ほぼ倍音となっている。ハーモニクス。」(広辞苑より)だそうだ。何の事やらわからないが、ディジュリドゥの場合は管の中で基音(ドローン)がぶつかりあい、ドローンよりも高い倍音が得られる。つまり一番低い音(ドローン)から上の音が倍音であり、楽器にもよるが、アボリジナルのディジュリドゥの演奏ではそれらが同時にバランス良く、複数鳴らされている。

一般的にノン・アボリジナルのディジュリドゥ奏者の演奏するサウンドでは、どちらかと言えば音域を限定してドラムのように鳴らすことで、そのような倍音の一部が強調的に鳴らされているような傾向にあるように思われる。それによって、より「わかりやすさ」とポップ感が生まれているように思う。それとは対照的に、聞き手の多くの人が述べる「わかりにくさ」というものがアボリジナルの演奏する音から感じるのは何故だろうか?

その一つに、耳が倍音に慣れていないというのがあげられるだろう。実際、音が多重過ぎてどこにチューンすればいいのかわからなくなるという事がある。もしくはアボリジナルのディジュリドゥ奏者がどこに演奏のポイントをおいているのかがわからないとも言えるだろう。その解決策としは前述したようなすばらしい音源を聞くという方法もあるが、慣れるのに時間がかかってしまう。そこで、単純に彼等がフォーカスしてるポイントを知るには、マウス・サウンド(Alice M. Moyle博士が名付けた呼び方)と呼ばれるディジュリドゥ奏者が実際演奏しているリズムを歌にしたものを聞くという方法が手っ取り早いだろう。これはインドの打楽器タブラと同様に、リズムを音節に置き換えたもので、ソングマンがディジュリドゥ奏者に伴奏のリズムを伝える時や、ディジュリドゥ奏者が曲を習う時にも使われ、それぞれの言語や地域、個人の演奏スタイルによって様々である。

このマウス・サウンドを聞けば、アボリジナルのディジュリドゥ奏者が、口腔の形状の変化、喉や舌の動き、鼻腔の空間利用、そして横隔膜の動き使って巧みにその演奏に反映させているのがわかる。アボリジナルのマスターと言われるディジュリドゥ奏者のサウンドを聞くと、その倍音の生成につながる身体と楽器の空洞を十分に利用し、舌、喉、横隔膜の動きを日常生活使う自然な動きを超える事なくダイナミックに活用しているのが伝わって来る。それがマスターたる由縁だろう。アーネム・ランド内外にはこのようなマスターが有名無名を含めて多数存在しており、彼等の織り成すディジュリドゥのサウンドには、無言の説得力があるが、その全てをCDという媒体では収録しきれないというのがもう一つの事実だろう。アボリジナルの音源を聞いて「わからない」という人が多数存在する反面、彼等の演奏する生音を聞いた人に共通した感想の一つに「CDと全然違う」という意見がある事がこれを裏付けている。

単にアボリジナルのディジュリドゥ奏者があやつる倍音を楽しむポイントとしては、抽出されてくる音ではなく、ドーンと全体で鳴らされる倍音の万華鏡の渦に身をあずける事が肝要だと思う。より積極的に掘りさげながら聞き込みたいリスナーは、体を発振源とした多重な倍音成分をコントロールするディジュリドゥ奏者の意図をマウスサウンドを道しるべにしながら探る。このような積極的な聞き方をしていると、ディジュリドゥのサウンドがマウス・サウンドで聞こえてくるようになる。その時はじめて「ディジュリドゥの倍音になれた耳」を手にしたといえるのかもしれない。

(C)2004 Earth Tube All Right Reserved.