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ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -リアル・ヨォルング・ライフ編 6-

【Ramingining 再び】

Garmaフェスティバルにはじまり、Mirarraとのイダキ・カッティングや、Guku(ワイルドハニー)ハンティング、Djaluとのイダキ・チューニングなど、充実したSki Beachでの滞在もあと1日を残すだけとなり、僕たちは次の目的地であるRaminginingへ向かう準備をし始めていた。

Raminginingコミュニティはダーウィンから約400km東の中央アーネムランドに位置している。1970年代前半に設立されたこのコミュニティには、周辺のいくつかの言語グループの人たちが集まっており、彼らが描いたバーク・ペインティング(樹皮画)は書籍「The Native Born」や「The Painters of the Wagilag Sisters Story 1937-1997」などによって世界的にも評価され、今ではたくさんのアーティストが知られるようになった。

コミュニティ内にあるBula'bulaアートセンターは、Ramingining周辺の芸術や文化を世界に発信している数少ない拠点の1つとなっていて、今回僕たちがもっとも訪れてみたい場所のひとつだった。しかし実際にコミュニティを訪れるとなると、許可を取るのが一筋縄ではいかず、そう簡単に訪れられる場所ではない。事実、2004年にもRaminginingを目指したのだが、許可申請がうまくいかず足止めされ、手前のManingridaコミュニティに一台しかない公衆電話を長時間占拠して必死に交渉するも暖簾に腕押し。結局最後まで許可が取れず断念していたのだ。

※この時の涙なくしては語れない交渉ストーリーはEarth Tubeのブログを参照してください。

今回の交渉は、前回電話でお世話になったアートセンターの担当者が覚えていてくれていたのでとてもスムーズに進み、あとは行くだけといった感じだった。しかしある時、Djaluの娘のうちの一人であるRinaが漏らした一言で、僕たちの明日はまったくわからなくなってしまったのだ。

「Ramingningで葬儀のセレモニーが始まったって聞いたけど?あなた達無理なんじゃない?」

ななななんてこった!!もう出発は明日だというのにこれは大変なことになってしまった。事の詳細を確認するため、コミュニティに電話を入れてみる。するとアートセンターの担当者は「ノープロブレムだからとにかく来ればいい」と言う。その言葉を信じて向かってしまってもいいのだろうか、と悩む僕達にDhanggalが「セレモニーが始まったのなら、ちゃんと確認を取った方がいいわ。私が確認をしてあげるからしばらくここで待っていなさい」と警告してくれた。ここはヨォルングの土地であり、ヨォルングの法がある。なにか問題が起きれば彼らに従うのが最善の方法だろう。今回のことはDhanggalにすべてお任せすることにした。

彼女はすぐに現地のGalpuクランの長老に電話をかけて、事の詳細を確認してくれた。 すると今回はDhuwaのセレモニーで、僕たちはGalpuクランに養子縁組されているからだから大丈夫だという。しかも向こうのファミリーが面倒をみてくれる、というすごい好条件を提案してくれたのだ!現地の長老からOKが出たならもう何も心配することはない。あとは明日現地に向かって出発するだけでいいのだ。僕たちは交渉してくれたDhanggalに感謝して、ハプニングから生まれたこの好待遇に期待に胸を膨らませ、大船に乗った気持ちで眠りについた。

しかし次の日・・・。

「それで?そう・・それは難しいわね・・。」

朝、Raminginingコミュニティからかかってきた一本の電話に、Dnaggalはヨォルング語で対応していた。まわりで結果を見守る僕たちには電話がどのような内容なのかわからなかったが、よい知らせではないことは彼女の声のトーンと表情が物語っていた。 昨日までの喜びとは打って変わって重苦しい空気が流れる。

「・・で、・・なんだった?」

僕たちの質問に、小さくため息をつきながらDhanggalは首を横にふった。

「Yirrtjaのセレモニーがはじまってしまったの。道を封鎖してMen's Bissiness(男性のみが参加できる儀礼)が行われるそうよ。こうなるとDhuwaの私たちではどうにもできないわね・・。」

すべてが順調に進んでいたにも関わらず、最後に起きた大どんでん返し。 計画通りにはまず行かず、頻繁に予測不可能なことが起こるのがアーネム・ランドの旅、そしてアボリジナル・コミュニティを訪れる難しさだと思う。だけど今回のこの出来事から、Raminginingというアクセスが非常に難しいコミュニティでは、今なお伝統的なヨォルングの秩序がしっかりと息づいていることを感じることができた。念願だったコミュニティを訪れられないのは残念ではあるのだが、ヨォルングの法を肌で感じさせてくれたこの出来事は、僕にとってとてもいい経験になった。そして最後にDhanggalはいつになく真剣な表情でこう付け加えた。

「こうなればRaminginingに行くのは断念しなさい。そしてアーネム・ハイウェイをまっすぐキャサリンに向かって走るの。途中キャラバンとすれ違ったり、道端であなた達を呼び止める人がいるかもしれないけど、すべて無視して走り続けなさい。わかったわね!」

僕たちはこの警告に無言でうなづいていた。

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